とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第18章 絆、引き裂かれても。

 

 ────なぜ、わたしはこの世界に生まれたのだろう。誰かを傷つけるために生まれたのなら、最初から、わたしの席などなければよかったのに。

 

 あれから1週間後。その部屋では誰も口を開かない時間が続いていた。

 

「……なぜこうなった?」

 

 礼音の呟きは、部屋の空気に沈んでいくように重かった。空調の低い唸りが耳の奥に響く。アドのいない部屋。それだけで、いつもの“温度”が完全に欠け落ちていた。誰も冗談を言わない。誰も場の温度を調整できない。ただ、重く、息苦しい。

 

「……こいつが悪りぃんだろ」

 

 姫片は、普段ならまず言わない感情的な言い方で、サンを睨んだ。視線が刺さるたび、彼の肩が小さく揺れる。

 

「……そうだよ。僕が悪いんだよ」

 

 サンの声もまた、空気の重さを増すだけだった。

 

「……黙れよ」

 

 その一言は、抑え込まれていた爆弾を叩き割るように響いた。

 

「え?」

「……お前が、お前が生き返ったからッ!! こうなったんだろうがッ! ……友達だって……思ってたのにっ」

 

 賢人は、椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、サンの胸ぐらを掴んだ。

 

「……涙、出てるぞ」

 

 サンのかすれた言葉が、賢人の心の奥の何かを踏みつけた。

 

「……は? うるせぇよ……! 誰のせいだと────」

 

 振り上げられた拳。その瞬間、来栖崎が全力で腕を掴んだ。

 

「ッ……あんたが……あんたがキレても何も変わらないでしょっ」

「賢人様っ。……今は樽神名さんを連れ戻すのが先決ですわ」

 

 甘噛は、声こそ落ち着いていたが、指先が震えているのが見えた。

 

「師匠……甘噛さん……」

「……いいよなお前は。味方がいて」

 

 その一言が、賢人の胸に深く突き刺さる。

 

「……」

 

 アドがいない。それだけで、ここまで空気は壊れるのか。その時。

 

「ちょっと、一応傘下とはいえ別の組織なんだけど。あんま荒らさないでくれない?」

 

 モラトリアムの千比呂が呆れた顔で割り込んでくる。

 

「……すまない篠崎君」

 

 そう、ここは渚輪区本島、生存組合『モラトリアム』拠点のライブ会場であった。礼音は深く息を吸い込み、全員を見渡す。誰かがこれを止めなければいけなかった。

 

「……まずは、双方に落ち度があったと認識しよう。樽神名君は仲間に嘘をついた。サン君は、彼女の言葉を一切聞かなかった。どちらにも非がある。そこから始めよう」

 

 賢人もサンも、礼音から目をそらした。その沈黙が、また空気を重くした。

 

「それと……我々は今、“家”を失っている。モラトリアムに助けられている状態だ。これ以上、空気を荒らすな」

 

 普段は見せない礼音の静かな怒りに、全員が頷く。

 

「はいこれ、あり合わせだけど」

「あ……いや僕は」

「……食えよせっかく用意してくれたんだから」

 

 千比呂が出した料理。彼女は下手なりに野菜を炒めてポートラルの全員に振舞っていた。それが彼女なりの罪滅し(つみほろぼし)だった。

 

「美味しい……」

「……ありがとうございます」

 

その料理で、一旦は空気がほどける。

 

 ────しかしその瞬間。

 

「怪物ですッ! 怪物が現れました!!」

「なんでこんなときに……!」

 

 モラトリアム班員の叫びが響き、サンが拳を握りしめる。

 

「行くしかない……。神川君!」

「はい……!」

 

 どんな状況であれ、人々を守るのが仮面ライダー。賢人はその誓いを胸に外に飛び出る。

 

「変身!」

『エナジーユニコーン!!』

 

 そこにいたのはベージュのトレンチを羽織った女。その顔には、笑っているのか泣いているのか判別不能な歪な“口”。その後ろには、黒い角を持つ怪物が影のように立っている。

 

「ワタシ、キレイ?」

 

 奇妙な女性はヴァルキュアの眼前に迫り、答えを待たずに巨大なハサミを振りかぶる。

 

『八つ裂き女』

「癒の剣士ィ!」

「今はお前に、構ってる余裕はない!!」

 

 レジビルの怪人態を一太刀で振り払う。

 

「なんだァ? 強くなったのかァ? そ・れ・と・も、心が不安定なのかァ?」

「黙れッ!」

 

 気を取られそうになる瞬間、礼音の一矢がレジビルの体を貫く。

 

「ッ……! ありがとうございます礼音さん!」

「礼はいらない! 倒すんだ!」

「はい!」

 

 今回のメギドは単純、相手の質問に答えなければいいだけ。そう思ってヴァルキュアだったが……。

 

 ────ザクッ ザクッ。

 

「な、なに!?」

 

 接触はしていない。しかし空気が一瞬だけ冷たく揺れる。直後、ヴァルキュアの白い装甲に赤い線が浮かぶ。

 

「な、なんだよ……おい」

「答えなかったねェ……? じゃあ、切り裂くねェ……?」

 

 右腿、脇腹、肩口────斬られた場所に遅れて血が滲む。

 

「癒の剣士ィ……。ホントの気持ち、言ってないクセに……強がってるねェ?」

 

 八つ裂き女の声が、賢人の胸の奥にある言えなかった言葉を抉ってくる。

 

「なんの事だッ!!」

「まだ、言ってないよねぇ?」

 

 剣を振るが、刃は空を斬るだけ。胸の装甲が深々と割れ、ヴァルキュアが膝をつく。

 

「ッ……ぁ……!」

 

 その姿を、遠くで見ていたサンは、拳を握りしめた。

 

「……」

「……おいお前、行かねぇのかよ」

「……なんでだよ」

 

 姫片の声が響き、サンは顔を伏せたまま答える。

 

「悪いっつー自覚はあんだろ?」

「僕は戦えない……! ……それにもう友達じゃないから」

「ハッ、情けねぇこと言ってくれるじゃねぇか。お前が戦ってたのはアイツを友達だと思っていたからなのか? ……違うだろ。"自分が足手まといではない"と、証明するため、なんだろ?」

 

 心臓を撃ち抜かれたように、サンは目を見開く。胸の奥に押し込んでいた“劣等感”が、ぐらりと揺れた。

 

「……ッ、ざけんな。僕は足手まといになんかならない……!」

 

 姫片はそれを見て思う。ただの人間じゃねぇか、と。

 そしてサンは立ち上がり叫ぶ。

 

「おい賢人!! 奴の本はなんだ!」

「サン!? ……本は分かんねぇ……けど原典は多分……口裂け女だっ!」

「口裂け女!? ……だったら簡単、奴はポマードが大嫌いだッ!」

 

「……ッ!? ポマード!? なんだよそれはっ!!」

「整髪料だ! 持ってないか!?」

「クソ……整髪料……?」

 

 美容なら甘噛。そう考えたヴァルキュアは大声で叫ぶ。

 

「甘噛さんッ! 整髪料持ってないか!? ポマードとか!」

「ポマード……は無いですけれどワックスなら!」

 

 そう言って甘噛が投げたワックスを、サンがキャッチし全力で走る。

 

「うおおおおおおッ!!!」

 

 ワックスを八つ裂き女へ叩きつける。すると見えない斬撃が止み、更に相手の動きが止まる。

 

「今だ! やるんだ賢人ッ!!」

「あぁ!!」

『波癒・居合!!』

 

 弱点を突かれ暴れ回るメギドの首を、波癒が捉える。

 

「……波癒・斬ッ!」

『読後一閃!!』

「……ハァッ!」

 

 ────瞬間、切り落とされる首。切られたことにも気づかず、数歩歩く。

 

「……言われなくても謝るよ」

 

 メギドは大きな音を立て爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 アドと百喰は、崩れた廃ビルの一角にいた。外は昼。しかし屋内に日光は届かず、風の音だけが大きく響く。

 

「……本当はさモグッチ」

 

 アドの声はひどく弱々しかった。いつものハツラツとした調子は影も形もない。

 

「アンタのその真面目さ……正直、苦手だったんだよね」

「えっ……」

「でもさ、変わったよね。ケンティーと出会って」

 

 アドは、自分の腕の静脈を指でなぞっている。無意識に、終わりの感触を探るように。

 

「私が……変わった……?」

 

 百喰は、拳を握る。

 

「うん。今までだったらツヅリンが大怪我負っても、見捨ててたと思う」

 

 アドの声はかすれ、笑っているのか泣いているのか判別できない。

 

「そんな……こと……!」

「でもあの時は違った。無理を押すケンティーを送り出してさ、本当にビックリしたよ。それであの子の勝利を信じてその場で待機してさ」

「それはっ……それが一番……最善であると判断したから……」

「やっぱり変わったよ。……はぁ、ケンティー(あの子)が私を引き取ってくれてたらなぁ……」

「……そんなこと、言わないでください」

 

「え?」

 

 アドは頭を起こす。

 

「もしそうなっていたら私は貴方に出会えなかった。私は、貴方に会えて救われたんです。だから私は……貴方にどこまでも着いていきます」

「ハハ……。それって告白? ……だったら死ねないなぁ……」

 

 アドは微笑む。その頬には涙の跡があった。

 

「え?」

「いいや、なんでもないよ」

 

 ────白昼夢は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、どうする? アイツがいないままじゃポートラルはやっていけねぇぞ」

 

 姫片の言葉は真実で、誰も否定できなかった。

 

「でも連れ戻すったって……理由が理由ですし……」

「は?」

 

 その賢人の言葉に、来栖崎の眉が動く。

 

「あんた、私を無理やり連れ戻した日のこと…忘れた?」

「それとこれとは事情の差が……!」

「一緒よ。アイツは今、死のうとしてる。まだメガネが引き止めてくれてるだろうけど」

「だったら百喰さんに任せれば……!」

 

 来栖崎は、IFの賢人との関係を想像し言葉を紡ぐ。

 

「────でも、いずれ決壊する。そういう共依存の関係はね」

「……」

「わたくしが惚れたのはあの、1人の女性のために命を懸ける賢人様です。あの時うじうじ言い訳を並べていたなら、とっくに軽蔑していましてよ」

 

 甘噛がそっと言った。

 

「……甘噛さん」

「甘噛」

「え?」

「甘噛と、呼んでください」

 

「……。……はい、分かりました。アドさんを連れ戻したら、絶対に呼びます」

「それとサンさん、今回の連れ戻しには、貴方が必須です」

 

 喜びを内に秘め、甘噛はサンの方を向く。

 

「……僕が?」

「えぇ、いわば貴方がたは被害者でもあり加害者でもあります。だから、貴方とアドさんが本音で対話をしないことには、何も進みませんの」

 

 甘噛はサンの目を真っ直ぐ見据える。

 

「……僕にその資格が、あるのか?」

「資格がどうこうではありません。まだ貴方達はスタートラインにすら立っていない。だからせめて、話し合いの場を作らなければ……」

「……でも肝心の場所が……あッ!!」

「ど、どうしたんですの……?」

 

 慌てて賢人は懐からガトライクフォンを取り出し、操作し始める。

 

「……もしかしたらこれ……劇中で使われてたか……? いやでも試してみるだけ試して……あった!!」

「急になんだぁ……?」

「皆さん! このスマホに、追跡機能入ってました!」

 

 来栖崎は呆れながらも、安堵したように息をつく。

 

「……先に確認しておきなさいよ」

 

 しかしその声は柔らかかった。

 

「……これで、助けにいける」

 

 そして賢人、サン、甘噛、来栖崎、礼音。"あの時"と同じメンバー。────でも1人足りない。

 

 "もう1人"を連れ戻すため、夜の街へ、5人は走り出した。




Tips.剣道部はアタッカー兼回避タンクだぞ。射撃部、武術部はアタッカーだぞ。化学部は化学攻撃力特化だぞ。音楽部はバッファーだぞ。

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