とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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最終話 盛運:I 本当の始まり! 〜ハイライトを添えて〜

 

 ────わたしは死んだ。なのにどうして悲しくないのだろう。それは誰も、わたしのことが好きじゃないから。だったら全て、壊せばいいじゃないか。

 

 渚輪ニュータウン──軍事基地跡地。 瓦礫と鉄骨に覆われた地下区画で、政府軍高官だった赤城優斗は、もはや後戻りできない研究を続けていた。

 ウイルスの突然変異を、人為的に引き起こす人体実験。 生存者を連れてくるのは少女。実行するのは赤城。 それだけが、彼らの延命手段だった。

 

「ねえねえまだ続けるのぉ〜うりうり」

「……うるさいッ!!」

 

 赤城は机を殴りつける。苛立ちと恐怖が混ざった音だった。 それでも少女────廻栖之まにかは、変わらない

 

「ありゃりゃ怖い怖い。私を連れてこなかったらもう死んでるんだゾ?」

「俺は……俺は赤城優斗だぞ!?」

「知wらwなwいwよw 赤城くぅんはエリート軍人だったんだもんねぇ〜よぉしよぉし〜」

 

 まにかはわざとらしく赤城の頭を撫でる。

 

「ふざけるなァ!」

 

 限界だった。 彼女に関わった瞬間から、赤城の理性は削られ続けていた。

 

「あれ? 撃っちゃう? 撃っちゃうの〜? こんないたいけな少女を────」

 

 ────バン。

 硝煙が漂う。 まにかの身体は、床に倒れ伏した。

 

「……もう、後戻りは出来ないぞ……」

 

 赤城は理解していた。 自分は、悪魔と契約したのだと。

 

「こいつの死体を使えば……」

 

 判断は早かった。 そうしなければ、今度こそ自分が終わると分かっていたから。

 今この瞬間に"彼女達"の追手がやってくるかもしれないから。

 ────そして、生まれた。顔だけが異様に肥大化し、巨大な目と口を持つ異形。『感染鬼』廻栖之まにか。もはやゾンビという言葉では形容しきれない。

 発声器官など残っていないはずのそれは、声を発した。

 

「お話がしたいなお話がしたいなお話がしたい」

「……はっ。ハハハハ! 俺の最期が……これ? 嫌────」

「お話がしたいなお話がしたいなお話が死体な、死体だ、チーズの味! わーい!」

 

 "姉妹達"を壊した赤城は、1人の少女によってその生を終えたのだった。

 同じ頃。 不絵たちハルノートは、軍事基地跡地へ向かっていた。

 

「アドさんからの餞別、だって」

 

 不絵が示したのは、一台の電気自動車だった。

 

「え!? あ、あああんなに良い人たちだったのに、別れたの!?」

「ほたるちゃん、喧嘩別れじゃないよ。必ずまた会える」

 

 数分後、彼女たちは基地跡地に到着する。

 

「……アイツらの証言じゃここだって話だけど……」

「跡地だろ? だったらアイツが着いて行ったの本物の軍人じゃねえってことだろ」

 

「そう……なるわね」

「おい不絵の友達、てめぇらは車ん中で待ってろ。私と不絵で行く」

「危険だわっ!」

 

 そんなクシュナの喚起も、毛糸は聞き入れなかった。

 

「足手まといはいるだけ無駄だっつーことだ。……なぁ不絵」

「……違うよケイちゃん」

 

 胸に違和感を抱えた不絵を、毛糸は半ば強制的に連れていく。

 

「……暗いわね」

 

 基地の中は薄暗く、瓦礫とホコリに塗れていた。

 

「……何? この部屋……」

「……嫌な予感がする。不絵、私から離れないで」

 

 窓から一つだけ明かりのついた部屋を見つけた。廃墟だというのに、そのドアだけは、簡単に開く。

 

「……これは」

 

 扉を開けた瞬間、不絵は息を呑んだ。ホルマリン漬けの少女たち。 歪んだゾンビの残骸。

 その中に、不絵のクラスメイトもいた。

 

「……!」

 

 叫びそうになるの不絵の口を毛糸が抑える。

 

「廻栖之はいない……か」

「ケイちゃんあそこ……!」

 

 不絵が指さした方向には巨大な球形の物体。

 

「お話がしたいなお話がしたいなお話がしたいな」

「あの声……廻栖之さん……?」

「お話がしたいなお話が……」

「廻栖之……さん?」

 

 そんな不絵の声に反応し、球形の物体は振り向いた。

"人"を視認した感染鬼は発狂する。

 

「ギャアアアアア!!!」

 

 その声に反応し形の違うゾンビ達、変異種がガラスの中から飛び出す。毛糸はすぐさま拳銃を取り出して発砲、全弾打ち尽くす。

 

「クソっ、効かねぇのか! 不絵立って!」

 

 しかし、腰が抜けて立てない。近付く変異種と感染鬼。変異種の異形の腕が不絵を襲う。

 

「このクサレどもッ!!」

 

 銃が効かないと分かると毛糸は辺りに刃物を探した。

 

「こいつでッ!!」

 

 ……しかし多勢に無勢。不絵はその腕にゾンビによる傷を負ってしまう。

 

「……ぁ、ケイちゃん……ごめん」

 

 全てを置いて不絵に駆けつける毛糸。

 

「っざけんなっ! まだ……」

 

 腕からウイルスはどんどん侵食していく。刻一刻と迫るゾンビ化へのリミット。

 

「……ぁあクソっ!」

 

 毛糸は頭を搔く。そして覚悟を決めたのか自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「……。……不絵ごめん」

「ん……!」

 

 彼女に、薙刀を振りかぶる毛糸。死の覚悟など決まっていないため、不絵は思わず目を閉じる。しかし……意識は途切れなかった。

 

「いつ……痛っ……アアアア"!!」

「……これで、止まってくれ……」

 

 振り下ろされたのは右腕の付け根。腕は、床に落ちていた。

 しかし、愛しの恋人にこんな行いをしてしまったことで、毛糸の全身の力が抜ける。そんな彼女を見て不絵は体を引きづりながらはい寄った。

 

「ケイ……ちゃん! いっ……痛いけど……! でも多分もう大丈夫だからッ!」

「……」

「ケイちゃん!!」

 

 お願いします。どうか、私たちを助けてください。

 不絵がそう願った、その瞬間だった。かつて彼女を包んだ光が、再び世界を塗り替える。

 

 ────白と、甲高い狐の声。

 視界を焼くほどの眩さの中で、不絵は確かに何かが立つのを見た。

 

「さぁ、ここからがハイライトだ」

 

 低く、落ち着いた声。

 それは希望を煽るでもなく、絶望を否定するでもない。ただ事実のように、そう告げた。

 

『GET READY FOR BOOST & MAGNUM』

 

 光の向こう、輪郭が浮かび上がる。狐を模した仮面に、白と赤の装甲。銃を携えた戦士。

 

「誰……?」

 

 不絵の問いに、その戦士は一瞬だけこちらを振り返った。

 

「ギーツ。その言葉を、お前は信じるか?」

 

 答えを待つことなく、空気が切り替わる。

 忍の風が走った。

 次いで、不死の気配。

 そして、鋭く弾ける音。

 

『NINJA!』

『ZOMBIE……!』

『BEAT!』

 

 色とりどりの戦士たちが、光の残滓を裂いて現れる。

 

「え……?」

「大丈夫!?」

 

 緑の装甲を纏った戦士────タイクーンが、不絵と毛糸を抱え上げる。

 次の瞬間、視界が煙に包まれ、地面の感触が消えた。

 

『NINJA STRIKE!』

 

 瞬きひとつ。気づけば、不絵たちは建物の外にいた。

 

「その声……桜井先生……?」

「な、なにが起きてるの!?」

「中で大きな音が……!」

 

 外で待機していたクシュナたちが口々に言い始めた。

 

「早く逃げて!!」

 

 振り返ると、ギター型の斧を構えた戦士────ナーゴが立っていた。

 

「そ、そそその声……ね、祢音さん!?」

「じゃあそっちは道長さん……? 男は感染するんじゃ……」

「俺たちは感染しねぇ! だから構わず行け!」

 

 チェンソーを唸らせ、変異種に向かう戦士────バッファが舌打ちする。

 

「でもお礼が……!」

 

 しかし、戦士たちが一斉に戦闘へ戻り不絵は取り残される形になった。追いかける不絵。しかし隻腕となりバランスを失った不絵は躓いてしまう。

 

「大丈夫!?」

 

 タイクーンが慌てて駆けつける。

 ────その時、触れてしまった。ベルト中央に嵌め込まれた、コアIDに。

 

「う……。……なに……この記憶……!」

 

 頭の奥に、知らないはずの声が流れ込んでくる。

 

『不絵は何も悪くない。悪くないからねっ!』

『その件はうちの組で処理しておく! アンタらは黙っとれ!』

『……不絵、あの時はごめん。人殺しなんて言って』

『だからさ、付き合っちゃおうよ』

 

 胸が締めつけられる。後悔、罪悪感、逃げたかった記憶。それらが一気に溢れ出す。

 

「不絵ッ! 立って! ……助けてくれて感謝はするけど────男は不絵に触らないで」

 

 毛糸はうずくまる不絵を抱えて車に乗った。

 

「早く急いで!」

「は、はい……!」

 

 車が走り出すのと同時に、戦場の音が遠ざかっていく。

 

『READY FIGHT!』

 

 瓦礫が宙を舞う。白い戦士────ギーツがそれを撃ち抜き、土煙の中へ踏み込む。

 

「ふッ!」

「はぁっ!」

 

 その土煙で視界を失った感染鬼に近づく。

 

『RIFLE. CHARGE』

 

 銃身が展開される。専用武器『マグナムシューター40X』が、ライフル形態へと変わった。

 ギーツは撃鉄と引き金を引く。

 

『TACTICAL SHOOT』

 

「はぁッ!」

 

 乾いた銃声。巨大感染鬼の体に、風穴が穿たれる。

 しかし再生。肉が蠢き、さらに歪な巨体へと変貌する。

 

「おーおーおーデカくなったな。それじゃあ────」

 

 ギーツはそれを見上げ、飄々と言い放つ。

 一方、別の場所では。

 

「クソっ!! やりにくい!!」

 

 変異種の胸部には、生前の顔が貼り付けられていた。躊躇が攻撃を鈍らせる。

 

「誰が考えたのよこんなの!!」

 

 ナーゴが歯噛みする。

 

「そんなの関係ねぇだろ! ここで逃がしちまったらどうすんだ!!」

 

 バッファは足で乱暴にゾンビブレイカーのレバーを蹴り上げる。

 

『POISON CHARGE!』

 

 毒の滴る刃を変異種の身体に食い込ませる。そして回転する刃。

 

『TACTICAL BREAK!』

「はぁッ!!」

「やめっ……やめっ……ビビッ……ブゥン……」

 

 顔ごと一刀両断。まにかの仕込んだ悪趣味な音声再生機構は機能することはなかった。

 

「……死人は死人だ」

 

 バッファはかつての親友を思い浮かべる。

 

「道長さん……」

「死体を弄ぶなんて……許さない!」

 

タイクーンとナーゴが頷き合う。

 刃が舞い、雷が落ちる。

 

『TACTICAL SLASH!』

『TACTICAL THUNDER!』

 

 ────そしてギーツは巨大感染鬼を前にして。

 

「打ち上げと行こうか! コーンちゃん」

 

 ギーツがブーストバックルを回す。

 

『BOOST TIME!』

 

 赤い狐『ブーストライカー』が出現し、巨大な銃弾が形成される。

 

「はぁっ!」

『MAGNUM BOOST GRAND VICTORY!』

「はぁあああああ、ハァッ!!」

 

 弾の火薬が破裂、その勢いで感染鬼に急降下。甲高い狐の鳴き声と共に、感染鬼は跡形もなく消し飛んだ。

 

「ふぅ……」

「英寿!!」

 

 残りの3人が駆け寄ってくる。

 

「大丈夫だった?」

「あのギーツだぞ、大丈夫に決まってんだろ」

「随分と俺のこと信頼してるんだなバッファ」

「あんなのにやられる訳がないってだけだ。勘違いするな」

 

 ……しかし。

 

『GAME OVER』

 

 突然、英寿たちの体から感覚が消えていく。

 

「え?」

「ちょ! なんで!?」

「どうやら運営からのお呼び出しみたいだな」

 

 ────そして同時刻、車の中で手当を受けていた不絵の元に、黒い物体が出現する。

 

「これ……さっきの」

「あ! 先生が付けてたやつじゃん!」

『おめでとうございます! 今日からあなたは仮面ライダーです!』

 

彼女の脳内に、どこか人間味を感じない、女性のような声が聞こえる。

 

「……かめん、らいだー? なんですかそれ?」

「……不絵? 何ひとりで喋ってるの?」

 

 もし、戦えば。また誰かを傷つける。また取り返しのつかないことを、してしまう。

 

「いいえ」

 

 ────だから不絵は、はっきりと首を振った。

 

「私は、戦う力はいりません」

 

 沈黙。

 

『そうですか……残念です。ではドライバーはそちらの方で処分しておいてください』

「……は?」

 

 彼女たちは一度、車を走らせてアドたちの元へ戻った。応急処置と治療に専念し、命が繋がったことだけを、まずは喜ぶしかなかった。

 

 それからほどなくして、ポートラルの主導により生存者たちの間に最低限の秩序が生まれた。『生存組合』の設立と、『組合間平和条約』の制定。世界が壊れたあとで、ようやく人は「守るための約束」を作り始めたのだ。

 そんな動きから少し離れた場所────生存組合『ハルノート』の拠点、クシュナの自宅では。

 

「……私、思い出したんだ」

 

 ぽつりと、不絵が口を開いた。視線は落とされたまま、指先がわずかに震えている。

 

「私がケイちゃんのお父さんを殺したこと」

 

 空気が、張り詰める。

 

「……それでケイちゃんのことを縛り付けてるのかなって」

 

 毛糸は一瞬、言葉を失った。

 

「違うんだッ」

 

 反射的に、声が荒れる。

 

「じゃあなんで私以外にあんな態度取るのよ!」

「だから私は不絵以外っ……!」

「違う! ケイちゃんは私に依存してるだけ!」

 

 吐き出すような言葉の応酬。その途中で、毛糸の声が途切れた。

 

「……もういいよ」

 

 踵を返そうとする背中に、不絵が縋りつく。

 

「ケイちゃん!」

 

 抱きしめられた腕の中で、不絵は震えながら言った。

 

「……私から、解放されていいんだよ?」

 

 毛糸は、ゆっくりと不絵を引き剥がし、正面から見つめた。

 

「……違うって、言ってるだろ。私は恩なんて関係ない。不絵だから、好きなんだ」

「……」

「……今までごめん」

 

 次の瞬間、毛糸は不絵を引き寄せた。乱暴で、それでも優しい口づけ。……不絵の初めてだった。

 

「……ケイちゃん、下手?」

「……ふふ、ははははは!」

 

 顔を見合わせ、思わず笑いが零れる。その様子を、ハルノートの仲間たちは少し離れた場所から見守っていた。

 

 ────3ヶ月後。

 

「……それじゃあヒサギン! 今日もメルターとの会合だよ〜!」

「はぁ……本当に嫌なんだけど」

 

 しかし来栖崎の憂鬱はやがて晴れる。人生初の弟子の登場とともに。

 

「────あれ? 俺……死んだはずじゃ……」

 

 はじまり、はじまり。




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