とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

35 / 77
第25章 生存組合、世界を賭けて。

 

 ────わたしはありふれた普通の女の子。あなたに会えて、幸せだったよ。今でもわたしは、あなたが好きだ。でももう、後悔はない。

 

 明朝、作戦は開始した。

 

『作戦はこうだ』

『一寸武士!』

 

 飛羽真から譲り受けたライドブックの数々。賢人はそれらを駆使し侵入する。

 

『斜目病院地下入口には大量の兵士が常に交代で警備している』

「……ザル警備だな」

 

『それらに見つからないためのブックを使い侵入する。賢人、来栖崎、甘噛、頼めるか?』

「甘噛、師匠。絶対に離れないでくださいね」

 

 3人は一寸武士の力で自分たちの体を縮小し、換気扇の中を進んでいく。

 

『そしていずれバレるが……その前に連合軍が陽動、足止めをする』

「生存組合のお通りナリ〜!!」

 

 アドが先陣を切る。 軽口とは裏腹に、その一歩一歩は地面を叩き割るように重い。

 

「侵入者を確認! 排除する!」

「部隊、前進!」

 

 政府軍の隊列が一斉に動いた。 銃口が揃い、無機質な殺意が空気を満たす。

 だが────。

 

「やれ、音姫」 

「了解」

 

 低く告げたいちごの声と同時に、少女が一歩前へ出る。音姫が息を吸い、喉を震わせた。次の瞬間。

 バン。1発にしか聞こえないのに、互いに離れた兵士を、何人も屠った。

 

「な、なんだ……?」

「急に倒……」

「今だよぉ!」

 

 アドの合図で、連合軍が一気に踏み込む。

 

「うらぁッ!!」

「押し込め! 押し込め!」

 

 盾が砕け、隊列が崩れる。 だが政府軍も黙ってはいない。

 

「後退しろ! 狙撃班、前へ!」

 

 その瞬間。

 

「……あれが大将か……?」

 

 一人の兵士が、後方に立ついちごを視界に捉えた。 指が、引き金にかかる。

 

 銃声が響く────その直前。

 

「────誰が触っていいと言った?」

 

 低く、冷えた声。

 

「……へ?」

 

 兵士の視界が、ぐにゃりと歪む。 次の瞬間、視界いっぱいに赤が広がった。

 キセルを投げ、兵士の目に突き刺したのだ。

 

「……ふぅ。ありゃもう使えねぇ。音姫、替え持ってこい」

「はい」

 

 即座に替えのキセルを差し出す音姫。

 

「ひゅーひゅー! さすが愛人ナンバーワンは違うねぇ!」

「おっと危ない。ハエがたかってたよ」

 

 笑うアドの真横を、音姫の足が貫く。淡々とした声。 その背後ではすでに複数の兵士が倒れている。

 

「くそっ、化け物どもめ!」

「包囲しろ!」

 

 包囲網が再形成される。 だがそれを嘲笑うように、別方向から爆音が響いた。

 

 ドンッ!! 

 

「うわぁぁ!?」

 

 即席爆薬。礼音が投げ込んだそれが、隊列を分断する。

 

「陽動成功! 連中、完全にこっちに釘付けです!」

 

 百喰が通信越しに叫ぶ。その頃、地下へ続く換気ダクトの奥では────誰も知らない。誰も気づいていない。この地上の混乱が、たった三人の侵入者のために引き起こされたことを。

 

「……よし」

 

 瓦礫の影で、アドが歯を見せて笑う。

 

「ケンティー。今頃、腹の中に入り込んでる頃だよねぇ」

 

 銃火と怒号が飛び交う中、彼女は叫ぶ。

 

「行け!! 剣士ちゃん!!」

 

 その声は、地上で掻き消された。

 だが確かに────物語を前へ押し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PAL研本部地下一階。巨大なビーカーの中に、何人もの改造人間が眠っていた。

 

「神峰透露! そっから先は行かせないッ!」

 

 神峰はいまだ、そこに居た。

 

「待ちくたびれたよ。遅すぎてこの子達の改造が終わってしまった」

 

 彼は地べたに胡座をかき、阿繭と吽前の体を分解していた。

 

「……!」

 

「さぁ行きなさい阿吽御前」

「あぁ任せとけ。神峰サン」

 

「クソッ……師匠! 甘噛!」

『波癒抜刀!』『スピニングユニコーン!!』

 

 3冊の力がその身に宿る。

 

「早速使ってきたか。ならこれはどうかな?」

 

 神峰は1つのビーカーに手をかける。

 

「改造人間第1号 月詠真司くん、出番だよ」

 

 その名前を聞いて、来栖崎の顔はみるみるうちに青ざめていく。

 

「ど、どういたしましたの?」

「真……司?」

「まさか貴方の……。……賢人様はアレの相手を。わたくしが来栖崎さんの無念を晴らしますわ」

 

 甘噛は改造人間と化した来栖崎の恋人を見据える。

 来栖崎は、震える息を吐いた。

 

「……綴。あれは、もう真司じゃない」

 

 言い聞かせるように、自分自身に向けた言葉だった。

 巨大なビーカーが開き、粘性のある液体が床に流れ落ちる。 その中から、ゆっくりと“それ”は歩み出た。

 月詠真司だったもの。皮膚には縫合痕、片腕は異形の装甲に置き換えられ、瞳には光がない。 だが────。

 

「……来、栖……」

 

 掠れた声が、確かに名を呼んだ。一瞬、来栖崎の足が止まる。

 

「感情残滓も上々、記憶は不要だけど、執着は武器になる」

 

 神峰が愉しげに拍手を打つ。

 

「……外道」

 

 甘噛が低く吐き捨て、前に出た。

 

「来栖崎さん。あなたは後ろへ。これは、私が────」

「いや」

 

 来栖崎は刀を構える。

 

「……これは、私の役目よ」

 

 次の瞬間。改造人間・月詠真司が、地面を蹴った。

 ドンッ!! 常人離れした跳躍。 甘噛が即座に迎撃に入る。

 

「──速い!」

 

 刃と装甲が激突し、火花が散る。 衝撃で床が抉れ、二人の間に衝撃波が走る。

 

「ッ……!」

 

 甘噛が弾かれ、壁に叩きつけられる。

 

「綴!!」

 

 来栖崎が踏み込み、斬りかかる。だが返ってきたのは、無機質な一撃。

 ガァン!! 腕の装甲が刀を弾き、拳が腹部に叩き込まれる。

 

「ぐっ……!」

 

 吹き飛ばされ、床を転がる来栖崎。

 

「ほらほら、いいデータだ。愛情は戦闘効率を下げる」

 

 神峰の声が、上から降ってくる。

 

「……黙れ!!」

 

 来栖崎の血が反応する。

 

「うッ……!」

 

 ウイルスは完全に抑制したはず。なのに今、来栖崎の目は徐々に赤くなっていく。しかしその視線は、まっすぐ真司を見据えている。

 感染状態以上の膂力向上、そして発症状態なのに理性を保つその状態。

 

 ────まさに感染少女。

 

「……終わらなければ、始まらないッ!」

 

 次の瞬間、二人が同時に踏み込んだ。

 その頃。少し離れた実験区画。

 

「神峰透露……!」

 

 阿吽御前を破壊したヴァルキュアが剣を構え、神峰に向き直る。

 

「今度こそ止める」

「止める? 研究は止まらないよ」

 

 神峰は立ち上がり、覇剣ブレードライバーを構える。

 

「君たちは“物語の中の英雄”だ。しかし私は────」

 

 バックルが唸る。

 

「物語を書き換える側だ」

『……抜刀』

 

 波が再び渦巻く。

 

「……来い!!」

 

 ヴァルキュアが踏み込み、斬撃を放つ。だが、ファルシオンは一歩も動かない。

 

「遅い」

 

 水流が剣を絡め取りそのまま叩き返し、ヴァルキュアが後退する。

 

「君は強い。でもね」

 

 神峰は剣先を向けた。

 

「“一人で背負う英雄”は、必ず潰れる」

 

 圧倒的な水圧が、空間を支配する。

 

「……それでも」

 

 ヴァルキュアは剣を握り直す。

 

「物語を書き換えるのは俺だッ」

 

 二つの戦いが、同時に激化する。改造人間・月詠真司の拳が、再び唸りを上げた。

 

 ガンッ!! 来栖崎は刀で受ける。だが衝撃は重く、足元の床に亀裂が走る。

 

「……ッ」

 

 腕が痺れる。それでも、視線は逸らさない。

 

「……真司」

 

 その名を呼んだ瞬間。

 

「……ク……ル……サキ……」

 

 歪んだ声が、確かに返ってきた。

 

「!!」

 

 甘噛が息を呑む。

 

「来栖崎……!」

 

 改造人間の動きが、一瞬だけ鈍った。

 拳が止まり、視線が彷徨う。

 

「……今よ!」

 

 ────来栖崎の一閃が、真司の身体を裂く。膝が崩れ、真司の体が前のめりに倒れた。

 来栖崎がそれを受け止め、静かに見下ろした。真司は人の体を取り戻し、眠りについた。

 

「……終わった、のですね」

 

「えぇ、私たちの戦いは、ね」




原作ではここでサン、来栖崎、百喰、アド以外全員死にます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。