とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

2 / 77
第2章 鳥籠の蟲の、生き残り。

 

 ────あの日終わった、平なる日常。人類の放課後、チャイムは未だ、響き渡らず。

 

 アドは歩きながら、さっきまでの軽い口調とは違い、少しだけ声を落とした。

 

「今から3ヶ月のこと……世界は唐突に、終わりを迎えたのさ」

 

 賢人は訝しげな視線を向ける。明らかに洋画冒頭によくある"語り"にしか聞こえなかったからだ。

 

 アドが語ったのは、この世界を、少なくともこの島を汚染しているウイルスの脅威。感染経路は空気、飛沫、接触、経口────果てはベクターまで。潜伏期間はほぼなし。感染すれば死亡率は100%だと。そしてそれは、若年女性には感染しない、と。

 

「そーんで、こっからが本題。なんでアタシらはさっさとこの島から脱出しないと思う?」

「それは……まだ救助が来ることを……いや違うな。こういうのってなんて言うんだっけ……あ、クローズドサークルだ! ようは何かの事情で、物理的に出られないんですね!」

「そ。その通り。まだ地理の勉強もしてなかったからね」

 

 彼女はそう言って、渚輪区を囲む厳しい現実を解説し出した。渚輪区は海に浮かぶ人工島であり、その北海岸に建設された"出島"が、ここ『渚輪ニュータウン』。つまり、今彼女たちはステージ1-1で立ち往生しているということだ。

 

 更にニュータウンと本島、そして本島と本州を繋ぐのは両方1つの巨大な橋のみ。そこにはゾンビがすし詰め状態で、普通の神経をしていたらまず近寄ろうともしないと、アドは語った。

 

「だから今は出れないわけですか……」

「まぁ、今はね」

「っていうかなんで俺は感染してないんですか?」

「まあまあ! 今は気にしたって仕方なーい! ほら! 着いたよ! ようこそ、我らポートラルへ!!」

 

 賢人の質問に、アドは無理やり明るく切り替える。指さしたのは組織の拠点、デパートだった。どこにでもある、ごく普通のデパート。しかし終末世界においてはそれさえも頼りになる拠点となっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デパートに入った賢人は、アドに案内されながら施設の内部を見て回っていた。デパートのテナント跡地を利用しているため、どの部屋にも元の名残が色濃く残っている。

 

「────んで、ここがトレーニングルーム。元々あったジムを改修したものだから設備は整ってると思うけど、使う時は誰かと一緒に来てね!」

 

 賢人は頷きながら、壁一面に並ぶトレーニング器具を眺める。正直、死にたくはない。でもただ眺めているだけは、世間体を気にする彼からしたら嫌だった。

 

「俺に剣を教えてください。来栖崎さん」

「……は? なに急に」

「あの身のこなしとか見てて、その、強いのかなって」

「なんで私がアンタなんかに……」

「はいはい! そんな話はあと〜! 着いたよ!」

 

 それは、英会話教室と書かれたプレートの上から紙を貼り『会議室』と書いた簡素なドアだった。

 

「やぁやぁ皆のしゅー! 注もぉーく!!」

 

 中に入るとアドは頭上で手を叩き、賢人を注目の的にする。

 

「敬愛するポートラルの諸君、今日集まってもらったのは他でもない。本日は大収穫があるんですぜぃ! 聞いて驚くなかれの3、2、1────ババン!」

 

 そして、アドは笑顔で宣言した。

 

「男だッ!!」

 

 会議室は、妙に甘い匂いが漂っていた。それは女性特有のものか否か。初めての体験に賢人は少し汗を流す。

 

「ななななななんだってッ!?!??!」

「ぷっ……」

 

 少女たちは全員、心底驚いた顔をしていた。無理もない。世界から男性が消えたと思われていたのだから。

 

「お……男ですか……本当に……?」

 

 中でも眼鏡をかけた真面目そうな少女──百喰(もぐ)(めぐみ)が驚きで固まっていた。

 

「正真正銘の男子ですぜもぐっち。生存組合『メルター』との会談帰りにさ、日々宮通りで捨てられてたから拾ったの」

「捨てられてたって……」

 

 聞き慣れない単語ばかりで、賢人は少し混乱した。しかしそれでも推測はできた。生存組合というのは恐らく生存者が集まった組織で、日々宮通りはどこかの地名。

 

「……しゃべった……」

 

 少女たちは、久しぶりの男声に感動したのか、或いは驚いたのか、それだけで「おお」とどよめいた。

 

「おいおいおい、また樽神名の笑えねぇ冗談かこりゃ……? 男にゃ免疫がねぇはずだろ?」

 

「仮説であり定説ではなかったということですね……。これまで男性生存者を発見し得なかった結果、そう結論づけてしまっていただけで、こうして反証があった以上、男性が生き残れる可能性もゼロじゃないということでしょう」

 

 その言葉に少し来栖崎が唇をかみしめる。そして百喰は賢人の方に向き直す。

 

「それで、少年さん」

「俺の……ことですよね?」

「ええ、申し遅れましたが私の名前は百喰恵です。初対面で失礼ですが、いくつか質問しても構いませんか?」

 

 百喰は丁寧だが、どこか圧を感じる口調で問いかけてくる。

 

「はい。もちろんです」

「ではまず最初に、感染せずにいられた心当たりなどはありますか?」

 

「すみません。わからないです……」「わからない? ではどこにいたのですか?」

 

「わからないです。起きたら何故かここにいて……」「ご職業は?」

 

「職業というか……高校生でした」「ご趣味は?」

 

「えっと……まぁ……仮面ライダーとか……そんな感じです」「出身地は?」

 

百喰は矢継ぎ早に問い続けていく。

 

「日本……」「名前は?」

 

「えっと……多分、神川、賢人だと……思います……」

 

 改めて大勢の前で聞かれると自分の名前に自信がなくなってしまう賢人。トイレ等の鏡で自分の顔を確認するんだったと後悔するのだった。

 

「ではその手に持っている剣については?」

「あ、これですか……。目覚めたら近くにこの剣があって、ゾンビに襲われてこれ見つけて……って感じです」

 

「何故そんな奇怪な見た目の剣を手に取ったんですか?」

「それは……」

 

 百喰がさらに質問を続けようとしたそのとき、空気が変わる。白いさらしだけを着た女性が、静かに口を開いた。

 

「もうよせ百喰くん。神川くんも流石に怒ってしまうぞ?」

「で、ですが正体不明の人物が入ってきたのなら調べるのは当然────」

 

 その顔立ちは人形のように美しいのに、声には確かな重みがある。

 

「名前も、それどころか趣味まで話してくれたのだぞ? 彼にとっては全くの他人である私たちに」

 

 そして彼女──三静寂(みしじま)礼音(あやね)は向き直り、優雅に賢人へ一礼した。

 

「すまない。見苦しいところをお見せしてしまったな……」

「い、いえ! そんなことは全く!」

 

 別の次元のようなその顔立ちに彼はしどろもどろになってしまう。

 

「ふふ。優しいのだな。まずは私に自己紹介をさせてもらってもいいかな?」

「え、ええ。もちろんです!」

「ありがとう。私は三静寂礼音。『戦闘班』で狙撃手をやらせてもらっている」

 

「せ、『戦闘班』? あ、ソードオブロゴスみたいな」

「? それはよく分からないが……。まぁこの中央会議室にいるメンバーの通称だ。ポートラルの代表として戦える人間を集めて、デパート外活動要員として気張らせてもらっている」

「そんで、ゆくゆくはこの島を抜け出すんだよな。礼姉よぉ」

「あぁ、その為に頭数は多いに越したことはない。……あぁっ、何も急かしてはないぞ神川君」

 

 礼音は少し考えて賢人を思いやるためか肩に手をかける。するとムワッと、匂いが強まる。その上会議室の少女たちは全員、あまりにも露出が多い。高校生の彼には、あまりにも刺激が強く……。

 

「け、ケンティー!?」

「鼻血て」

「案外スケベさん、なのです」

 

 彼は鼻血を垂らし、倒れてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しベッドで休憩した後、賢人はそのまま来栖崎の特訓を受けていた。聖剣を握った瞬間、賢人の腕がまた震えた。手のひらにはすでに赤い線が浮かんでいる。汗で滑りそうだ。

 

「ほら肘曲げない!」

 

 来栖崎の声が飛ぶ。その一声がまるで鞭のように背筋に走る。

 

「も、もう無理っすって……! 腕ちぎれ────」

「もっと早く!」

 

 来栖崎は間髪入れず、賢人の背後に回り込んだ。視界の端に彼女の影が揺れる。賢人が振り下ろした剣は遅く、重い。見ていられない。

 

「はいストップ」

 

 来栖崎が賢人の手首を掴む。細い指なのに、動きを完全に制される。

 

「これじゃゾンビ一体も落とせない。ほら、肩。力入りすぎ。腕で振るんじゃない──“腰”」

 

 来栖崎が背中に手を添える。指先が軽く触れるだけなのに、賢人の身体が勝手に正しい姿勢に矯正される。

 

「ここ。重心ずれてる。足も開きすぎ」

「ひ、ひぃ……」

「泣くな。泣く前に振れ」

 

 来栖崎は一歩下がり、刃先を指で軽く弾く。

 

「行くわよ。十本」

「じゅ、十本? いや、ちょっ────」

「一本目ッ!」

 

 賢人は反射で振った。烈火が空気を裂く。その反動で手首が焼けるように痛い。

 

「はい二本目!」

「ちょ、ちょっと待っ……!」

「待たない!」

 

 今度は腰を意識して振る。腕の筋肉だけで振るよりはマシだが、重さが勝って剣先が沈む。地面を擦って、火花が散った。

 

「危っ……!」

「もっと上げる! 躊躇すんな。振り下ろしの軌道が死んでる!」

 

 汗が目にしみる。呼吸が荒い。背中はもうシャツが張り付いて気持ち悪い。無理だ。倒れたらやめられる。邪な考えが頭をよぎる。

 

 ────でも。

 

「飛羽真なら諦めない……!」

 

 賢人は叫んだ。その瞬間、自分でも驚くほど体が前へ出た。烈火を握る手がまだ震えているのに、足だけは前へ踏み込み、全身を使って振り抜く。

 

「……四本目、いいじゃない」

 

 来栖崎が、ほんの少しだけ目を細めた。褒めたのではない。許容しただけだ。

 

 でも賢人にはそれが“ご褒美”に感じられた。休む間もなく続く。二十本。三十本。四十本────。腕が痺れて、感覚が消えていく。指がいうことを聞かず、柄が少しずつ手から滑る。

 

「もぅ……キツい……です……まじで……!」

「ちょっとくらいで弱音吐かない」

 

 来栖崎の声が淡々と響く。冷たいはずなのに、なぜかそれを聞くたび力が入る。

 

「ったく……そこ!」

 

 カンッ! 来栖崎が竹刀で柄を軽く打つ。賢人の指が反射で握り直す。

 

「落とすな」

「す、すみません……!」

「謝る暇があるなら振る!」

 

 もう身体が動いているのか、動かされているのかわからない。ただこの世界で生き残る。その思いだけが、彼を支えていた。そして一時間後、賢人が最後の一振りを終えたとき、烈火の重さが急に倍に感じた。

 

「……終了」

 

 来栖崎は短く告げる。賢人の腕は震え、足は棒のようだ。手のひらの皮も剥け始めている。そして2人は飲料水を飲みながら体を休めていた。

 

「……まぁ、思ったよりは振れてる。けどアンタ、私が人間だからって躊躇ってるでしょ」

「そりゃ……そりゃそうですよ!」

「今のアンタじゃ当てることもできないんだから」

「でも仮面ライダーの武器を人に向けるなんて……」

「関係ない。実践でもそうやって言い訳する気? ゾンビだって人の形してるわよ?」

 

 空気が澱んでいることを薄々察した来栖崎は、話を切り替える。

 

「ところであんた、なんでそんな強くなりたいの?」

 

 しかし、その質問でまたも賢人は黙り込んでしまう。こんなこと言っても引かれないか。など様々なことを考えていたから。

 

「俺は……その、死にたくないし、けど黙って見てるだけも嫌なんです。なんか、その、体裁みたいなの気にしちゃって……ハハ」

「……ダッサ。でもま、普通の感じで安心した。これで私たちを守るためとか言ったら何様のつもり? って感じだったし」

 

 口調こそ冷たいが、その言葉には優しさがあった。

 

「いや、ほんと……ありがとう……ございます。こんな運動神経ない俺に教えてくれて……」

「別に。戦える人が増えたらいいことじゃない。それだけよ」

 

 しかしその晩、賢人はベッドで悶えていた。その呻き声を聞いて駆けつけたのは盟主であるアドだった。

 

「……あ、うるさかったですか?」

「んーや、そんなに。防音だからね。だからあんなコトやこーんなコトしてもバレないよ〜?」

「しませんよ! ……てか思春期にそんなこと言わないでください!」

「んまぁ、下ネタは嫌いであそばせ?」

 

お嬢様みたいに手の甲で笑うアド。

 

「まじでからかわないでください!」

「あー……夜だからノリ悪いのかな? ケンティーは」

「ケンティーって……そのあだ名久しぶりですよ」

「でさ、君戦闘班に入るって言ったじゃん?」

「え、まぁはい」

「今はさ、その日を生きるための資源調達が主な仕事なんだよね。でもいつかは本島に渡りたいって思ってるし、ゆくゆくはこの島だって……。だからさ────」

 

力、貸してけろ? アドはおどけて、しかし賢人の目を真っ直ぐに見つめて手を差し出した。

 

「……はい!」

 

 手の皮がめくれて痛い。だけども賢人はその手で確かにアドの手を握り返した。

 

 ────幕は上がった。




感染×少女 第一部 第一章 第4話 第5話 『生き残り』『鳥籠の蟲』より
感想ください

Tips.ブラウザ版の感染少女は2017年にサ終したぞ。エグゼイドの放送中に終わったぞ。

女だらけじゃん
生身の女の子に聖剣向けてるのこの作品の倫理観心配
これ実写やったらキツかったかもなノリとか
てか1話の男の子とこの賢人顔違うけど別人?

神川賢人のキャラが好きか

  • 好き
  • 嫌い
  • キャラが薄い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。