とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────わたしは明日が大好きだ。それはひとえに、あなたがいたからこそ。
あの戦いから数日、彼らはある場所に来ていた。それは富野産業工業地帯。そこに足を踏み入れた瞬間、賢人は胸の奥がひりつくのを感じた。
「思えばここが、俺の初変身の場所なんですよね……」
「ほんまやなぁ……あん時助けてくれへんだら沙南と一緒にやられてもうてたもん」
沙織が、どこか懐かしそうに笑う。
覚醒した聖剣によってゾンビを人へ戻せるようになった今、この場所は以前ほど危険ではない。それでも────ここは“始まりの地”だった。
「今だから言えるけど、かっこよかったわよ。師匠として誇らしかった」
「師匠……!」
思わず声が裏返る賢人を見て、甘噛はくすりと笑った。
「それよりも賢人様、本当にここにあの資料の人達はいますの?」
「うん。だってあの時瓦礫に埋もれてたゾンビたち、追ってこなかっだろ? つまりあれは姉妹のうち誰かが倒してくれたってこと」
賢人は一冊のブックを取り出す。
『キリンの恩返し』『とある物語! 習得一閃!』
剣の軌跡から現れたキリンが、静かに首を振り、奥へと進む。導かれるようにして辿り着いたのは、一軒の古い工場だった。
「すごいですわ……!」
「これで"恩返し"できるからさ」
中に入った瞬間、空気が変わる。
屋内には大量のゾンビの死体。屋上に至るまで、無数の斬痕が残されていた。
「君が、緋鍵峰しずくちゃん?」
白い服、白い髪、白い肌。色を持つのは、鋭くこちらを射抜く瞳だけ。
「そのベルト……!」
その瞬間、不可視の殺気が膨れ上がる。
「え……!?」
「賢人のと同じ……!」
「賢人!? 俺賢人だけど!?」
「あんたは富加宮賢人じゃない!」
鋭い否定。だがその声には、敵意だけでなく混乱が滲んでいた。
「富加宮賢人? え? もしかして行方不明になってたっていう賢人くんはここに来てたの!?」
「……は?」
「だったら俺たちは敵じゃない! ……それに君の家族も救いたいと思ってる!」
賢人は一歩前に出る。彼の食い気味の態度に、しずくは怒りよりも不快感が勝ってしまう。
「何……言ってるの……?」
「事情は少しはわかってる。君たちの生まれた理由も……君の力も」
「……聞く価値は、ありそうね」
しずくはしばらく賢人を見つめ────やがて視線を逸らした。
「どこ行くの……?」
「いいから」
「えちょ!?」
しずくはそれだけ言って地面を切り刻んだ。すると隠し部屋の扉が現れ、その取っ手に手をかける。
「剣士だけ入ってきて」
「えっ」
「行ってきてください賢人様」
覚悟を決め、賢人は中へ入った。そこには、二人の少女がいた。
「……あれ?」
「その反応、知ってるんだね。私たちが5人姉妹だってこと」
「その……もう2人は?」
「……まだ見つけられてない。だからアンタに見つけてもらおうと思って」
しずくが賢人を見る。
「俺が……? でも俺はその2人の顔も知らないし……」
「貴方剣士なんでしょ? ……だったら」
その必死さに、賢人は一度息を吸った。
「ごめん。その話をしに来たんじゃないんだ」
「……は? これ以外の話をしている暇はないの。……早く見つけないと」
「しずくちゃんは家族が大好きなんだな」
「……そういう訳じゃ」
賢人は3人の方を向き直る。
「しずくちゃん。それにもう2人にも聞いて欲しい。仮面ライダーは、戦うだけじゃない」
「……急に何?」
「例えば俺の聖剣と本は、人が生み出した英智。全知全能の書から生まれたものなんだ……要は知識の源」
「……だから?」
「他の例も出すけどさ、スーパー1ってライダーがいるんだけど、それは人類が宇宙に進出するため、過酷な環境に耐えるための宇宙服、言わば人類の希望なんだよ。フォーゼだってそうだし、ほとりちゃんに移植されたエグゼイドだって、本来はゲーム機なんだよ?」
「……私の、能力がゲーム機……? つまり私はただの遊びだったんだ?」
「何言ってるのほとりちゃん!? そういう意味じゃなくて! えーっとな……難しいな……要は戦うだけが仮面ライダーじゃないってこと!」
賢人はそう言って1冊のブックを取り出した。
『おしゃじぞうさん! とある物語! 習得一閃!』
起動し読み込ませると、聖剣からお洒落な服が次々と飛び出す。
「ほら!! 楽しいでしょ? あとは……わだちちゃん! 姉妹と合体する想像してみて!!」
「が、ががが合体!? 何を言っておるのだキサンは!!」
何か勘違いしたのかわだちは狼狽える。
「ほら! レグルスが見えるでしょ!?」
「いや今は昼だが……」
しかし一瞬でもその星座を思い浮かべたことで、わだちを中心にシルヴァニアの姉妹たちは"五"位一体となる。
「まさに祝え!! って感じだよ!!」
姉妹たちの意識はコクピットのような場所に集まっていた。
『わぁ! よすが! ほとりとしずくも!』
『ちょっと! わだち姉何これ!? てかどこ!? ここ!?』
未だ見つかっていなかったむぐらとよすがも、同じ場所に集まっていた。
『わ、わからんあの若人に言われたことを思い浮かべたら……こうなったのだ』
『え!? 今私たちの体はどうなってる訳? まさか溶けたなんて言わないわよね?』
『溶けたんだ私たちの身体。ドロドロに溶解液みたいに鬱鬱鬱鬱』
各々が喋る度に時計の針のようなオブジェクトが動く。
「え!? あ! それは大丈夫……だと思う! わだちちゃん! 一回解除してみて!」
『これで戻らなかったら……!』
しかし解除され、五人は揃ってその場に立っていた。
「な、何これ!?」
「よすが!? むぐら!?」
普段はあまり怒り以外の感情を表に出さないしずくが驚愕の表情を浮かべた。
「ぶっつけで思いついた策だけど、何とか上手くいって良かったよ」
「ぶっつけ!? なんてことやらせたんだキサンは!?」
「資料にはジオウIIとグランドジオウの能力しか書かれてなかったけどさ、もしかしたら出来るかもなーって。んまぁ確証は無かったけどちゃんと理由はあったよ」
「……まぁ2人と引き合わせてくれたことには感謝する」
「……でもそれはそれ、これはこれ。仕置が必要みたいね」
わだちの感謝に、賢人はひとまず安心するがしずくの言葉に素っ頓狂な声をあげる。
「……へ?」
瞬間、賢人の服が切り刻まれる。しずくの不可視の剣がやったものだが、お気に入りの飛羽真スタイルが台無しになったせいで彼の目に涙が浮かぶ。
「……え、何泣いてるの?」
「男が泣くなみっともない……」
「……あらあら、大丈夫かな? よーしよし」
「え? 何この柔らかいの……!? うわあああ!?」
むぐらがそれを見て賢人を抱きしめる。彼女のその豊満な身体に、彼はパニックになる。
「むぐ姉!? 初対面だよこの人!?」
よすがも彼女を引き離そうとする。
「お、俺には甘噛がいるので!!」
賢人はキッパリとむぐらの体を引き離す。
そして彼の悲鳴を聞き、外で待っていた甘噛達が駆け付けた。
「賢人様!? どういたしまし……た!?」
彼女たちの見た光景は多様な美少女5人に囲まれた裸の賢人の姿。
空気が一瞬凍った。
「ボクたちをどうするつもり!?」
それを見て察したよすがはわざとらしく体を手で隠す。
「なにしてんのよ……てかこの子達が例の?」
「い、いや来栖崎さん!? 賢人様の格好みて何も思いませんの!?」
「これは事故なんだ!」
「何だか浮気がバレたクズ男みたいな発言ですわね……」
「違くて! 甘噛信じてくれ!」
「分かってま……あ、いえ信じられませんわ」
甘噛は何か思いついたようにニヤリと笑う。
「……え? ちょ甘噛許してくれ!?」
「う〜ん……じゃ〜あ〜……わたくしの事名前で呼んでいただけたら……信じてさしあげますわよ?」
「綴許してくれ!!」
即答だった。
それを聞いて甘噛はニンマリと口角を上げる。
「……こいつ何イチャついてるの?」
しずくのつぶやきで賢人は本題を思い出す。
「あ、そうだ!! それでさ、5人に見て欲しいものがあるんだ! ……だからさ、ポートラルに来ない? 食べるものも生活に必要なものは大体揃ってるよ」
「どうしたものか……」
「ボク行きたい! 行きたい行きたい行きたい!」
考え込むわだちを見てよすがは床を転がる。
「私の真似してキャラを奪うつもりなんだそれで影薄くさせるつもりなんだ鬱鬱鬱鬱」
「こーら、2人ともごねないの」
続いてほとりも床を転がる。そんな2人を包み込む母性の塊、むぐら。
「……私は別に皆に合わせる」
しずくの言葉で、わだちが一歩前に出る。妹たちを見渡し、静かに言った。
「よし、決定だ。神川賢人……だったか? お主に着いていくぞ」
わだちの決定により銀の国の姉妹たちは、ポートラルの拠点メグリエへとお邪魔することとなった。
「あ、服着ないとだな」
賢人はブックで生み出された服を着て、皆の後を追った。
「この子達が姉妹たちです」
賢人の言葉に、姫片は頬杖をついたまま小さく息を吐いた。
「ふぅん……」
興味があるのかないのか、判然としない声。それでも視線だけは、五人の少女たちを順に追っていた。
「相変わらず神川さんは人たらしというかなんというか……」
「まぁ、アイツらしいな」
百喰とサンが、どこか呆れたように肩をすくめる。
「よぅろしくお願いしまーす!!」
場の空気を破ったのは、よすがの明るい声だった。
「こらこらよすが。初めましてなんだから礼儀正すの」
「いーの気にしなくって! それよりもこれ! はいあげる!」
そう言ってアドは箱に3本入ったチョコバーを差し出した。
「当たり! って紙が入ってたらケンティーから金色の服が貰えるよ!!」
「仮面ライダーチョコのCM見たの? しかも一昔前の!」
「えっへっへ〜」
「……あ、私のに入ってる」
苦笑する賢人をよそに、ほとりが手元の箱をそっと開く。彼女が取り出したのは、個包装されたチョコバーに括られていた当たり! と書かれたシール紙。
「あー!! いいなぁほとり〜!」
「ふんふふ〜ん♪」
小躍りするほとりは、いつになく上機嫌だった。
「もう! アドさんが先渡しちゃったから俺のがちょっと見劣りするじゃないですか!」
賢人が取り出したのは、仮面ライダーグミとオロナミンC。
「あー! いつ作ってたか分かんねぇヤツ!」
「俺、お菓子作り得意っぽいです」
「ぐみ? 初めて食べるよ!! ふふん! しずくとほとりにもあげよう!」
「今更姉ぶらなくていいから」
「ふふーんふん♪」
相変わらずのしずくの毒舌、ほとりは当たりに夢中で聞いていなかった。
「ハッハッハ。どれ、ひとつ貰おうか」
わだちがよすがの手からひょいとグミを抜き取った。
「ほぅ、奇怪な食感だな。ほれ、むぐらも食べてみぃ」
「ああ! これみかんの味だ! 美味しいなぁ」
「チッチッチ。姉妹達! 仮面ライダーグミを食べた時はこう言うんだよ?」
「仮面ライダーグミ? 普通のグミでしょ。パクッ。ジュウウウウウシイイイイイイ!!!」
賢人の胸を張った突然の雄叫び。ほとりの肩が大きく跳ねた。
「ヒイイイ!? 怖い怖い怖い!! そうやって驚かせて私の心臓を止めようとしているんだ鬱鬱鬱鬱」
「ごめんごめんほとりちゃん! ほら〜息整えて〜、リラックスリラックス〜」
慌てて肩に手を置く賢人。
「それからこれ!」
『おしゃじぞう!』
ブックを開くと、金色の衣装がふわりと宙に現れた。
「えー!?」
「ミラクルライダーボックスだよ!!!」
「どうだった? 仮面ライダー」
ある日の午後。姉妹たちは思い思いに映像を眺めていた。
「なんか映像古かったよ〜賢人が言ってたスーパー1〜。あ! でも主人公と同じ感じのが敵の将軍だったのはビックリした!」
「お! 死神バッファローのことね! いや〜あの回はね〜……うん」
賢人は、神峰によって生み出された数々の生体兵器と、メガール将軍の姿を重ねていた。
「……幸せになって欲しかったな」
「賢人もプカ美と負けず劣らず優しいんだね! 物語にそんなに感情込められるなんて!」
「あはは、よく言われたよ。友達と映画行った時も俺だけすごい泣いてさ」
「ダサ。……私はカブト見たけどさ……その、この天道って人、妹のことすごい大事なんだね」
「君みたいにね!」
「違っ……くはないけど」
賢人の言葉に、しずくは否定しようとするも、ほとりのうるうるとした目を見て目を逸らさずにはいられなかった。
「このソウゴという男、魔王になるなどと抜かすからどんな極悪人かと思えば……はは、可愛い若人ではないか」
「そうだよね!? しかも友達をとっても大事に思ってるからね! 是非Over quartzerも見てよ! とっても感動するからさ!」
「私はクウガ見させてもらったけどね? ……その、自分ばっかり犠牲にしてさ……なんて言うのかしら、五代くんには戦いをやめて欲しいなって……」
「それねぇ……思うよねぇむぐらちゃん! ……この世界にいなくてよかったよ。グロンギみたいな種族」
「私の見たエグゼイドは……あの、その。よく分からなかった……ゲーム病とか……リセットとか……リプログラミングとか……」
「あー……ゲーム知らないとそういう単語分からないからね……ほとりちゃん!? 泣かなくていいよ!?」
「みんな分かってるのに……私だけ分からなくて……」
その涙は、いつもの被害妄想とは違っていた。
「ていうか!! そもそもさ! 全員が全員仮面ライダー好きだったら怖いでしょ?」
「……でも……音楽は良かった。……その、私、この人達みたいになりたい」
そう言ってほとりはあるDVDの裏表紙を指し示した。
「おぉ! オーズの頃にデビューしたアイドル*1じゃん!」
「へぇ〜、初めて聞いたや。仮面ライダーってグループ名に入ってるんだね────ってほとり! もしかしてアイドルやりたいの!?」
「アイドル……?」
「なんか面白そう! やってみたい!」
「私なんかがそんな煌びやかな世界……」
「何言ってるのむぐ姉! 君のそのカラダ、何者にも負けないグラマラスボデーだよ!」
「……なんであんたが誇らしげなのよ」
よすががむぐらの体を見張り、それを見たしずくがため息を漏らす。
「そ、そうかしら……?」
「アイドルなどという存在を私は知らないが、ほとりが熱中するというのは随分なものなのだろうな」
「ふっふーん、話は聞かせてもらったよ? アイドルになりたいんだってね!!」
「アドさん!?」
突然、物陰から現れたアドは1人の少女を連れていた。
「いや、まだなると決まっている訳では……」
「先輩アイドルの園咲ルナちゃんだっよ〜!!!」
「……なんか無理やり連れてこられたんだけど」
「不絵っちからおっけー貰ってきてるからさ!!」
「はは……相変わらず強引なことで」
ルナはため息をつきながらも姉妹たちの方を向き直した。
「本当にやる気、あるの?」
「……うん」
「うん!! ボクはあるよ!」
「……まぁ、やるだけやってみるかな」
ルナは一人ひとりの顔を見て、わずかに眉を寄せた。
「……はあ、そんな半端な気持ちで」
言いかけたルナの肩に、賢人が手を置く。
「この子達だって若いんです。やりたいことは出来るならやらせてあげたい」
「……はぁ、甘いなぁヴァルキュアさんは」
ルナは自分の頬を叩き、気を取り直す。
「よし! 私は厳しいよ! シルヴァニアの姉妹達!! 君たちにダンスとパフォーマンス、そして心構えを教えてあげる!」
「……だったら名前決めないと」
ほとりが呟く。
「アハハ……形から入るタイプね」
とはいっても兵器として生まれた姉妹達に簡単に思いつけるはずもなく……。
「う〜ん……」
「仮面ライダーSISTERSとかどう!?」
何とか思いついたのはよすがだった。
「パクリじゃん」
「違うよ!? 妹分的なユニットだよ!」
「あはは……」
「仮面ライダーSISTERS! いいじゃん!」
「敏腕ジャーマネからはいい評価だよ!!」
最初は否定的だったしずくだったが、ため息をついてやれやれ、と肩をすくめる。
「別に悪いとは言ってない。……てか、早く曲とか作らないとダンスの練習もできないでしょ」
ともあれ、ユニット名は『仮面ライダーSISTERS』に決まった。
彼女たちはレッスンルームへと場所を変え、ミーティングとした。
「まずは1つ目の目標を言うわね。渚輪区にて大量のファンの心を掴む! いいわね?」
────そしてシルヴァニア改め、仮面ライダーSISTERSのアイドル街道が始まった。
「ハハハ……これがオルテカ様が手にした力……ふふふ、これで私は……」
────本州にて蠢く悪の芽。
「さぁ行こうか異世界人。私と共に」
神峰に続く新たな思惑が今、動き始めた。
Tips.最初、公式Twitterの文担当はクマフラーではなく、アンドロイドむくだったぞ。
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