とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────希望など、ありはしない。朝日とともに、それは確信へと変わった。なのにどうして信じてしまうのだろう。人の善性というものを。
場面は移り変わる。
大感染、2日目朝。
三静寂礼音は、不動産屋のバックヤードに身を潜めていた。周囲には、年端もいかぬ幼女が五人。段ボールと棚に囲まれた、仮初の避難所だった。
「……ねぇお姉ちゃん。お腹、減ったよ……」
幼女は、弱々しく呟く。
「ぅぅまま……ぁ、ぃっぁぇるの?」
礼音は、一瞬だけ唇を噛み締め、それから柔らかく微笑んだ。
「安心してくれ、実はお姉さんは弓矢の達人でな。ゾンビなんてぱぱっとやっつけてやる」
自分も昨日何も食べていないというのに、礼音は気丈に振舞った。
「すごい……」
「披露してやるから楽しみにしててくれ」
「……ぅん」
今は納得しているが、しかしそれがいつまで持つものか。自分が我慢するのはいい、だが幼き子供にそれを強いるのは嫌だった。
『────君は蔵の米を捨て、逃げ出したんだ────』
その上、度々流れる記憶のフラッシュバックが頭を痛める。
「うッ……」
「お姉ちゃん大丈夫……?」
「大丈夫だ。お姉ちゃんちょっと虫歯でな」
「えへへ……だらしないのはダメだよ〜」
「ふふ、よく言われるよ」
『────君は私だ。礼節を弁え仁義に厚く、平和を愛し悪を砕く。君こそが三静寂礼音だ────』
幻聴のような声を振り切るように、礼音は幼女に問いかける。
「なぁ百合根ちゃん。もしお姉ちゃんが外にご飯探しに行くって言ったら」
「ダメ! 置いてかないでっ!」
「もしも、の話だよ。大丈夫、置いていかない」
「やだやだ! 寂しいのヤダ!」
「大丈夫、ほら、近くにいるぞ」
礼音は幼女をギュッと抱きしめる。
1人で逃げるのは簡単だがその選択肢は彼女の中にはない、かと言って5人を引き連れて逃げるのは自殺行為。
"あの時"のような惨事にならないためにも、早く行動しなければならないのに────。
その時。ガシャン、と何かが倒れる音がした。
……ゾンビなら死ぬ。そうでないなら……。縋るしかなかった。その一抹の望みにかけて。
「絶対に出ちゃダメだぞ」
子供たちに精一杯の笑顔を作ってみせ、礼音は出入口の方へと向かった。心臓の鼓動が止まらなく、地面まで揺れるように感じた。
「……っ」
何もかもの生理現象が煩わしかった。カーテンを覗き込む。
「……。……」
彼女が危惧していたゾンビは1体もおらず、逆に────。
「外れかよ、ここ」
少女が3人、武器を持って立っていた。
「ふぅ……」
全身の力が抜けていくのを感じた。彼女達が持っている鉄パイプや木刀を見て、心底安心感を覚える礼音。
「良かった。君たちも生存者か?」
声をかけるやいなや、3人はその武器を礼音に向けた。
「ッおい!!」
「へっ、あったり〜」
「おいババア、痛い思いしたかねぇだろ!」
「……え?」
あぁ、自分の持っている警棒を危惧したのだろうと、礼音は得物を地面に落とした。
「ほら、武器はない。すまないな、ゾンビだと勘違いしてしまって」
「ははっ、自分から捨ててやんの、ウケる」
「そんじゃあボコり放題だな」
「へ……? え……?」
礼音は忘れていた。期待は裏切るということを、米のために殺されかけた"記憶"を。
「ってなわけでババァ、手荒な真似はしたくねぇ。さっさと持ってる食料、全部出しな?」
「……死ねと?」
「死ぬかどうかはお前次第だろ」
「い、生きる手段を奪っておいてそれは……!」
「いいから出せよ! 奥にあんだろ!」
バックヤードの扉から、子供が顔を出す。
「……お姉ちゃん大丈夫?」
────間の悪いことに、空の缶ジュースを持って。
「やっぱあんじゃねぇかッ!」
「嘘ついてたっつーことだな」
「ぼこしけってーい」
「違っあれはもう空き缶だっ!」
バックヤードへと歩みを進めていく非行少女たち。
「待てっ」
傷を負い、意識が朦朧とする中、体を押して止めようと縋り付く礼音。
「やめろっ」
「待つがいいでござる!」
────空気が、変わった。
「やぁやぁやぁ! 待つでござる不届き者よ!」
「あんたが1番不届き者よ……」
入口には、2人の少女が立っていた。黒の制服と赤いマフラーの少女と────全裸の少女。来栖崎ひさぎと、樽神名アドである。
「……何?」
「拙者、百合に挟まり侍」
「……は?」
新たな人物……否、狂人の登場に非行少女たちは口をあんぐりと開ける。
「拙者、百合に挟まり侍」
アドは2度刺す。
「百合の波動を察知し参上つかまつった次第で候。なのに如何程か! なにゆえか悪童が跳梁跋扈するこの世の中、儂はとても憤りを感じ候! 百合は愛でるものであれど壊すものではない候!」
「……???」
「ひいては武器を収め共に新たな道を────」
「だーっ、まどろっこしい」
「待つでござる
「シャブキメセリフの間違いでしょ。黙ってて」
「……無念」
「はっ……キチ〇〇か」
人に対する差別表現。悪人はそれを平気で言ってのけた。
「まっ、半分正解ねー」
来栖崎の持つ刀は真剣。悪人達が持つヤンキー武器とは種類が違う。
抜き身の刀を見、悪人たちはおののく。
「邪魔……すんのかよッ」
「────わざわざ不動産屋まで来て結構。でもね」
来栖崎は悪人の話には取り合わない。ただ、カッコつけたいだけなのか、自分の言葉だけを口にする。
「────あなた達に死に場所選びは必要ないわ」
来栖崎の剣筋が煌めく。子供に鉄パイプを振り上げていた悪人が宙に浮く。
次いで来栖崎が一歩踏み込む。刃が閃いた次の瞬間、バットが床に落ちた。
「余の顔を忘れたか! 成敗ナリ〜」
「うっさい」
「ぁ"……んだよ……てめえ……」
「違うんだよ。地獄を見た、時間がね」
「……ざけんじゃ」
「────で、大丈夫? おばさん達」
「おば……さん? あ、ああ、なんとか……な」
礼音はカウンターで傷を抑えながら言った。
「ざけんじゃねぇぞ!」
「っ危なっ……!」
礼音の忠告を聞くまでもなく、来栖崎は背後から振り下ろされた鉄パイプをひょいと避け、そのまま顔を鷲掴む。
「ふんっ」
そしてそれを床に叩きつけ、今度こそ戦意を喪失させた。蜘蛛の子を散らすように、悪人たちは逃げ、礼音と子供たち、そしてアドと来栖崎が残った。
幼女が立ち上がれずにいた礼音に駆けつける。
「あぁ、安心してくれ。お姉ちゃんは大丈夫だよ」
「────よく子供を庇ったね。見返りもないし、貴方の献身を褒めてくれる人もいない。あるのは、現実的なデメリットばかり。だけど貴方は、子供の命を守ろうとした」
先程までの様相が嘘のように、アドは全裸のまま真摯な眼差しで微笑み、アドは頭を下げた。
「貴方の心のありように、あたしは尊敬を示します」
「……何を言います。それはこちらのセリフです。……本当に、ありがとうございますっ」
涙が滲んでいた。頭を深々と下げるが、涙の雫が落ちるほどに。
「あたしは樽神名アド。こっちはヒサギン」
「来栖崎ひさぎね。あと敬語はなし、オバサン」
「あたしにも敬語なしね。お名前は?」
「私は……三静寂礼音」
「じゃあアヤネルだ」
「その……樽神名君」
「およ、君付けとはかっこいい」
「1つ、質問していいかい?」
「おういいぞよ? 1つと言わず何個でも答えちゃる」
何者か、助けた理由は、世界はどうなったか、外はどうなっているか。それらを覆す疑問がひとつ。
「……なんで、全裸なんだ?」
そして場所と時は戻る。
仲間と友達を一気に失ったミカ、恋人が目を覚まさない毛糸は、不絵の傍を片時も離れなかった。
「それはねぇ、私がエチエチスコティッシュフォールドだからさ!!」
そして、ようやく目を覚ました不絵のした質問を、アドはあの時と同じように返した。
「アハハ! お姉ちゃんまだお馬鹿さんだ!」
あの時の幼女が、コロコロと笑う。助かったのは不絵、ミカ、毛糸だけ。
「あばばばば。……とね」
「うわあああ急に落ち着かないで!?」
ミカがツッコむ。
「さっきも話したけど、これからここニュータウンは、急速に派閥化の一途を辿っていくと思うんだ。だから今は仲間集めをしている最中。それに君たちの友達も探さなきゃ、でしょ?」
「えぇ。……でも今は戦える人がケイちゃんしか」
「しか、じゃない。私だけが不絵を救えるんだ」
そう言って毛糸は不絵を抱き寄せる。しかしそれをアドがぶち壊す。
「何言ってるの? ヒサギンもいるしアヤネルもいるし」
「……え?」
「は……?」
「だって助けたんだからさ、私たちもう仲間だよ? 断言するよ? 2人だけじゃ絶対に死ぬ」
「そんな訳っ……」
「クッチーも強いけどさ。それはゾンビに対してだけ。今後は対人で戦う時が必ず来るし、もし友達が生きてるとすれば、それは別の生存者たちに拾われてる可能性が高い」
「……どういうこと?」
「もしかしたら、交渉じゃすまなくなるかもってこと」
「そんなっ、暴力なんてっ」
「不絵っち、悲しいけどそれが現実だよ」
────しかし目処は立った。各地の生存者の集まりをまとめあげ決まりを作り、そして不絵の友達や仲間を見つけ出す。
いわば建国だ。……しかし、何故か礼音と不絵は確信していた。樽神名アドなら、必ず成し遂げると。
Tips.
本編キャラが登場してアツかった?
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はい
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いいえ
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どうでもいいくらいキャラが薄い