とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────なぜ、わたしはこの世界に生まれたのだろう。誰かを傷つけるために生まれたのなら、最初から、わたしの席などなければよかったのに。
あれから1週間後。その部屋では誰も口を開かない時間が続いていた。
「……なぜこうなった?」
礼音の呟きは、部屋の空気に沈んでいくように重かった。空調の低い唸りが耳の奥に響く。アドのいない部屋。それだけで、いつもの“温度”が完全に欠け落ちていた。誰も冗談を言わない。誰も場の温度を調整できない。ただ、重く、息苦しい。
「……こいつが悪りぃんだろ」
姫片は、普段ならまず言わない感情的な言い方で、サンを睨んだ。視線が刺さるたび、彼の肩が小さく揺れる。
「……そうだよ。僕が悪いんだよ」
サンの声もまた、空気の重さを増すだけだった。
「……黙れよ」
その一言は、抑え込まれていた爆弾を叩き割るように響いた。
「え?」
「……お前が、お前が生き返ったからッ!! こうなったんだろうがッ! ……友達だって……思ってたのにっ」
賢人は、椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、サンの胸ぐらを掴んだ。
「……涙、出てるぞ」
サンのかすれた言葉が、賢人の心の奥の何かを踏みつけた。
「……は? うるせぇよ……! 誰のせいだと────」
振り上げられた拳。その瞬間、来栖崎が全力で腕を掴んだ。
「ッ……あんたが……あんたがキレても何も変わらないでしょっ」
「賢人様っ。……今は樽神名さんを連れ戻すのが先決ですわ」
甘噛は、声こそ落ち着いていたが、指先が震えているのが見えた。
「師匠……甘噛さん……」
「……いいよなお前は。味方がいて」
その一言が、賢人の胸に深く突き刺さる。
「……」
アドがいない。それだけで、ここまで空気は壊れるのか。その時。
「ちょっと、一応傘下とはいえ別の組織なんだけど。あんま荒らさないでくれない?」
モラトリアムの千比呂が呆れた顔で割り込んでくる。
「……すまない篠崎君」
そう、ここは渚輪区本島、生存組合『モラトリアム』拠点のライブ会場であった。礼音は深く息を吸い込み、全員を見渡す。誰かがこれを止めなければいけなかった。
「……まずは、双方に落ち度があったと認識しよう。樽神名君は仲間に嘘をついた。サン君は、彼女の言葉を一切聞かなかった。どちらにも非がある。そこから始めよう」
賢人もサンも、礼音から目をそらした。その沈黙が、また空気を重くした。
「それと……我々は今、“家”を失っている。モラトリアムに助けられている状態だ。これ以上、空気を荒らすな」
普段は見せない礼音の静かな怒りに、全員が頷く。
「はいこれ、あり合わせだけど」
「あ……いや僕は」
「……食えよせっかく用意してくれたんだから」
千比呂が出した料理。彼女は下手なりに野菜を炒めてポートラルの全員に振舞っていた。それが彼女なりの
「美味しい……」
「……ありがとうございます」
その料理で、一旦は空気がほどける。
────しかしその瞬間。
「怪物ですッ! 怪物が現れました!!」
「なんでこんなときに……!」
モラトリアム班員の叫びが響き、サンが拳を握りしめる。
「行くしかない……。神川君!」
「はい……!」
どんな状況であれ、人々を守るのが仮面ライダー。賢人はその誓いを胸に外に飛び出る。
「変身!」
『エナジーユニコーン!!』
そこにいたのはベージュのトレンチを羽織った女。その顔には、笑っているのか泣いているのか判別不能な歪な“口”。その後ろには、黒い角を持つ怪物が影のように立っている。
「ワタシ、キレイ?」
奇妙な女性はヴァルキュアの眼前に迫り、答えを待たずに巨大なハサミを振りかぶる。
『八つ裂き女』
「癒の剣士ィ!」
「今はお前に、構ってる余裕はない!!」
レジビルの怪人態を一太刀で振り払う。
「なんだァ? 強くなったのかァ? そ・れ・と・も、心が不安定なのかァ?」
「黙れッ!」
気を取られそうになる瞬間、礼音の一矢がレジビルの体を貫く。
「ッ……! ありがとうございます礼音さん!」
「礼はいらない! 倒すんだ!」
「はい!」
今回のメギドは単純、相手の質問に答えなければいいだけ。そう思ってヴァルキュアだったが……。
────ザクッ ザクッ。
「な、なに!?」
接触はしていない。しかし空気が一瞬だけ冷たく揺れる。直後、ヴァルキュアの白い装甲に赤い線が浮かぶ。
「な、なんだよ……おい」
「答えなかったねェ……? じゃあ、切り裂くねェ……?」
右腿、脇腹、肩口────斬られた場所に遅れて血が滲む。
「癒の剣士ィ……。ホントの気持ち、言ってないクセに……強がってるねェ?」
八つ裂き女の声が、賢人の胸の奥にある言えなかった言葉を抉ってくる。
「なんの事だッ!!」
「まだ、言ってないよねぇ?」
剣を振るが、刃は空を斬るだけ。胸の装甲が深々と割れ、ヴァルキュアが膝をつく。
「ッ……ぁ……!」
その姿を、遠くで見ていたサンは、拳を握りしめた。
「……」
「……おいお前、行かねぇのかよ」
「……なんでだよ」
姫片の声が響き、サンは顔を伏せたまま答える。
「悪いっつー自覚はあんだろ?」
「僕は戦えない……! ……それにもう友達じゃないから」
「ハッ、情けねぇこと言ってくれるじゃねぇか。お前が戦ってたのはアイツを友達だと思っていたからなのか? ……違うだろ。"自分が足手まといではない"と、証明するため、なんだろ?」
心臓を撃ち抜かれたように、サンは目を見開く。胸の奥に押し込んでいた“劣等感”が、ぐらりと揺れた。
「……ッ、ざけんな。僕は足手まといになんかならない……!」
姫片はそれを見て思う。ただの人間じゃねぇか、と。
そしてサンは立ち上がり叫ぶ。
「おい賢人!! 奴の本はなんだ!」
「サン!? ……本は分かんねぇ……けど原典は多分……口裂け女だっ!」
「口裂け女!? ……だったら簡単、奴はポマードが大嫌いだッ!」
「……ッ!? ポマード!? なんだよそれはっ!!」
「整髪料だ! 持ってないか!?」
「クソ……整髪料……?」
美容なら甘噛。そう考えたヴァルキュアは大声で叫ぶ。
「甘噛さんッ! 整髪料持ってないか!? ポマードとか!」
「ポマード……は無いですけれどワックスなら!」
そう言って甘噛が投げたワックスを、サンがキャッチし全力で走る。
「うおおおおおおッ!!!」
ワックスを八つ裂き女へ叩きつける。すると見えない斬撃が止み、更に相手の動きが止まる。
「今だ! やるんだ賢人ッ!!」
「あぁ!!」
『波癒・居合!!』
弱点を突かれ暴れ回るメギドの首を、波癒が捉える。
「……波癒・斬ッ!」
『読後一閃!!』
「……ハァッ!」
────瞬間、切り落とされる首。切られたことにも気づかず、数歩歩く。
「……言われなくても謝るよ」
メギドは大きな音を立て爆散した。
その頃。
アドと百喰は、崩れた廃ビルの一角にいた。外は昼。しかし屋内に日光は届かず、風の音だけが大きく響く。
「……本当はさモグッチ」
アドの声はひどく弱々しかった。いつものハツラツとした調子は影も形もない。
「アンタのその真面目さ……正直、苦手だったんだよね」
「えっ……」
「でもさ、変わったよね。ケンティーと出会って」
アドは、自分の腕の静脈を指でなぞっている。無意識に、終わりの感触を探るように。
「私が……変わった……?」
百喰は、拳を握る。
「うん。今までだったらツヅリンが大怪我負っても、見捨ててたと思う」
アドの声はかすれ、笑っているのか泣いているのか判別できない。
「そんな……こと……!」
「でもあの時は違った。無理を押すケンティーを送り出してさ、本当にビックリしたよ。それであの子の勝利を信じてその場で待機してさ」
「それはっ……それが一番……最善であると判断したから……」
「やっぱり変わったよ。……はぁ、
「……そんなこと、言わないでください」
「え?」
アドは頭を起こす。
「もしそうなっていたら私は貴方に出会えなかった。私は、貴方に会えて救われたんです。だから私は……貴方にどこまでも着いていきます」
「ハハ……。それって告白? ……だったら死ねないなぁ……」
アドは微笑む。その頬には涙の跡があった。
「え?」
「いいや、なんでもないよ」
────白昼夢は過ぎていく。
「……で、どうする? アイツがいないままじゃポートラルはやっていけねぇぞ」
姫片の言葉は真実で、誰も否定できなかった。
「でも連れ戻すったって……理由が理由ですし……」
「は?」
その賢人の言葉に、来栖崎の眉が動く。
「あんた、私を無理やり連れ戻した日のこと…忘れた?」
「それとこれとは事情の差が……!」
「一緒よ。アイツは今、死のうとしてる。まだメガネが引き止めてくれてるだろうけど」
「だったら百喰さんに任せれば……!」
来栖崎は、IFの賢人との関係を想像し言葉を紡ぐ。
「────でも、いずれ決壊する。そういう共依存の関係はね」
「……」
「わたくしが惚れたのはあの、1人の女性のために命を懸ける賢人様です。あの時うじうじ言い訳を並べていたなら、とっくに軽蔑していましてよ」
甘噛がそっと言った。
「……甘噛さん」
「甘噛」
「え?」
「甘噛と、呼んでください」
「……。……はい、分かりました。アドさんを連れ戻したら、絶対に呼びます」
「それとサンさん、今回の連れ戻しには、貴方が必須です」
喜びを内に秘め、甘噛はサンの方を向く。
「……僕が?」
「えぇ、いわば貴方がたは被害者でもあり加害者でもあります。だから、貴方とアドさんが本音で対話をしないことには、何も進みませんの」
甘噛はサンの目を真っ直ぐ見据える。
「……僕にその資格が、あるのか?」
「資格がどうこうではありません。まだ貴方達はスタートラインにすら立っていない。だからせめて、話し合いの場を作らなければ……」
「……でも肝心の場所が……あッ!!」
「ど、どうしたんですの……?」
慌てて賢人は懐からガトライクフォンを取り出し、操作し始める。
「……もしかしたらこれ……劇中で使われてたか……? いやでも試してみるだけ試して……あった!!」
「急になんだぁ……?」
「皆さん! このスマホに、追跡機能入ってました!」
来栖崎は呆れながらも、安堵したように息をつく。
「……先に確認しておきなさいよ」
しかしその声は柔らかかった。
「……これで、助けにいける」
そして賢人、サン、甘噛、来栖崎、礼音。"あの時"と同じメンバー。────でも1人足りない。
"もう1人"を連れ戻すため、夜の街へ、5人は走り出した。
Tips.剣道部はアタッカー兼回避タンクだぞ。射撃部、武術部はアタッカーだぞ。化学部は化学攻撃力特化だぞ。音楽部はバッファーだぞ。
サンは好きか
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好き
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嫌い
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キャラが薄い