とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第3章 炎であり、癒の剣。

 

 ────我を振るうは、臆するものか。覚悟のともわぬ剣に、救える者なし。

 

 同年 6月7日

 

 翌日。昨日の無茶な特訓の影響か、賢人は起き上がるだけで体が軋んだ。もう一度素振りを、と思った瞬間、来栖崎に手で制される。

 

「今日はダメ。あんた昨日の時点でボロボロだったでしょ。ここで無理したら壊れるわよ。ほら、これ」

 

 差し出されたのは透明なシェイカー。中身の液体はどろりとした薄茶色。

 

「え、なんですかこれ?」

「プロテインよ。知らないの?」

 

 ムッと顔を顰め、賢人はプロテインを躊躇なくゴクゴクと飲む。

 

「ありがとう。じゃあ飲ませて……」

 

感謝しつつ飲んだ瞬間────。

 

「うえっ、に、苦っ!?」

「それが普通なの。我慢しなさい」

 

 結局その日は安静を命じられ、賢人は部屋で大人しく過ごした。翌日、ようやく筋肉痛が引いてきた頃────。

 

「……それにしてもなんで、火炎剣烈火がこんな所に」

 

 彼は重い聖剣を握り、それを眺める。所謂"玩具"のような安っぽさが一切ない鈍い銀色。しかしテレビに出ていたそれと、明らかに違う点が一点。

 

「光がない……」

 

 賢人が持っていた玩具なら光っていた部分。そしてテレビの中では赤く塗られていた刀身が、黒くなっていたのだ。

 

「ベルトにもならない……」

 

 原理は謎ではあるが、何度力を込めても変身ベルトにならない。結局その日も、賢人は来栖崎の指導を受けることになった。

 

「お願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同年 6月8日

 

「じゃあ今日は剣じゃなくて体力を鍛えたいと。────それなら他の人に頼めば?」

「いやその……他の人話しかけづらくて」

 

 来栖崎は深いため息をつき、髪をかき上げた。

 

「はぁ……ほんと世話が焼けるわね。いいわよ。はい始めるわ。明日動けなくなったら本末転倒だから、今日は軽めね」

 

 そう言って来栖崎が用意した訓練場はクライミング。

 

「言ってること違いません?」

 

 訓練というのは往々にして地味なものだ。特に基礎体力という初歩なら尚更。当然、命綱などない。設備の不備もあるが、無くても下はクッションのため怪我の心配は無いからだ。

 

 何度も頂点と地上を往復し、某アイドルのスポーツバラエティさながらの速度で駆け上がれるようになったのは日が落ちる少し前のことであった。

 

「上出来。昨日の今日でこんなにスタミナ上がるなんて、なかなか素質あるじゃない」

「え! そうですか!? 素質あり……」

 

 自分がセイバーに変身するという有り得るかもしれない未来を想像し思わず口角が上がってしまう。

 

「その表情……まだ余裕ありそうね」

「え?! きょ、今日はもう勘弁してください!」

 

 そんなこんなでトレーニングも終わり、運動に慣れたためかあまり筋肉痛にはならずに済んだ賢人は、来栖崎から貰ったプロテインを飲み、明日に備えて早めに就寝した。

 

 ────翌日、早めに寝たおかげでみんなよりも早く起きられた賢人は、何もしないと流石に暇なので、本屋に行ってこの世界についてもっと詳しく知ろうと思った。彼はそこにあった情報誌を見ていく。

 

『神峰秀次、ノーベル物理学賞受賞。息子の神峰透露はPAL研究所に就職決定。父親の後を継ぐのか!?』

『人気子供番組、アンパンマン、130年の歴史に幕を閉じる』

 

(え!? 終わっちゃったの!? ……いや逆にここまで続くことが凄いのか)

 

騎獅道(きしどう)(かばね)三静寂(みしじま)和樹(かずき)を破り次期GMへ』

『小学生フィギュアスケーター、豹藤(ひょうどう)やちる。世界大会出場!』

 

「へぇすご。……ってぇ!? ありえないだろ!? 小学生!? すげぇな……。でもこれ、オリンピック始まる前の……」

 

 そんな呑気な時間は、仲間たちが起き出して終わる。

 その日は外出し、物資を補給する任務だった。早速外に出た彼ら。外には未だゾンビは闊歩している。しかし、彼は火炎剣烈火を武器として扱えるようにはなっていた。

 

「はぁっ!!」

 

 炎を纏った一閃はゾンビの体を焼き尽くし、その炎は他のゾンビにまで伝播し、火柱が立つ。

 アクション映画さながらのその戦場に、賢人は息を荒らげながらも敵を捌いていく。明らかに、目覚めた時よりも軽く感じる。彼自身自分の成長を誇らしく思っていた。

 

 目的地に到着し、そして空から巨大な箱が投下されると、猫耳のような外ハネの髪が特徴的な少女──豹藤やちるが走り出した。

 地を蹴るたび、空気が裂けるような音が鳴る。

 

「まだあんな体力が……てかすげぇなあの身のこなし」

「まぁそりゃヤチルンは元フィギュアスケートの選手だからねー」

 

 彼は少し思い起こす。ヤチルンというあだ名。そして今朝の情報誌に書いてあった豹藤やちるという特異な名前。それらが結びつく。

 

「まさか豹藤やちるか!?」

「ん? あ、そっか。名前知らなかったね。ヤチルンは超フィギュアスケーターなんだ。すごいでしょ?」

 

 まるで空気の上を滑るような軽やかな身のこなしは、やはり本人の技術あってのものであった。そんな話をしているうちにやちるは賢人たちの方に戻り、手短に報告する。

 

「B13、G2、です!」

「よし! 聞いたねヒサギン!? Gが一番近いから、G,Bの順番で!」

 

 来栖崎は言われる前から全力で駆け出していた。軽い足取りだが、獣のように速い。賢人は思わず口を開く。

 

「ちょ、ちょっと! あんな危険地帯をあんな速度で……大丈夫なんですか!?」

 

 アドは肩をすくめて笑った。

 

「心配? コンテナの? ヒサギンの?」

「……両方です」

「どっちも大丈夫だよん。ってか、特訓受けてた君なら分かるでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、コンテナの確保が完了した戦闘班は積載物の積み込み作業に移っていた。危険な外だというのに、戦闘班は存外和気あいあいと作業を進めていた。

 

「うわなんですかこの量! これ全部うちの物ですか!?」

「そだよ! なんと! これ全部ポートラルで独り占めなのです!」

 

 驚いた賢人に、アドは鼻をさする。

 

「それ、他の生存者から反感産みません?」

「ちゃんとルールあるから大丈夫だよ!」

「あ、ていうかこの支援物資って政府からのなんですよね?」

「そだよー。このマークが政府のマーク。立派な日の丸でしょ〜?」

 

 そこは変わってないんだ。賢人は心に留めて、なら何故救助が来ないのか、を問いかける。

 

「あー……やっぱそう思うよね〜。ま、これは私の考えだよ?」

 

アドはコンテナの縁に腰を掛け、指で物資の箱を軽く叩いた。

 

「まずさ。政府のヘリは飛んでる。しかも結構な量の物資を落としてくる」

「はい」

「でもね。これ、日本全土がこうなってたら絶対足りない量なのよ」

 

 賢人は腕を組む。確かに、今見ている物資の山は多いが、日本全体を救えるほどとは思えない。

 

「つまり?」

「多分、感染爆発はこのニュータウンか……せいぜい渚輪区くらいまで」

「え、じゃあ本土は……」

「まだ無事な可能性が高い。少なくとも政府はそう思ってる」

 

 アドは肩をすくめる。

 

「もしさ、救助隊を送り込んでウイルスが本土に持ち帰られたらどうなる?」

「……最悪、日本終わりますね」

「そゆこと」

 

 アドは指を一本立てた。

 

「だから政府は“助けない”。でも完全に見捨てたら世論がうるさい」

「それで……物資だけ?」

「うん。ヘリで投下。最低限の支援ってわけ」

 

アドはにやりと笑う。

 

「まぁ、あくまで私の推理だけどね。────ところでさケンティー」

 

 アドは賢人の肩に手を回す。

 

「ねぇねぇ、ケンティー。コソコソ話をしようず」

「え、あ、はい……?」

「今日のヒサギンを見てさ、なにか感じたことはないかい?」

 

 彼の脳裏に浮かぶのは、来栖崎に師事してもらった数日の記憶、そしてまるで鬼神の如く走る姿。

 

「感じたこと……ですか……確かに超人的な強さだったですけど」

「そうだねぇ。ヒサギンは格別に強い」

「それは知ってますけど……」

 

 当然とも言えるその返答にアドは苦笑する。

 

「でもね、今日はコンディションが良すぎなんだよ。ま、テンションが高いとも言えるね」

「……理由を聞いてもいいですか?」

「そりゃもちろん。……君が生きてたからなんだよ」

「俺が……生きてたから……?」

 

 アドは少し地面に顔を落とし、表情は更に真剣味を増す。

 

「そうそう。実はさヒサギン、感染の日────、大切な恋人と、渚輪ニュータウンで、生き別れてるんだよね。だからその恋人と生きて再会するのが、ヒサギンの生きる目標なのよ」

 

「……そこまで聞いていいんですか……? その話……」

 

「んーや、寧ろ君が聞いとかないといけない話。感染の日以来、生き残ったのは女性だけだった」

 

 賢人は鈍感ではない。恋人というのが男性であるという先入観から、彼はおおよその事情を察する。

 

「お、理解したようだね。女性の生き残りだけだった。ヒサギンは君と出会うまでずっとさ。半ば諦めながら……でも諦めきれずに消えた夢を抱きながら、(いたずら)に前だけ見ながら生きてきた。ほぼ100%、恋人が死んでいると理解していながらだよ?」

 

 夢は呪いという、生前見たテレビ番組のキャラのセリフの、真の意味を彼は実感する。

 

「だから君が現れたことはね、ヒサギンにとって……たったひとつの証明なの。男性が生き残れるかもしれない、っていう」

 

「俺が……最後の希望……」

「ああ無愛想だから察しづらいかもしんないけどさ。昨夜なんて鼻歌交じりに刀の手入れしてたんだよ?」

 

 賢人は視線を向ける。コンテナを積み込む来栖崎の姿。いつものしかめっ面。でも、その奥にある想いを知ってしまったから、胸が熱くなった。

 

「俺も手伝いま────」

 

 目の前には、賢人へ手を伸ばしながら激高の表情を浮かべた来栖崎。

 

「糞ッッッッ!!」

 

 来栖崎の怒号と同時に、賢人の視界が揺れた。肩を掴まれたかと思う間もなく、地面が遠ざかる。

 次の瞬間────背後で“ぶちり”と鈍い破裂音がした。

 

「いっ……どうしましたか!? だい、じょ────え?」

 

 賢人は目を開ける。すると……。

 

「来栖崎……さん……?」

 

 地面に倒れ込む来栖崎。背中は抉られ、血が黒い泥のように広がっていく。

 その側にはゾンビの影。

 

「このクソ腐れがッ!!」

 

 それを見て、赤髪の少女、姫片(ひめかた)栗子(りつこ)が怒髪天の勢いでゾンビに鎌を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 掃討が終わり、場自体は平穏を取り戻していた。

 

「ぁど……わたじまだ……死にだぐ……なぃ」

「わかってる。弱気はいくないぜヒサギン! だーいじょうぶ!」

 

 血だらけで倒れる来栖崎。その手を握り目を1秒たりとも離さずにアドは百喰に支給物資からガーゼを要求する。

 

「ヒサギン、このくらいの傷、流石に唾じゃ無理だけど、デパートに戻ればやいと先生が治してくれるからね!! だから────」

 

 アドは来栖崎を背負おうと、腰に手を回す。しかしそれを止めたのは百喰だった。

 

「ダメです」

「……。ガーゼ、持ってきてって、言ったんだけど?」

「来栖崎さんは、ここに置いて帰ります」

 

 規律は規律────感染した者は殺して処分、それがこの世界で生きていく上での必須事項。それのために彼女たちの間では、争いと同義の話し合いが行われていた。

 

「……」

 

 放心中の賢人を除いて。

 

「アド。私は貴方の為に進言しているんです。リーダーとして、来栖崎さんだけを特別扱いしては他に示しがつかな────」

「リーダーだからだよッ!!」

 

 普段の脳天気な振る舞いからは想像もつかない怒髪天。アドは鼻息を荒らげて百喰を睨むも相手方は怯む様子を見せない。

 

「……」

「……」

「……ごめん。わかってる」

「……ぁど?」

 

 折れたのはアドだった。弱々しく来栖崎から手を離し、彼女からは弱々しい悲鳴が上がる。

 

「ヒサギンごめん……。どうやらあたしとヒサギンはここでお別れみたい」

「……ゃ……おぃてかなぃで……わだじ……」

「だめなんだよ……」

「ゃっど……真司がぁ……」

「ヒサギンは……頑張ったよ……」

 

 誰も、止めやしない。まるでそれが、このくだりが普通であるかのように。見捨てられる恐怖。それは人間普遍的な嫌悪感。来栖崎は今まさにそれを体験しているのだ。彼女自身、本気で命を張って賢人を助けようとしたわけではない。ただ見捨てられなかっただけ。

 

「……」

 

 沈黙が、いやに場に流れる。アドはおもむろにホルスターから拳銃を取り出し、来栖崎の眉間に向ける、

 

「ぅそ……ょね……?」

「今まで、ありがとう」

「ぉねがぃ……殺さ……なぃで」

「その頼みはきけない、ごめん。だから……ゆっくり、休んでいいんだよ」

 

 ゆっくりと、撃鉄が起こされる。死刑執行までのカウントダウンのように。

 

「……ごめんね」

 

 結論は出た。リボルバーの引き金が引かれる。だがその弾丸は来栖崎の頭を貫かなかった。

 

「待ってくださいッ!!!!」

 

 カンッ! 金属と金属が激しく衝突した音が響く。烈火を2人の間に向けたのだ。

 自身でも驚くほどの大きな声。全員が思わず身体を震わせて賢人の方を見る。

 

「ケンティー……?」

「来栖崎さんは、まだ死んでない! 俺は、俺は絶対に諦めない! 命を!!」

 

 賢人の気持ちの昂りに反応したのか、彼の持っている火炎剣烈火が白く眩く光り出す。

 

『────癒封剣(ゆふうけん)波癒(いやし)!』

 

「え……?」

 

 白く発光する刀身。真珠のように美しく輝く鍔にあしらわれたエンブレム。癒封剣波癒、それがその聖剣の名前だ。そしてその聖剣を手に持った瞬間、彼の脳内に謎の記憶の断片が再生される。

 

『結局成功作はこの1本だけ、か。託したぞ』

『なら僕も死ぬよ』

『うるさいうるさいうるさいツ!!!』

『私が治ったら、ちゃんと死ぬって約束して。目の前で死んで。約束よ』

『あぁ、全てが解決したら僕は死ぬ』

 

 とある科学者の呟きと、共依存になった男女の末路。ぶつん、と。映像は止まり、賢人の意識は戻る。

 

「ど、どしたの? ケンティー……?」

「ごめんアドさん。少しどいててください」

「えっ……」

 

 彼は一瞬躊躇の素振りを見せ、癒封剣波癒で自分の腕を切る。周囲の面々が困惑している中、彼は来栖崎に血を飲ませた。

 

「っ、何やってるのケンティー! 君まで感染────」

「もうダメだ樽神名君、既に血液からウイルスが……」

 

 賢人に駆け寄ろうとするアドを礼音が制する。しかし────。

 

「感染の跡が引いていく……です」

「おいおいおい、それどころかお前、傷まで……」

 

 確かに治癒されたことを確認した賢人は、戦闘班各位に伝える。

 

「皆さん、安心してください。この聖剣は、ウイルスを抑制する効果があります」

 

 騒然とする周囲の面々。来栖崎を背負った彼を見たアドは指示を出す。

 

「い、一旦デパートに戻ろう! 考えるのはそれからでもいいよ!」

 

 彼女たちは賢人の後を追う形で、デパートに戻るのだった。

 

 ────この日、賢人は“剣士”として初めて誰かを救った。




仮面ライダーセイバー 第3章『父であり、剣士。』より
感想ください

Tips.アプリ版が配信される数ヶ月前に、別作者による感染×少女という小説があったことをご存知だろうか。
紙飛行機、脱獄等を作ったボカロpである。こちらは1巻が2016年4月、2巻が同年7月に刊行され、その後進展はないぞ。

ゾンビ物なのに緊迫しなさすぎ
やっと聖剣出てきた!
鍛える描写いる?
渚輪とかちょっと地理描写が煩雑
聖剣の記憶あれなに? 伏線?
変身しないのは玩具販促アニメとしてどうなの
商品って言っても癒封剣波癒しか出てないからな
おもちゃですらも変身できないのは如何なものかとは思う

神川賢人のキャラが好きか

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  • キャラが薄い
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