とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────科学の本質は衰退。幼稚園児に官能小説ではなく絵本を読み聞かせるように。しかしわたしは人間を侮りすぎていたのかもしれない。そうだ、絵本など読むに値しない。
戦場は、すでに限界を迎えていた。
崩れた壁、焦げた床、砕け散った瓦礫。銃声も爆音も遠のき、残るのは剣と剣がぶつかる金属音だけ。
瓦礫の山を踏み砕き、ヴァルキュアは剣を振り抜いた。
「はあああああッ!!」
衝撃波が走り、床が波打つ。だが、ファルシオンは水面を歩くかのように、その一撃を受け流した。
「ふっ……力任せ。癒の剣が聞いて呆れるな」
剣先が振られる。次の瞬間、空間そのものが“削り取られた”。
「くッ!?」
掠めただけで、背後の壁が音もなく崩れ落ちる。存在そのものを“削り取る”ような斬撃。
「所詮3冊のワンダーコンボもその程度……」
ファルシオンが歩み寄るたび、床に水紋が広がる。それは水ではない。虚無が空間を侵食している証だった。
「では……終いにしましょうか」
『必殺黙読』
次の瞬間、世界が裏返った。
覇剣が唸りを上げ、天井から、壁から、床から────あらゆる方向から虚無の刃が生まれる。
全包囲、逃げ場なし。
その瞬間────。
『スペリオルユニコーン!』
光が、割って入った。
「なに……?」
虚無が、止まった。
漆黒の輝きが、斬撃を正面から受け止めている。
1冊のライドブックが、盾のように展開されていた。
「ストボロスの本……」
ヴァルキュアは、息を呑む。
"彼"が最期に遺したライドブック。
メギドの力、というのもあってメグリエに放置されていたはずだった。しかしどういう訳かヴァルキュアのピンチに駆けつけたのだ。
「……ワンダーライドブックだったのか」
『封じられた力を秘めし、強き一角獣を乗りこなす、白馬の王子!!』
ページを開くと、光が爆発した。全身を駆け巡る、熱と衝動。痛みが消え、疲労が燃料に変わる。
「力がみなぎる……」
ヴァルキュアは剣を握り直し、正面に立つファルシオンを見据えた。
「お前は、俺が倒す!」
宣言だった。英雄としてではない、一人の剣士としての。
『波癒抜刀! Please call me スカイライド! スレイヤーエネミー! スーパースター!! スペリオルユニコーン!! つまり、最強!!』
黒く、鈍く輝く装甲が、既存の鎧の上に重なっていく。力を誇示するのではなく、内へと圧縮された“暴力”。
『スペリオルブースター!』
手甲が展開され、治癒エネルギーが放たれる。それは敵ではなく、周囲へ。瓦礫の下でうめく者。遠くで倒れていた仲間。建物自体を、淡い光が包み込む。
────次の瞬間、2人が同時に踏み込んだ。剣と剣が激突するたび、衝撃波が周囲を吹き飛ばす。水流が竜巻となり、治癒光がそれを貫く。
「虚無は全てを終わらせる!」
「いいや終わらせない! 結末はみんなで作るものだッ!」
ファルシオンの一撃が、建物を縦に両断する。ヴァルキュアの反撃が、虚無の波を押し返す。
『スペリオル必殺斬り!』
『神獣無双斬り!』
「はあああああッ!!」
白銀と黒が衝突し、世界が一瞬、無音になった。
「効かな」
言い切る前に、異変が起きた。
「……なん、だと?」
ファルシオンの装甲に亀裂が走る。次いで音を立てて崩れ落ちた。虚無が、剥がされていく。
「これでお前はもう、仮面ライダーじゃない」
ヴァルキュアの言葉と同時に、変身が解除される。
神峰透露の姿が露わになり、無銘剣虚無は自らワームホールを生み出し、別の世界へと旅立っていった。
「……終わったのか」
「……私にはまだ────」
神峰は一歩下がり何かを言いかけ、そのまま、姿を消した。撤退、それだけを残して。戦場が、静まり返る。
「ただいま」
瓦礫の向こうから、賢人が戻ってくる。
「賢人様!」
一足先に戻っていた甘噛と来栖崎が駆け寄る。来栖崎の方は背中に意識を失くした恋人を背負っていた。
「あれ? その人は?」
「私の恋人、真司っていうの」
「まだ心臓は動いているようなので。いつかの希望を持つために、って来栖崎さんが」
「この人が……」
賢人は、真司の顔を見て小さく息を吐いた。
「そういえばさ」
瓦礫の上から、アドが声をかける。
「急にアイツら戦うのやめたんだけど、なにかした? ケンティー」
「……いや、神峰を倒しただけだけど」
賢人は首を振る。
「おかしいなぁ……女性の声で停戦命令があったんだよ」
「……そんなの知らない、けど……。それが政府の命令ならもう渚輪区は大丈夫なんじゃないか?」
「……そういうことには……なるね」
誰もが、完全には納得していなかった。だが、それ以上を追う余力もなかった。
彼らは、戦場を後にする。不安を、胸の奥に残したまま。夕日が、瓦礫を赤く染めていた。
一方何とか逃げ延び、渚輪湾の淵に立つ神峰。
「……はぁ、まあいいでしょう。……と、偏見で物を────うぐッ!?」
背中から、剣が突き抜ける。
「現地人にはこれが限界か。……それじゃあ、大地に広めるとするか」
それはあるものと"契約"した人間。神峰の体が崩れ落ちる。
────そして。それは本州に灯った、新たな火種だった。
次回予告
剣士列伝 シルヴァニア編
第1章 姉妹の絆、銀の国。
────これは大感染に至るまでの、姉妹の物語。
「賢人ッ! 賢人ッ!」
「ここは銀の国シルヴァニア」
「この国の管理者────だ」
「銀の国は、怖くない」