とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第21章 模造品の痛み、動き出す災厄。

 

 ────あなたが羨ましい。理から外れたあなたが活躍する度に、黒い羽は抜け落ちる。

 

 同年 7月13日

 

 交渉に臨むにあたり、三人はフォーマルな装いに身を包んだ。

 

「ははっ、アンタ服に着られてるわよ」

 

 来栖崎の遠慮のない一言に、賢人は肩をすくめる。白と黒のスーツは定番だが、どうにも身体に馴染んでいない。

 

「いや師匠と礼音さんはなんでそんなに似合ってるんですか?!」

「はは、照れるな。これは少々……昔な」

 

 礼音は黒と青のスリーピースに身を固め、ハットの影から静かな眼差しを覗かせる。まさにマフィアといった様相。

 

 一方、来栖崎は黒を基調とした軍装に赤の差し色。短いスカートと赤いマフラーが、彼女の苛烈さをそのまま形にしたようだった。

 

「……でもなんでスカートスタイルなのよ。しかもクソ短いし」

「『動きやすいから我慢我慢〜』とアドさんが」

「絶対ふざけたわよね」

「あぁ、樽神名君だ。そうに違いない」

 

 小さな愚痴を背に、三人はライドガトライカーで走り出す。

 

「何気に珍しいわねこの組み合わせ」

 

 ビークルの振動に身を任せながら、来栖崎が礼音へ視線を投げた。

 

「恐らく君を連れ戻した時以来だろう。……そこでもあまり話しはしなかったが。……はは、何を負い目など感じているのだろうな」

 

 礼音は短く息を吐き、どこか自嘲気味に笑う。

 

「暗い雰囲気はごめんよ。ほら賢人、速度上げて」

「え? あ! はい!」

 

 速度が上がり、その風で礼音の顔が荒れる。

 

「ヒャハハハハ! 何その顔! 綺麗な顔が台無しよ!」

「そんな事のために速くさせたんですか!?」

 

 驚いた賢人は思わずブレーキを踏み、即座に土下座した。

 

「まっじですみません礼音さんッ!」

「はは、別に怒ってはいないさ。……それに、今のは学生の"ノリ"のように感じられて楽しかったよ。しかし……帰ったら来栖崎君には仕置を施さないとな」

 

 そう言いながら、礼音はニヤリと笑みを浮かべる、

 

「えぇ……」

「ハハハ……もう遊んでいる暇ないんですから、行きますよ」

 

 来栖崎はやった側なのにドン引き、賢人がヘルメットを被り直して再び運転席に座り、再びビークルを発進させる。やがて視界を覆うように、巨大な施設が現れた。

 

「ここが……」

 

 ────鳳凰軍事学校。渚輪区における最大規模の施設であり、あのメグリエすらも超える全高を誇っていた。

 

「でっけぇ……」

 

 生前一度、興味本位で自衛隊の施設に行った時もここまで大きくはなかったと、賢人は感心する。

 

「……どう入るわけ?」

「そりゃあ正面とっ────」

「交渉だ。事を荒立てるわけにはいかない」

 

 賢人の言葉を礼音が遮り、礼音は懐から金属製のカードキーを取り出した。

 

「樽神名君から預かっている。……使えるかは分からないが」

「おっ、かっこいい」

「じゃないでしょ。それ、使えるの?」

 

 久方ぶりの来栖崎のツッコミ。

 

「まだ使えるかは分からない、とは言っていたがな。試してみる価値はある」

 

 彼らは裏にあるゲートに向かい、扉を前にする。

 

「……っ!」

 

 扉の上方には自動銃座が備えられており、彼らを照準に捉えている。ゴクリ、生唾を飲み込む音さえ輪郭がくっきり聞こえるほどの静けさ。

 

『特別職員 No.3719 樽神名アド 利用許諾を確認 入校を許可します』

 

 機械音声と共に、重厚な扉が開いていく。

 賢人の胸に、言い知れぬ違和感が残った。だが、真に空気が変わったのは────その先だった。

 

「────やぁ」

 

 男だった。白い髪、黒の軍服のようなロングコート。まるで飼い犬の散歩でもするように、彼は裸の少女に首輪をつけ、その鎖を握っていた。少女は俯き、震える肩が小さく上下している。

 

(……コイツ、切っていい?)

(……ッ切りたいですけど……ちょっと待ってください!)

 

 来栖崎と賢人が小さく小声で囁きあう。来栖崎の方は既に刀の柄に手をかけている。

 そんな二人を制し、礼音が一歩前に出た。

 

「我々は生存者組織ポートラル。本日は研究機関PALとの会談を望み参上した。他人のカードを使用した非礼、詫びさせてもらう」

 

 礼音は深く頭を下げる。

 そんな彼女を頭から足先まで見回し、男は目を見開き笑う。そして少し目元を払い、彼は語り出す。

 

「いやぁすまない。まぁ、今のはただの人間の生理的行動であると判断してもらおう。こんなところで立ち話というのも何だ。場所を変えよう」

「すまない、気遣いに感謝する」

 

(ちょっと礼音さんいいんですかあんなやつ! 絶対敵ですよ)

(敵だ。私もそれには同意するが、構成員とその組織自体の思想は別個として考えるべきだ)

 

 ついて行く中、礼音は賢人を窘める。

 

「私は神峰透露、この政府直属の研究機関『PAL』の副機関長を務めている。それで此度はどのような件で?」

「あぁ、今回の用件は『渚輪区、渚輪ニュータウンへの浄化作戦の撤回、及び非感染者の避難』だ」

「些か強欲が過ぎる……と、偏見で物を言おうか」

 

 神峰は楽しげに肩をすくめた。

 

「……何が言いたい?」

「どこから聞きつけたのか深くは追求しない。だが、この浄化作戦は既に決定事項だ。止めることはできない」

「貴殿らがパンデミックを引き起こしたとある筋からの情報があったのだが、それについては?」

「……そこまで知っているとは。だが、本来はニュータウンのみの実験だった。少々、手違いがあってね」

 

 淡々とした声音。その軽さが、言葉の残酷さを際立たせる。

 

「……ほぉ。では渚輪区本島で感染、及びそれに付随して死亡してしまった人間についての謝意はあるのか?」

「謝意? ……それはどういう意味かな? ────と、偏見で物を言おうか」

「貴殿にそういった感情がないのは重々承知した。……では私たち生存者が避難する時間を、与えてはくれないだろうか?」

「それをするのにどれだけの時間がかかると思っている? それに、私はそう気が長くない」

 

 礼音は青筋を立てて首輪に繋がれた少女に目をやる。

 

「……そうか。では最後に問おう。そちらの少女は一体誰だ?」

 

 そして彼女はコッソリ、背後にいる賢人と来栖崎に『交渉決裂』のサインを出す。

 

「あぁ、"これ"か。クローンと言ってね、君たちのような愚者にわかるように説明すると、人間を構成する内部パーツを限りなく酷似させ搭載させたモノ。姿形も、感情も、行動も、全て作られたもの。そう、今私の目の前にいる────その"聖剣"……!」

 

 言葉の途中で神峰は口角を吊り上げる。"聖剣"。普通、賢人の持つ剣を見て聖剣ということはまず無い。聖剣と呼ぶのは、彼のように"仮面ライダー"が好きな者か、もしくは"仮面ライダーセイバー"の世界の人物。

 

 しかし賢人には、神峰はそのどちらにも当てはまらないように思えた。

 

「今私は、猛烈に興奮している。……私は"ソレ"が欲しい」

 

 彼は足元の少女に注射器を突き刺す。

 

「嫌っ……やめぇぇぁぁぁ!!!」

 

 少女の体の全身から血が吹き出す。ぼこぼこと気泡が破裂し、そして……。

 

「コイツは……!」

「さぁ、産声形態(アーディンモルフィン)、その聖剣を奪い、皆殺しにしたまえ」

 

 賢人の喉から、掠れた声が零れた。過去二度。ポートラルは、それと対峙している。

 

 一度目は、賢人が初めて変身した日。

 二度目は、初めて“メギド”と戦った日。

 

「あの包帯のような見た目……!」

「あぁ、ワイヤーワークスだな」

 

 白い包帯のような外殻。不完全な生命の、呻き声のような存在。

 

「だったら、今の俺たちなら……!」

『波癒抜刀!』

 

 だが憶さない。賢人は一歩踏み出し、聖剣を引き抜く、そこに迷いはなかった。

 

「変身!」

『エナジーユニコーン!!』

 

 白い炎が噴き上がり、室内を灼く。清浄な光が、歪な肉体を包み込んだ。

 

「ほぉ……」

 

 背後から、愉悦を含んだ声。

 

産声形態(アーディンモルフィン)を知っているのか。そしてそれで生きているということは……これも必要かな?」

 

 ────ガラスが砕け散る。

 

「さぁ。“狩り”の時間だよ」

 

 赤髪と青髪。

 窓から躍り込んできた二体のホムンクルス──『阿繭』『吽前』。

 

 ────神峰透露の最高傑作。

 

「なッ……!」

 

 阿繭が跳ぶ。牙が空を裂き、ヴァルキュアの肩装甲を噛み砕く。

 

「くっそ……!」

 

 刃を振るうのが、一瞬遅れた。

 ────少女の姿をしている。それだけで、剣は鈍る。その隙を、吽前が見逃さない。

 

「ぐっ……!?」

 

 蹴りが腹部に突き刺さる。

 

「がぁッ……!?」

 

 床を転がり、壁に叩きつけられる。強い。速い。そして何より────迷いがない。感情を意図的に排除されたかのように。

 

「グゥッ……」

 

 息を整える暇すら与えられない。

 

「……はぁ、はぁ……使うしか、ないか」

 

 ヴァルキュアは歯を食いしばり、2冊目のブックを装填、ワンダーコンボを発動する。

 

『闘争の、ユニコーンリザード!』

「まずはこいつだけでも……!!」

『ユニコーン! リザード! 2冊斬り!!』

 

 産声形態の攻撃を片手で受け止め、波癒のエネルギーを纏った斬撃を振り抜く。

 

「はぁっ!!」

 

 爆炎。

 

 ────だが。

 

「何……!?」

 

 煙の中から、二体の少女が躍り出る。完璧に噛み合った連携攻撃。

 

「賢人ッ!!」

「神川君!!」

 

 装甲が裂け、血が飛ぶ。

 

「2人は逃げててください!! ……せめて、ポートラルだけでも……」

 

 その声は祈りに近かった。しかし、逃げる2人を先回りする神峰。

 

「さて、さらにダメ押しといこう」

「!?」

 

 躊躇いなく注射器が、礼音の首筋に突き立つ。

 

「礼音!! ……何をしたぁ!?」

「おっと……」

 

 来栖崎が斬りかかり、神峰は微笑む。

 

「私が戦えないなど、誰が言った?」

 

 彼の手には────黒い剣。

 

「あれは……!?」

 

 その瞬間。ヴァルキュアの身体から、力が抜けた。────知っている。あれが何なのかを。

 

「あぐっ……ぐっ……くっ……あああああ!!」

 

 礼音が胸を押さえ、崩れ落ちる。

 

「ぁ……」

 

 光が漏れ出す。皮膚が透け、輪郭が崩れる。肉体が“情報”に還元されていく。次の瞬間、そこにあったのは────人の形をしていない、青白いエネルギー体だった。

 

 中心に、かろうじて“礼音だったもの”が浮かんでいる。

 

「あ……やね……?」

 

 来栖崎の膝が、崩れ落ちる。

 

「なんっ……でッこう!!」

 

 そして防戦一方だったヴァルキュアはもうなりふり構っている場合ではないと、2体の身体を斬り礼音の元に向かう。

 

「礼音さんッ!!」

「やはり彼女は自らのクローンを作っていた! ふふっ、はははははは!! ヴェローニカ!! これで私は、名実ともに君より上だ」

 

 アドすら知らなかった、もう一人の機関長。それが、三静寂・ヴェローニカ・礼音。

 

「────おっとすまない。ただのクローン如きにここまで感情を剥き出しにしてしまうとは。心底嘲笑に値するよ」

「何をごちゃごちゃと……!! このクズがぁぁぁ!!!」

「何をしているんだあああああ!!!」

 

 ヴァルキュアと来栖崎が斬りかかる。だが、二体のホムンクルスが立ち塞がる。

 

「邪魔なんだよクソガキがッ!!」

「どけッ!!」

 

 一蹴。

 

「消え……た?」

 

 ────届かない。白い炎が、神峰の目の前で"無"に()した。

 

「ほぉ、これがこの聖剣の能力か」

「やっぱり……!」

 

 本物であったと、ヴァルキュアは心の中の希望が潰える。聖剣も、ライドブックの能力も無効化されてしまう聖剣など、1つしかない。

 

「今神峰を相手にするのは愚策です! 師匠!! 礼音さんを!!」

「っ……! わかったっ」

「絶対に救う!!」

 

 ……しかし癒封剣波癒の治癒能力では戻せない。この姿こそが、"クローン本来の姿"なのだから。

 

 ────その時、本が動いた。

 

『命の聖水』

「その本は……」

 

 神峰が呟く。それは校内に保管されていたブック。しかしヴァルキュアには出自など気にしている暇はなかった。

 

『〜とある不思議な水を巡る、王子の冒険譚〜』

 

 中央のブックを引き抜き、左端に新たなブックを装填する。

 

『波癒抜刀!』

『麗しき、聖水ユニコーン!! 〜波癒二冊! 一角獣から生まれる聖水が、全てを戻す(いやす)〜』

 

 仮面ライダーヴァルキュア 聖水ユニコーン。 彼は左肩のポッドから聖水を礼音『産声形態』に注ぐ。

 

「ぁ……あぁぁぁ!!」

 

 光と悲鳴。肉体が、無理やり“形”を取り戻そうとする。

 

『命の水! 習得一閃!』

 

 更に、ブックの能力を加えて礼音に施す。──奇跡ではない。力尽くの救出。

 

「師匠! 礼音さんを連れてここから脱出を! 俺も後から行きます!」

「ッ……絶対よ!?」

「"約束"です!!」

 

 そう言ってヴァルキュアはマスクの下で笑顔を浮かべ、小指を立てた。そして現れたのはストボロス。

 

「……流石は全知全能の書」

「ストボロス……!」

「おやぁ? 主人公が来ていないようですが?」

「……はぁ? 知らねぇよ誰が主人公とか!! 仮面ライダーである以上、俺は戦う(救う)だけだ!!」

「……! いいえ!! 主人公は1人であるべきですッ!!」

 

 ヴァルキュアの宣言に、ストボロスは怒りを顕にする。

 

「違うッ! 誰にでも物語は存在するッ!!」

「だったら!! 私の本のページが薄いのはッ!! どういうことなんですかッ!?」

「知らねぇよッ!! ────なッ!?」

 

 またもや窓が突き破られ、ズモンとレジビルが現れる。ヴァルキュアに襲いかかろうとするズモン。6対1。圧倒的不利な状況。

 

「おやぁ? 無銘剣ではありませんか」

 

 ストボロスの視線が、神峰の剣に向く。

 

 ────今だ。白い炎を最大出力に。神峰が“無”に(かえ)す頃には、ヴァルキュアの姿はそこにはなかった。

 

「……はぁ、今日はこれだけで十分だ。阿繭、吽前。来なさい」

 

 父のように優しい声で2体に語りかける。声こそ発さないものの、それらは従順に付き従う。

 

 ────その手に、無に返されたメギド3人のブックを携えて。




原作ではここで礼音さんが死にます。

Tips.メインストーリー1部 サンと来栖崎ひさぎの物語である。戦闘のないクエストはボイスありだぞ。豪華声優陣なので是非聞いてみよう。戦闘のあるクエストはボイスなしだぞ。しかし速読するのにはもってこい!

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