とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────少女を救う。大言壮語を引っさげて、彼の覚悟、未だ及ばず。
同年 6月9日
白い床と薬品の匂いが漂う静かな部屋。その静けさに、彼の荒い息だけがやけに響く。
担当の蜂ノ巣やいとは、扉が勢いよく開く音に驚いて振り返った。腕の中でぐったりと力を失う来栖崎の姿を見て、目を丸くする。
しかし外傷がないことを確認すると、肩の力を少し抜いた。来栖崎の肌はほんのり青ざめているが、胸元はかすかに上下している。
「……意識は?」
「戻っていません。でも呼吸はあります。あとこの聖剣の力で、感染の進行は抑えられました」
賢人が先ほどの出来事を一から説明すると、やいとは思わず口元をおさえたが、しかし医者らしく彼女は冷静に来栖崎の容態を確認する。
「呼吸も心拍数も正常。1つ懸念点があるとすれば……"血"ね。そもそもゾンビ化っていうのはね、体が腐ることじゃなく、まず血液が変質する現象なの」
「まぁ、腐敗はその血によって免疫システムが停止しちゃう……まぁ要はその血が体を仮死状態にさせて、結果的に腐らせちゃうってわけ。だからもしその“抑制”が一時的なものなら……いずれまた変化が起きる可能性がある」
やいとは眉を寄せ、手早く器具を用意した。
「血の違いを調べる必要があるわ。あなた、私、それに来栖崎さん……三人それぞれ、通常の血と“聖剣で切った血”。合計六種類の対照検査をする」
「……もしかして、注射するんですか?」
「え? するに決まってるでしょ? 聖剣の方はまた別の採り方になるけど」
「……俺、注射……嫌いなんですよ」
真剣な面持ち、そしてじっと目を見つめてそう言った賢人に、やいとは思わず爆笑してしまう。
「なにそれ可愛いこと言っちゃって。大丈夫、大丈夫。先生に任せて?」
「いっっっっっっっっっっっっっっってぇ!?」
────やいとは“研究医”ではあったが、採血の経験は決して多くない。
そして、生来のいたずら好きが災いしつい力が入りすぎたようだ。
「ごめんごめん! じゃあ次は、その剣で切ってみて」
そんなこんなで六種類すべての採血を終えたやいとは、表情を切り替え、落ち着いた声で言った。
「────はい、これで検査の準備は完了。結果が出るまで数時間かかるから、また来てちょうだい」
「はい。また後で来ますね」
震える腕を押さえながら医務室を出た賢人は、ゆっくりと息を吐いた。
「……はぁ……よかった……」
来栖崎が助かった上、更に知らない聖剣まで手に入った。謎の記憶が少し不穏だったが、安堵に胸をなで下ろしつつ、彼はその足で会議室へ向かって歩きはじめた。
「来栖崎さんをポートラルに置いておくこと、私は反対です」
会議の先陣を切ったのは、百喰だった。
「百喰さん!? なんで!?」
賢人の驚きは抑えられない。なにせ来栖崎以外の戦闘班と関わりを持たなかったから。
「まずですね新入りさん。感染者は即刻排除。これはトラブルが起きないために作った鉄の掟なんです」
「でも治ったじゃないですか!」
「それが一時的なものかもしれない。もしかしたら二度目は無いかもしれない。……不穏分子は置いては置けないんですよ」
「ッ……でも無事な状態の女の子を死地に送り込むなんて……」
「言い方が悪いですね、こんな世界でそれを許容してしまったらどうなることか。……勉強会です」
「あるところに1つの生存者の寄り合いがありました。彼女達は仲睦まじく過ごしていました。しかしある日の戦闘後、1人の少女は負った傷を隠し、あまつさえ感染した疑いを他人に擦り付けました」
彼女自身の体験か否か、百喰は少しメガネが曇る。
「そして結果、実際に感染していた少女は発症し、彼女ひとりに連鎖的に感染させられ、結果的にその寄り合いは崩壊しました。……神川さん」
彼女は一度、言葉を切った。視線が、ほんの一瞬だけ机の端に落ちる。そこに何があるわけでもない。ただ話す速度が、わずかにだけ遅れた。
「ッ……。でも……俺は……」
そして賢人が言葉を絞り出そうとした瞬間、やちるが窓の外を指差した。
「あ、あの! みなさん窓の外! 見てください!」
「あれは……来栖崎さん?!」
デパートの入口から、一人で走り出ていく来栖崎の姿が見えた。そして間髪入れずにやいとが慌てて会議室へと駆け込んでくる。
「来栖崎さんがっ、出てっちゃってっ! ……多分、みんなに迷惑かけたくなくて……それで……」
「追いかけなくちゃ!」
「いえ、その必要はありません。今しがた、来栖崎さんの処分が決定致しましたので」
百喰は迷いなく言い放った。
「違うッ!! まだですよ……まだそうと決まったわけじゃない! 来栖崎さんは……俺が連れ戻します……!」
そんな賢人の言葉にアドは思わず言い返してしまう。
「ちょっとケンティー! ……もう、諦めようよ……」
だが、百喰は口角を歪めた。
「いいじゃないですかアド、その男を行かせてあげれば。正直、協調性のない人材は必要ありません。自ら消えてくださるなら、葬儀屋いらずです」
「ッ……それでも俺は、来栖崎さんを助けにいきます。それに百喰さん。その話と違って今は……俺がいます」
賢人は振り返らず、はっきりと言い切る。歩き出す彼の背に、アドが声をかける。
「ちょっと待って」
「なんだよアドさん。俺は行きますよ」
「そうじゃなくてさ。私もついて行くって言ってるの」
「は!? アド、何を言っているのですか?!」
百喰が声を荒げる。信じていたはずの盟主が、自分の意思から外れた行動をとる。土台が崩れたような気分だった。
「規則を破ったら組織は崩壊すると、そう言ったのはアド、あなたじゃないですか!」
「破らないよモグッチ。私はただケンティーの護衛をしに行くだけ」
「そんな屁理屈────!」
アドは答えない。賢人の手を取り、会議室を出て行った。
デパートの入口周辺は、夕焼けの手前────昼の熱気と夜の気配が混ざり合う、妙に静かな時間帯だった。
西の空には薄い橙色が滲み始め、建物の影はすでに長く伸びている。静けさがひどく際立って、普段より広く感じられるほどだ。
賢人は装備を整えながら、胸の奥で来栖崎の姿を思い返す。背中の裂傷、血の色、倒れ込む直前の表情。
手袋を締める手に、じんわりと汗が滲んだ。冷たい風が頬を撫でても、鼓動の速さは落ちない。アドが隣で荷物を背負い直しながら、ちらりと賢人を見る。
「ケンティー……緊張してる?」
「……してないって言ったら嘘になります」
「だよねぇ。でも大丈夫。私がついてる」
その言葉で、ほんの少しだけ息が楽になる。それでも不安の底は消えない。胸の内側がずっとざわざわして、重くしずむ感覚が続いていた。
「賢人様ぁーーーっ!!」
────その静寂を破るように、甲高い声がデパート全体に響き渡った。
「うおっ!?」
賢人が振り返ると、薄い夕光を受けて髪を揺らしながら駆けてくる
「え!? 誰!?」
「つ、ツヅリン!?」
「わたくし……賢人様のあの勇姿に心を打たれてしまいましたの! この胸の高鳴り、止まりません!!」
「マジで誰!?」
場違いなほどのテンション。さっきまで胸にあった圧迫感が、すこしだけ晴れていく。アドが横で吹き出した。
「ほらねケンティー、癒しが来たじゃん」
「癒し……なんですかこれ……!?」
甘噛は賢人の手をぎゅっと握り、熱のこもった瞳で言う。
「賢人様が他の方を想っていても、わたくし、必ずその心を射止めてみせますわ!」
「ありがとうございます」
言葉の真意を読み解く余裕のない賢人はそれでも頭を下げて感謝を伝えた。そこへ、礼音もゆっくりと歩み寄ってくる。
「差し出がましいが……私も行かせてもらえないだろうか。来栖崎君を見捨てたくない」
夕陽を背にした礼音の影が伸びていた。
「なんで戦闘班のリーダーの貴方が……」
「……彼女を見捨てられる程、腐っていなかっただけさ」
賢人は息を吸い込み、力強く頷いた。アドが手を叩いて空気を切り替える。
「よし、じゃあ行こっか! 場所は────」
「北へ向かっていましたわ! 間違いなく」
甘噛の即答で、アドの表情に緊張が走る。
「……コスモリアランドだ。あそこに向かったんだよ」
夕焼け前の空が、赤みを増していく。賢人は聖剣の柄を握り、前を向いた。
「行きましょう。絶対に、助ける」
そして一行は、夕暮れの気配が深まる北の遊園地へと歩き出した。誰一人欠けずに戻るために────来栖崎も含めて。そして、笑顔で“ただいま”と言うために。
────未来を、変えろ。
仮面ライダーセイバー 第4章『本を開いた、それ故に。』より
感想ください
Tips.アプリ版は2016年夏に配信開始されたぞ。初期はブラウザ版のもうひとつの物語扱いだったんだぞ。ストーリーは小説版を簡略化した感じだったぞ。
ゾンビの仕組みいらんくない?
設定凝ってるのはありがたいけどな。
誰がヒロイン?
ギスギスダルい
神川賢人のキャラが好きか
-
好き
-
嫌い
-
キャラが薄い