とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────秘密を抱えた雛鳥は、飛び立つ為に生まれたのか。羽などとうにないというのに。
闇の奥深く。ズモンは、いつになく静かな声で宣言した。
「今日は俺のメギドを使う」
「あぁ、この世界ではまだ、貴方のメギドは生まれていませんでしたねぇ」
「好きにしろ」
ズモンの声音には、獣のような喜びが潜んでおり、ストボロスが白い本を撫でるように微笑む。レジビルは本を雑に開き、そっぽを向いてページをめくり続けていた。
『メニーヘッドシャーク』
ズモンが開いたアルターブックは動物。ページが積み重なり、獣の影が増えていく。三つの頭を持つサメのメギドが、うねりながら現れた。
「……ニンゲン、クウ」
「ハーハッハ!! 食え食え!」
狂った笑いとともにシャークメギドは街へ走り、ズモンも飛び込んだ。夕闇が飲み込まれるように、世界が歪んでいく。
同年 7月3日
ポートラルではヴァルキュアの戦闘力を計測していた。
「OK。それにしてもよく2冊使えるようになったな。聞いた話じゃ最初は疲労困憊だったんだろ?」
サンが測定器を片付けながら言う。
「あぁ、ただな、波癒の回復効果で、超回復? だっけ。あれが促進されたみたいなんだ」
「癒封剣波癒……お前のその剣、まだ謎が多いみたいだな」
「あ、そーいえばサンちゃん! 好きな食べ物何!」
そこに突然、アドが乱入する。突拍子もなさすぎて、一瞬空気が止まった。
「はぁ? なんだよ藪から棒に」
「いーのいーの!! 聞きたいだけだから!」
「うーん……あ〜、卵焼きかな。甘いヤツ」
「答えるのかよ!! あ、俺は果物!」
賢人がツッコむ。もしかしたら差し入れをしてくれるかも、という下心も含めて。
「ふ〜ん……。そかそか! それだけだよ! それじゃ!」
アドは微笑む────が、その眼差しの奥に“何か”が沈んでいた。ほんの一瞬だけ、賢人の胸がざわつく。いつものアドより、どこか“遠い”。違和感に気付いたのは、この瞬間だった。
「なんだったんだ一体?」
「あ、あぁアドさんはたまに突拍子もないこと言ったりするから、気にしないで」
賢人は笑いながら返す。そのとき、デパートが大きく揺れる。
「!? なんだ!?」
「最悪を想定しろ! メギドだッ!」
賢人は変身する。そしてそこかしこから悲鳴が聞こえてくる。
「変身!」
『エナジーユニコーン!!』
「っ……! サン! 非戦闘員たちの避難誘導を! 俺はアド達を連れてくる!」
「……っ、わかった」
僕なんかに出来るだろうか、そんな疑問は直後に襲ってきた怪物によってかき消された。
「見つけたぞ癒の剣士ィッ!」
奴は既に怪人の姿に変化していた。獣のような体毛に包まれた筋骨隆々の体格、口には鋭い歯が生え揃っている。
「俺の名はズモンッ! さぁ癒の剣士ィ! さっさと楽しもうぜェ!!」
「クソっ! だったら……!」
『闘争の、ユニコーンリザード!』
ヴァルキュアは急襲に驚き、2冊目のライドブックを装填する。2冊の力で力が増した彼はズモンを抱え、脚力で無理やりデパートの外に押し出した。一方のサンは非戦闘員を誘導していた。
「危ないッ!」
────瓦礫が崩れ落ちる音が、ひどく遠く響いた。
サンの身体が、粉塵の中で投げ出される。後ろにいた少女を守るため、身を投げ出したその一瞬の勇気。ただ、それはあまりにも軽く。瓦礫の重量の前では、無力だった。
「……サン……ちゃん?」
アドの声が震えた。普段の飄々さが完全に消えた。
「なんで……なんで……ッ!」
────腰から下がない。温度のない肉片。折れた骨。血ではなく“熱”が広がっていく感覚。少女は泣きながら逃げていく。代わりに守った少年は、助けを呼ぶこともできない。
「……やっぱメギドもいたのか……!」
ヴァルキュアはデパート外を見上げる。三つの巨大なサメの頭が、建物を丸かじりにしていた。
「クソッ! てめぇはB級ホラーかよ……!」
「よそ見すんなァ!!」
「ガァッ!」
ふた振りの蛮刀が装甲に食い込み、火花が散る。
「ケンティー……! 皆援護を!」
アドの声は震えていた。
「俺の事はいいです! 皆さんはサンの方で非戦闘員の避難誘導を!!」
自分の装甲を治しながら、ヴァルキュアはズモンを食い止める。しかし、戦闘班の顔は曇る。
「サンちゃんは……」
その言葉を聞き、ヴァルキュアの力が緩む。
「手ェ抜いてんじゃねぇ!!」
「うるせぇ!!」
『ハンターナイトリザード』
生物を召喚し、ズモンを背後から攻撃させる。
「小賢しい真似をッ!」
「サンちゃんは……皆を避難させてる時に……女の子を守って瓦礫に……」
「……え?」
瞬間、ヴァルキュアの気力が無くなり、膝から崩れ落ちる。
「……嘘だ。……なんで、だよ」
戦意が、簡単に折れた。サンは仲間だった。同性で、軽口を言い合えて。たった数日なのに、距離は近かった。
「余所見すんなって……! 何度もッ!」
「……なんで、だよ」
「はぁ……? チッ……つまんねぇ。もういい、飽きた」
彼は何度攻撃を加えられても反撃すらせずに地面を転がる。そんなサンドバッグ状態に呆れ、ズモンは闇の中に帰っていった。
「アイツ帰ったぞ……?」
「……いや皆、チャンスだよ、あのサメを倒そう!」
「……? 賢人様!?」
しかし、ヴァルキュアは建物内へと駆けていった。
「サンッ! サーーーンッ!! ありえないだろ……ふっざけんなよッ!」
崩れた階層を駆け抜け、瓦礫をどかし、必死で探し続け、そして見つけた。
────ぐしゃぐしゃに潰れた下半身。血の匂い。冷たさ。彼は喉が裂けそうだった。
『エナジーエナジーエナジーエナジーエナジーユニコーン』
「クソッ、なんで治んねぇんだよ!」
何度も、何度も何度も何度も何度もブックの力を開く。しかし癒しの力は死者には届かない。絶望するヴァルキュアの前で────。
「は……?」
肉が蠢き、骨が伸び、筋肉が覆い、皮膚が張る。生々しい音を立てながら、脚が“生えてきた”。
「サン……?」
「僕……生きてるの……か?」
「サン……!!」
ヴァルキュアはサンを抱え、デパートを飛び出す。
「皆さん! サンは生きてます!」
「え!?」
「はあ!?」
「……! ……わかった。ケンティー! もうこのデパートはもたないから! 建物ごとやっちゃって!!」
アドが叫ぶ。
「……後悔しないでくださいよ!」
『必殺読破! ユニコーン! リザード! 2冊撃!! キュ・キュ・キュア!』
「一角獣蹴撃破! ハァッ!!」
ヴァルキュアは跳躍、デパートに取り付いたシャークメギドに迫る。蹴りが直撃し、メギドはデパートごと爆発し、戦いが終わるとやいとが駆けつける。
「大変なの!」
「やいとさん!? 逃げ遅れてたんですか!?」
「うん……ごめんね、気づいた頃には階段も崩れてて……それで」
「それで……何? ヤッちゃん」
アドがいつになく冷静に問いかけた。
「この新入りくんの血なんだけど……おかしいの!」
やいとは震える声で続けた。
「普通の人間の細胞分裂は1時間単位なの。でもこの子は……数秒単位で増殖してる。しかも止まらない」
「止まらない……?」
「そう。自己修復じゃない。これは……設計された再生よ」
「へぇ……不老不死、完成してたんだ」
突然、アドがサンの頭を拳銃で撃ち抜いた。
「え……?」
「本当は皆と心中するつもりだったんだけどね〜。愛着湧いちゃったからさ」
全員が理解できなかった。銃声が静まり、空気が凍る。床に倒れたサン。アドはそのすぐそばに立ち、銃口からゆっくり煙をあげる黒い金属を見つめていた。その横顔は……ひどく冷たかった。
しかし賢人が叫んだ瞬間、その冷たさが揺れる。
「アド!! 何してんだよ!!」
振り返る。感情を押し潰したような無表情────だがその奥の奥に、痛みと迷いが滲んでいた。
「なっ……」
それを見た皆は驚きを隠せない様子。
「なぁアド、理由を説明してくれよ。お前の事だから、つまんねぇ理由じゃないってことはわかってる」
そんな中、口を開いたのは姫片だった。
「あ〜そっか。みんなには言ってなかったっけ。私にはね、親がいないの」
「は……?」
「孤児院で生まれてさ、それで
「八月朔日真綾……? 誰だよそれ」
「この感染騒動の首謀者。それでPAL研究所ってところで働いててさ。最初は良かったんだよ。真綾は世のため人のためって働いててさ。そんな彼を見て、いつしか私の心は、憧れから恋心に変わっていってた」
アドは真綾を思い浮かべ、懐かしむように憧憬の念を浮かべる。
「……でもいつからかな、真綾は変わった。多分私のせいもあったんじゃないかな、喜ぶんだよ子供みたいに。研究を褒めたらさ」
しかし、今のところサンと真綾の共通点は見られない。
「だから始めちゃったんだよね。"不老不死の研究"ってのを。その実験で人を1000人、ミックスジュースにしたあたりでもう……真綾は別人になってた」
「……」
賢人は恐怖する。淡々と語られた真綾の所業に。
「────だから殺した。見てられなかったからさ。それで逃げた。逃げて逃げて……そしてポートラルを創った。……あぁ、何も自分のためじゃないよ。真綾のせいで傷つく人が1人でも減ればっていう……まぁ偽善だよね」
「いやそれはちが────」
賢人の言葉をアドが遮る。
「ケンティーを見つけて驚いたよ。……でも君は真綾じゃなかった。ヒサギンと特訓してたとこでもう確信はしてた。だから安心してたのにさぁ……。なのにコイツが現れた」
アドはサンを指さす。
「……もし真綾が殺されることを想定してたのなら、自分を研究材料にすることだって厭わない。それが末期の真綾だったから」
「さぁ皆、質問ターイム。もし皆が不老不死になれるなら、どの年齢のままがいーい?」
「……」
誰も答えない。
「あーらら、主体性がないね。全員内申点無くなるよ〜? ……まぁ、若い頃……10代から20代くらいだよね」
「まさかそれだけで……!?」
「いんや違うよ。ケンティーっていう前例がいるからね。今日聞いたでしょ? 好きな食べ物は、って。甘い卵焼き。それが真綾の大好物だった」
アドの声はずっと平静だった。だが指先は小刻みに震え続けていた。
「そ、そんなの状況証拠だけじゃないか。実際にサンが真綾だって────」
「はぁ……皆も見たでしょ? あの再生能力が何よりの証拠。こいつは不死身なんだよ」
「っ……でも……今のコイツはサンだろ。性格だって……」
アドが、視線を賢人達へ向けた時。完全に違う顔になった。
「ケンティーには感謝してるんだよ?」
「え?」
突然褒められ、呆気にとられる。
「君がいたから真綾は今は大人しくしてる。……でもいつコイツの優しさが暴走して真綾になるかわからない」
「そんなのまだ分からない!」
「────犠牲が出てからじゃ遅いんだよ!!」
アドの怒声がデパート跡地にこだまする。
「アハハ、ごめんごめん。ケンティーに怒っても仕方ないよね。でも、ケンティーより先にコイツが入ってたら確実に……」
「────皆の人生は狂わされてた」
その言葉は、震える本音だった。強がりでも皮肉でもない、心からの“恐怖”。
「は……?」
「ま、もうバレちゃったからにはここにはいられない。じゃあね皆」
喉が塞がったような、震える声。ただしサンに向けていた冷たさは一切なく、自分でも抑えられないほどの“未練”があふれていた。
「っ……待てよアドっ」
賢人の呼び掛けにも答えない。しかしその背中には、仲間への未練と“自分への嫌悪”が複雑に絡まっていた。
「……。……ッ。アドッ!」
百喰の声が鋭く響く。彼女の声にようやく足を止め、ゆっくり振り返る。しかしその表情は、感情を引き剥がした無表情だった。
「……何? モグッチ」
百喰は唇を噛む。その瞳には涙が滲んでいたが、同時に強烈な光が宿っていた。
「わっ、私も行きます。盟主の補佐が私の……役割ですから」
「……何? "あの時"の私の真似?」
アドの声は嘲るように聞こえるが、実際には震えていた。百喰は一歩、前に進む。
「……っ、いいえ、これは私の……意思です」
アドは驚いたように、ほんのわずか────目を大きく見開いた。そして次の瞬間。諦めにも、安堵にも、悲しみにも見える笑い声をこぼした。
「……ふふ、ハハハハ!!」
本当は泣きそうだった。
「ありがとうねケンティー!! モグッチも君に変えられたみたいだよ!」
「……ッ!」
賢人は言葉を返せない。喉が詰まり、拳を強く握りしめるしかできなかった。
────その日、生存組合『ポートラル』は事実上の解体となった。
Tips.部活について。部活は全キャラに設定されているぞ。サービス開始当初は剣道部 化学部 射撃部 武術部 帰宅部の5個だったぞ。しかし1周年辺りの学パロバンドイベントで音楽部が追加されたぞ。しかし帰宅部は廃止されたぞ。
サンは好きか
-
好き
-
嫌い
-
キャラが薄い