とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
1話 盛運:F 楽しい修学旅行!
誰かが言った。幸せには総量があると。
誰かが成した。『幸せの総量のない世界』を。
ではこの世界に、幸せは存在するのだろうか?
────ハルノート -地獄の14日間-
「やめて!! ねぇパパやめてええええ!!」
「な、なにやっ……てるん……ですか?」
「うるせぇガキは引っ込ん────」
その日、少女は初めて罪を犯した。
「え……?」
小学二年生。
そんな年齢で背負うには、あまりにも重すぎる罪だった。その記憶は、彼女の心の奥深くへ沈み、やがて“なかったこと”として封じ込められる。
2118年 3月15日
「ほぎゃああ!?」
「ありゃりゃ〜何やってんの不絵〜」
水筒が転がり、緑茶がスカートを濡らす。覆水盆に返らず。こぼれた液体は元には戻らない
「お漏らしお漏らし〜」
「いや緑茶のせいよ!」
「なるへそ〜、もしかしてカフェイン?」
「もうバカっ」
べーっと舌を出し、不絵は必死に拭く。だが、染みはしっかり残っていた。
「あ〜もうこりゃ染みになるわね」
せっかくお世話係が卸してくれた制服は、あっけなくパァになった。
「……でも、落ち込んでる場合じゃない!」
普通の青春、普通の高校生活。待ち望んだ友人との修学旅行なのだから。
「えーなに? う〜わ不絵漏らしたん?」
「ウケんだけど」
前方から友人であるルナ、
「だーからオムツ持ってきなさいって」
「母親じゃないでしょ、ほら座りなさい野次馬共」
「そっちのがお母さんじゃん? わ〜ん、私荷崎ママが漏らしちゃったよ〜」
灯里が泣き真似をすると、バス内に笑いが広がる
「わわっ、大丈夫?! んっんっ、大丈夫ですか? お客様?」
やけに猫を被ったようなバスガイドが不絵を心配して駆けつける。
「あ、ただ緑茶をこぼ────」
「飲みすぎて漏らしたそーでーす!」
ミカが不絵に被せる。
「漏らしてません。零しただけです」
「というせってー」
「ちょっと〜」
「ふふ、いいお友達をお持ちのようですね」
そう言って、バスガイドは手際よく拭き始める。
「あの、拭くぐらいは自分でやりますよ?」
「いいえ、私の仕事ですので、任せてください! ピカリ! ────あぁ失礼いたしました!」
「え……?」
「にゃはは〜美少女×美少女、絵になりますな〜」
「ちょっとミカ撮らないで。今からメモリーの無駄遣いしてどうすんのよ」
「これも、大事な修学旅行の記録だよ〜」
あながち間違ってはいない回答に、不絵はぐうの音も出ない。
『ぐう〜』
誰かの腹が鳴った。いいや不絵である。
「ちょっとまだ朝だよ〜? もしかして朝抜いた?」
「食べたよ!? ……でもちょっと楽しみで寝れなくて、食べるの早かっただけ」
「え〜珍しい〜何時に食べたの?」
「……4時」
「はやっ!? おじいちゃんかよっ!」
顔を赤らめる不絵。流石に予想してなかったのだろう、3人同時に驚いた。
「てか楽しみすぎてって小学生じゃあるまいし」
「ねぇ黙って?」
彼女たちの青春がきらめく。不絵は思った。この修学旅行を通して皆と、特にミカとはもっと仲良くなれたらいいなと。
「ふふ、ふふふふ」
「な〜にニヤついてんの不絵〜?」
灯里がニヤニヤしながら不絵に聞く。
「いや? これからもっと仲良くなれたらな〜って。────あっ」
不絵は慌てて口を抑える。
「もうっ、可愛い子めぇ〜うりうり〜」
「不絵! 感動したよ! この気持ちで曲、書いてみるよ!」
これには普段あまり不絵とは接しないルナも口を開き、不絵を肘でつつき、続いて灯里も乗っかる。彼女はコントラバス奏者であり、作曲もできるのだ。
「────はい、あらかたシミは取れましたね」
そして、バスガイドが立ち上がった。
「あっ、ありがとうございます!」
「すみませんうちの不絵が」
「誰がうちのじゃ」
「いいえ。えーと……楽しい修学旅行にしてくださいね!」
そう言って去っていくバスガイド。
「なんか初々しい人だったね」
「でも嫌な感じはしなかったね〜」
「あー!!」
突然、ミカが何かを思い出したかのように大声をあげた。流石にバス内が静まり返り注目が集まる。
「そいえば不絵、新しい彼氏できたの!?」
そんなことかい、とバス内が再度喧騒に包まれる。
「彼氏……?」
「ちょっとミカ〜デリカシ〜」
ルナが人差し指を振る。
「ごめんね〜不絵、ミカはバカだからさ?」
灯里がフォローに入る。
「なんだよバカとは〜」
「そんなバカが好きで隣に座ってんだけどね」
「おう、男なら及第点の回答」
「及第点かい」
「バカを否定してたら余裕の合格だったね〜」
「ミカは手厳しいね〜」
ルナが顔をしかめ、ミカが不絵に顔を近づける。
「でどうなの! いるの! 好きな人!」
ほぼキスの距離だった。それを見かねて灯里が彼女を窘める。
「いい加減にしな〜?」
「いや平気平気、失恋だって1か月前だし。悲しい話でもないわ」
告白した側が7日で別れを告げる。もはや笑い話だろう。
「そだぞ〜? 灯里。恋の傷は、恋でしか直せないのだ〜」
そう熱弁するミカも、現在はフリー状態なのであった。
「嫌だったら怒りなよ不絵?」
「ううん、大丈夫。だってもう────新しい恋人出来たしね」
「へー新しい彼氏か〜」
「「マジで!?!?」」
3人の声が重なる。
「え? 嘘それって正気?」
「正気ってなによ、ホントよホント」
「素振りなかったよね?」
「ね〜」
灯里とルナが顔を見合わせる。
「で、誰よその子ってのは? ふーあーゆー?」
「いや隠すつもりはないけどさ〜。幼なじみだよ。先週告白されてね」
「幼なじみ!? ラブコメ漫画かよ!?」
「え! 告白の言葉なになに!!」
「え、付き合っちゃおうよって」
そう言った不絵は徐々に顔が赤くなっていく。
「あー不絵が振られるの待ってたタイプか〜」
「振られるって決まってなかったからね!?」
「不絵取られてさぞ辛かっただろうな〜」
灯里は腕を組んで何度も頷く。
「年齢は! はうまっち年齢!」
そしてまだまだ根掘り葉掘り聞き出そうとするミカ。
「1つ下、うちの高校の1年よ」
「どんな人!?」
「う〜ん……どんな人か〜」
幼なじみということもあり、あまり人となりを考えたことがなかった不絵は、今一度思い起こしてみた。
『不絵!? なんで置いていくんだ!?』
『修学旅行だからよ』
『不絵のいないこの3日間!! どうやって過ごせって言うんだよぉ!?』
『普通に学校行って普通に食べて寝なさい』
『不絵は私がいなくても平気だと、そう言いたいのかぁぁ!?』
『えへへ、私友達できてね? 自由行動するんだ〜。良いでしょ〜』
『かわいいッ……! 着いていくぞ!! 絶対着いていくからなああああ!!!』
「見苦しい、かな」
「見苦しい!?」
「あとは〜」
「あとは!?」
まさかの振り回されるミカ達。
『なぁ不絵、今週の日曜暇?』
『暇だけど何?』
『いいホテル見つけたんだ、一緒に泊まらない?』
「救えない変態ね」
「見苦しくて救えない変態……」
「不絵の身に何が……」
「つまりは補ってあまりあるイケメン!?」
「まぁ顔はすごくいいよ。イケメンの部類には余裕で入ると思う」
「惚気!?」
「ぶーぶー。ぶーぶー」
「でもいいよね〜彼氏作れて。羨ましいよ〜」
「ルナはアイドルだもんね〜。アイドルはトイレだって行かないんでしょ?」
「え? ……ルナトイレ行かないの……? 大丈夫……?」
灯里の冗談めいた言葉に、不絵は本気で心配する。
「もう世間知らずお嬢かーわーいーいー」
「わちょ痛い痛い!」
ミカは不絵の頭を撫で続ける。毛根にダメージが出るほどに。
「やめて欲しくば〜、私の恋の加勢をするべし!!」
「すーるーから!!」
「そんじゃあよろしくぅ〜? 頼む! 親友よ!」
「はーいはい、喜んで、親友よ」
拳を付き合わせる2人。そして突然、ブザーの音がバス内に響く。
「え!? なになに!?」
「ごめんなさいいいいい!!」
「壊死街さんか〜。ちょっと〜気ぃ付けてよ〜」
彼女、
うふふ、と心の中で小躍りする不絵。彼女にとって、友達自体が初めてだったから、それはもう時間をかけ、悩みに悩んで選び抜いたスマホ用のストラップ。喜んでもらえるかな? いや弱気になるな私荷崎不絵、今渡さなくていつ渡す。よし、と意気込んだ瞬間。
「あのさ────」
────ポーン。
「長旅お疲れ様です。当バスはまもなく『大日本海横断橋』を渡り終えます。まずは前方をご覧下さい」
「わぁ!!」
ミカが窓にかぶりつく。
「あちらの巨大なビル群が見えますでしょうか? あれが『永世中立国』日本施政下25区のうちの特別区3区」
「────渚輪区でございます」
「すっごい……」
「でかぁ……」
「あ、不絵、何かいいかけてたよね?」
「あ、いやなんでもないよ!」
別に今じゃない。あ、そうだ夜のホテルで渡そう、絶対に。と決心した不絵。
「よし!」
彼女はパンパンと自分の頬を叩く。
「え!? どしたん急に!」
「楽しもうね! ってこと!」
満面の笑みを浮かべ、ミカ達仲良しグループはバスをウキウキ気分で降りた。
「────くだらないねぇ」
「……え?」
最後まで残っていた生徒、
「? どしたん不絵?」
「い、いやなんでもないよ!」
「そ! それじゃあまずは……昼ごはん食べに行こっか!」
「あ! ちょちょ待って! 皆! 注意事項があるから!!」
新任教師が生徒を呼び止める。
「え〜? ちょっとせんせ〜早く遊び行きたいんすけど〜」
「ちゃんと短くするから! 俺から言いたいことは2つ! ここに住んでる人に迷惑をかけないことと、時間になったら未来科学館に集まること! 以上!」
「短っ!」
「私達小学生じゃないでーす!」
「それじゃあ解散!! 楽しんでね!!」
「……はぁ、若い子見ると元気もらえるな〜」
笑顔で生徒を送り出す担任、そしてバスガイドが降りて彼と会話を始めた。
「もお〜年寄りみたいなこと言ってないでアンタも行ってきなさい!」
「た・の・し・い!!!」
「あはは! 不絵はしゃぎすぎ!」
その言葉通りだった。
叫んで、笑って、息が切れて、それでも止まらない。
「きゃあああああ!!」
ジェットコースター。身体が浮いて、心まで宙に投げ出される。
「うわああ!?」
お化け屋敷。作り物だと分かっていても、灯里が本気で悲鳴を上げた。
「美味しい!!」
レストラン。値段を見て一瞬たじろぎ、それでも今日は特別だと笑った。普段なら有り得ないことばかり。普段なら、出来なかったことばかり。
「え、あれ園咲ルナじゃね!?」
「あ、ほんとだ」
ざわり、と周囲の空気が変わる。
「サインお願いします!」
「写真いいですか!?」
「ルナ逃げるよ!! 不絵、灯里! 着いてきて!」
人波を縫って走る。息が上がって、足がもつれて、それでも笑っていた。不絵にとっては初めてで、最高の思い出だったから。
「……ふぅ、はぁ〜疲れた!! ほんっと楽しいね!」
「もうミカは行き当たりばったりすぎ!」
「急いで逃げたのはいいけどさ! ここどこよ!!」
立ち止まった瞬間、灯里が気づいた。
────音が、違う。遊園地特有の音楽も、歓声も、いつの間にか消えていた。代わりに聞こえるのは、金属が擦れる乾いた音と、低い振動。
「……あれ」
視線を上げる。そこは、工事現場だった。高いフェンス。剥き出しの鉄骨。足元には黄色と黒の警告ライン。
「あわ!?」
不絵が一歩下がった瞬間、誰かの胸にぶつかった。
「……ん?」
低い声。作業着の男が、不絵たちを見下ろしていた。
「ご、ごめんなさい!」
「なんで高校生がこんなとこにいんだ」
声は荒いが、目は鋭すぎない。むしろ状況を測るような、落ち着いた視線。
「違うんです! 間違えて迷い込んじゃって! すぐ出ます!!」
そう言って彼女たちは早足で出ようとする。
「おい待て!」
ぴたり、と足が止まる。一瞬、空気が張り詰める。
「はい!」
「今工事中なんだ。危険だからな。それに道分かんねぇだろ。外まで送る」
ぶっきらぼうだが、拒絶はない。男はフェンスの扉を開け、先に立って歩き出した。
「ありがとうございます!」
歩きながら、男は何気なく周囲を見渡している。まるで、いつ何が起きてもいいように。
「おぉ新人! サボりか! 結構結構!」
「違います。迷子がいたんで送り届けてました」
同僚にそう言って、男は不絵たちを外へ導いた。
「もう戻るなよ。次は、ちゃんと人がいる場所を歩け」
「はい!」
工事現場を離れた瞬間、胸に溜まっていた息を、全員が同時に吐き出した。
「なんか……急に静かになったね。さっきまであんなに騒がしかったのに」
「でもさ」
ミカが笑う。
「こういうのも、修学旅行っぽくない?」
不絵は頷いた。少しだけ、胸がざわついたけれど、でも楽しかったから無問題だ、と。そして、約束の時間、星霜高校の修学旅行生は、未来科学館へと集合する。
────大きな爆発音とともに、絶望の幕は上がる。
さて始まりましたギーツ×ハルノート編。
原作は現在更新停止中です。ですのでこちらもほぼオリジナルです
Tips.メインストーリーの獲得素材。キャラの強化に必要な渚輪メダル銅もゲットできるぞ。後半に行くにつれて量が上がっていくぞ。
楽しそうな修学旅行ですか?
-
はい
-
いいえ