とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────あなたを守るのは、わたしだけでいい。それだけが、わたしの生きる理由だから。
「失せな」
低く、刃のように冷たい声が響いた。直後、乾いた銃声が空気を裂く。
「……え?」
「────遅れてごめん、不絵」
女の声だった。少し低く、それでいて確かな熱を帯びた声。
「……ぁ……んた……?」
「可愛い顔が、台無しだよ」
「……だれ?」
隣で立ちすくむミカが、震えながら問いかけた。
しかし、不絵だけは知っていた。その声も、その立ち姿も。
「ケイちゃん……? なんで……いるの……?」
「当然だろう? 私は不絵の恋人、公認ストーカーだぜ? おはようからおやすみまで、24時間、君を見守っている」
軽口とは裏腹に、毛糸の視線は一瞬も不絵から離れない。
「……え?」
突然の恋人の出現に、不絵の心は穏やかではなかった。
しかし……。
「これ、貴方が全部……やったんですか……?」
ミカが周囲を見回す。床に転がる大量のゾンビは、すでに動く気配を失っていた。
「は? 私はただ不絵にしがみつくゾンビ共を撃っただけだけど」
「じ、じゃああの男の声は?」
「は? 知らねぇよ。てかお前、何? 不絵の友達?」
毛糸は吐き捨てるように言い、不絵の肩を引き寄せた。
「と、とにかく今は進みましょう?」
先決はそれだ、と。不絵の一言で、三人は科学館のエントランスへ走った。
「不絵ちゃんミカちゃんッ」
クシュナは心底嬉しそうに手を振った。
「知り合い?」
彼女の質問に、仲間だと答える不絵。
「良かったっ、中々来ないから……」
「いえ、遅れてごめんなさい」
「いえいえ、それで、隣の方は?」
「あーっと……」
「梔子毛糸、不絵の恋人です」
「恋人……??」
「へぇ、恋人って女の子だったんだ!」
クシュナは困惑、まにかは心底卑しい目で毛糸を見回した。
「悪いか?」
空気が一瞬止まる。毛糸の眉が露骨にひそめられた。
「その……ケイちゃんが、助けてくれました」
……しかし、ミカの中には何かしこりのようなものが残っていた。
「それで、なんでここで立ち往生を……」
そんな不絵の質問にクシュナは出入口を指さした。まるで口に出すこと自体が憚られるように。
「……!」
「ォォォ"」
「ゥゥゥ"」
────既に外はゾンビの世界だった。車道歩道問わずに溢れかえるゾンビ群。生きている人間などいない。
「……背水の陣、という訳ですわね」
「それで、どうするか決めあぐねているの」
ほたるが震えるのを、クシュナがそっと抑える。
「……ミカ、大丈夫だから」
ミカの手を、不絵はギュッと握る。それを見た毛糸は顔をしかめ、彼女を自身の方に抱き寄せた。
「────私の側を、離れるな」
「……大丈夫だから。ケイちゃん」
「不絵に傷ひとつでも付いたら私は────正気でいられる自信がない」
「もう……ずるいよ」
「不絵……?」
「それで策、だったよな?」
不絵を抱き寄せたまま、毛糸は提案した。場所は大型駐車場。そこにある1台のバスこそが目的地のようだった。
彼女たちは急いだ。走った。────そこに、生存者がいると、聞かされたから。
「あれは……!」
それは、ここに来るまで乗っていたバス。そしてどこかに乗り捨てられていたもの。
「私もそこで会ったんだよ、こんな状況で人助けしてる3人にな」
「走って!!」
幸い、見渡しがよく遮蔽物も少ない。バスの前に一体のゾンビ。
「離れろおおお!!!」
バスの中から消化器が投げられた。それはゾンビに直撃し倒れ伏す。
「みんな!! 大丈夫!?」
バスの中には5人の人間がいた。男が2人と、女が3人。
「先生!?」
「あ! あの人バスガイドの……!」
言い合っていると運転席に座る男が呼びかける。
「ちっ、早く乗れ!」
粗暴な言葉だが、どこか気遣うような雰囲気。
「あの人……!」
「みんな早くッ!」
クシュナが呼びかけ、全員が乗ったことを確認した運転手はバスを発車させた。
「……ふぅ。良かったぁ……」
「桜井先生……?」
「先生でいいって。私荷崎さんも及川さんも壊死街さんも廻栖之さんも無事でよかった!」
そう言って、不絵たちの担任 桜井景和は笑顔で全員の顔を見る。
「……せ、せんせぇ……」
「景和、それ以上は事案」
「……あ! バスガイドの!」
ミカは景和に泣きつく。そんな彼の肩に手をかけたのは親切なバスガイド改め 鞍馬祢音。
「……ごめんね、全員は助けられなかった」
祢音は不絵に頭を下げる。しかし彼女は慌てて頭を上げさせる。
「そんなこと……」
「……へぇ、こんな状況でもヒーローいるんだ〜。不絵ちゃんみたいな偽善者じゃなくって〜」
「何を……! ────って、ルナ、灯里!」
ミカが反論しようとする。不絵は間違いなく私を助けてくれた、と。
「……ぁ、ミカ……?」
「ミカああああ!!!」
灯里は、大声を出してミカに抱きついた。
「感傷に浸るのは後にしろ。こいつの燃料だって無限じゃねぇ、どこに行くんだ」
「……あ、やっぱり」
自由行動の時に会った作業員だ、と不絵は運転席まで行って顔を確認した。
「まずここと渚輪区本島を繋ぐ橋はゾンビのすし詰めだ!」
それを無視して男は呼びかけた。
「道長さん……確認したの?」
「あぁ。……俺の仕事場が襲われて逃げてる途中にな」
景和の問いかけに作業員 吾妻道長は少し声を落とした。
「そんなの……!」
「もぉここから出られないじゃないかあああああ"!!」
「これがクローズドサークルってやつ? 殺人事件でも起きたらな〜」
問題児ふたりが、1人は意図せず、もう1人は意図して絶望感を煽る。
「っ、だったら地図は!? まだ安全な場所があるかもしれないわ!」
クシュナが呼びかける。
「誰かの荷物の中にあるだろ! 探せ!」
「なるほど。分かりましたわ」
毛糸の言葉に甘噛はメンバーの荷物をあさっていく。
「ちっ、地図ならボクが持ってるけど……」
「ならなんで言わねぇんだよッ!」
「ひいいいい!? 怖い声出さないでよおお!?」
毛糸の怒鳴りに萎縮したほたる。そんな彼女に優しく寄り添う祢音。
「ありがとうねほたるちゃん」
「え、えへへ、そ、そうですかぁ?」
「これからも皆を助けてあげてね。それと、毛糸ちゃんも、そんなカッカしないの」
翻って毛糸のことも諭す祢音だったが、彼女は舌打ちをしてそっぽを向いてしまう。
「……ケイちゃん、そんなだから嫌われるんだよ」
「不絵さえいればいい、から」
ともあれ、ほたるが差し出したのは『渚輪ニュータウンハザードマップ』。
「壊死街さん今どき紙版……?」
「ルナ、紙だからこそ助かったの。バカにしない」
「はいはい私荷崎ママ」
そもそも紙であろうと電子であろうとほぼ本は読んでこなかったルナは感心していたのだ。
「それじゃあ……あ、こことかどう!」
ハザードマップを見てクシュナが問いかけた。まるで皇居のように周りを囲まれた公園。それを見た道長が振り向いて呼びかけた。
「……遠いな。こん中で泊まるかもしれねぇがいいのか!」
「……それくらいなら」
「もちろん、一晩だけですわよね?」
「あぁ、その後はどこか安全な拠点と呼べる場所まで……」
「────あ、ああああの」
「何?」
突然声を上げたほたるを、毛糸が冷たい目で見つめる。
「あああの……食べ物……」
そう言って、バッグの別のチャックを開いて中から何かを取り出した。
「……食べ物……と水……ほほほほんとは、ぼ、ぼぼボクのだけど……でも」
彼女は祢音の方を見やる。
「────分けてあげなきゃって」
ほたるの考えが変わったのは、ついさっきの事だった。
「……くれるの?」
そして、彼女の昇華が、全員の命運を分ける。
「……」
過去の自分を見ているようで苛立ちが抑えられなかった毛糸だったが……。
「……ふん」
少し考えを改めるのであった。
公園まで行って、そのまま一晩を過ごした彼女たち。
────その晩。
「……おい」
道長が物音に気づく。次の瞬間。ミカの首に、誰かの手がかかった。
「おい、待て!」
掴んだ腕は、乱暴に振り払われる。影は、闇へと消えた。
Tips.感染鬼 感染し、何かを代償にゾンビ化はしなかったが殺人衝動を抑えられなくなった少女。所謂暴走フォームで、自分の意思ではどうしようも無い点からいえば、ハザードフォームに近いぞ。スキルゲージが開始から溜まっており、開幕発動が出来る。再度スキルを発動させるには感染度をマックスまであげる必要があるぞ。(手動で上げた場合は発症しない)。しかし直後に攻撃を受けると発症して敵になるぞ。これはとても強いが、その分いい武器を貰えるぞ。
まにかのキャラに対して
-
好き
-
嫌い
-
キャラが薄い
-
怖い