とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第16章 光を掲げ、影を断て。

 

 ────陽の光は、絶えず人々を照らしている。夜であっても、月を介して光を届ける。そんなそんな光に、わたしはなりたい。

 

 夜。

 渚輪ニュータウンの中心部。黒いローブの青年────ストボロスは、廃ビルの頂上で静かに本を開く。

 

「……欠落から生まれる物語。喪失からこそ、最も純粋な“無”が育つのですよ……」

 

 本のページが白紙に変わり、そこから影のような“物語の骸”が這い出してくる。ストボロスが名前を紡ぐ。

 

『はだけた王様』

 

 白い線で描かれた王の輪郭が揺らぎ、そこに“色彩のない鎧”を着たメギドが立ち上がる。しかしその鎧は、どこから見ても着ていないようにしか見えなかった。

 

「行きなさい。英雄を惑わせ、“無”へ導くために」

 

 ビルの縁を一歩踏み出し、はだけた王様メギドは地上へ沈むように消えていく。

 

 同年 7月2日

 無事にデパートに帰還したポートラル一行。

 

「ふぅ〜、一件落着ぅ〜」

「ちょっとアド、会議室を私的に利用するなと何度も……!」

「いいじゃんモグッチ〜」

 

 アドのつぶやきを皮切りに、いつもの軽口が飛び交い、デパートの空気は確かに日常を取り戻していた。ただし、その日常を破壊する影がもう、渚輪ニュータウンへ向かって歩き始めていることは、まだ誰も知らなかった。

 

 そしてアド達がのんびりしている中、その日のパトロール担当の賢人とサンは、デパート付近のゾンビの退治、及び負傷者の捜索を行っていた。

 

「うっし、今日のパトロール終わりっと……んでどうだサン? 慣れたか、この女だらけの世界」

「いやまだに決まってるだろ!? 流石に目のやり場に困る……特に豹藤ちゃんとか」

 

 変身を解除した賢人に、サンは答える。その返答に大袈裟に彼は笑う。

 

「そりゃそうか、あれ裸にシャツ1枚だけだからな〜……」

「どう対処してるんだ?」

「いやそりゃあもう……ただただ視界に入れない……あれ? おいちょっとあそこ!」

 

 路上に、白髪で白いカッターシャツの上にオレンジのパーカーを被せた女が倒れていた。

 

「人が……倒れてる」

「ちょ、大丈夫ですか!?」

「意識は!」

 

 そんなサンの言葉で、念の為波癒の回復効果を発動させる賢人。

 

「1度デパートに戻ろう!」

「ああ……!」

 

 デパートに戻り、急いで医務室に駆ける

 

「やいとさん! この子の治療と……あ、そういえば忘れてました! サンの血液検査を!」

「えちょ、いきなりすぎ!? 便利キャラじゃないんだけどなぁ……。まぁ分かったわ」

 

 サンと少女を医務室に置き、賢人は会議室に皆を集めた。

 

「また拾ってきたァ? ここは迷子犬の保健所じゃねぇんだぞ?」

「ごめんなさい! ……でも放っておけなくて……っていうかアドはどこですか?」

「アドは発見された少女を確認しに行きました」

「あ、そういう事ですか」

 

「神川君、その少女の特徴は確か……白カッターにオレンジパーカーで、白髪ミディアム、だったか……?」

「えぇ、はい。もしかして三静寂さん、知ってるんですか?!」

「知ってるも何も……」

「おいおいおいその特徴と言やぁ確か……」

 

 徐々に姫片の顔が青ざめていく。そして会議室のドアが勢いよく開かれる。

 

「皆皆皆!! 一大事! ほんっとうに一大事だよ!!」

 

 入ってきたのは医務室に野次馬しに行っていたアド。

 

「いやちょっと待ってください? 三静寂さんも姫片さんも、アドさんも何怖がってるんですか!?」

「あ、そっか……ケンティーは知らなかったね。あの子は水面鳴音姫(みなもなおとぎ)、生存組合『メルター』の、No.2だよ」

「メルター? No.2? いやいや、そりゃそんなの保護したってなったらすごい感謝されるだけじゃないですか?」

「それがねぇ……」

 

 アドたちは顔を見合せ、表情を曇らせる。

 

「あそこの盟主、ヤバいんだよ」

「……どう、ですか?」

「ヤクザの組長」

 

 アドは声を落とした。

 

 ────ヤクザ。生前の賢人にとってはテレビの中の存在でしかなかった、反社会的勢力。

 

「え、今も生き残ってるってことは女性ですか?」

「うん、それもケンティーより年下のね。18歳でしょ? その子は17歳」

「え、え、えぇ……」

「だからさ、こっちが何もしてなくても、ありもしないことをでっち上げて喧嘩ふっかけてくる可能性があるの」

「それにな、通ってた高校の女子半数以上を薬漬けにしたっつー噂もあるんだぜ」

 

 それこそフィクションの中の所業だ。背筋が震え上がる賢人をさらに怖がらせるように突然上階から轟音が響く。

 

「ヒィ!? ……。向かいましょう!」

 

 駆けつけたのは、医務室。そこには何とかやいとに取り押さえられている水面鳴音姫と、負傷しうずくまるサン。

 

「えちょ、何何!? どういうことですかやいとさん!?」

「どうもこうも! この子が急に起きて暴れだしたのよ! 腕がない腕がない、って!」

「腕……? ありますけど」

 

 賢人含め、周りの人間には確かに見えていた。

 

「そんなことより……おかしいよ」

「え?」

「この子、一度メルターとの会談で会ったんだけどさ、その時はヒサギンにすら勝ってたんだよ? 少なくともヤっちゃん1人に抑えられるような人物じゃない」

「現実的には考えられない現象……まさか」

「メギドです……確実に……!」

 

 サンが起き、確信を持って発言する。

 

「この人は暴れている時、怪物に襲われてから腕が無くなったと言っていた。……襲われたのにゾンビ化していない、且つ異常な現象はもう……」

「そうか、ありがとうサン。皆さん、俺はメギドを倒します。皆さんはこのデパートの警備をお願いします」

「ちょっと待って賢人、僕も行くよ」

 

 何故かサンの怪我はすぐに治り、賢人に同行する。

 

「サンちゃんが行くんだったら私も」

「危険ですアド……! 私も!」

「ま、私は嫌でも行かないとなんでしょ」

 

 続いてアド、百喰、来栖崎の5人でメギド捜索に向かう。万が一デパートが襲われることがあっても大丈夫なように戦力を分散して。

 

 デパートを出た直後、1人の男が立っていた。黒い皮のスーツを着た、どこか乱暴なものを内に秘めていそうな男。名をレジビル。

 

「よぉ、初めましてだなぁ、癒の剣士」

「男!?」

「アドさん、コイツは敵です」

「あぁそうだ。そして死を遠ざけるお前は俺にとっても、敵だな」

 

 ライドブックを構える賢人を見て、レジビルは両手を前に出して顔をしかめる。

 

「まぁ待て。今日はお前と戦いに来たんじゃない。今回のメギドは俺のじゃないからな」

「お前のじゃ……ない?」

「俺の名はレジビル。ただ名乗りに来ただけだ」

 

 そう言ってまたもや闇の中に消えていく。

 

「お前、好かれてんじゃねぇのか? 賢人」

「ざけんな、んなわけねぇだろ。さっさと探すぞ」

 

 サンの冗談に、賢人は軽口で返す。

 

「それにしてもあの敵、前のストボロス? と比べて迫力なかったね〜」

 

 まぁ、セイバーのレジエルもキャラ薄かったしな、そう思う賢人であった。外へ出た5人は、夜の渚輪ニュータウンを進む。街路灯の光は不自然に揺れ、まるで“何かが空間を削っている”ようだった。

 

「……ねぇ、なんか変じゃない?」

 

 アドが首を傾げる。

 

「えぇ、空気が……軽い」

 

 百喰が腕を抱くように呟いた。

 来栖崎は、ひときわ静かに周囲へ視線を巡らせる。

 

「いや、実際軽い訳じゃなくて……薄いのよ」

「薄い……?」

 

 賢人が問い返すが、来栖崎自身も言葉を探していた。サンはふと周囲の建物を見上げ、息を飲む。ビルの外壁に映る影が──一部だけ、綺麗に“抜けていた”。

 

「……ねぇケンティー、あれ」

 

 アドが指差す歩道の先。街灯の下に誰かが立っていた。白い線で描かれた輪郭。その中心にあるのは、色彩のない鎧。しかしどの角度から見ても、着ていないようにしか見えない。ゆらり、とその輪郭が振り向く。

 

「はじめまして、英雄さんたち」

 

 声は奇妙に響く。まるで“誰も口を開いていない場所”から聞こえてくるようだった。

 

「来た……ッ、メギド!」

 

 賢人は即座に聖剣を握る。はだけた王様メギドはゆっくりと両腕を広げた。しかし、その腕の影だけが……途中で途切れていた。

 

「……見えませんか? あなたたちから、たくさん“無くなっています”よ」

 

 サンが眉をひそめる。条件反射のように、胸の奥が冷たくなった。メギドの足元がふっと沈む。空間が抜けているように見えた。

 

「来る────皆、気を付けて!」

 

 サンが叫んだ瞬間、はだけた王様メギドは、音もなく消え、次の瞬間には賢人の背後へ移動していた。

 

「ッ!?」

 

 賢人の腕の影が一瞬だけ消え、百喰が叫ぶ。

 

「神川さん、右腕っ!」

「大丈夫だ、まだ実体はある!」

 

 賢人は即座に構え直す。その動作を、メギドはどこか愉快そうに見ていた。

 

「……美しいですね。喪失を恐れ、喪失に怯え、それでも抗う……薄れゆく存在ほど、あぁ、なんて純粋なんでしょう」

「何だと……!?」

 

 来栖崎は刀を抜き、冷静に言う。

 

「賢人、動きの癖を読むまで無茶はできない。まずは距離を取って────」

 

 メギドはその言葉を遮るようにふわりと前に出てきた。それは“歩いた”というより、空間を一つ丸ごと抜け落ちるような、そんな歪みだった。

 

「始めましょう。あなた方の存在が消える音を、私に聞かせてください」

 

 賢人は聖剣を握り直す。

 

「いいや、俺たちは消えない。皆さん、行きましょう!」

「応!!」

 

『波癒抜刀!』

「変身!」

『エナジーユニコーン!』

 

 アドが拳銃を構え、来栖崎が踏み込み、百喰がAR(アサルトライフル)を構える。

 

 ────しかし。メギドは動かない。ただ、そこに立っているだけだった。なのに、ヴァルキュアの斬撃は空を切る。

 

「……ッ! 消えた!?」

 

 彼は瞬時に後退する。メギドの姿は確かに目の前にある。だが攻撃が届く前に空間が抜け落ちたように、斬撃が寸前で滑って逸れていく。見覚えのない能力に、ヴァルキュアは足踏みをする。

 

「質量が……ない?」

「違う、あれは空間を削っているのか……?」

 

 来栖崎が目を細め、サンが呟く。その時、視界がぶれた。アドの左肩が突然、消えていた。いや実際には肩はある。だが、影だけが完全に消えている。

 

「うおっ!? なにこれ!?」

「アドさん、動かないで──ッ!」

 

 賢人が飛び込み、影の乱れを狙うようにメギドが腕を振った。その腕の動きは緩慢。だが影だけが異様な速度で迫る。来栖崎が反射的に刀で受けた。

 

 ────カンッ。

 金属音は鳴ったのに、刀の影が刃こぼれしたように歪んだ。

 

「師匠!!」

「問題ないわ、実体には損傷なし。ただ……」

 

 握った刀の影は、根本から揺らいで消えかけていた。メギドは楽しそうに胸に手を当てる。

 

「影とは存在の証。そこが消えてゆくのは……とても美しい現象でしょう?」

「どこが……!」

 

 ヴァルキュアが叫んでメギドへ殴りかかる。拳が届く。

 

 ────その刹那、彼の腕の肘から先の影が一瞬で切断された。実際の腕は無事だ。だが存在の輪郭が抉られ、数センチほど短く見える。

 

「クソ……!」

「姿を変えるな賢人ッ!」

 

 変身を解除しようとするヴァルキュアをサンが止める。百喰が必死に銃を構えるが、矢をつがえた指先の影が震えて消えかける。

 

「……っ、距離を取っても無駄……!?」

「あれは周囲の影を吸ってる……?」

 

 サンが唇を噛む。

 

「範囲攻撃も出来るってことかよ……!」

 

 その時────彼だけが、ある異変に気付いた。メギドが歩いた方向の影だけ消えていることに。

 

「いいやアイツは歩いてなんかいない……! つまり……本体は別にいる……! 賢人! 奴の本体は影だ!! 見えている身体は偶像に過ぎない!」

「影か……! なら……!」

『エナジーユニコーン!!』

 

 神獣が現れ、聖なる光で照らされる。

 

「そうかあそこか……!」

 

 光に照らされているのに人型の影があった。

 

「ハアア!!」

 

 ヴァルキュアは斬撃を影に繰り出す。

 

「ぐふぅ……!」

 

 王様メギドは、初めて声を変える。

 

「……ほぉ……この“無”の位置に気付くとは……」

 

 その声には確かな興味があった。

 

「英雄の側に、知る者がいるとは。ならば────次は、あなたを最初に溶かしましょうか?」

 

 影が、サンに向かう。

 

「くっ……来るな……!」

「やめろ!!」

 

 影に向かって波癒を振り下ろすヴァルキュア。

 

「サン! 大丈夫か!?」

「あ、あぁ……」

「賢人……今の一瞬……見えた……! 影の中心を切ってください! ……恐らく色が違う!」

 

 影を追う、即ち光に追いつくということ。賢人はハイパーゼクターを思い浮かべる。しかしそんな都合のいいものはこの世界には存在しない。

 

 ────しかし。

 

『ハンターナイトリザード』

 

 光を待ち伏せることは出来る。

 

『闘争の、ユニコーンリザード!!』

『必殺読破! ユニコーン! リザード! 2冊斬り!! キュ・キュ・キュア!!』

波癒尖影斬(いやしせんえいざん)!!」

 

 トカゲの走力、そして暗闇の中でも正確に見分けられるその"目"が、影を貫いた。

 

「ま、まさか……この私が……!! 無なんて……選ばない……!」

「誰1人消させやしねぇよ。仮面ライダーだからな!!」

 

 光が爆ぜ、はだけた王様メギドは爆散した。影が消え、世界に色が戻る。戦いが終わり、賢人は変身を解除する。

 

「ありがとうなサン。本体が分からなかったら、危うく死ぬところだった」

「……賢人、ありがとう」

 

 賢人の感謝に、サンも感謝で返す。

 

「いやなんでお前が」

「賢人のおかげで僕、前向きになれた気がした」

 

 サンの胸の奥で、劣等感の氷がまた少し融けた。夜風が吹き抜け、異様に白かった街灯の光がようやく温度を取り戻す。

 

 ────その時。廃ビルの上。闇に溶けるようにストボロスが立っていた。

 

「ふふ……光に届くその剣筋……さて、あなたは何者ですか?」

 

 興味深そうに笑い、白い本を閉じて消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わり、メルターの拠点に到着したサン。

 

「それで、テメェは何が言いたい」

 

 生存組合『メルター』の盟主であり音姫の雇い主、蚊焼いちごはサンに凄む。

 

「今回、僕たちは路上で倒れている水面鳴音姫を保護し、治療しました。そしてその際、こちらの医師と僕が怪我を負いました。ですので貴方がたの音姫がいなくなった際に被った損失を鑑み、これにて手打ちにしていただけないでしょうか?」

 

 ヤクザ文化には疎いサンだったが、それでもこちらが不利になる事だけは避けたかった。

 

「手打ちだァ……?」

 

 一方の蚊焼いちごは、"金にならないこと"が嫌いだった。今後、貴重な男が所属する『ポートラル』と関われなくなる"手打ち"か、こちらが不利益を被る可能性はあれど何かあった際に恩を売れる可能性のある"借り"か。

 

「借りイチでいいぜ」

「借り……ですか?」

 

 サンは困惑していた。目の前にいる残虐なヤクザの組長が貸しと借りの違いがよくわかっていないのではないかと。しかし、その心を読んだかのようにいちごは続けた。

 

「んま、何かあった時は呼んでくれよな」

 

 メルターに"貸し"を作ったポートラル。帰還したサンを皆は暖かく迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜の渚輪ニュータウンで、ひとつのメギドが消滅した。だがそれはさらなる“異物”を呼び寄せる始まりでしかない。

 

「ウオオオオオ!!! さっさと戦わせろぉぉおッ!! 癒の剣士ィ!!」

 

 ────夜の空に、野獣の咆哮がこだまする。




Tips.DNAは複雑だぞ。簡単に言うと%でステータスが上昇、下降するぞ。強化用のDNAもあり、キャラと同じように育成要素もあるぞ。

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