とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────蛇の巣に入り込んだ鳥は、生かさず殺さず苗床として暮らしました。蛇に睨まれた蛙は、自ら羽を落としました。果たして無事なのは、どちらでしょう。
「礼音さん……起きてください……!!」
メグリエの前でビークルを止め、賢人と来栖崎は礼音の容態を確認していた。
「ん……神川君……? あ、うああああ!?」
礼音は跳ね起きるように上体を起こし、自分の腕、胴、脚へと次々に手を走らせた。指先の感覚を確かめるように、何度も握っては開き、口元に手を当てて呼吸を確認する。
「落ち着いてください!! この本のおかげで、もう無事ですから!」
「え? わ、私……は……?」
「ま、賢人に感謝しなさい。……今回も誰も死んでないんだから」
そう言いながらも、来栖崎の声は僅かに震えていた。目尻に滲んだものを、彼女は乱暴に拭う。
「……そうか、誰も」
「誰も死んでないですよ。安心してください」
礼音は2人を見て胸を撫で下ろす。その一言に、賢人は胸の奥が熱くなるのを感じた。そして、メグリエに帰り事情を説明した賢人たち。
「……にしても、ポートラルって特殊な人多すぎますよね〜。若返った悪の研究者にその助手と右腕、って」
「「お前が言うな」」
全員の声が、寸分違わず重なった。
「お前のその剣がいちばんすげぇだろ!! ってか礼姉が人間じゃねぇって……あんま実感ねぇな」
「まぁ、その綺麗すぎる顔は"ぽい"けどね〜」
「ちょっとアド、言い方考えてください」
「はは、褒められて悪い気はしないさ。それに、"作られた記憶"といっても、樽神名君と出会ってからの日々は間違いなく本物だ」
「それにあのカス、礼音がクローンだって知らなかったみたいだし、もしかしたら作ったのは別人だったりして」
「だったらいいですね!! あんなヤツが親とか本当……」
「ハハ。……ありがとう」
「……皆、話が逸れてるぞ」
来栖崎と賢人のフォローに、礼音が苦笑する中、サンが発言し話を元に戻す。
「あーそだったそだった。もう浄化作戦は止められないって話だったよね?」
「あぁ、延期もできないそうだ。だから奴らを食い止めるかもしくは……」
「倒すしかない。そのためには……」
「仲間が欲しい。って訳だね」
「仲間……でもこの渚輪区に生存者は……」
アドの結論。そして賢人は思い出す。メギドの戦いの際に会った生存組合のことを。
「メルダーもいるし、『ハルノート』だっている。ただ、その他はあんま期待できないかな〜。戦力的に」
「『ハルノート』か。また懐かしい。あの地獄の7日間以来だな」
「そ、不絵っちのとこ。久々に会うからな〜」
「そんな時間あるの? ただでさえアイツらがいつ動くのか分からないのに」
来栖崎の現実的な一言に、場が静まる。その沈黙の中で、サンがゆっくりと手を挙げた。
「……それじゃあ分担するのはどうだ? 僕はメルターと面識があるから、そっちは任せて欲しい」
「頼もしいねぇ〜。……でも大丈夫? 貸しがあるって言っても相手はガチのヤクザなんだよ?」
「あぁ、だからアド、お前に着いてきて欲しい。恐れはないだろ?」
「おっけー。そんじゃあ
そして賢人は、少し打算的な考えからハルノートを選ぶ。
「ハルノートの方は任せてください。それと甘噛、着いてきてくれないか?」
「え……。もちろんですわ!!」
一瞬戸惑い、だがすぐに彼女は首を振った。そして、賢人の手をぎゅっと握る。顔を見合せ、微笑み返す賢人。その手の温もりに、責任の重さを感じながら────。
同年 7月14日
「ハルノートの拠点……ここか」
目の前に広がるのは、富豪の邸宅と見紛うほどの建物だった。
「……」
「ん? だ、誰か来たよ!?」
門をくぐった瞬間、青髪の少女が賢人たちを見て、慌てて奥へと引っ込んだ。
「……?」
「あら、来客かしら」
現れたのは、隻腕の少女。切断面を布で覆い、セーラー服に身を包んでいる。彼女はハルノートの盟主、
「お久しぶりですわね、私荷崎さん」
「あ! 甘噛さん! 久しぶり!」
「はじめまして、ポートラル戦闘班、神川賢人と申します。この度、協力要請を頼みたく参りました所存でございます」
見た目のお淑やかさとは裏腹に、不絵は甘噛を見て笑顔を見せた。その所作の美しさに、賢人の敬語はやや怪しくなる。
「……え?」
「え!? 男!?」
────略。
「なるほど、そんなことが起きていたのね」
「それで、今回の要件なんですが、ここ渚輪ニュータウンと本島の人間が皆殺しにされます。だから……『PAL研究所』を共に倒して欲しいんです」
不絵は、すぐには答えなかった。
「……少しだけ、相談しても、いいかしら」
そう言って、不絵は奥を呼ぶ。
「……んあ? 不絵、そいつら……って甘噛じゃねぇか久しぶり」
梔子毛糸。不絵の恋人でありハルノートの戦闘員。彼女は事情を聞き終え、彼は腕を組んで唸る。
「……厄介だな。でも、話は分かった」
「そんで、お前がポートラルの戦闘班筆頭らしいが、これに見覚えはないか?」
そう言って毛糸が懐から取り出したのは黒い物体。
「ん? それは……」
点対称の造形で、左上に謎の突起。中央に何かを嵌められそうな穴がぽっかりと空いていた。
「……分からないです」
(変身ベルトっぽいけど……見覚えがないな。もしかして海外のオリジナル特撮ヒーローのベルトか?)
などと様々な考えを張り巡らせてみるが、しっくり来る回答は一向に思いつかない。
「そうか。……これを腰に巻いた人が、昔……私たちを助けてくれた」
毛糸は遠い目をする。
「腰に……? ……その人達は今どこに?」
「……それは分からないんだ。突然消えてな。4人とも行方不明ってやつだ」
「4人……」
────行方不明、という言葉がやけに重く残る。
「……ごめんなさい。皆の命を預かっている身として、すぐに答えは出せない」
「あぁ……」
「でも、逃げるつもりはないわ」
不絵は、わずかに拳を握った。
「戦えなくてもいい。でも私が守りたいものを守るために結成したのがハルノートだから」
そして不絵の合図で、奥から数人の少女たちが姿を見せた。年齢も雰囲気もまちまちだが、皆、不絵の背中を見て立っている。
「……これで全員ですか?」
「えぇ……だからもう少しだけ時間をちょうだい」
そして一方、アドとサンのメルター交渉組はというと……。
「で、交渉はどうなりそー?」
「まぁ、前話した限りだと期待できそうな感じだったけど」
「珍しーい。私とじゃ相性すこぶる悪いのに。似てるのかにゃ?」
「似てねぇだろ。僕は人をシャブ漬けにはしない」
「ホルマリン漬けにはしたけどね」
「なっ……」
真綾の所業に改めてドン引きするサン。
「まぁ
「……あ、それとあそこってどんくらい人いるんだ?」
「んー? そりゃあニュータウン最大級だから……ポートラルの数倍はいるかな。質より量って感じだけど」
「言い方」
そして辿り着いたのは真っ赤な娯楽施設。
「そんじゃあ任せたよサンちゃん」
「え? どういうことだよお前も来るんだろ?」
「いやぁ、……今日は私はいいや」
「外は見張っとくからさ! 行っといで!!」
苦虫を噛み潰したような顔をするアドは、サンを無理やり押し込んだ。
「うわちょ!」
「ポートラルのサンですね? 盟主がお待ちです。3階までお連れします」
道中の扉という扉から艶めかしい声が聞こえる。女同士で行為に興じている、そんな新しい文化を知ったサン。
「あの時は緊張で気づかなかったけど……まじか」
帰ったら賢人に報告だな、と
「こちらがいちご様のいる部屋です」
案内され、サンはノブに手をかける。
────ボンッ。
「え?」
小型爆弾によって、彼の右腕が吹っ飛んだ。直ぐさま再生するがしかし痛みはあった。
「なっ、ああっ!? ぁぁぁッ!? なんっ、なんで!?」
「ふッ」
ドアが室内に吹き飛び、それを音姫が蹴り飛ばす。部屋の中には巨大シアター、中央にグランドサイズのベッドが備えられていた。
「エレクトリックシネマ、1910年、ロンドンポートベローに建造された映画館。────まぁ、その猿真似だ」
そのシートの上に胡座をかき、パイプたばこを吸う。蚊焼いちご。前回とは打って変わって"本性"を見せていた。
「ありがとうな音姫」
音姫は人差し指をいちごに指し示し、そのまま興じ始めた。
「ちょっと!! これについての説明は!?」
体は治ったが、服に着いた返り血はそのまま。服を指し示して抗議する。
「っ、まぁ、アドが嘘をついていないかの、確認だ」
「試し行為ですか!? 嫌われるって賢人言ってましたよ!?」
「────やかましい」
その気迫が、この場の空気を決定づける。サンは態度を改め地に正座する。
「本日はお目にかかり光栄です。我々ポートラルの要求はただ1つ。『PAL研究所』攻略作戦の協力です」
「大体わかっている。渚輪ニュータウンと渚輪区の女どもを助けたいんだろ? だがどうだ? 私は私と、音姫さえ生き残ればそれでいい。2人なら逃げることだって容易だろう? お前は、どんなメリットを提示するんだ?」
「もしあなた方2人が逃げるようであれば、僕は死んでも追いすがります」
「女に縋る男は醜いぞ? それに私はメリットを提示しろって言ったんだ」
「では先程は協力しないことによるデメリットを提示しましたが、次はメリットです。久しぶりの男の身体は恋しいだろ? ────僕の身体を差し出す。だから協力しろ」
サンは真っ直ぐいちごの目を見据える。
「……くっ、カハっ! 合格だ。てめぇの覚悟は十分伝わった。ま、生憎もう男に興味はねぇ」
いちごは音姫の仕上げにかかった。彼女の息切れが収まった頃、いちごは続けた。
「────だが、借りがあるからな。メルターは2日後の合同作戦に全面協力する」
彼女は、もしサンから借りの事を言い出そうものなら、今後何が起ころうと協力はしないつもりだった。
「……感謝する」
頭を下げるサンを見て、いちごはニヤリと笑みを浮かべる。脱兎のようにそそくさとシアターから抜け出したサン。急いで外に出てアドに会う。
「え? 何その服!? ノースリーブになってるよ!? それに血も……随分激しいヤり方したんだねぇ……」
「いや違くて! 爆弾だよ!! ────ってその言い方、メルターのアレ、知ってたんだな!?」
「いやぁ? そんなことないけどな〜」
目を泳がせ、わざとらしく下手な口笛を吹くアド。
「あーあ、言っときゃ良かったな〜アドの身体自由にしていいとか!」
「いやそりゃ無駄だよ! 既に何度かいちごちゃんと"会談"してるもんね〜!」
「誇ることじゃねぇ……ってマジ!?」
「うん、マジ。まぁ良好を装うためにね」
そしてちょうど同時刻、2組の交渉組はメグリエへと帰還した。
サン「ヤバいヤバいヤバい!!」
賢人「なんだよそんな息切れして。交渉で何かあったのか?」
サン「何があったも何も! お前メルターやばかったんだぞ!? 目の前でお前……シてたんだぞ!?」
賢人「はぁ!? おまっそれっ……はぁ!? マッジでか!?」
サン「あぁ……スゴかったぞ?」
────次回、新生DGP『お仕事体験ゲーム』! スタートです!
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