とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第17章 秘密の血、楽園の終わり。

 

 ────秘密を抱えた雛鳥は、飛び立つ為に生まれたのか。羽などとうにないというのに。

 

 闇の奥深く。ズモンは、いつになく静かな声で宣言した。

 

「今日は俺のメギドを使う」

「あぁ、この世界ではまだ、貴方のメギドは生まれていませんでしたねぇ」

「好きにしろ」

 

 ズモンの声音には、獣のような喜びが潜んでおり、ストボロスが白い本を撫でるように微笑む。レジビルは本を雑に開き、そっぽを向いてページをめくり続けていた。

 

『メニーヘッドシャーク』

 

 ズモンが開いたアルターブックは動物。ページが積み重なり、獣の影が増えていく。三つの頭を持つサメのメギドが、うねりながら現れた。

 

「……ニンゲン、クウ」

「ハーハッハ!! 食え食え!」

 

 狂った笑いとともにシャークメギドは街へ走り、ズモンも飛び込んだ。夕闇が飲み込まれるように、世界が歪んでいく。

 

 

 同年 7月3日

 

 ポートラルではヴァルキュアの戦闘力を計測していた。

 

「OK。それにしてもよく2冊使えるようになったな。聞いた話じゃ最初は疲労困憊だったんだろ?」

 

 サンが測定器を片付けながら言う。

 

「あぁ、ただな、波癒の回復効果で、超回復? だっけ。あれが促進されたみたいなんだ」

「癒封剣波癒……お前のその剣、まだ謎が多いみたいだな」

「あ、そーいえばサンちゃん! 好きな食べ物何!」

 

 そこに突然、アドが乱入する。突拍子もなさすぎて、一瞬空気が止まった。

 

「はぁ? なんだよ藪から棒に」

「いーのいーの!! 聞きたいだけだから!」

「うーん……あ〜、卵焼きかな。甘いヤツ」

「答えるのかよ!! あ、俺は果物!」

 

 賢人がツッコむ。もしかしたら差し入れをしてくれるかも、という下心も含めて。

 

「ふ〜ん……。そかそか! それだけだよ! それじゃ!」

 

 アドは微笑む────が、その眼差しの奥に“何か”が沈んでいた。ほんの一瞬だけ、賢人の胸がざわつく。いつものアドより、どこか“遠い”。違和感に気付いたのは、この瞬間だった。

 

「なんだったんだ一体?」

「あ、あぁアドさんはたまに突拍子もないこと言ったりするから、気にしないで」

 

 賢人は笑いながら返す。そのとき、デパートが大きく揺れる。

 

「!? なんだ!?」

「最悪を想定しろ! メギドだッ!」

 

 賢人は変身する。そしてそこかしこから悲鳴が聞こえてくる。

 

「変身!」

『エナジーユニコーン!!』

 

「っ……! サン! 非戦闘員たちの避難誘導を! 俺はアド達を連れてくる!」

「……っ、わかった」

 

 僕なんかに出来るだろうか、そんな疑問は直後に襲ってきた怪物によってかき消された。

 

「見つけたぞ癒の剣士ィッ!」

 

 奴は既に怪人の姿に変化していた。獣のような体毛に包まれた筋骨隆々の体格、口には鋭い歯が生え揃っている。

 

「俺の名はズモンッ! さぁ癒の剣士ィ! さっさと楽しもうぜェ!!」

「クソっ! だったら……!」

『闘争の、ユニコーンリザード!』

 

 ヴァルキュアは急襲に驚き、2冊目のライドブックを装填する。2冊の力で力が増した彼はズモンを抱え、脚力で無理やりデパートの外に押し出した。一方のサンは非戦闘員を誘導していた。

 

「危ないッ!」

 

 ────瓦礫が崩れ落ちる音が、ひどく遠く響いた。

 サンの身体が、粉塵の中で投げ出される。後ろにいた少女を守るため、身を投げ出したその一瞬の勇気。ただ、それはあまりにも軽く。瓦礫の重量の前では、無力だった。

 

「……サン……ちゃん?」

 

 アドの声が震えた。普段の飄々さが完全に消えた。

 

「なんで……なんで……ッ!」

 

 ────腰から下がない。温度のない肉片。折れた骨。血ではなく“熱”が広がっていく感覚。少女は泣きながら逃げていく。代わりに守った少年は、助けを呼ぶこともできない。

 

「……やっぱメギドもいたのか……!」

 

 ヴァルキュアはデパート外を見上げる。三つの巨大なサメの頭が、建物を丸かじりにしていた。

 

「クソッ! てめぇはB級ホラーかよ……!」

「よそ見すんなァ!!」

「ガァッ!」

 

 ふた振りの蛮刀が装甲に食い込み、火花が散る。

 

「ケンティー……! 皆援護を!」

 

 アドの声は震えていた。

 

「俺の事はいいです! 皆さんはサンの方で非戦闘員の避難誘導を!!」

 

 自分の装甲を治しながら、ヴァルキュアはズモンを食い止める。しかし、戦闘班の顔は曇る。

 

「サンちゃんは……」

 

 その言葉を聞き、ヴァルキュアの力が緩む。

 

「手ェ抜いてんじゃねぇ!!」

「うるせぇ!!」

『ハンターナイトリザード』

 

 生物を召喚し、ズモンを背後から攻撃させる。

 

「小賢しい真似をッ!」

 

「サンちゃんは……皆を避難させてる時に……女の子を守って瓦礫に……」

「……え?」

 

 瞬間、ヴァルキュアの気力が無くなり、膝から崩れ落ちる。

 

「……嘘だ。……なんで、だよ」

 

 戦意が、簡単に折れた。サンは仲間だった。同性で、軽口を言い合えて。たった数日なのに、距離は近かった。

 

「余所見すんなって……! 何度もッ!」

「……なんで、だよ」

「はぁ……? チッ……つまんねぇ。もういい、飽きた」

 

 彼は何度攻撃を加えられても反撃すらせずに地面を転がる。そんなサンドバッグ状態に呆れ、ズモンは闇の中に帰っていった。

 

「アイツ帰ったぞ……?」

「……いや皆、チャンスだよ、あのサメを倒そう!」

「……? 賢人様!?」

 

 しかし、ヴァルキュアは建物内へと駆けていった。

 

「サンッ! サーーーンッ!! ありえないだろ……ふっざけんなよッ!」

 

 崩れた階層を駆け抜け、瓦礫をどかし、必死で探し続け、そして見つけた。

 

 ────ぐしゃぐしゃに潰れた下半身。血の匂い。冷たさ。彼は喉が裂けそうだった。

 

『エナジーエナジーエナジーエナジーエナジーユニコーン』

「クソッ、なんで治んねぇんだよ!」

 

 何度も、何度も何度も何度も何度もブックの力を開く。しかし癒しの力は死者には届かない。絶望するヴァルキュアの前で────。

 

「は……?」

 

 肉が蠢き、骨が伸び、筋肉が覆い、皮膚が張る。生々しい音を立てながら、脚が“生えてきた”。

 

「サン……?」

「僕……生きてるの……か?」

「サン……!!」

 

 ヴァルキュアはサンを抱え、デパートを飛び出す。

 

「皆さん! サンは生きてます!」

「え!?」

「はあ!?」

「……! ……わかった。ケンティー! もうこのデパートはもたないから! 建物ごとやっちゃって!!」

 

 アドが叫ぶ。

 

「……後悔しないでくださいよ!」

『必殺読破! ユニコーン! リザード! 2冊撃!! キュ・キュ・キュア!』

「一角獣蹴撃破! ハァッ!!」

 

 ヴァルキュアは跳躍、デパートに取り付いたシャークメギドに迫る。蹴りが直撃し、メギドはデパートごと爆発し、戦いが終わるとやいとが駆けつける。

 

「大変なの!」

「やいとさん!? 逃げ遅れてたんですか!?」

「うん……ごめんね、気づいた頃には階段も崩れてて……それで」

「それで……何? ヤッちゃん」

 

 アドがいつになく冷静に問いかけた。

 

「この新入りくんの血なんだけど……おかしいの!」

 

やいとは震える声で続けた。

 

「普通の人間の細胞分裂は1時間単位なの。でもこの子は……数秒単位で増殖してる。しかも止まらない」

「止まらない……?」

「そう。自己修復じゃない。これは……設計された再生よ」

「へぇ……不老不死、完成してたんだ」

 

 突然、アドがサンの頭を拳銃で撃ち抜いた。

 

「え……?」

「本当は皆と心中するつもりだったんだけどね〜。愛着湧いちゃったからさ」

 

 全員が理解できなかった。銃声が静まり、空気が凍る。床に倒れたサン。アドはそのすぐそばに立ち、銃口からゆっくり煙をあげる黒い金属を見つめていた。その横顔は……ひどく冷たかった。

 

 しかし賢人が叫んだ瞬間、その冷たさが揺れる。

 

「アド!! 何してんだよ!!」

 

 振り返る。感情を押し潰したような無表情────だがその奥の奥に、痛みと迷いが滲んでいた。

 

「なっ……」

 

 それを見た皆は驚きを隠せない様子。

 

「なぁアド、理由を説明してくれよ。お前の事だから、つまんねぇ理由じゃないってことはわかってる」

 

 そんな中、口を開いたのは姫片だった。

 

「あ〜そっか。みんなには言ってなかったっけ。私にはね、親がいないの」

「は……?」

 

「孤児院で生まれてさ、それで八月朔日(こずみ)真綾(まあや)って人に引き取られた」

「八月朔日真綾……? 誰だよそれ」

 

「この感染騒動の首謀者。それでPAL研究所ってところで働いててさ。最初は良かったんだよ。真綾は世のため人のためって働いててさ。そんな彼を見て、いつしか私の心は、憧れから恋心に変わっていってた」

 

 アドは真綾を思い浮かべ、懐かしむように憧憬の念を浮かべる。

 

「……でもいつからかな、真綾は変わった。多分私のせいもあったんじゃないかな、喜ぶんだよ子供みたいに。研究を褒めたらさ」

 

 しかし、今のところサンと真綾の共通点は見られない。

 

「だから始めちゃったんだよね。"不老不死の研究"ってのを。その実験で人を1000人、ミックスジュースにしたあたりでもう……真綾は別人になってた」

「……」

 

 賢人は恐怖する。淡々と語られた真綾の所業に。

 

「────だから殺した。見てられなかったからさ。それで逃げた。逃げて逃げて……そしてポートラルを創った。……あぁ、何も自分のためじゃないよ。真綾のせいで傷つく人が1人でも減ればっていう……まぁ偽善だよね」

「いやそれはちが────」

 

 賢人の言葉をアドが遮る。

 

「ケンティーを見つけて驚いたよ。……でも君は真綾じゃなかった。ヒサギンと特訓してたとこでもう確信はしてた。だから安心してたのにさぁ……。なのにコイツが現れた」

 

 アドはサンを指さす。

 

「……もし真綾が殺されることを想定してたのなら、自分を研究材料にすることだって厭わない。それが末期の真綾だったから」

「さぁ皆、質問ターイム。もし皆が不老不死になれるなら、どの年齢のままがいーい?」

「……」

 

 誰も答えない。

 

「あーらら、主体性がないね。全員内申点無くなるよ〜? ……まぁ、若い頃……10代から20代くらいだよね」

「まさかそれだけで……!?」

「いんや違うよ。ケンティーっていう前例がいるからね。今日聞いたでしょ? 好きな食べ物は、って。甘い卵焼き。それが真綾の大好物だった」

 

 アドの声はずっと平静だった。だが指先は小刻みに震え続けていた。

 

「そ、そんなの状況証拠だけじゃないか。実際にサンが真綾だって────」

「はぁ……皆も見たでしょ? あの再生能力が何よりの証拠。こいつは不死身なんだよ」

「っ……でも……今のコイツはサンだろ。性格だって……」

 

 アドが、視線を賢人達へ向けた時。完全に違う顔になった。

 

「ケンティーには感謝してるんだよ?」

「え?」

 

 突然褒められ、呆気にとられる。

 

「君がいたから真綾は今は大人しくしてる。……でもいつコイツの優しさが暴走して真綾になるかわからない」

「そんなのまだ分からない!」

「────犠牲が出てからじゃ遅いんだよ!!」

 

 アドの怒声がデパート跡地にこだまする。

 

「アハハ、ごめんごめん。ケンティーに怒っても仕方ないよね。でも、ケンティーより先にコイツが入ってたら確実に……」

「────皆の人生は狂わされてた」

 

 その言葉は、震える本音だった。強がりでも皮肉でもない、心からの“恐怖”。

 

「は……?」

「ま、もうバレちゃったからにはここにはいられない。じゃあね皆」

 

 喉が塞がったような、震える声。ただしサンに向けていた冷たさは一切なく、自分でも抑えられないほどの“未練”があふれていた。

 

「っ……待てよアドっ」

 

 賢人の呼び掛けにも答えない。しかしその背中には、仲間への未練と“自分への嫌悪”が複雑に絡まっていた。

 

「……。……ッ。アドッ!」

 

 百喰の声が鋭く響く。彼女の声にようやく足を止め、ゆっくり振り返る。しかしその表情は、感情を引き剥がした無表情だった。

 

「……何? モグッチ」

 

 百喰は唇を噛む。その瞳には涙が滲んでいたが、同時に強烈な光が宿っていた。

 

「わっ、私も行きます。盟主の補佐が私の……役割ですから」

「……何? "あの時"の私の真似?」

 

 アドの声は嘲るように聞こえるが、実際には震えていた。百喰は一歩、前に進む。

 

「……っ、いいえ、これは私の……意思です」

 

 アドは驚いたように、ほんのわずか────目を大きく見開いた。そして次の瞬間。諦めにも、安堵にも、悲しみにも見える笑い声をこぼした。

 

「……ふふ、ハハハハ!!」

 

 本当は泣きそうだった。

 

「ありがとうねケンティー!! モグッチも君に変えられたみたいだよ!」

「……ッ!」

 

 賢人は言葉を返せない。喉が詰まり、拳を強く握りしめるしかできなかった。

 

 ────その日、生存組合『ポートラル』は事実上の解体となった。




Tips.部活について。部活は全キャラに設定されているぞ。サービス開始当初は剣道部 化学部 射撃部 武術部 帰宅部の5個だったぞ。しかし1周年辺りの学パロバンドイベントで音楽部が追加されたぞ。しかし帰宅部は廃止されたぞ。

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