とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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2話 禍根:I 絶望の腐肉と希望の狐

 

 ────敵を殺して。わたしは殺す。命を絶って。わたしは死ぬ。わたしを殺して。それだけは出来ない。あなたはわたしの、たったひとつの光だから。

 

 街に、瞬く間にして腐った匂いが充満していく。ひらけた場所で次々と若年女性以外が変異していったからだ。

 

「キャアアアッ!!」

「え!? なになに!? 痛っ、なに噛んでんのよ!? ────へぐっ、グゥゥゥ……」

 

 そして、噛まれた女性も瞬く間に身体が腐り始め、ゆらりゆらりと動き始める。ある者は目が飛び出さんばかりにひん剥かれており、またある者は喰い漁られ原型をなくしている。

 

「なによこれは!! ゾンビ!? ありえない!」

「なにかの撮影!?」

 

 押し寄せるのは人の波。車同士が正面衝突、運転手も喰われていく。初期感染から逃れた若年女性も、次々と。

 

「……なんなんだよ」

 

 工事現場でそう叫ぶのは、つい先程少女たちを送り届けた青年 吾妻道長。彼は同僚が変異していくのを、黙って見ていることしか出来なかった。何故自分だけ無事なのか、デザグラがどうなっているのか、そんなこと考えている暇はなかった。

 

「クソッ」

 

 短い間だったが世話になり、今はゾンビと化している同僚が襲ってきたからだ。プレハブ小屋に逃げ込み、1度は落ち着く道長。

 

 ────ドンドンドンッ。何度も何度も、力強くドアが叩かれる。

 徐々に凹んでいく鉄。それを見て道長は決心する。ドアは破られたが、しかし彼は消化器を噴射、目をくらませている間に現場に乗り捨てられたバスに乗り込み、エンジンをかけるのだった。

 

「乗れ!!」

「道長さん! この子達もお願い!」

「お願い! 友達を助けて!!」

 

 道中、2人の仲間と2人の少女を乗せ、彼はとある場所へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────爆発音と衝撃。不絵の意識は、そこで途切れていた。

 

「ここ……は……?」

 

 目を開けると、天井は高く、白い。視界に入ったのは、見覚えのない展示物と、歪んだ影。

 

「ッ、目覚ましたわ!!」

 

 不絵を心配そうに見つめ、眉を潜めた優しい表情。

 

「確か……団体行動……」

「ぅぉぉ……」

 

 しかし、不絵の耳は徐々にすんでいき、辺りそこかしこから唸り声が聞こえていく。

 

「あれ……!?」

 

 彼女は気づく。展示物の上に乗っていることに。周りを見渡すと、数人も同じような状況であることが分かった。

 

「ゥゥ……ガァ……」

 

 展示物『宇宙旅客機』の下には、地獄が広がっていた。灰色の肌に焦点の合わないひん剥かれた眼球。そんな"生物"が、糞に群がるハエのように彼女たちを取り囲んでいた。

 

「……なに、よ。これ」

「……! 不絵っ!」

 

 突然、不絵の視界が大きく揺れる。

 

「あ……れ。ミカ……?」

「目ぇ覚まさないかと思ったよぉぉ!!」

 

 声の大きさは健在だったが、言葉の節々に衰弱が浮かんでいた。

 

「私1人で寂しかったんだから! もおぉぉ!」

「……え? ……ルナは? 灯里は? どこ行ったの!?」

 

 背中に嫌な汗が流れ、パニックになった不絵はミカの肩を掴みかかる。

 

「……ごめん、分からない」

「……なんで」

 

 ミカは、不絵の目を見れない。不絵の表情が曇る。ただ幸せを、いやそんな壮大な言葉じゃない。ただ、普通の日常を楽しんでいただけなのに。何故……。

 

「多分死んだね〜あの感じだと。あーほら? ホラー映画でよくあんじゃん? 最初に逃げ出して殺されるの! あれあれ!」

「……は?」

 

 空気を読まない、いや空気がねじれの位置の発言をする人物が1人。

 

「あはは〜もうそんな顔しないでよ〜。ヒ〜怖い怖い〜」

「……貴方、廻栖之さんよね」

 

「およ? 名前覚えててくれたんだ〜。最初のHRの自己紹介以来なんだけどな〜」

「……貴方と話すつもりは無いわ」

 

「え〜、だったら睨まないでよ〜怖いな〜。おーい。おーい。チェー、つまんないのー」

 

 廻栖之まにか、という名前を知らない者は、不絵の高校にはいなかった。関わった人間は尽く破滅し、関わった集団は尽く分裂する。対処法は関わらないこと、それだけ。そして、まにかの言葉を聞いて塞ぎ込むミカに、1人の女性が声をかける。

 

「ミカちゃん」

「クシュナさん……ごめんなさい。せっかく不絵が目覚ましたのに」

 

「いいえ大丈夫、今はこんな状況だもの。あんな風におかしくなっても仕方ないわ」

 

「いや。……そう、ですよね。不絵、この人はクシュナさん。意識失ってたのを助けてくれたんだよ」

 

「はじめまして、私は柊クシュナ・トルリーン。医者をやっている者よ」

「ご丁寧にどうも柊さん、私荷崎不絵です」

 

 好意的な握手に、不絵は応えた。

 

「クシュナでいいわ。あ、でもトルリーンだけはやめてね。響きの間が抜けてるから」

「あ……はい」

「どう? 頭痛む?」

「あ〜いえ、大丈夫です。……あ、包帯巻いててくれたんですね」

「簡易処置だけ、だけどね」

「……綺麗に巻けてます。さすが医者、ですね」

「あら、分かるの?」

 

 医者じゃないのに、と言外に含めて。

 

「ええ、私家が特殊で結構使用頻度高かったんですよ、包帯の。それで……ありがとうございます」

「礼ならいいわ。助かってから沢山してね」

 

 笑顔で不絵の頭をポンポンと撫でるクシュナ。しかしまたもや、まにかが割って入る。

 

「ねぇねぇトルリーンちゃん。この子達が無視、してくるんだよ〜! 言ってやってく〜れ〜よ〜」

「……。はぁ……そういうのやめましょう。死ぬ確率が上がるだけよ」

「死ぬ確率?」

「そうよ、今私たちが言い争いをするのは得策ではない」

 

「いやいやいや、そりゃあ人間生まれた時から────100%だろ」

 

 突然、声色が低くなる。直後、表情はカラッと明るくなる。まるで話を終えたNPCのように。そうなることが自然だと学習しているように。

 

「貴方……正気?」

 

 不絵が問う。

 

「わー! やっと反応してくれた〜! えー正気〜? 分かんないな〜それじゃあwikiで調べよう! めーぐーすーのーまーにーか。あれれ? 出てこないや〜。ってネット繋がってないじゃないかー!」

 

 あぁ、本当にダメなやつだ。関わらない方がいい、ではなく関わってはいけない人だ。と、不絵は認識を改める。

 

「……とにかく」

 

 クシュナは下唇を噛み締め唸るように喉を震わせる。

 

「ここで救助が来るまで何時間でも待つ。それが最善手よ」

 

 そして、展示物の上のもう1人、ほたるがとうとう耐えきれずに泣き出してしまう。

 

「っ、ぅぅ……ひぃぃぃ……。ひっぐ……ぅぅ"……」

「……。泣かないでよ」

「ぁぁあぁあ……ぅぅぁあぅ……」

「ぴぃぴぃ泣かないでよっ!」

 

 それに対し、限界をとうに迎えたミカが怒鳴ってしまう。

 

「ひぃあ!?」

「……こっちまで、泣きたくなるでしょ」

 

 不絵は、ミカを励ますことはできなかった。ほたるの行動に理解があるから。……そして自分自身も、限界を迎えようとしていたから。

 

 何時間が経とうと、不絵は何も喋らなかった。いや喋れなかった。口を開けば、ほたるに嫌味を言うかもしれないから。まにかをどうにかしてしまうかもしれないから。

 

『やっほー、何読んでるの?』

 

 だから幸福の記憶を思い浮かべた。

 

『……へ? もしかして……私に話しかけてるの?』

『私荷崎さん以外に誰がいんのさ、ウケる』

『(ちょっとミカ、そいつはやめなって)』

 

 小声でルナが耳打ちする。

 

『え? なんでー?』

『(こいつの親ヤクザなんだよ!?)』

 

 灯里も続いて喚起する。

 

『え? そんなの私に関係ないよー!』

『────風立ちぬ』

 

 そう、不絵は小さな声で答えた。

 

『え?』

『小説の名前よ。分かったら友達のところに戻────』

『内容教えて! 買うから一緒に語り合お!!』

『教えてって……それしたらネタバレになっちゃうでしょ』

『私〜、映画ネタバレされても楽しめる派なんだっ!』

 

 どうせただの冷やかしだ。本気で語れば冷笑してどこかへ行くだろうと、不絵は語り始めた。

 

『1938年出版の堀辰雄の恋愛小説。作者の実体験を元に執筆された中編小説。結核にかかり余命幾ばくの婚約者との残りわずかの日々を書いた命の物語。傑作よ。"幸福の思い出ほど、幸福を妨げるものはない"。作中で主人公が引用する一節、私がいちばん好きな言葉よ。元はアンドレ・ジット著作"背徳者"の一節なのだけれど』

 

『なんか暗いねぇ』

 

 ミカは苦い顔をする。

 

『後ろ向きな言葉だけど、私には違って聞こえた。"想いて、日々"とはまた違った、どちらかといえば逆の考え方だったけど、粗悪な幸福を貪るくらいなら、不幸なままでいい。これが刺さったのよ』

 

 彼女は淡々と、しかし好きなのは本当だったので自然と抑揚はついた言葉で、『面倒くさい女』『関わらない方がいい』を演出した。実際、灯里とルナはげんなりしていた。なのに……。

 

『私荷崎さんって……なんか渋かっけぇ!!』

 

 ────本当は不絵を引き入れても自分は落ちぶれない。打算ありきの行動だったのかもしれない。

 しかし、それが不絵の学校生活を、いや人生を変えた。今こそ報いなければ。そう決断し不絵が声をかける瞬間────。

 

「限界だよぉぉぉ!!」

 

 間が悪い。不絵の人生を一言で表すならそれだ。

 

「……トイレ、したい」

 

 5人に、衝撃が走る。

 

「……」

 

 ミカも今回ばかりは反発しなかった。今後自分にも起こりうること。偶然ほたるがいちばん早かっただけ。

 

「ぅぅぅぅうう、どうすれば、いいの?」

「へー? うんこ? おしっこ?」

 

 躊躇なくまにかが口を開いた。

 

「……ちぃさぃ……ほぅ……ぅぅぅ」

「じゃあすればいいんじゃん?」

 

 こればかりは誰もかれも反論できなかった。

 

「案外男ゾンビにかけたら喜ぶかもよ〜?」

「ひえぇぇ!? むりむりむり!? そんなのおぉおぉ!?」

「……緊急事態だし、仕方ないじゃん」

 

 覚悟を決めたのか、ほたるはその場から離れる。

 

「……端っこでしてよね」

「え、ででででも落ちちゃったら!?」

「おちないからっ、ここでしたらまじ怒るよ」

「ぅぅ……」

 

 説得の甲斐あり、ほたるの音が響く。

 

「それじゃあ話を変えましょうか」

 

 尿意で緩んだ空気を見逃さず、クシュナが切り込んだ。

 

「2075年、米国によって災害対策のために制定された緊急事態マニュアル。知っている人、いるかしら」

 

 知っているはずもない。不絵も、その他4人も同様の反応を示していた。

 

「────ウェルズノート」

 

 しかし意外にも、今まで一度も発言したことのない女性が声を上げた。

 

「あら、正解よお嬢さん」

 

 バンギャのようにダメージジーンズを履いた女性は微笑みもせずに肩を竦めた。

 

「それでウェルズノートっていうのは────」

 

 ウェルズノートとは、米国副大統領ウェルズ・ハルベルトが纏めた災害対策。それに書かれた『ゾンビ災害』の項目を、クシュナは示していた。

 

「……ゾンビ」

 

 認めたくなかったこと。そのため誰もその名前を口に出さなかった。架空の、フィクションの存在のはずの"怪物"。クシュナは医者の見識を披露し、死斑と呼ばれる現象から下を彷徨く怪物が死体であることを証明する。

 

「ほら」 

「掴まれたら……って」

 

 クシュナはバッグから棒を取り出し、それをゾンビに近づける。しかし奴らは一切の興味を示さず、何度つつかれ、それどころか刺さろうとも何の反応も無かった。

 

「こいつらは目が見えないのよ。だから生者を何かしらで嗅ぎ分けて襲っている。で、ここからが本題。こいつらには行動パターンがあって────」

「……ぃゃああああああ!!!!」

 

 突然響き渡る絶叫。皆がほたるの方を向く。

 

「へっ?」

 

 しかし違った。彼女はぶるぶる震えてすくんでいるだけ。

 

「……もぉ"ぃゃあああああ!!」

 

 不絵は見渡す。声の出処は────。

 

「あそこっ」

 

 人工衛星の上、彼女たちから15m離れた展示物。

 4時間の間、彼女はひとりでそこにいたのだ。やけに綺麗で、スタイルの良さがしゃがんでいても分かった。

 

「……嘘」

 

 不絵は考えるまでもなく旅客機の端に急いだ。

 

「何考えてるのッ!」

「なにっ、て! 助けにっ! 行くんですよ!」

「貴方っ! それは自殺行為よっ!!」

「……それでも医者ですか!? 助けないと! あそこはまだ群がってません! そこに近づいて飛び降りてもらって! また担いでここに登れば!」

 

 机上の空論。そんな言葉がお似合いだった。

 

「絶対に失敗するっ! 1人死ぬか2人死ぬかの違いよ!」

「ねぇ、クシュナさんの言う通りだよ……ね? 不絵まで死んじゃ……やだよぉ……」

 

 ミカが不絵に縋り付く。

 

「うお。気持ち悪〜。空気の読めない女にヒステリック女。バカお似合いだよ〜」

「……は?」

「おぉ。また反応してくれた。ねぇ、わかんない? チームの決断は出てるの。あれを見殺しにするってっ」

 

 まにかは人工衛星の方を指さして、笑顔で宣言した。

 

「あーあーあー、君が言わないから私が見殺しって言ってあげたのに〜。ねー皆〜? こーゆー偽善者が私たちを加害者扱いするんだよね〜」

 

 彼女は膝を擦りながら不絵に近寄り、そして耳元で囁く。

 

「ねぇ、無自覚に人を傷つけるのって、どういう気持ち?」

「や……やめて……」

 

 直後、鈍い音がする。肉を磨くような聞き心地のいい音ではない。耳障りな、水の混ざったような生の音。

 よせばいいのに彼女たちは音の方を振り向いた。

 

「…………ぅうぅぼぁぉ"……ぅぉぃぅぉ"」

「あ……」

 

 肩は食いちぎられ、肉と骨が露出、胸部は肺と思しき部位から血が滴り落ちている。

 ────明らかに、死んでいる。なのに、呻く。

 

「……ォォォ"」

 

 内蔵をばらまきながら、転がるようにして移動を開始した。高さに保証された安全は今、崩された。

 

「も……ぅ……。もう嫌だよおおおおおおお"!!!!」

「あぅ……大声出さないでよゾンビが来るでしょおおお!?」

 

「もうすぐ死ぬんだあああああ!?!?」

「黙ってよッッッ!!」

 

 ヒステリックに叫ぶミカとほたるを、誰も止められない。たちまち大人しくなったミカは小声で呟き始める。

 

「そぅよ……そぅ、静かにしていれば……救助が来るまでっ。そうっ、来たら助かる助かる助かる助かる助かる」

 

 ミカの心は、もう限界だった。

 ここが分水嶺、旅客機の上で待つ選択肢はもはやなかった。

 

「……限界、ですわね」

「……え?」

 

 バンギャのような少女が、手に持った鉄パイプで船体を殴りつけ始めた。

 

「な、……何してるんですか?」

「あら? 暴力沙汰でも起こすように見えまして? あなた方じゃあるまいし」

 

「それじゃあ何で……」

「今のはこれの強度を測っただけ。唯一の命綱ですもの」

 

 何度叩きつけても曲がらなかった鉄パイプを指し示し、彼女は言った。

 

「……そも、わたくしは同意はしておりませんでしたもの。救助を待つ、だなんて。兎角、わたくしは脱出させていただきます」

「だっ、脱出って……!? 正気!?」

 

 ミカの抗議が虚しく響く。

 

「────私も行くわ」

 

 不絵が腹を決める。それに対して少女はキョトンとした目を浮かべ、すぐに値踏みをするような目に切り替わる。

 

「どうぞご自由に」

「メンバーが多い方が、成功率高いわよ」

 

「足手まといじゃない、が枕詞に付きますけれどね」

「はは。名前、聞いてもいいかしら」

「甘噛綴」

 

「よろしく甘噛さん。不絵って呼んで」

「貴方が足手まといにならないのなら」

 

 その言葉に、一切の悪意は無い。生来の面倒見の良さが、ねじれて出ただけだ。

 

「ミカ、一緒に行こう?」

「え……本、気なの? ば、馬鹿なの? いや馬鹿だよ不絵ぇ!」

「うん。馬鹿でいい。────でも、死体にはなりたくないから」

「けど……」

「私が、ミカを絶対に守るから」

 

「────おっけー、乗った」

 

 1人、名乗りをあげた。しかしそれはミカではない。後ろから聞こえた。

 

「廻栖之まにか……」

「不絵ちゃんが行くなら私も行くよ」

「……なんで?」

 

 あまりにも気味が悪すぎる。そう思い理由を問う不絵に彼女は答えた。

 

「だってさ、不絵ちゃんみたいな偽善者の死に様、見逃しちゃいやん〜」

「……」

「ん〜……? 冗談なのにぃ、不絵ちゃんってばギャグも通じないんだぁ、やくざもんはお堅いねぇ」

 

 まにかの相手は早々に放棄する。今不絵が向き合うべきはミカただ1人。

 

「奴らは走れない。数が厄介なだけ、つまり、走ればいい」

「……ずっとは、走れない」

 

「だから郊外か、本州にでも逃げればいい。食料も飲水もきっとある」

「……絶対ぃ? 絶対に……助かるのぉ……?」

 

 確約なんて出来ない、はずだった。でもミカの心を溶かすにはこれしかなかった。

 

「約束よ、私が絶対に守る。そして一緒に、生き残ろう?」

 

 しっかりと、ミカの目を見据える。そんなとき────。

 

「私も行くわ」

 

 クシュナが手を挙げる。医者の同行は、何よりの救いだ。

 

「……ついてきて、くれるんですか?」

「ええ、可能性があるなら、私は否定しないわ」

「それで、作戦はあるのかしら? ないのなら、デコイ作戦を提案したいのだけど」

「良いですわね。採用。するとデコイはどうします?」

「色々考えてみたけど……携帯電話かしらね、次善策ではあるけれど」

「まぁ……贅沢は言えませんよね」

 

 クシュナと甘噛。どこか噛み合ったのか、阿吽の呼吸で進んでいく作戦会議。

 

「音がうるさいデコイを作る作戦、で分かるかしら」

 

 何がなにかさっぱり分からない不絵に、クシュナは簡単に説明した。

 

「つまりゾンビを寄せ集めると」

 

「そう。でも携帯電話じゃ落下の衝撃に耐えられるか……それに音量も……」

「あちょっと待ってください」

 

 そう言って不絵はまにかを通り過ぎ、隅で三角座りで震えるほたるを……。

 

「お〜? 不絵ちゃん鬼畜になった? なっちゃった?」

「え? え? ええええ!?」

「違うわよ。バッグ」

 

 彼女のバッグの中から防犯ブザーを取り出す。

 

「これとか、どうですか? ────ってあなたどれだけ……」

 

 数十個、それ以上、100にも届くほどのブザーが、バッグには入っていた。

 

「まるで歩く防犯ブザーの見本市ですわね……」

「取らないでよおおお!! これがないと僕、不安で不安で外歩けないんだよおおお!!」

 

「だとしてもこの量は……異常でしょ」

 

「1つじゃ奪われた時どうするんだよおおお! 奪われた時衝撃で鳴る用時間で鳴る用心拍数に反応する用!」

 

 さっきまでうるさかったほたるだったが、今は心地よかった。

 

「ところで廻栖之、さっきの鬼畜、ってどういう意味かな?」

 

 不絵は少し口角を上げながら、されど真っ直ぐな目でまにかを見つめた。

 

「い、いやあ〜……。人が大事にしてるものを盗むなんてとっても悪人だなぁ〜って」

「へぇ……。まぁ、私は人を死に追い込む判断は取らないから。覚えてて」

 

 普段のキレを失い、何だかまにかは歯がゆい気分になる。

 

「はいはい、じゃれ合いはそこまで」

 

 最年長のクシュナは手を叩き、注目を集めた。

 

「ミカさん、壊死街さん。大事な事だから、本当に大事な事だから聞くけど────」

「ミカ、一緒に行こう」

 

「……不絵。私、わかんなぃ。……なんで、怖くないの? そんなの……ヤクザだからじゃん」

「ミカちゃん、不絵ちゃんは────」

 

 クシュナの言葉を不絵は目で制する。

 

「そう、これはヤクザの常套手段。命の切り売り、こんな要求、普通じゃないって分かってる。……でもミカの死に場所はここじゃない。辿り着くべき場所がきっとある」

 

 ミカが求める安心が、そこにはあった。不絵という足場がなければ、今の彼女は到底生きてはいけない。

 

 ────だから。

 

「……ごめん。……ありがとぅ。私、行くよ」

 

 賽は投げられた。未来科学館脱出作戦、開始。

 

 ビイイイイイイ!!! けたたましいブザーが鳴り響く。

 

「3,2,1 Go!」

 

 小声でクシュナが合図を出す。3階、2階、と順調に進んでいく不絵達。そして……。

 

「なっ」

 

 進行上にいたゾンビ。物陰にいたのか、排除しきれていなかった。

 

「マズイ……!」

 

 止まることはできない。全力疾走だから。ならいっそ────。

 

「ぅぉらァ!?」

 

 タックル。それが不絵の答えだった。たまたまゾンビが真正面にいたから衝撃を全て伝えられた。たまたま前方に走る人がいなかったから躊躇なく走れた。

 不絵は後ろのミカに呼びかける。

 

「ミカ着いてきて!」

「う、うん!」

 

 再びの全力疾走。後ろにいるミカを思いながら、不絵が走る。

 

「────あ」

 

 しかし、幸運はそう長くは続かなかった。先程不絵が弾き飛ばしたゾンビが、ミカの足を掴んだ。

 

「……ぇ?」

 

 ミカは立ち上がれずにもがいている。助からない。────不絵がいなければ。

 

「ミカああああッ!!!」

 

 飛び蹴りヒザ蹴り、彼女はミカに駆け付け、ゾンビを引き剥がすために何度も攻撃する。

 

「なんってっ、力の強さなのっ!」

 

 徐々に集まってくるゾンビ。

 

「ふっざけないでよ!」

 

 なんとかミカをゾンビから引き剥がすが、その反動で体勢を崩した不絵が倒れてしまう。

 

「あっ……」

 

 心の中で『ごめんね』と謝りながら、ミカは見捨てようとする。

 自分が生き残れればこそ、親友でいられるのだ。そう納得させようとする。……でも。

 

『そして"一緒"に、生き残ろう?』

 

 その言葉が、ミカの心を締め付ける。

 

「……ぃやだ。見捨てたく……なぃ」

 

 そんな言葉が、零れた瞬間。

 

「その願い、聞き入れた」

 

『BULLET CHARGE』

 

 銃声のような音。眩い光。そして目を開けた2人の目の前には……。




Tips.アナザーストーリー。こちらは沢山の読み物があるぞ。PAL研究所、ハルノート、ポートラル、テンペスト、シルヴァニア、デトリタス(前述の学パロバンドストーリー)、季節シナリオ、コラボイベントが2つ所蔵されているぞ。

この子達に生き残って欲しい?

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  • いいえ
  • どうでもいいくらいキャラが薄い
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