とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第5章 弾けるマグマ、拡がるバイラス。

 

 ────わたしに心はない。それでもあなたを愛することができるのは、あなたに心があるから。あなたがいるから、わたしは人間でいられるのだ。

 

 飛行艇の貨物区画は、異様なほど静かだった。金属の床、白い壁、そして天井を走る無機質な照明。

 そのすべてが、姉妹たちの故郷────銀の国シルヴァニアを模して造られている。

 だが、どれほど精巧に再現されていようと、ここは“部屋”でしかなかった。

 逃げ場のない、檻だ。姉妹たちは整然と並ばされ、その正面に一人の男が立っていた。

 

「はじめましてだ!!」

 

 必要以上に大きな声。しかしその口調は、どこか芝居がかっている。

 

「私は第十五人類生存拠点の一切を取り仕切る……赤城優斗、という未熟者だ」

 

 形式上の謙譲。だが、目だけは違った。値踏みするような視線が、姉妹たちの身体をなぞる。

 

『……あれが政府軍の人間だな』

『多分。……あれなら赤石の方がだいぶマシです』

 

 印象操作の結界の内側で、富加宮と波癒が囁き合う。

 

「貴方が、父が信頼する研究者ですか」

 

 一歩前に出たわだちが問う。

 

「あぁ、どうだ。この部屋は気に入ってくれたか?」

「部屋というのはこの銀の国の事か?」

 

「君たちはそう呼称しているのか。まぁ、君たちがストレスを感じないよう内装まで似せて作った訳だが」

 

 赤城は肩をすくめる。

 

「まぁいい、早速で悪いが手術を開始するとしよう」

「え?」

 

 思わず声を上げたのは、むぐらだった。

 

「ん? どうかしたかい? 蒼朽寂(あくじゃく)

「あ、いやその……さっき到着したばかりですし、もうちょっと休憩してからかと」

 

 赤城は一瞬、きょとんとした顔を作り────すぐに冷笑へと変えた。

 

「おや? 不思議なことを言うな。薬で寝ているだけの君たちに、体力はいらないだろう?」

 

 あまりにも即物的な言い回しに、むぐらは言葉を失う。

 

「俺は時間の浪費を好まない。諸君らの父上も仰っていただろう。人類に残された時間は少ないと。なら即刻手術、これ以外はない。そうだろ? 蒼朽寂」

「……フッ」

 

「とはいえ手術は1人ずつだ。順番制にならざるを得ないというのは残念な限りだよ」

「ではその順番は?」

 

 低くわだちが息を吐き、続けてわずかに口角を上げて問う。

 

「何事も、長女が率先して行うものと私は心得ているが?」

「そうだよわだち姉!」

 

 それによすがも同調する。

 

「そうか。なら────」

 

 わだちの瞳が、淡く光った。

 未来視が発動する。赤城の“行き着く先”が、瞬時に脳裏へ流れ込む。

 

「……ほぉ、そうかそうか」

「どうだった? 姉さん」

「やはりコイツは……クロだ」

 

 ────次の瞬間。銀光が走り、偽よすがの首が宙を舞った。

 

「しずく、やり過ぎだ」

「……いや、これでも加減した方。こっちの方が雑魚い」

 

 切断面から血は出ない。人間ではない証明。

 

『よすが! 何が起きてる!』

『ちょっ! ボクも分かんないよ! なんでわだち姉が父に反旗翻してんの!』

『よ、よく分かんないですけど行きましょう賢人さん!』

 

「……は? き、貴様何のつもりだっ!!」

 

 赤城が怒鳴る。

 

「少々お前の未来を見させてもらった。何とも哀れで惨めで、面白い最期だな。政府軍高官 赤城優斗」

「なっ……!」

 

「妹たち! やはりよすがの言う通りだ! 少なくとも政府軍は敵! かかれぇ!!」

 

「チィっ! せっかくのストックを失う訳には行かない! お前たち! 絶対に傷は付けずに確保だッ!」

 

 赤城が歯噛みする。

 

「わだちさん! みんな!」

 

 その瞬間。

 印象操作が解除され、雷光が貨物区画を切り裂く。

 

「賢人!? それとそっちは!?」

「一輝だよ!」

 

 続いて、よすがも姿を現す。

 

「……な、なんで」

「説得する予定だったんだけどいらないみたいだね!!」

「あぁ! 変身!」

 

『黄雷抜刀! ランプドアランジーナ!!』

 

「あの姿は……母さんの……!」

 

 富加宮の変身した姿、仮面ライダーエスパーダにわだちは驚く。

 

「今はそれは後だ! 早くここから出よう!」

「姉妹の皆! 俺に捕まって!」

 

 一輝とエスパーダに抱えられ、姉妹たちは飛行艇から飛び降りる。

 

『ランプドアランジーナ』

「わあ! アラジンと魔法のランプだ!」

 

 魔法陣が展開し、空中に魔法の絨毯が現れる。そしてそれに飛び乗った彼らは飛行艇の側面をかすめながら空中を滑空する。

 

「やっぱりこの男は救世主だったんだそれで私たちの活躍の場を奪おうとしてるんだ鬱鬱鬱鬱」

 

 狭い絨毯の上で転がるほとりを、エスパーダが即座に支える。

 

「ほとりちゃん。大丈夫。君たちが戦わなくていい世界、それが俺の目指す世界だから」

「こんのクソアマァ! お前ら撃ち落とせぇ!!」

 

 銃口が一斉に向けられる。

 

「それはどうかな!」

 

 雷鳴剣黄雷が閃き、銃弾が光速で叩き落とされる。

 

「ばっ化け物っ!」

 

 赤城は最終手段と言わんばかりに手元のスイッチを押す。それは姉妹たち改造人間へ埋め込まれた制御装置の暴走機構。

 

「うぐっ……!」

「おい皆!!」

「何とか言って!!」

 

 よすがは自身に対する印象操作で難を逃れる。……しかし。

 

「よすがそれは……!」

 

 深見だけが知っているその副作用。心臓を自発的に止める、それが自身の存在抹消の発動条件。

 

「賢人! その機構は衛星からの信号で発生している!!」

「くっ……衛星……!? 遠すぎるぞ!」

「わ……私に……任せ……て」

 

 むぐらが、自らの頭を抑えながら名乗り出た。

 

「むぐ姉さん!? な、何を……」

「……私なら、届かせることが出来る」

 

 雷を帯びたボウガンが生成され、その反動が彼女の身体を軋ませる。

 

「何故……そこまで!」

「……家族……だからよ!」

 

 何を言われてもむぐらの引き絞る腕は止まらない。

 

「だったら……!」

『命の聖水!』

 

 遺跡で発見した新たなブックをランプドアランジーナと差し替える。

 

『ワンダーライダー!』

 

 聖水がむぐらを包み、悲鳴になりかけた痛みを抑え込む。

 

「────せいッ」

 

 矢が放たれ、ほとりの因果律修正が重なり衛星発信機が撃ち落とされる。爆音が大空に響く。

 

「……これは、始末書ものでは済まされないぞッ!!」

 

 属性反発で、ブックが弾き飛ばされる。

 

「なっ……」

「神峰先生からの贈り物があるだろッ、早く持ってこい!!」

 

 赤城が部下に怒鳴り散らす。即座に持ってこさせた赤城は乱暴にそれを奪い取る。

 

「あの機械は……なんだ?」

「知ってますあれ! ガイアメモリって言って……」

 

 赤城優斗の身体に吸い込まれたガイアメモリが脈動し、首筋から黒紫色の血管が浮き上がる。肉が膨張し、骨格が軋み、悲鳴にも似た金属音が飛行艇の内部に反響した。

 

『バイラス』

 

 ガイアウィスパーと同時に、赤城の身体が裂ける。

 

 ────いや、裂けたのは人の形だ。内側から噴き出したのは、菌糸、粘液、無数の微細な粒子。それらが絡み合い、装甲となり、異形の輪郭を形作っていく。赤城だったものは、もはや人ではない。

 バイラスドーパント。病原体そのものが意志を持った存在。

 

「なんという全能感!! 流石神峰先生のお手製だッ!!」

 

 ドーパントは腕を振り上げる。すると、空気が濁った。見えない。だがいる。

 昼の太陽光の下で、無数のウイルスが霧のように散布されていく。

 飛行艇の外壁、下方の渚輪区────その全域に、死の種が降り注いだ。

 

「なに……? バイラスだと……?」

「菌という意味だッ! 賢人っ! 不味いぞ!」

「菌なら火に弱いはず……クソっ、飛羽真がいれば……」

 

「……俺に任せてください」

「一輝!? お前、変身できないんじゃ……」

「2人には変身できません」

 

 それでも一輝は空を見上げた。真昼の太陽が、灼けるほどに眩しい。

 

「……でも、火が必要なんですよね?」

 

 一輝は、二つのバイスタンプを噛み合わせる。

 

『バリッドレックス! ボルケーノ!』

 

 リバイスドライバーに装填。地面が震える。

 

「変身!」

『オニアツーイ! バリヤバーイ! ゴンスゴーイ! パネェイツヨイ! リバイ!』

 

 爆発。炎とマグマが噴き上がり、一輝の身体を包み込む。

 仮面ライダーリバイ ボルケーノゲノム。足元の地面が赤熱し、空気が揺らぐ。

 

「沸きまくってきたぜ……!」

「面白いッ!!」

 

 バイラスドーパントが腕を振る。

 黒紫の霧が奔流となって押し寄せる。触れれば即座に侵食。装甲を溶かし、呼吸を奪う。

 

「はあああ!!!」

 

 リバイが踏み込む。一歩ごとに、地面が溶ける。

 拳を振るえば、炎の衝撃波。マグマが飛散し、ウイルスを焼き尽くす。

 だが、焼いても焼いても、増える。

 

「無駄だッ!! 私は感染そのものだ!!」

 

 ドーパントが飛行艇の残骸を掴み、叩きつける。その中に入っていたウイルスも共に、渚輪区全域に拡がる。

 

「っ!!」

 

 リバイは腕で受ける。衝撃で後退するが、すぐに体勢を立て直す。

 

『リババババイ リバイ!!』

「だったら……冷凍だッ!!」

 

 リバイは地面に拳を叩きつける。急速冷却。超高温から一転、極低温。

 バリッドレックスの力が発動し、バイラスドーパントの身体が一気に凍結していく。

 

「なッ……!?」

『バリッドレックス! フィニフィニフィニッシュ!!』

 

 リバイが跳ぶ。先程の炎。そして氷、相反する力を叩き込む蹴り。擬似的な二属性攻撃。それにより菌糸ごと装甲を粉砕し、核を貫く。

 

「クソォォォォッ!!!」

 

 爆散。ガイアメモリが弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。昼の空気が、ようやく澄んだ。

 

 ────だが、それと同時にリバイは変身の負荷により遠くまで吹き飛ばされてしまった。

 そして赤城の敗北を嘲笑うかのように、遠方から無数のエンジン音が迫る。

 神峰率いる大規模政府軍。同時に。

 

「賢人!? おい賢人!!」

 

 富加宮の身体が、光に包まれ始める。世界が、彼を元の世界へ引き戻していく。

 

「悪い! せめてこれを!!」

 

 姉妹たちに白のブックを投げ渡す。戦いはまだ終わらない。

 

「私に任せて」

 

 しずくが一歩、前に出る。日光を背負ったその姿は細い。だが、刃だけが異様に濃い影を落としていた。次の瞬間。振り抜いた。

 剣閃は音を置き去りにし、距離も角度も無視して神峰へ届く。空気が裂ける。

 

「ほぉ、そう来たか」

 

 だが神峰は、わずかに身を傾けただけだった。無銘剣が自然に持ち上がり、存在しないはずの軌道をなぞる。

 火花が散る。太陽光に混じり、一瞬それが見えなくなるほどの閃光。

 

「反抗期かな? 私は君の親だ。能力ぐらい全てわかっている」

「……るさい」

 

 しずくは間を置かず、二撃目。今度は“振らない”。視線だけで、斬る。

 神峰の足元、背後、頭上。同時に三本の不可視の刃が走る。

 

「────浅い」

 

 神峰は踏み込む。光を蹴散らし、しずくの懐へ一気に距離を詰める。

 

「っ!?」

 

 無銘剣が振り下ろされる。重い。空間ごと叩き潰すような一撃。

 しずくは後方へ跳ぶが、地面が抉れ、衝撃が内臓を揺らす。

 

「……チッ」

 

 着地と同時に、再び斬撃。

 今度は一点集中。防御も回避も許さない、殺すための線。

 

「だがその程度では────」

 

 神峰の剣が、斬撃そのものを無に返す。刃が触れ合ったのではない。現象が、消された。

 

「……ただの怪物ね」

「よく言われる」

 

 神峰は一歩、前へ。その影が、しずくを覆う。

 

「君は優秀だ。流石私の被造物」

「勧誘? 今さら」

「いや、評価だ」

「ッ!?」

 

 無になった斬撃がしずくの体を揺らし、白のブックを落としてしまう。

 

「おや、これはこれは……。ならもういい、君たちは用済みだ」

 

 次の一撃が来る────そう確信した瞬間。

 

「バラバラに逃げよう!」

 

 よすがの声が響く。

 しずくは舌打ち一つ。神峰を一瞥し、低く言い捨てる。

 

「……次は殺す」

 

 神峰は笑った。日の光の下で、確かに。

 

「次は、もう少しパパと遊ぼう」

「死ね」

 

 その言葉を背に、しずくは跳ぶ。姉妹たちは四方へ散り、戦場は再び引き裂かれていった。

 

「……いつか必ず! 出会うために!」

 

 よすがの声を合図に、姉妹たちはそれぞれの方向へと散った。

 

 ────命を繋げ。今はそれだけで十分だ。




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