とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第2章 箱庭のよすが、憧れの戦士。

 

 ────戦災は常に、人と共にある。過去と未来、現在を繋ぐ唯一のそれは、容易に扱えるものではない。

 

 銀の国シルヴァニアの朝は、鐘の音から始まる。澄んだ金属音が空気を震わせ、天井の光紋がゆっくりと色を変える。

 富加宮は、その音で目を覚ました。

 

「……目覚まし時計にしては、だいぶ仰々しいな」

 

 寝台から起き上がると、すでに装備を整えた翠吟静わだちが立っていた。軍帽を被り、腰には模擬剣。完全に訓練に行く者の姿だ。

 

「起床確認。体調はどうだ」

「問題ない……たぶん」

「なら問題なしだ」

 

 即断だった。

 

「今日は修練場を見せる。銀の国の戦力をな」

「……見せる、だけか?」

「そうだ。お前はまだ部外者だからな」

 

 その言葉には、拒絶ではなく線引きの色があった。通路を進むと、すでにむぐらが待っていた。

 柔らかな笑顔と裏腹に、手には整備用の端末を持っている。

 

「おはよう、富加宮くん。ちゃんと眠れた?」

「ああ」

「……数日寝てたって聞いたけど」

「それくらいじゃあなまらないさ」

 

 その後ろから、ぱたぱたと足音。

 

「あ! ほんとに起きてる!」

 

 白名月(しろなづき)よすがが駆け寄ってくる。昨日と同じ、屈託のない笑顔。

 

「ねえねえ、今日はなにするの?」

「修練場だ。見学だがな」

「やったあ戦闘訓練だあっ!」

「あんたは来なくていい」

 

 その言葉に、しずくの冷水を浴びせる声が飛ぶ。

 

「戦闘訓練よ。遊び場じゃない」

「……えー」

「えーじゃない」

 

 さらに、ほとりが壁際から顔を出す。

 

「どうせ外の人を連れて行って罠にかけるんでしょ。それで私たち全員処分されるんだそうだそうに決まってる」

「ほとり、静かに」

 

 わだちが一喝する。

 

「よすがは補給区画で待機。むぐら、面倒を見ておいて」

「はいはい。わかったわ」

「えぇ〜、ボクも見ちゃダメ?」

 

 よすがが小さく首を傾げる。

 

「ダメだ」

 

 即答だった。

 

「……危ないから」

 

 その一言で、よすがは何も言えなくなった。修練場は、銀の国の中枢に近い巨大空間だった。円形の床、宙に浮かぶ光の障壁。周囲には、無数の投影装置。

 

「ここでは、外界から流入した“データ体”を再現して訓練を行う」

 

 わだちが説明する。

 

「メギド……とは違う」

 

 富加宮が呟く。

 

「ああ。純粋な戦闘用情報生命体だ」

 

 光が走り、3体のデータ体が出現する。人型だが、輪郭が曖昧で、顔がない。

 

「配置につけ」

 

 次の瞬間、戦闘が始まった。むぐらの体から、ありえない構造のボウガンが“生えて”きた。

 賢人は、一瞬それを武器だと認識できなかった。

 わだちの周囲にあらゆる時間軸からの戦士が召喚される。そしてしずくに群がる怪物は彼女が動かずとも切り裂かれ一掃される。

 更にほとりが何かを呟いた瞬間、空間の一部が“書き換えられた”ように歪み、怪物たちは存在ごと消えた。

 

「……連携が取れてる」

「当然だ。私たちは戦士だからな」

 

 最後の一体を、わだちが斬り伏せる。

 その瞬間────データ体が、一瞬だけ奇妙に歪んだ。

 

「……?」

 

 富加宮は眉をひそめる。今、何か────誰かが、触れたような。

 補給区画。よすがは、壁に背を預けて座っていた。膝を抱え、修練場の方向を見つめている。

 

「……やっぱり、ボクじゃダメだよね。これじゃあお母さんたちみたいに……なれない」

 

 誰に向けた言葉でもない。

 

「戦えないし……役に立たないし……」

 

 ふと、足元に小さな光が落ちた。データログの破片。修練場から漏れた、微細な情報。よすがはそれを拾い上げ、すぐに手を離した。

 

「……だめ」

 

 何かを、必死に押し殺すように。

 

 ────修練終了後。

 

「どうだった?」

 

 むぐらが賢人に尋ねる。

 

「……強い。だが……」

「だが?」

「いや、何でもない」

 

 富加宮は首を振った。視線の先で、よすがが小さく手を振っている。

 

「おかえり!」

「……ああ」

 

 その笑顔を見た瞬間、胸の違和感が、少しだけ強くなった。この子は、本当に“何も持っていない”のか? だが、その問いを口にするには、まだ早すぎた。

 銀の国は静かに回り続けている。歪みを、内側に抱えたまま。そして富加宮賢人は、まだ知らない。

 

 この何もできない少女こそが、やがて世界の認識そのものを揺るがすかもしれない存在になることを。

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