とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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日本列島編 第4部 世界を救う、治癒の姫。
第29章 拡がる、思惑たち。


 

 ────暗雲は晴れず、未だ陰りは空を覆う。

 

 2022年

 ブルーバード構内。

 

「狩崎! バイスタンプが奪われたというのは本当か!?」

 

 分隊長・門田ヒロミの声が、研究室に響いた。

 視線の先では、研究員 ジョージ・狩崎がいつもの調子で肩をすくめている。

 

「ヘーイシットヒロミ! 奪われたのはレジェンドライダーの力が宿ったスタンプ。場所は異世界。もうここまで分かっているんだ。安心したまえ」

「……異世界だと!?」

「問題は、そこに行くための手段なんだけどねぇ〜……」

 

 狩崎は指を鳴らし、ドアの方へ声を投げた。

 

「ヘイ五十嵐三兄妹!」

 

 入ってきたのは、一輝、大二、さくらの三人だった。

 

「なんで俺たちを呼んだんですか?」

「バイスタンプが盗まれたんだって」

 

 狩崎は三人を見渡し、淡々と告げる。

 

「大二、ひとまず君の仕事は田淵君に引き継いでもらった。君たち兄妹にはある世界に行ってバイスタンプを回収してもらいたい」

 

「……なんで俺たちを?」

「ギフの遺伝子を持ってるからさ。そうでないと異世界転移装置の負荷に耐えられないからね」

「ギフの……遺伝子……」

 

 一輝は自分の胸に手をやる。今、自分には悪魔の記憶がない。しかし兄妹となら、どこまでもやれる。

 

「そういうことね狩さん。それなら私たちに任せて」

「ところで一輝兄はなんで聖剣持ってるの?」

 

 自信満々に言うさくら。大二は一輝の持つ剣を指さす。

 

「ああこれ? 飛羽真さんに頼まれたんだ。異世界にいる賢人に届けてくれって」

「ヘイヘイヘーイ? 準備はいいかい?」

 

 気を取り直し声をかける狩崎に、三人は無言でうなずき専用の装置へと入る。そして彼はレバーを握る。

 

「異世界転移装置、起動フォ〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 2120年 8月30日

 

 瓦礫に覆われた遺跡の奥。

 二人の男女が、積み上げられたレジェンドライダーライドブックとバイスタンプを前に立っていた。

 

「こんなにも……ふふふ……ハハハハハ!!!」

「自分には押印するなよ? 友輔」

「分かっていますよ。では次は何にします?」

「それでは……自然環境の支配だ」

 

『ハシビロコウ!』

『音撃伝響鬼!』

 

 起動されたバイスタンプが、禍々しい光を放つ。友輔は一冊のライドブックを取り出し、そこへスタンプを押印した。

 

『魔化魍嵐!』

 

 誕生したアルターブック。それはいやに黒く光っていた。そして開くと、ブックを中心に物怪(もののけ)が生まれる。

 

「さぁ暴れろ。物怪たちよ」

 

 同時刻。

 別の場所では、少女たちが静かにボードゲームを囲んでいた。

 

「……動き出したみたいね。アイツら」

「ンフフ、それじゃあ雪蚕(ゆきこ)ちゃん、頼めるよね?」

 

 仙崎雪蚕は小さく息を吐いた。

 

「……ぜっっったい勝手なアドリブ挟まないでよね? いつも変わった譜面を作り直してるの、私なんだからね?」

 

「どうどうどう。分かっている。だから帰ってきたら祭りだよ。カレーでな」

「……だから、そういうところ」

 

 彼女は駒を置き、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2120年 9月5日

 

 山道を歩く二人の男女がいた。カップルYouTuber、マリカとレイ。

 

「どうも〜! マリカでーす!」

「レイでーす!」

「「レイマリのゆっくりちゃんねるでーす!」」

 

「いや〜ね! 最近暑すぎるじゃないですか! ですので!! 山に来てマイナスイオンを感じに来たんですよ!」

 

 スマホ片手に、2人は動画を撮影していた。

 

「そういえば近頃熊の目撃情報出ませんね〜」

「え〜レイってニュースとかちゃんと見る派〜? まぁそういうことらしいで〜す!」

「マリちゃんももうちょっと時勢見た方がいいよ〜?」

 

 軽いノリで撮影を続ける二人。

 ────しかし。ドシン、と大地が揺れた。

 

「きゃあああ!?」

「え!? なになに!? 地震!?」

「そんな予報なかったよね!?」

「うん!! ちゃんと今日のも見たし!!」

 

 パニックになる2人。揺れる地面で足元が崩れ、彼らは滑り落ちていく。

 

「……」

「誰ぇ……ですか?」

 

 転がり落ちた先。

 そこにいたのは、一対の男女。そして、背後にそびえる“岩壁”。

 

「潰す?」

「潰す潰す!」

 

 それは、男から聞こえる声と、女から聞こえる声が、反転していた。

 

「はぇ?」

 

 岩壁が、動く。

 

「……え? ちょちょちょ待って!?」

 

 投げ出したスマホもそれの下敷きになって潰れてしまった。巨大な影が迫る。

 

「ふっ、ふざけんなよっ!! に、逃げろマリカ!!」

「レイ……!」

「……!」

 

 レイはマリを突き飛ばす。しかしそれでも恐怖がない訳ではない。恋人の安否。それだけを心に、彼は目を閉じる。

 

 ────瞬間。

 

『波癒抜刀!』

「変身!」

『エナジーユニコーン!!』

 

 突然、白い炎が彼の眼前を包んだ。

 

「あーもう! 折角の賢人様との休暇だっていうのに……!」

「綴! この人達を避難させて! ────ってこいつら……魔化魍? だよね!?」

 

 ヴァルキュアが、巨大な魔化魍を見上げる。

 

「賢人様!」

「あ……ごめん考えるのは後だ! ……今は集中だ……!」

 

 サイと亀が合わさったような外見の魔化魍、オトロシ。そして、響鬼が戦ったものよりも巨大で、更に黒い毛に包まれていた。

 

「……こんな姿見たことねぇよ!! クソッ!」

『一寸武士!』

 

 オトロシを縮小させようとブックを使用する。しかし、そのライドブックの力は通じなかった。

 

「自分だけにか……? クソッ!」

「鬼ではないが……潰す!!」

「潰〜す!!」

「童子と姫もいんのかよ……! でもこいつらは……!」

 

 ヴァルキュアは狙いを2体の怪人に定める。

 

『波癒抜刀! ユニコーン1冊斬り! キュア!!』

 

 抜刀された波癒の刀身に白い炎が纏う。

 

「波癒……斬波!!」

 

 ヴァルキュアは走る。2体に向かって両手で振りかぶり、白炎と共に直撃する。

 

「はああああ……はぁッ!!」

 

 真っ二つになった2体の魔化魍の親は土となり、爆散した。

 

「ゴオォォォ……」

 

 オトロシは手足を甲羅に引き込み、尻の噴射口から轟音と共に宙へ跳ね上がる。土煙が舞い、視界が一瞬奪われた。

 

「クソそうだったなこいつは! ガメラみてぇに飛びやがってッ!」

『スペリオルユニコーン! つまり、最強!』

「来い! ユニコーン!!」

 

 そう言ってヴァルキュアはページを3度押し込む。

 

A swordsman on a white horse appears. (白馬の剣士が現れる)When you are by my side,(貴方がそばに居る時)there is no sadness and the flames bring peace. (悲しみはなく炎は安らぎを与える)Ride a unicorn and save me. (ユニコーンに乗って救え) Superior unicorn(スペリオルユニコーン)

 

 白炎が収束し、ユニコーンが実体化する。その背に跨った瞬間、風の抵抗が消えた。オトロシは高速で旋回し、山肌をかすめるように飛ぶ。ヴァルキュアはユニコーンを駆り、間合いを詰めていく。

 

「待てッ!! クソッ……これでもかよ! だったら……!」

『爆走うさぎとかめ! ハンターナイトリザード! 2リーディング!』

 

 スペリオルブースターに二冊をリードする。重なった物語が、白炎の中で弾けた。

 

『ミックスボンバー!!』

 

 圧縮されたエネルギーが放たれ、ユニコーンとヴァルキュアの速度が跳ね上がる。

 

「はああああ!!」

 

 一気に距離を詰める。しかし。

 

「クソッ!」

 

 長い黒髪が、オトロシの顔面を覆っている。本来見えるはずの“目”が、どこにもない。その瞬間、腰のガトライクフォンが震えた。

 

『賢人ッ! お前今何と戦ってる!! 甘噛から連絡あったぞ!』

「サン!? クソッ! 魔化魍だよ響鬼の!」

 

『響鬼!? あの鬼のか!?』

「そうだよ! オトロシ……あのデデドンの回だよ! でもテレビん時と姿違くて弱点見えねぇんだよ!」

 

 一瞬の沈黙。次に返ってきた声は、やけに単純だった。

 

『オトロシ……弱点……だったら砕け! 力の限り!』

「クソッ! 脳筋かよ!!」

 

 思わず叫ぶ。だが、迷っている暇はない。

 

『大横綱金三郎! 1リーディング!』

 

 ブックの力が、ヴァルキュアの肉体を覆う。骨格がきしみ、筋肉が盛り上がる感覚が走った。更に同じ本を剣にも纏わせる。

 

『とある物語!』

 

 剣に宿った力が変質し、刃はやがて、巨大な斧の形を取る。

 

『習得一閃!』

「金太郎流スペリオルうっちゃりィッ!!」

 

 渾身の一撃。斧が甲羅を叩き割り、衝撃が内部まで貫通する。オトロシは空中で体勢を崩し、唸り声を上げながら落下していった。

 

「……ふぅ。鍛えてますから。なーんて」

 

 手首を返し、軽口を叩く。しかしその余裕は一瞬で消えた。

 

「ォオオオゥ……」

 

 砕いたはずの甲羅が、音を立てて再生していく。

 

「オイオイオイ……! 待て待て待て……。そこまで忠実なのかよぉ!!」

 

 魔化魍は、浄めの音がなければ完全には倒れない。

 

「なんだ? この音は……?」

 

 次の瞬間。戦場に、異質な旋律が流れ込んだ。そして、美しく彩られた音符が戦場に現れる。その中心に立っているのは月のように艶やかな女性、仙崎雪蚕。

 

「現着よ。……はぁ、イレギュラーがいるんだけど。どっち先にやればいい」

 

 耳の通信機器に向かって雪蚕は問いかけた。

 

「好きに、ね」

 

 彼女は冷静に通信を切り、機器を地面に投げつける。

 

「あーもう! だからインピロは嫌いなの!! クソッ!! 帰ったら絶対埋め合わせさせる!!」

 

 そして、言いたいことを言い終えたのかその目線はオトロシに向かう。その巨体にも恐れずに、雪蚕は開演宣言をする。

 

「音楽っていうのはね、人類が連綿と絶やさずに燃やしてきた、唯一の灯りなのよ」

 

 魔化魍に言葉は通じないが、それでも彼女は言葉を紡ぐ。そして、懐から指揮棒の形をした剣を取り出し、オトロシの噴射口に突き刺す。

 

「これで不快な"音"は出せないわね」

「ォオオオ……!」

 

 怒りにも似た唸り声が響く。

 

「次はこっちの音ね……だったら仕上げにかかりましょうか、っと」

 

 雪蚕は楽譜を取り出し、噴射口から剣を引き抜き振るった。

 

「────第一楽章」

 

 ギター、ベース、ドラムの音が鳴り響く。その音は実体化し、オトロシの甲羅を貫通して音符が突き刺さる。

 

「なんだなんだ!?」

 

 大迫力の音響に、ヴァルキュアは耳を抑える。

 

物怪豪火(もののけごうか)の調べ」

 

 雪蚕は指を鳴らす。

 

「さぁ、終演よ」

 

 刺さった音符に火がつき、瞬く間にオトロシの全身に燃え広がる。"音"にあてられたそれは爆散、枯葉混じりの土煙が辺りに広がる。

 

「なんだよ……この力……」

 

 オトロシから排出されたブックを手に取り、雪蚕は一度だけ彼を見る。

 

「……まだ終わってないわ」

 

 彼女の唇が、わずかに歪む。

 

「さぁ、アンコールよ」

 

 ────その視線は、確かにヴァルキュアを捉えていた。




Tips.事前登録キャンペーンではRキャラ投票キャンペーンをしていたぞ。全員100RT達成でそのキャラが貰えるという触れ込みだったが、60あたりだったぞ。
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