とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

25 / 77
第22章 守る覚悟、乱れる身体。

 

 ────蛇の巣に入り込んだ鳥は、生かさず殺さず苗床として暮らしました。蛇に睨まれた蛙は、自ら羽を落としました。果たして無事なのは、どちらでしょう。

 

「礼音さん……起きてください……!!」

 

 メグリエの前でビークルを止め、賢人と来栖崎は礼音の容態を確認していた。

 

「ん……神川君……? あ、うああああ!?」

 

 礼音は跳ね起きるように上体を起こし、自分の腕、胴、脚へと次々に手を走らせた。指先の感覚を確かめるように、何度も握っては開き、口元に手を当てて呼吸を確認する。

 

「落ち着いてください!! この本のおかげで、もう無事ですから!」

「え? わ、私……は……?」

「ま、賢人に感謝しなさい。……今回も誰も死んでないんだから」

 

 そう言いながらも、来栖崎の声は僅かに震えていた。目尻に滲んだものを、彼女は乱暴に拭う。

 

「……そうか、誰も」

「誰も死んでないですよ。安心してください」

 

 礼音は2人を見て胸を撫で下ろす。その一言に、賢人は胸の奥が熱くなるのを感じた。そして、メグリエに帰り事情を説明した賢人たち。

 

「……にしても、ポートラルって特殊な人多すぎますよね〜。若返った悪の研究者にその助手と右腕、って」

「「お前が言うな」」

 

 全員の声が、寸分違わず重なった。

 

「お前のその剣がいちばんすげぇだろ!! ってか礼姉が人間じゃねぇって……あんま実感ねぇな」

「まぁ、その綺麗すぎる顔は"ぽい"けどね〜」

「ちょっとアド、言い方考えてください」

「はは、褒められて悪い気はしないさ。それに、"作られた記憶"といっても、樽神名君と出会ってからの日々は間違いなく本物だ」

 

「それにあのカス、礼音がクローンだって知らなかったみたいだし、もしかしたら作ったのは別人だったりして」

「だったらいいですね!! あんなヤツが親とか本当……」

「ハハ。……ありがとう」

「……皆、話が逸れてるぞ」

 

 来栖崎と賢人のフォローに、礼音が苦笑する中、サンが発言し話を元に戻す。

 

「あーそだったそだった。もう浄化作戦は止められないって話だったよね?」

「あぁ、延期もできないそうだ。だから奴らを食い止めるかもしくは……」

「倒すしかない。そのためには……」

「仲間が欲しい。って訳だね」

「仲間……でもこの渚輪区に生存者は……」

 

 アドの結論。そして賢人は思い出す。メギドの戦いの際に会った生存組合のことを。

 

「メルダーもいるし、『ハルノート』だっている。ただ、その他はあんま期待できないかな〜。戦力的に」

「『ハルノート』か。また懐かしい。あの地獄の7日間以来だな」

「そ、不絵っちのとこ。久々に会うからな〜」

「そんな時間あるの? ただでさえアイツらがいつ動くのか分からないのに」

 

 来栖崎の現実的な一言に、場が静まる。その沈黙の中で、サンがゆっくりと手を挙げた。

 

「……それじゃあ分担するのはどうだ? 僕はメルターと面識があるから、そっちは任せて欲しい」

「頼もしいねぇ〜。……でも大丈夫? 貸しがあるって言っても相手はガチのヤクザなんだよ?」

「あぁ、だからアド、お前に着いてきて欲しい。恐れはないだろ?」

「おっけー。そんじゃあメルター(こっち)は私とサンちゃんに任せて」

 

 そして賢人は、少し打算的な考えからハルノートを選ぶ。

 

「ハルノートの方は任せてください。それと甘噛、着いてきてくれないか?」

「え……。もちろんですわ!!」

 

 一瞬戸惑い、だがすぐに彼女は首を振った。そして、賢人の手をぎゅっと握る。顔を見合せ、微笑み返す賢人。その手の温もりに、責任の重さを感じながら────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同年 7月14日

 

「ハルノートの拠点……ここか」

 

 目の前に広がるのは、富豪の邸宅と見紛うほどの建物だった。

 

「……」

「ん? だ、誰か来たよ!?」

 

 門をくぐった瞬間、青髪の少女が賢人たちを見て、慌てて奥へと引っ込んだ。

 

「……?」

「あら、来客かしら」

 

 現れたのは、隻腕の少女。切断面を布で覆い、セーラー服に身を包んでいる。彼女はハルノートの盟主、私荷崎(しのざき)不絵(ふえ)

 

「お久しぶりですわね、私荷崎さん」

「あ! 甘噛さん! 久しぶり!」

「はじめまして、ポートラル戦闘班、神川賢人と申します。この度、協力要請を頼みたく参りました所存でございます」

 

 見た目のお淑やかさとは裏腹に、不絵は甘噛を見て笑顔を見せた。その所作の美しさに、賢人の敬語はやや怪しくなる。

 

「……え?」

「え!? 男!?」

 

 ────略。

 

「なるほど、そんなことが起きていたのね」

「それで、今回の要件なんですが、ここ渚輪ニュータウンと本島の人間が皆殺しにされます。だから……『PAL研究所』を共に倒して欲しいんです」

 

 不絵は、すぐには答えなかった。

 

「……少しだけ、相談しても、いいかしら」

 

 そう言って、不絵は奥を呼ぶ。

 

「……んあ? 不絵、そいつら……って甘噛じゃねぇか久しぶり」

 

 梔子毛糸。不絵の恋人でありハルノートの戦闘員。彼女は事情を聞き終え、彼は腕を組んで唸る。

 

「……厄介だな。でも、話は分かった」

「そんで、お前がポートラルの戦闘班筆頭らしいが、これに見覚えはないか?」

 

 そう言って毛糸が懐から取り出したのは黒い物体。

 

「ん? それは……」

 

 点対称の造形で、左上に謎の突起。中央に何かを嵌められそうな穴がぽっかりと空いていた。

 

「……分からないです」

 

(変身ベルトっぽいけど……見覚えがないな。もしかして海外のオリジナル特撮ヒーローのベルトか?)

 などと様々な考えを張り巡らせてみるが、しっくり来る回答は一向に思いつかない。

 

「そうか。……これを腰に巻いた人が、昔……私たちを助けてくれた」

 

 毛糸は遠い目をする。

 

「腰に……? ……その人達は今どこに?」

「……それは分からないんだ。突然消えてな。4人とも行方不明ってやつだ」

「4人……」

 

 ────行方不明、という言葉がやけに重く残る。

 

「……ごめんなさい。皆の命を預かっている身として、すぐに答えは出せない」

「あぁ……」

「でも、逃げるつもりはないわ」

 

 不絵は、わずかに拳を握った。

 

「戦えなくてもいい。でも私が守りたいものを守るために結成したのがハルノートだから」

 

 そして不絵の合図で、奥から数人の少女たちが姿を見せた。年齢も雰囲気もまちまちだが、皆、不絵の背中を見て立っている。

 

「……これで全員ですか?」

「えぇ……だからもう少しだけ時間をちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 そして一方、アドとサンのメルター交渉組はというと……。

 

「で、交渉はどうなりそー?」

「まぁ、前話した限りだと期待できそうな感じだったけど」

「珍しーい。私とじゃ相性すこぶる悪いのに。似てるのかにゃ?」

「似てねぇだろ。僕は人をシャブ漬けにはしない」

「ホルマリン漬けにはしたけどね」

「なっ……」

 

 真綾の所業に改めてドン引きするサン。

 

「まぁ蚊焼いちご(あっち)は生まれついてのワルだから比較はできないけどねん」

「……あ、それとあそこってどんくらい人いるんだ?」

「んー? そりゃあニュータウン最大級だから……ポートラルの数倍はいるかな。質より量って感じだけど」

「言い方」

 

 そして辿り着いたのは真っ赤な娯楽施設。

 

「そんじゃあ任せたよサンちゃん」

「え? どういうことだよお前も来るんだろ?」

「いやぁ、……今日は私はいいや」 

「外は見張っとくからさ! 行っといで!!」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をするアドは、サンを無理やり押し込んだ。

 

「うわちょ!」

「ポートラルのサンですね? 盟主がお待ちです。3階までお連れします」

 

 道中の扉という扉から艶めかしい声が聞こえる。女同士で行為に興じている、そんな新しい文化を知ったサン。

 

「あの時は緊張で気づかなかったけど……まじか」

 

 帰ったら賢人に報告だな、と(よこしま)な考えがよぎる。

 

「こちらがいちご様のいる部屋です」

 

 案内され、サンはノブに手をかける。

 

 ────ボンッ。

 

「え?」

 

 小型爆弾によって、彼の右腕が吹っ飛んだ。直ぐさま再生するがしかし痛みはあった。

 

「なっ、ああっ!? ぁぁぁッ!? なんっ、なんで!?」 

「ふッ」

 

 ドアが室内に吹き飛び、それを音姫が蹴り飛ばす。部屋の中には巨大シアター、中央にグランドサイズのベッドが備えられていた。

 

「エレクトリックシネマ、1910年、ロンドンポートベローに建造された映画館。────まぁ、その猿真似だ」

 

 そのシートの上に胡座をかき、パイプたばこを吸う。蚊焼いちご。前回とは打って変わって"本性"を見せていた。

 

「ありがとうな音姫」

 

 音姫は人差し指をいちごに指し示し、そのまま興じ始めた。

 

「ちょっと!! これについての説明は!?」

 

 体は治ったが、服に着いた返り血はそのまま。服を指し示して抗議する。

 

「っ、まぁ、アドが嘘をついていないかの、確認だ」

「試し行為ですか!? 嫌われるって賢人言ってましたよ!?」

「────やかましい」

 

 その気迫が、この場の空気を決定づける。サンは態度を改め地に正座する。

 

「本日はお目にかかり光栄です。我々ポートラルの要求はただ1つ。『PAL研究所』攻略作戦の協力です」

「大体わかっている。渚輪ニュータウンと渚輪区の女どもを助けたいんだろ? だがどうだ? 私は私と、音姫さえ生き残ればそれでいい。2人なら逃げることだって容易だろう? お前は、どんなメリットを提示するんだ?」

 

「もしあなた方2人が逃げるようであれば、僕は死んでも追いすがります」

「女に縋る男は醜いぞ? それに私はメリットを提示しろって言ったんだ」

「では先程は協力しないことによるデメリットを提示しましたが、次はメリットです。久しぶりの男の身体は恋しいだろ? ────僕の身体を差し出す。だから協力しろ」

 

 サンは真っ直ぐいちごの目を見据える。

 

「……くっ、カハっ! 合格だ。てめぇの覚悟は十分伝わった。ま、生憎もう男に興味はねぇ」

 

 いちごは音姫の仕上げにかかった。彼女の息切れが収まった頃、いちごは続けた。

 

「────だが、借りがあるからな。メルターは2日後の合同作戦に全面協力する」

 

 彼女は、もしサンから借りの事を言い出そうものなら、今後何が起ころうと協力はしないつもりだった。

 

「……感謝する」

 

 頭を下げるサンを見て、いちごはニヤリと笑みを浮かべる。脱兎のようにそそくさとシアターから抜け出したサン。急いで外に出てアドに会う。

 

「え? 何その服!? ノースリーブになってるよ!? それに血も……随分激しいヤり方したんだねぇ……」

「いや違くて! 爆弾だよ!! ────ってその言い方、メルターのアレ、知ってたんだな!?」

「いやぁ? そんなことないけどな〜」

 

 目を泳がせ、わざとらしく下手な口笛を吹くアド。

 

「あーあ、言っときゃ良かったな〜アドの身体自由にしていいとか!」

「いやそりゃ無駄だよ! 既に何度かいちごちゃんと"会談"してるもんね〜!」

「誇ることじゃねぇ……ってマジ!?」

「うん、マジ。まぁ良好を装うためにね」

 

 そしてちょうど同時刻、2組の交渉組はメグリエへと帰還した。




サン「ヤバいヤバいヤバい!!」
賢人「なんだよそんな息切れして。交渉で何かあったのか?」
サン「何があったも何も! お前メルターやばかったんだぞ!? 目の前でお前……シてたんだぞ!?」
賢人「はぁ!? おまっそれっ……はぁ!? マッジでか!?」
サン「あぁ……スゴかったぞ?」

────次回、新生DGP『お仕事体験ゲーム』! スタートです!

神川賢人のキャラが好きか

  • 好き
  • 嫌い
  • キャラが薄い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。