とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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5話 爛漫I:原初の生存組合

 

 ────希望など、ありはしない。朝日とともに、それは確信へと変わった。なのにどうして信じてしまうのだろう。人の善性というものを。

 

 場面は移り変わる。

 大感染、2日目朝。

 三静寂礼音は、不動産屋のバックヤードに身を潜めていた。周囲には、年端もいかぬ幼女が五人。段ボールと棚に囲まれた、仮初の避難所だった。

 

「……ねぇお姉ちゃん。お腹、減ったよ……」

 

 幼女は、弱々しく呟く。

 

「ぅぅまま……ぁ、ぃっぁぇるの?」

 

 礼音は、一瞬だけ唇を噛み締め、それから柔らかく微笑んだ。

 

「安心してくれ、実はお姉さんは弓矢の達人でな。ゾンビなんてぱぱっとやっつけてやる」

 

 自分も昨日何も食べていないというのに、礼音は気丈に振舞った。

 

「すごい……」

「披露してやるから楽しみにしててくれ」

「……ぅん」

 

 今は納得しているが、しかしそれがいつまで持つものか。自分が我慢するのはいい、だが幼き子供にそれを強いるのは嫌だった。

 

『────君は蔵の米を捨て、逃げ出したんだ────』

 

 その上、度々流れる記憶のフラッシュバックが頭を痛める。

 

「うッ……」

「お姉ちゃん大丈夫……?」

「大丈夫だ。お姉ちゃんちょっと虫歯でな」

「えへへ……だらしないのはダメだよ〜」

「ふふ、よく言われるよ」

 

『────君は私だ。礼節を弁え仁義に厚く、平和を愛し悪を砕く。君こそが三静寂礼音だ────』

 

 幻聴のような声を振り切るように、礼音は幼女に問いかける。

 

「なぁ百合根ちゃん。もしお姉ちゃんが外にご飯探しに行くって言ったら」

「ダメ! 置いてかないでっ!」

「もしも、の話だよ。大丈夫、置いていかない」

 

「やだやだ! 寂しいのヤダ!」

「大丈夫、ほら、近くにいるぞ」

 

 礼音は幼女をギュッと抱きしめる。

 1人で逃げるのは簡単だがその選択肢は彼女の中にはない、かと言って5人を引き連れて逃げるのは自殺行為。

 "あの時"のような惨事にならないためにも、早く行動しなければならないのに────。

 

 その時。ガシャン、と何かが倒れる音がした。

 ……ゾンビなら死ぬ。そうでないなら……。縋るしかなかった。その一抹の望みにかけて。

 

「絶対に出ちゃダメだぞ」

 

 子供たちに精一杯の笑顔を作ってみせ、礼音は出入口の方へと向かった。心臓の鼓動が止まらなく、地面まで揺れるように感じた。

 

「……っ」

 

 何もかもの生理現象が煩わしかった。カーテンを覗き込む。

 

「……。……」

 

 彼女が危惧していたゾンビは1体もおらず、逆に────。

 

「外れかよ、ここ」

 

 少女が3人、武器を持って立っていた。

 

「ふぅ……」

 

 全身の力が抜けていくのを感じた。彼女達が持っている鉄パイプや木刀を見て、心底安心感を覚える礼音。

 

「良かった。君たちも生存者か?」

 

 声をかけるやいなや、3人はその武器を礼音に向けた。

 

「ッおい!!」

「へっ、あったり〜」

「おいババア、痛い思いしたかねぇだろ!」

「……え?」

 

 あぁ、自分の持っている警棒を危惧したのだろうと、礼音は得物を地面に落とした。

 

「ほら、武器はない。すまないな、ゾンビだと勘違いしてしまって」

 

「ははっ、自分から捨ててやんの、ウケる」

「そんじゃあボコり放題だな」

「へ……? え……?」

 

 礼音は忘れていた。期待は裏切るということを、米のために殺されかけた"記憶"を。

 

「ってなわけでババァ、手荒な真似はしたくねぇ。さっさと持ってる食料、全部出しな?」

 

「……死ねと?」

「死ぬかどうかはお前次第だろ」

 

「い、生きる手段を奪っておいてそれは……!」

「いいから出せよ! 奥にあんだろ!」

 

 バックヤードの扉から、子供が顔を出す。

 

「……お姉ちゃん大丈夫?」

 

 ────間の悪いことに、空の缶ジュースを持って。

 

「やっぱあんじゃねぇかッ!」

「嘘ついてたっつーことだな」

「ぼこしけってーい」

 

「違っあれはもう空き缶だっ!」

 

 バックヤードへと歩みを進めていく非行少女たち。

 

「待てっ」

 

 傷を負い、意識が朦朧とする中、体を押して止めようと縋り付く礼音。

 

「やめろっ」

「待つがいいでござる!」

 

 ────空気が、変わった。

 

「やぁやぁやぁ! 待つでござる不届き者よ!」

「あんたが1番不届き者よ……」

 

 入口には、2人の少女が立っていた。黒の制服と赤いマフラーの少女と────全裸の少女。来栖崎ひさぎと、樽神名アドである。

 

「……何?」

「拙者、百合に挟まり侍」

「……は?」

 

 新たな人物……否、狂人の登場に非行少女たちは口をあんぐりと開ける。

 

「拙者、百合に挟まり侍」

 

 アドは2度刺す。

 

「百合の波動を察知し参上つかまつった次第で候。なのに如何程か! なにゆえか悪童が跳梁跋扈するこの世の中、儂はとても憤りを感じ候! 百合は愛でるものであれど壊すものではない候!」

 

「……???」

「ひいては武器を収め共に新たな道を────」

「だーっ、まどろっこしい」

 

「待つでござる(ひさぎ)侍っ、今決めゼリフの途中でござる!」

「シャブキメセリフの間違いでしょ。黙ってて」

 

「……無念」

「はっ……キチ〇〇か」

 

 人に対する差別表現。悪人はそれを平気で言ってのけた。

 

「まっ、半分正解ねー」

 

 来栖崎の持つ刀は真剣。悪人達が持つヤンキー武器とは種類が違う。

 抜き身の刀を見、悪人たちはおののく。

 

「邪魔……すんのかよッ」

「────わざわざ不動産屋まで来て結構。でもね」

 

 来栖崎は悪人の話には取り合わない。ただ、カッコつけたいだけなのか、自分の言葉だけを口にする。

 

「────あなた達に死に場所選びは必要ないわ」

 

 来栖崎の剣筋が煌めく。子供に鉄パイプを振り上げていた悪人が宙に浮く。

 次いで来栖崎が一歩踏み込む。刃が閃いた次の瞬間、バットが床に落ちた。

 

「余の顔を忘れたか! 成敗ナリ〜」

「うっさい」

「ぁ"……んだよ……てめえ……」

「違うんだよ。地獄を見た、時間がね」

「……ざけんじゃ」

 

「────で、大丈夫? おばさん達」

「おば……さん? あ、ああ、なんとか……な」

 

 礼音はカウンターで傷を抑えながら言った。

 

「ざけんじゃねぇぞ!」

「っ危なっ……!」

 

 礼音の忠告を聞くまでもなく、来栖崎は背後から振り下ろされた鉄パイプをひょいと避け、そのまま顔を鷲掴む。

 

「ふんっ」

 

 そしてそれを床に叩きつけ、今度こそ戦意を喪失させた。蜘蛛の子を散らすように、悪人たちは逃げ、礼音と子供たち、そしてアドと来栖崎が残った。

 幼女が立ち上がれずにいた礼音に駆けつける。

 

「あぁ、安心してくれ。お姉ちゃんは大丈夫だよ」

 

「────よく子供を庇ったね。見返りもないし、貴方の献身を褒めてくれる人もいない。あるのは、現実的なデメリットばかり。だけど貴方は、子供の命を守ろうとした」

 

 先程までの様相が嘘のように、アドは全裸のまま真摯な眼差しで微笑み、アドは頭を下げた。

 

「貴方の心のありように、あたしは尊敬を示します」

 

「……何を言います。それはこちらのセリフです。……本当に、ありがとうございますっ」

 

 涙が滲んでいた。頭を深々と下げるが、涙の雫が落ちるほどに。

 

「あたしは樽神名アド。こっちはヒサギン」

「来栖崎ひさぎね。あと敬語はなし、オバサン」

「あたしにも敬語なしね。お名前は?」

 

「私は……三静寂礼音」

「じゃあアヤネルだ」

「その……樽神名君」

「およ、君付けとはかっこいい」

「1つ、質問していいかい?」

「おういいぞよ? 1つと言わず何個でも答えちゃる」

 

 何者か、助けた理由は、世界はどうなったか、外はどうなっているか。それらを覆す疑問がひとつ。

 

「……なんで、全裸なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして場所と時は戻る。

 仲間と友達を一気に失ったミカ、恋人が目を覚まさない毛糸は、不絵の傍を片時も離れなかった。

 

「それはねぇ、私がエチエチスコティッシュフォールドだからさ!!」

 

 そして、ようやく目を覚ました不絵のした質問を、アドはあの時と同じように返した。

 

「アハハ! お姉ちゃんまだお馬鹿さんだ!」

 

 あの時の幼女が、コロコロと笑う。助かったのは不絵、ミカ、毛糸だけ。

 

「あばばばば。……とね」

「うわあああ急に落ち着かないで!?」

 

 ミカがツッコむ。

 

「さっきも話したけど、これからここニュータウンは、急速に派閥化の一途を辿っていくと思うんだ。だから今は仲間集めをしている最中。それに君たちの友達も探さなきゃ、でしょ?」

 

「えぇ。……でも今は戦える人がケイちゃんしか」

「しか、じゃない。私だけが不絵を救えるんだ」

 

 そう言って毛糸は不絵を抱き寄せる。しかしそれをアドがぶち壊す。

 

「何言ってるの? ヒサギンもいるしアヤネルもいるし」

「……え?」

「は……?」

 

「だって助けたんだからさ、私たちもう仲間だよ? 断言するよ? 2人だけじゃ絶対に死ぬ」

「そんな訳っ……」

 

「クッチーも強いけどさ。それはゾンビに対してだけ。今後は対人で戦う時が必ず来るし、もし友達が生きてるとすれば、それは別の生存者たちに拾われてる可能性が高い」

 

「……どういうこと?」

「もしかしたら、交渉じゃすまなくなるかもってこと」

 

「そんなっ、暴力なんてっ」

「不絵っち、悲しいけどそれが現実だよ」

 

 ────しかし目処は立った。各地の生存者の集まりをまとめあげ決まりを作り、そして不絵の友達や仲間を見つけ出す。

 いわば建国だ。……しかし、何故か礼音と不絵は確信していた。樽神名アドなら、必ず成し遂げると。




Tips.

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