とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────わたしはありふれた普通の女の子。あなたに会えて、幸せだったよ。今でもわたしは、あなたが好きだ。でももう、後悔はない。
明朝、作戦は開始した。
『作戦はこうだ』
『一寸武士!』
飛羽真から譲り受けたライドブックの数々。賢人はそれらを駆使し侵入する。
『斜目病院地下入口には大量の兵士が常に交代で警備している』
「……ザル警備だな」
『それらに見つからないためのブックを使い侵入する。賢人、来栖崎、甘噛、頼めるか?』
「甘噛、師匠。絶対に離れないでくださいね」
3人は一寸武士の力で自分たちの体を縮小し、換気扇の中を進んでいく。
『そしていずれバレるが……その前に連合軍が陽動、足止めをする』
「生存組合のお通りナリ〜!!」
アドが先陣を切る。 軽口とは裏腹に、その一歩一歩は地面を叩き割るように重い。
「侵入者を確認! 排除する!」
「部隊、前進!」
政府軍の隊列が一斉に動いた。 銃口が揃い、無機質な殺意が空気を満たす。
だが────。
「やれ、音姫」
「了解」
低く告げたいちごの声と同時に、少女が一歩前へ出る。音姫が息を吸い、喉を震わせた。次の瞬間。
バン。1発にしか聞こえないのに、互いに離れた兵士を、何人も屠った。
「な、なんだ……?」
「急に倒……」
「今だよぉ!」
アドの合図で、連合軍が一気に踏み込む。
「うらぁッ!!」
「押し込め! 押し込め!」
盾が砕け、隊列が崩れる。 だが政府軍も黙ってはいない。
「後退しろ! 狙撃班、前へ!」
その瞬間。
「……あれが大将か……?」
一人の兵士が、後方に立ついちごを視界に捉えた。 指が、引き金にかかる。
銃声が響く────その直前。
「────誰が触っていいと言った?」
低く、冷えた声。
「……へ?」
兵士の視界が、ぐにゃりと歪む。 次の瞬間、視界いっぱいに赤が広がった。
キセルを投げ、兵士の目に突き刺したのだ。
「……ふぅ。ありゃもう使えねぇ。音姫、替え持ってこい」
「はい」
即座に替えのキセルを差し出す音姫。
「ひゅーひゅー! さすが愛人ナンバーワンは違うねぇ!」
「おっと危ない。ハエがたかってたよ」
笑うアドの真横を、音姫の足が貫く。淡々とした声。 その背後ではすでに複数の兵士が倒れている。
「くそっ、化け物どもめ!」
「包囲しろ!」
包囲網が再形成される。 だがそれを嘲笑うように、別方向から爆音が響いた。
ドンッ!!
「うわぁぁ!?」
即席爆薬。礼音が投げ込んだそれが、隊列を分断する。
「陽動成功! 連中、完全にこっちに釘付けです!」
百喰が通信越しに叫ぶ。その頃、地下へ続く換気ダクトの奥では────誰も知らない。誰も気づいていない。この地上の混乱が、たった三人の侵入者のために引き起こされたことを。
「……よし」
瓦礫の影で、アドが歯を見せて笑う。
「ケンティー。今頃、腹の中に入り込んでる頃だよねぇ」
銃火と怒号が飛び交う中、彼女は叫ぶ。
「行け!! 剣士ちゃん!!」
その声は、地上で掻き消された。
だが確かに────物語を前へ押し出していた。
PAL研本部地下一階。巨大なビーカーの中に、何人もの改造人間が眠っていた。
「神峰透露! そっから先は行かせないッ!」
神峰はいまだ、そこに居た。
「待ちくたびれたよ。遅すぎてこの子達の改造が終わってしまった」
彼は地べたに胡座をかき、阿繭と吽前の体を分解していた。
「……!」
「さぁ行きなさい阿吽御前」
「あぁ任せとけ。神峰サン」
「クソッ……師匠! 甘噛!」
『波癒抜刀!』『スピニングユニコーン!!』
3冊の力がその身に宿る。
「早速使ってきたか。ならこれはどうかな?」
神峰は1つのビーカーに手をかける。
「改造人間第1号 月詠真司くん、出番だよ」
その名前を聞いて、来栖崎の顔はみるみるうちに青ざめていく。
「ど、どういたしましたの?」
「真……司?」
「まさか貴方の……。……賢人様はアレの相手を。わたくしが来栖崎さんの無念を晴らしますわ」
甘噛は改造人間と化した来栖崎の恋人を見据える。
来栖崎は、震える息を吐いた。
「……綴。あれは、もう真司じゃない」
言い聞かせるように、自分自身に向けた言葉だった。
巨大なビーカーが開き、粘性のある液体が床に流れ落ちる。 その中から、ゆっくりと“それ”は歩み出た。
月詠真司だったもの。皮膚には縫合痕、片腕は異形の装甲に置き換えられ、瞳には光がない。 だが────。
「……来、栖……」
掠れた声が、確かに名を呼んだ。一瞬、来栖崎の足が止まる。
「感情残滓も上々、記憶は不要だけど、執着は武器になる」
神峰が愉しげに拍手を打つ。
「……外道」
甘噛が低く吐き捨て、前に出た。
「来栖崎さん。あなたは後ろへ。これは、私が────」
「いや」
来栖崎は刀を構える。
「……これは、私の役目よ」
次の瞬間。改造人間・月詠真司が、地面を蹴った。
ドンッ!! 常人離れした跳躍。 甘噛が即座に迎撃に入る。
「──速い!」
刃と装甲が激突し、火花が散る。 衝撃で床が抉れ、二人の間に衝撃波が走る。
「ッ……!」
甘噛が弾かれ、壁に叩きつけられる。
「綴!!」
来栖崎が踏み込み、斬りかかる。だが返ってきたのは、無機質な一撃。
ガァン!! 腕の装甲が刀を弾き、拳が腹部に叩き込まれる。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされ、床を転がる来栖崎。
「ほらほら、いいデータだ。愛情は戦闘効率を下げる」
神峰の声が、上から降ってくる。
「……黙れ!!」
来栖崎の血が反応する。
「うッ……!」
ウイルスは完全に抑制したはず。なのに今、来栖崎の目は徐々に赤くなっていく。しかしその視線は、まっすぐ真司を見据えている。
感染状態以上の膂力向上、そして発症状態なのに理性を保つその状態。
────まさに感染少女。
「……終わらなければ、始まらないッ!」
次の瞬間、二人が同時に踏み込んだ。
その頃。少し離れた実験区画。
「神峰透露……!」
阿吽御前を破壊したヴァルキュアが剣を構え、神峰に向き直る。
「今度こそ止める」
「止める? 研究は止まらないよ」
神峰は立ち上がり、覇剣ブレードライバーを構える。
「君たちは“物語の中の英雄”だ。しかし私は────」
バックルが唸る。
「物語を書き換える側だ」
『……抜刀』
波が再び渦巻く。
「……来い!!」
ヴァルキュアが踏み込み、斬撃を放つ。だが、ファルシオンは一歩も動かない。
「遅い」
水流が剣を絡め取りそのまま叩き返し、ヴァルキュアが後退する。
「君は強い。でもね」
神峰は剣先を向けた。
「“一人で背負う英雄”は、必ず潰れる」
圧倒的な水圧が、空間を支配する。
「……それでも」
ヴァルキュアは剣を握り直す。
「物語を書き換えるのは俺だッ」
二つの戦いが、同時に激化する。改造人間・月詠真司の拳が、再び唸りを上げた。
ガンッ!! 来栖崎は刀で受ける。だが衝撃は重く、足元の床に亀裂が走る。
「……ッ」
腕が痺れる。それでも、視線は逸らさない。
「……真司」
その名を呼んだ瞬間。
「……ク……ル……サキ……」
歪んだ声が、確かに返ってきた。
「!!」
甘噛が息を呑む。
「来栖崎……!」
改造人間の動きが、一瞬だけ鈍った。
拳が止まり、視線が彷徨う。
「……今よ!」
────来栖崎の一閃が、真司の身体を裂く。膝が崩れ、真司の体が前のめりに倒れた。
来栖崎がそれを受け止め、静かに見下ろした。真司は人の体を取り戻し、眠りについた。
「……終わった、のですね」
「えぇ、私たちの戦いは、ね」
原作ではここでサン、来栖崎、百喰、アド以外全員死にます。