とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
第23章 高みへ至る、三つの試練。
────千里は長い。たとえ虎でも、駆け抜けられないほどに。なのにあなたは、それに挑む。だからあなたは強いのだ。
同年 7月15日
「ただいま戻りました!」
「お? ケンティーたちも今戻ったとこ? う〜ん……なんか1週間ぶりに会った気がするんだけど〜……」
「何言ってるんですかアドさん? ……まあ……すみません……ハルノートはまだ保留ということになってしまいました」
「まぁ不絵っちは穏健派っていうか戦い嫌なタイプだからね〜」
「それ先に言っといて欲しかったです」
軽口を叩きながら、アドは笑って肩をすくめる。そのやり取りを横目に、賢人はふと胸の奥に、説明しづらい違和感を覚えた。
────たった一日。それなのに、やけに長く離れていたような感覚。言葉にしきれない郷愁が、じわりと湧く。
「甘噛! 師匠! サン! アドさん百喰さん姫片さん豹藤さんやいとさん沙織ちゃん沙南ちゃん!! 大好きです!!」
唐突な叫び。
「えぇ……」
「怖ぁ……」
「……気味が悪い、です」
「沙南!! 賢人の兄貴が!」
「……お姉ちゃん、あれはイカレポンチなだけ」
「……え? 皆さん酷くないですか……?」
賢人が本気でショックを受けていると、肩にそっと手が置かれた。
「……ケンティー」
アドが、笑顔のまま首を横に振る。
「……いやいやいや。もう助けて甘噛!!」
「あら? 浮気者はメッ! ですわよ?」
「そういう好きじゃないって〜!!」
……と、一通り全員の顔を見合わせて満足した賢人は落ち着きを取り戻し居残り組に問いかける。
「……そういえばメギドって襲ってこなかったですか?」
「いや来なかったわよ?」
来栖崎の即答に、賢人の背筋がわずかに冷えた。
「……おかしい」
あれだけ執拗に攻めてきていたのに。沈黙は、嵐の前触れにしか思えなかった。
「もしかしてPALと組んだんじゃ……。でもセイバーじゃストリウスがラスボスだったし……」
思考が嫌な方向へ転がる。賢人は無意識のうちに、来栖崎の手を掴んでいた。
「え? ……は! なになに!?」
「3冊のワンダーコンボに、耐えられる身体にしてください」
空気が変わる。冗談でも勢いでもない。切実な目だった。
「……賢人様?」
甘噛が不安そうに声をかける。
「ごめん、甘噛じゃダメなんだ。俺を本気で殺す気で特訓してくれる人じゃないと」
そう言って、賢人は彼女の頭を撫でた。
「何よ、私がアンタに殺意あるみたいじゃん」
「いやそんなこと言ってないです! ……その、最初の特訓ですごいしごきだったので……」
来栖崎は小さく息を吐いた。
「……いいわ。着いてきなさい」
向かった先は、メグリエに併設されたジム施設だった。
「はいこれ。まぁ薄々気づいてたわ。あの本が3つ揃ったときからね」
そう言って来栖崎は手を伸ばした。
「……? なんですか?」
「剣と本、全部」
「え?」
「早くし・て」
有無を言わせぬ圧に、賢人は聖剣とワンダーブックを差し出す。
「はい没収。それじゃあスタート」
スイッチが押され、床が動き出した。
「え!? ちょ、なんですかこれ!?」
「はい走って。走るのやめたらリセットだから」
第一の試練 ────聖剣の力に頼らず、身体だけで限界まで動け。
「いや簡単……じゃないですねこれ!?」
時間が削られる。呼吸が乱れ、脚が重くなる。……五時間後。
「終わり……」
「休まない」
倒れ込む前に引き起こされる。指差されたのは、檻。
「中の剣を取り出しなさい」
第二の試練────力を使わず、発想で状況を変えろ。
「いつの間にやってたんですか……って明らかに穴の大きさ足りないですよ!?」
「ここ使って取り出すの」
来栖崎は賢人の頭を指差す。
「えぇ……」
疲労で思考が鈍る。一時間、進展なし。
「はぁ……。賢人、あんたいつもどうやって姿変えてんの?」
痺れを切らした来栖崎がヒントを与えた。
「……変身するとき。……え、そりゃあ腰のベルトじゃないですか? 仮面ライダーなんですから……"腰"にベルト巻いてない仮面ライダーなんて……」
「いやそんなオタク知識聞いてないから」
「……」
熟考。変身ベルト。聖剣、形状変化。そこから導き出される答えは……。
「ああああ!!! わかりました!! そう!! 聖剣ソードライバーなら小さくなるからそれってことですね!? はい天才!!」
「はぁ……。ま、早いんじゃない? あんたにしては」
来栖崎は頷いた。
「最後」
彼女は距離を取る。
「変身禁止。能力禁止」
最終試練────恐怖と疲労の中で、考えることをやめるな。
「……勝て、ですか?」
「いいや」
来栖崎は構えた。
「耐えろ。崩れたら終わり」
賢人は息を整える。
「単純でいいです」
彼は足元の聖剣を握り、来栖崎を見据える。踏み込み。
「早い────ッ!」
────感染による膂力の向上。次の瞬間、視界が歪む。
「っ……!」
避けきれなかった。肩に衝撃。骨にまで響く重さ。息が詰まり、肺の空気が一気に押し出される。
「立ちなさい」
倒れる暇も与えられない。賢人は歯を食いしばり、身体を起こす。脚が震える。視界の端が暗く滲む。
次は来ると分かっているのに、身体が追いつかない。
木刀が振り下ろされる。腕で受けた衝撃が、肘から肩へと走る。
「ぐっ……」
「止まるな」
反射的に後退る。その一歩を、見逃さない。床を蹴る音。視線を上げた時には、もう目の前だった。
「っ……!」
胸元を掴まれ、投げ飛ばされる。背中が床に叩きつけられ、鈍い音がジムに響いた。
肺が悲鳴を上げる。呼吸が、できない。
────起きろ。頭の中で、誰かが叫ぶ。まだ、立てる。指が床を掴む。震えながらも、賢人は身体を起こした。
「……いい目してるじゃない」
来栖崎の声が、少しだけ低くなる。だが、次の瞬間にはもう踏み込んでいる。
速く、重く、そして容赦がない拳、蹴り、体当たり。
すべてが倒すためではなく、限界を越えさせるための動きだった。
賢人の思考が、削れていく。変身さえ、聖剣さえ、ライドブックさえ使えれば。
誘惑が頭をよぎる。そのたびに、歯を噛み締める。
────使うな。
────今は、使うな。
自分の身体だけを信じろ。ふらつきながらも、賢人は踏ん張った。
その瞬間。
「おヤぁ? 白の剣士はイないノデすかァ?」
階下から、歪な声が響く。
「嘘……だろ?」
「余所見しないッ!!」
「ッ!?」
賢人は振り下ろされた刀身を手で掴む。
「賢人様! 今はわたくし達で抑えます!! 終わるまで来てはなりません!!」
階下のメギドと戦う甘噛の声が響く。
「ッ……!」
賢人は拳を握った。震えは止まらない。息も荒い。
それでも、目だけは逸らさなかった。
────ここで折れたら、全部無駄になる。迫る恐怖と、眼前の来栖崎。
「俺は……!」
振り切った聖剣が淡く白く光る。
「ッ……! 聖剣の能力は使うなって────」
弾き飛ばされた来栖崎の目が、賢人を鋭く捉える。そして何故か、来栖崎に痛みはなかった。
「違いますっ! これは……」
それは、かつての剣士が引き起こした聖剣の覚醒。
「……あぁ。いや、アンタ嘘つくの下手だから分かるわ。それよりも」
来栖崎は、普段ならしない笑顔で親指を立てる。
「合格よ」
その頃、ポートラル戦闘班はストボロスを食い止めていた。
「くっ……なんなんですのこの強さッ!」
「前の2体とはダンチだぞ……!」
甘噛と姫片が攻撃を凌ぎながら叫ぶ。
「それにあの見た目……。薄気味が悪い……!」
礼音の言う通りストボロスの怪人態は継ぎ接ぎで、ゴミ山に捨てられた人形のように悼ましい様相を呈していた。
「そコにイるのハ主人公サんではありまセんかぁ……?」
「……ッ!」
ストボロスは、サンに歩み寄る。
「あナた……不死、なんでしたか? ……でハ……じっくりいたぶってあゲましょウっ、かァッ!」
奴は大きく腕を振りかぶる。
────その継ぎ接ぎの腕が当たるすんでの所で、ストボロスの腕が弾け飛んだ。
「……悪い、待たせた。そしてありがとう。ここからは俺に任せてください」
『波癒抜刀!』
「変身────!!」
『エナジーユニコーン!!』
聖なる白き炎が賢人の身体を包み、その姿を変える。
「────はあッ!!」
ストボロスの胸部が蠢き、異形の顔が浮かび上がる。かつてのメギドたちの残骸。
「……ッ」
一瞬の躊躇。それを、ストボロスは見逃さなかった。
「今でスッ!!」
『無断合冊……!』
全てを飲み込む"無"の象徴、ブラックホール。ストボロスはそれに飲み込まれ、再度現れる。
その右肩と胸部にレジビル、ズモンの顔が浮かぶ。
「これは……」
ヴァルキュアは、もう一冊────そしてさらにもう一冊、ワンダーブックを挿した。
「はぁッ!!!」
『波癒抜刀!』
流れる様な抜刀。神獣、動物、2体を包む聖なる水。それらが賢人の体を包む。
『戦火を巡る白き一角獣を、誰が呼ぶ スピニングユニコーン!! 波癒三冊! 白銀の
全身を白に染め、ヴァルキュアは立つ。
「ストボロス……! お前はここで倒す……!」
一歩踏み出す。
「はぁッ!」
ストボロスの分身体はユニコーンが放った光によって打ち消される。
しかし、召喚された神獣は奴のブラックホールに吸い込まれて無に帰る。
「ひでぇな! それが物語のメギドのやることかよ!!」
「ものガたリぃ……? そンなモの……もウ忘れましたヨ!!」
周囲の物を吸い寄せるブラックホール。ヴァルキュアは地面に聖剣を突き立て何とか体勢を維持する。
負ける訳にはいかない。覚悟が、彼を強くする。
『必殺読破!!!』
「お前の物語が薄いなら、俺が厚くしてやるよッ!」
「そんな事……言っタおぼエはあリませんガァ?」
「覚えてんだよあん時のお前の顔!! ……だからお前の苦しみも、俺が解いてやるよ!!」
『波癒抜刀! ユニコーン! リザード! 命の水! 3冊斬り! キュ・キュ・キュ・キュア!!!』
刀身に癒のエネルギーが宿り、さらに再度淡く白く光る。
「はああ……はあッ!!」
斬撃は正確にストボロスのブックを捉えた。そのブックは奴の身体から排出される。
「がふゥ……! あ……れ? ここは……」
そして身体が、崩壊を始める。更にもう1冊ライドブックが弾き出され、宙を舞う。
「……そういうこと、ですか。……所詮、私もあなたと同じこの世界の異物だったと……」
声が、変わる。継ぎ接ぎだった身体が崩れ始め、元の姿であろう怪人態に戻っていく。
「私に
そう言ってストボロスは灰になり、ヴァルキュアの前で息絶えた。
「……なんだよ、最期だけ戻りやがって」
静寂。
ヴァルキュアは、剣を下ろす。
深く息を吐き、仲間たちの方を振り返った。
貴方の話はつまらない。長いから。それでも貴方の話を聞きたいのは、貴方が好きだから。
Tips.絆コンビネーション 各キャラには様々な絆と呼ばれるのが設定されているぞ。所属している組や職業だったり登場したイベント、季節など。組み合わせると様々な効能があるぞ。
7話ぶりの本編、嬉しい?
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はい
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いいえ
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どうでもいい