とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────わたしはあなたが好きだ。誰にも縛られず、自分を突き通すあなたが。でもあなたは気づいていないでしょう。わたしはあなたが好きだ。ちょっと苦手な部分も覆いくるめて、全てが好きだ。でもあなたは、気づいていないのでしょう。
廃ビルへ向かう道の途中、誰も口を開かない暗い道を歩く彼らの中で、賢人がふいに足を止めた。
「サン」
振り返るその声は、怒りでも責任感でもない。ただの、痛みに似た声だった。
「……ごめん」
「え?」
「……俺さっき、お前に酷いこと言っちまった。死んでたら良かったのに、って」
サンは目を伏せる。あの言葉は、胸に残ったままだ。
「……それは本当のことだから。僕が人間じゃないってことも……皆が僕をどう見てるかも、分かってる」
「違うっ、なぁサン。お前には心があるだろ……? ……だから怒ったり悲しんだりできる」
「は……?」
「潰されてみてどうだった? 痛かったか?」
「……うん」
「だったら十分」
賢人はサンの胸を叩き、言葉を続ける。
「"痛みがあるから、人を守りたいって思うんだ"」
「え?」
「俺の大好きな人の言葉だ。これだけは覚えとけ」
「……はは、……お前、謝るの下手だな」
「……悪い」
二人の声が、少しだけ軽くなった。その瞬間、ガトライクフォンが鋭く鳴った。
「……着きました」
追跡信号が示すのは、巨大な廃ビルの最上階。
「……僕が、アドを」
「……あの時のアンタらの気持ち、やっと分かったわ」
「樽神名君を救って、あの日常を取り戻そう」
「アドさんがいないと、賢人様はずっと苦しみますからね」
「さぁ、王女様の救出だ」
各々が決意を宣言し、廃ビルに乗り込む。
作戦前夜。ビルの天井の抜けたフロアで、アドと百喰は月を見ていた。長い沈黙のあと、百喰がぽつりと呟く。
「……私、怖かったんです」
「え?」
「サンさんが来て、参謀になった時。“あ、私より優れている人が来た”って思いました」
百喰は自分の手をきつく握りしめる。
「そんなことっ……」
「陸上部の時もそうでした。私より速い後輩が現れて……誰にも期待されなくなって……私一人消えたって誰も気づかないんじゃないかって思った時もありました」
その声には、何年も誰にも言えなかった痛みが滲んでいた。
「そんな時に大感染が起こってアドに助けられて、何か変わるかって思いましたけど……何も変われなかった」
百喰の目に涙が浮かぶ。
「そして神川さんが現れて好き勝手やって、でもそのお陰で変われて。……それにあなたの参謀という役割もありましたから」
「……何言いたいかわかんないよ」
涙を浮かべながらもアドは笑みをこぼす。
「……私を連れ出してくれてありがとうございます、樽神名アド」
「……ホント、いい参謀持ったなぁ……ねぇモグッチ、ひとつ頼みがあるんだけど、いい? ────」
百喰は赤くなりながらうなずく。2人だけの夜は、ゆっくりと過ぎていく。
屋上。朝日がビルの隙間から差し込み、アドの頬の涙跡を照らす。賢人はサンの背中を押して叫ぶ。場違いなほど明るく。
「アドさん! コイツが話あるみたいなんです!」
「何? 告白でもするの? 殺人者が」
アドの冷たい視線が、サンに刺さる。
「あぁ、僕は殺人者、これは変えようのない事実だ」
「分かってるならなんで来たの? 言ったよね? 私は
「あぁ、何度でも殺してくれていい。それでお前の気が晴れるならな」
アドは躊躇なく銃を撃った。サンの身体に複数の弾痕が走る。膝をつき、それでも立ち上がる。
「ッ……! それでいいっ、僕が殺した人間の苦痛は、こんなもんじゃないんだろう?」
彼は痛みを抑えながら立ち上がる。
「……そうだよッ! それで
「だから!! 僕は
「……何? ケンティーの真似事?」
しかしその叫びはアドには響かない。
「そうだよ! ……僕は、僕が嫌いだった。何も出来ない僕が。でも賢人に救われた! だから……!! 僕は賢人みたいになるッ」
「……違う。違うだろ
「"痛みがあるから、人を守りたいと思う"。さっき賢人に言われたんだよ。誰かの受け売りだってさ」
ああ、結局コイツは"自分"を持ってない。アドが呆れて踵を返そうとしたその瞬間。
「さっき撃たれた時も、瓦礫に潰された時も、痛みがあった。こんな苦しみ、二度と味わいたくないって思った」
「……え」
アドが足を止める。
「なぁアド! 僕の為に、戻ってきてくれないか……? 僕は弱いから、あの空気が嫌いだ! アドがいないあの空気がッ! 気まずいから! だから……頼む」
サンは深く、深く頭を下げた。アドは目を見開き──そして、ふっと笑った。
「変わったねぇ真綾! いやサンちゃん!!」
「……え?」
呆気にとられ、アドの方を見る。
「……アイツは他人本意だったからああなった。……これだったら猶予あげるのもいいかもね」
「どういう……こと?」
「わっかんないかなぁ……。戻ったげるって言ってんの。モグッチー!! もういいよー!!」
アドが叫ぶと、ぎこちない高笑いが聞こえてくる。
「ふ、ふハーッハッハッハ!! わ、私はす、スーパーヴィラン、も、もぐ────やっぱり無理ですアド!!」
そこにいたのはTHE・悪役令嬢のような衣装を着て、恥ずかしそうに体を隠す百喰。
「え?」
サンがぽかんと口を開き、賢人は頭を抱える。
「もし君が君の言葉で喋らなかったら、私はモグッチと一緒に死ぬつもりだった。……だからこれはささやかなプレゼントだよ。真綾じゃなく、サンちゃんの誕生日の、ね」
「……百喰が?」
「違うだろ。……おいサン、お前言葉を額面通り受け取る
「はあ?」
その瞬間だった。
「いやぁ、素晴らしかった。友情と後悔と希望の、実に“豊潤な物語”だ」
禍々しい本を手に持ち、ストボロスが歩み出てくる。彼の視線は賢人を素通りし、サンへ向かう。
「……貴方ですね? “本来の主人公”は」
全員が息を呑む。
「……なんだよ」
「癒の剣士は……異物ですね。運命の流れから最も遠い。本来ここの中心に立つべきは、貴方……サン」
「……どういう意味だ」
賢人が刀の柄を握る。
「しかし既に……物語は、取り返しのつかないほどに狂っているッ」
ストボロスはその手でアルターブックを握りつぶした。バキッと紙が裂け、そこから血のような赤黒い霧が溢れ出す。
『狼の返り血』
砕けたブックの欠片がうねり、赤い影が吠えて実体化する。巨大なオオカミメギドが屋根を砕きながら立ち上がった。
「ガルルルルァァァッッ!!」
その咆哮だけで空気が震え、足元のコンクリートが蜘蛛の巣のようにヒビ割れる。
「おいおいおい……! どうすんだよこのデカさ……!!」
メギドはみるみるうちに巨大化していく。
「まずい……! 変身!」
『エナジーユニコーン!』
巨大な前脚が振り下ろされる瞬間、ヴァルキュアは6人を抱えてビルから飛び降りた。
『ライドガトライカー!!』
ビークルが衝撃を吸収し、彼らは地面に転がる。
「ああいうデカイのの倒し方は知ってます!」
ヴァルキュアはセイバー1話のゴーレムメギドを思い浮かべる。
『必殺読破!』
『ユニコーン! 一冊斬り! キュア!』
「波癒十字斬!! はぁ!!」
ヴァルキュアは剣を軸に縦横無尽に斬り回り、巨体の中心を貫いた。巨体が膝をつき、悲鳴をあげながら崩れ落ちる。爆風がビル群に反響し、戦いは終わった。
「……ふぅ」
「またつまらぬものを切っちゃったねぇケンティー〜!」
「っ……! はい!!」
「はい、て。返し方のがつまらないわよ」
「いやお笑いじゃないですよ師匠!?」
すると、甘噛がそっと笑う。
「……ふふ」
「……ん? どうしたんですか? 甘噛さん」
「いや、いつもの日常が戻ってきたなーって。って、さん付けやめるって言ってくださいましたよね?」
「あ……! 忘れてました! じゃあ改めて甘噛、よろしく」
「はい……!!」
目を輝かせ、甘噛は頷いた。それを見てアドはニヤニヤと口角を上げる。
「えぇ〜、私の知らない間に何あったのかな〜? おねいさんに教えなさいっ、うりうり〜」
「ちょっ、恥ずかしいですってアドさんっ」
すると甘噛は賢人の腕に絡みつく。
「わたくしとのカ・ン・ケ・イは、そんなに恥ずかしいものですの?」
「うわ〜! 助けてサン〜!!」
「知らねぇよ! お前のまいた種だろうが!!」
「そんじゃ新生ポートラル! 帰還せよ!!」
アドは胸を張り、朝日に向かって指を突き出した。それは新生ポートラル盟主・樽神名アドの、そして仲間たちの、新しい第一歩だった。
Tips.レベルとランク。ランクは1から7まであり、それぞれランク×10が最大レベルだぞ。初期のキャラは4と6で絵柄が変わり、更にSRのキャラによっては6でSSRに昇華するキャラもいるぞ。
サンは好きか
-
好き
-
嫌い
-
キャラが薄い