とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第26章 物語を綴る、白馬の黒剣士。

 

 ────科学の本質は衰退。幼稚園児に官能小説ではなく絵本を読み聞かせるように。しかしわたしは人間を侮りすぎていたのかもしれない。そうだ、絵本など読むに値しない。

 

 戦場は、すでに限界を迎えていた。

 崩れた壁、焦げた床、砕け散った瓦礫。銃声も爆音も遠のき、残るのは剣と剣がぶつかる金属音だけ。

 瓦礫の山を踏み砕き、ヴァルキュアは剣を振り抜いた。

 

「はあああああッ!!」

 

 衝撃波が走り、床が波打つ。だが、ファルシオンは水面を歩くかのように、その一撃を受け流した。

 

「ふっ……力任せ。癒の剣が聞いて呆れるな」

 

 剣先が振られる。次の瞬間、空間そのものが“削り取られた”。

 

「くッ!?」

 

 掠めただけで、背後の壁が音もなく崩れ落ちる。存在そのものを“削り取る”ような斬撃。

 

「所詮3冊のワンダーコンボもその程度……」

 

 ファルシオンが歩み寄るたび、床に水紋が広がる。それは水ではない。虚無が空間を侵食している証だった。

 

「では……終いにしましょうか」

『必殺黙読』

 

 次の瞬間、世界が裏返った。

 覇剣が唸りを上げ、天井から、壁から、床から────あらゆる方向から虚無の刃が生まれる。

 全包囲、逃げ場なし。

 その瞬間────。

 

『スペリオルユニコーン!』

 

 光が、割って入った。

 

「なに……?」

 

 虚無が、止まった。

 漆黒の輝きが、斬撃を正面から受け止めている。

 1冊のライドブックが、盾のように展開されていた。

 

「ストボロスの本……」

 

 ヴァルキュアは、息を呑む。

 "彼"が最期に遺したライドブック。

 メギドの力、というのもあってメグリエに放置されていたはずだった。しかしどういう訳かヴァルキュアのピンチに駆けつけたのだ。

 

「……ワンダーライドブックだったのか」

 

『封じられた力を秘めし、強き一角獣を乗りこなす、白馬の王子!!』

 

 ページを開くと、光が爆発した。全身を駆け巡る、熱と衝動。痛みが消え、疲労が燃料に変わる。

 

「力がみなぎる……」

 

 ヴァルキュアは剣を握り直し、正面に立つファルシオンを見据えた。

 

「お前は、俺が倒す!」

 

 宣言だった。英雄としてではない、一人の剣士としての。

 

『波癒抜刀! Please call me スカイライド! スレイヤーエネミー! スーパースター!! スペリオルユニコーン!! つまり、最強!!』

 

 黒く、鈍く輝く装甲が、既存の鎧の上に重なっていく。力を誇示するのではなく、内へと圧縮された“暴力”。

 

『スペリオルブースター!』

 

 手甲が展開され、治癒エネルギーが放たれる。それは敵ではなく、周囲へ。瓦礫の下でうめく者。遠くで倒れていた仲間。建物自体を、淡い光が包み込む。

 

 ────次の瞬間、2人が同時に踏み込んだ。剣と剣が激突するたび、衝撃波が周囲を吹き飛ばす。水流が竜巻となり、治癒光がそれを貫く。

 

「虚無は全てを終わらせる!」

「いいや終わらせない! 結末はみんなで作るものだッ!」

 

 ファルシオンの一撃が、建物を縦に両断する。ヴァルキュアの反撃が、虚無の波を押し返す。

 

『スペリオル必殺斬り!』

『神獣無双斬り!』

「はあああああッ!!」

 

 白銀と黒が衝突し、世界が一瞬、無音になった。

 

「効かな」

 

 言い切る前に、異変が起きた。

 

「……なん、だと?」

 

 ファルシオンの装甲に亀裂が走る。次いで音を立てて崩れ落ちた。虚無が、剥がされていく。

 

「これでお前はもう、仮面ライダーじゃない」

 

 ヴァルキュアの言葉と同時に、変身が解除される。

 神峰透露の姿が露わになり、無銘剣虚無は自らワームホールを生み出し、別の世界へと旅立っていった。

 

「……終わったのか」

「……私にはまだ────」

 

 神峰は一歩下がり何かを言いかけ、そのまま、姿を消した。撤退、それだけを残して。戦場が、静まり返る。

 

「ただいま」

 

 瓦礫の向こうから、賢人が戻ってくる。

 

「賢人様!」

 

 一足先に戻っていた甘噛と来栖崎が駆け寄る。来栖崎の方は背中に意識を失くした恋人を背負っていた。

 

「あれ? その人は?」

「私の恋人、真司っていうの」

 

「まだ心臓は動いているようなので。いつかの希望を持つために、って来栖崎さんが」

「この人が……」

 

 賢人は、真司の顔を見て小さく息を吐いた。

 

「そういえばさ」

 

 瓦礫の上から、アドが声をかける。

 

「急にアイツら戦うのやめたんだけど、なにかした? ケンティー」

「……いや、神峰を倒しただけだけど」

 

 賢人は首を振る。

 

「おかしいなぁ……女性の声で停戦命令があったんだよ」

「……そんなの知らない、けど……。それが政府の命令ならもう渚輪区は大丈夫なんじゃないか?」

「……そういうことには……なるね」

 

 誰もが、完全には納得していなかった。だが、それ以上を追う余力もなかった。

 彼らは、戦場を後にする。不安を、胸の奥に残したまま。夕日が、瓦礫を赤く染めていた。

 

 一方何とか逃げ延び、渚輪湾の淵に立つ神峰。

 

「……はぁ、まあいいでしょう。……と、偏見で物を────うぐッ!?」

 

 背中から、剣が突き抜ける。

 

「現地人にはこれが限界か。……それじゃあ、大地に広めるとするか」

 

 それはあるものと"契約"した人間。神峰の体が崩れ落ちる。

 ────そして。それは本州に灯った、新たな火種だった。




次回予告
剣士列伝 シルヴァニア編
第1章 姉妹の絆、銀の国。
────これは大感染に至るまでの、姉妹の物語。
「賢人ッ! 賢人ッ!」
「ここは銀の国シルヴァニア」
「この国の管理者────だ」
「銀の国は、怖くない」
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