とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────君には分かるか、僕の孤独が。君には分かるまい、君への気持ちを。
ある日、とある地下施設で1冊のアルターブックが開かれた。
『時をかけるイマジン』
だが次の瞬間、ブックは淡い光となって霧散し、それ以上の異変は起こらない。
「なんだ……? 何も出てこないぞ? どうなっている!」
「落ち着け友輔。イマジンは時の迷い人。実体を得るのにも手間がかかるみたいだぞ」
「チッ……めんどくせぇ怪人だな。これはもう使い物になんねぇな。いらねぇブックだ」
「……そうだな」
その会話が交わされた夜。
大阪の一角。静かな住宅街を、ひとりの青年が歩いていた。
「うッ!? なん……だ?」
胸の奥を、何かが貫いたような感覚。思わず立ち止まるが、痛みはすぐに引く。
青年の名はシュウヘイ。彼は気づいていなかった。歩くたび、足元から白い砂が零れ落ちていることに。
────気づかぬまま、彼は夜の街へと溶けていった。
数日後の朝。
貸家を拠点に、何でも屋として暮らす五十嵐三兄妹のもとへ、一本の依頼が舞い込んだ。
「君の友人を、止めて欲しい?」
依頼主は大学一年生の青年、リュウ。一輝は、彼の言葉をゆっくり反芻する。
「……はい。シュウヘイを、止めて欲しいんです! ……俺のためにあんなこと……」
「……え?」
「とにかく! シュウヘイが化け物と契約して! それで……」
その言葉に、三兄妹の空気が変わる。
「契約……? もしかして……そのシュウヘイって子スタンプみたいなの持ってなかった?」
────"契約"。それは彼らにとって、あまりにも聞き慣れた言葉だった。
「いや……それは持ってなかったはず……家の中漁ったりはしてないから……」
「そうだよな……」
「あ! でも最近家に遊びに行った時家ん中にめっちゃ砂溜まってて!」
「砂……か。それじゃあさ、事情、教えてくれる?」
一輝の声は、自然と柔らいでいた。
「……俺、付き合ってた彼女がいたんです」
リュウは一度言葉を切り、覚悟を決めたように語り出した。
母校の高校2年生と付き合っていたこと。彼女が浮気をしていたこと。それをストーリーに上げたところ、シュウヘイから
最初は茶化され煽られていたが、彼女が複数の男性と金銭を介した交際関係を続けていたことを伝えたところ、相手の文面から少し違和感を覚えたこと。
「金銭を介した交際関係……? なんだよそれ」
「一輝兄知らないの? 私の高校でもそれやって退学になった子いるし。ってかニュースでも時々……って一輝兄見てないか」
「なんでわざわざ金払わせるんだよ。そんなのせずに普通にバイトとかしたらいいだろ」
「なんか色々あるみたい────」
「あの……いいですか?」
リュウがおずおずと手を挙げる。
「あ! ごめんごめん、続けて?」
「それで俺、久しぶりに遊んだんですシュウヘイと。……そしたら最近世直ししてるって言ったんです」
「世直し……? もしかして怪人に襲わせてるんじゃ!」
「そんなんじゃ……! っていうか最近シュウヘイの性格変わったみたいに凄い荒々しくなって……でも貴方達なら不思議な事件も解決してくれるんですよね?!」
彼は深く頭を下げた。
「バイスタンプ絡みじゃないのか……」
『おいおい大二ィ、見捨てんのか?』
「うるさい、分かってるよ。リュウ君、君の友人は俺たちが絶対に救い出す」
大二の姿が一瞬にして切り替わり、一歩前に出た。
「……! ありがとうございます……!」
「俺たち兄妹に任せとけ!」
早速、彼らは動き出した。
「そういえば最近、立ってる奴少ないな〜」
「昨日の夜、すごい悲鳴聞こえて……あ、もちろん通報はしましたよ?」
「ま、ああいうのがいると治安悪くなるからさ。いいんじゃない?」
証言からの手がかりは得られなかった。しかし調査の最中の悲鳴が、最大の手がかりとなった。
「ッ……! 急ごう!」
悲鳴の場所は、日本橋のある通りだった。似たような服を着た女性たちが似たような悲鳴をあげていた。
その源泉は1人の青年。彼はメッシュなのか髪の一部が木のような色と質感に変わっており、女性たちを手当たり次第に襲っていた。
「あれ……シュウヘイじゃないか!?」
一輝はリュウから渡された写真と照らし合わせる。
「ちょっと違うけど……多分同一人物だよ!」
人間離れしたその力。しかし1年以上悪魔と戦ってきた五十嵐三兄妹の敵ではなかった。
取り押さえられた青年は叫ぶ。
「なんでッ、なんで邪魔するんだよ俺の世直しをッ!!」
「落ち着いてくださいッ!!」
「リュウはああいう女達に傷つけられたんだッ! だから俺があいつの代わりに世の中を正しているんだ!!」
「それは違う! 貴方が襲った人の中には何もしていない普通の人もいた!」
「……それに、アンタが罪を背負う必要はないんです! ……だから早く戻って下さい! 悪魔に魂を売ってはいけないッ!」
その瞬間。シュウヘイの身体から、異形が引き剥がされる。
「俺……」
「大丈夫かシュウヘイ!!」
「リュウ……?」
「クソッ……お前何やってんだよあんな化け物と契約して! なにかあったらって……心配したんだからな!?」
「リュウくん!? 着いてきてたの!?」
「すみません……! シュウヘイをほっとけなくて……!」
「ホント似たもの同士ね」
さくらはため息を着いて肩をすくめる。その背後で、不思議な声が響く。
「お前らのせいで時間を……この醜い姿を……変えられないではないか!!」
現れたのはヨダカの意匠を宿したゴーストホークイマジン。
「ようやく出たね。これで気兼ねなく戦える、行くよラブちゃん」
『ラブ〜』
「兄ちゃんは下がってて」
そう、一輝はボルケーノ、バリッドレックスを一人で使用した反動で変身不可になっていたのだ。
さくらと大二はそれぞれの専用ベルトを装着し、スタンプを起動する。
「ひぃ〜……仮面ライダーが2人!? だったら……」
イマジンは羽から自らの複製体を作り出す。
「2人? いや違うな! 3人だ!」
大二から悪魔が分離する。すると1つの黒いバイスタンプが光り出し、その色を変える。
『使ってもいいのか? またお前の正義が暴走するかもしんねぇぞ?』
「いいや、俺はもう迷ったりしない! ……お前がいるからな!」
『ホーリーウイング!』
『バット!』
『コブラ!』
「「変身!」」
『ホーリーライブ!! 仮面ライダーエビル! 蛇・蛇・蛇・ジャンヌ!!』
大二は自らを受け入れもう一度ホーリーウイングバイスタンプを生み出していた。自らの悪魔を分離させ、それぞれが一体ずつと相対する。
「さぁ、白黒……付けようか!!」
高速で飛び回るイマジンを、ライブが追う。大きな翼から羽根を飛ばし攻撃する。
『必殺承認!』
「大事に……決めようかッ!!」
白い羽がイマジンを包む。やがて積み重なり、白い塊となったそれに、ライブは高速で接近する。
『ホーリージャスティスフィニッシュ!』
────爆散。
一方肩から生えた翼で、エビルは飛行しイマジンを追っていた。
「ハッハッハ、悪魔以外と戦うことになるなんてなァ……」
「お前……本当はこっち側だろ? 見た目から分かるぞ?」
「は? 何言ってる?」
「悪魔のようなその見た目、嫌々協力しているだろう?」
「確かに俺はあのお兄様はボコったし、……実際悪魔だぜ? この俺は」
「だったらこちらの味方にならないか! 時間をめちゃくちゃにするのは楽しいぞ〜?」
「ほぉ……」
『必殺承認』
「ま、考えてやってもいいけどな」
『ダークネスフィニッシュ!』
「……そこにさくらのカレーはあるのか?」
爆発は闇に包まれる。
その頃、ジャンヌは相手が飛ぼうとする度にポニーテールのように後頭部に備えられた蛇の尻尾で絡め取りなんとか戦っていた。
「もうこいつ嫌い!!」
「クソッ、なんだこの女は!! だったらもういい!! こいつの中に……!」
「うぅわキモいんですけど!! ヤア!!」
イマジンはシュウヘイの身体を縦に開き、その中の時空間に入り込もうとする。
しかしその手段も、コブラによって阻まれる。
「サクッと倒すよ! ラブちゃん!」
『ラブ〜!』
ジャンヌはスタンプ台を起こす。すると後頭部の蛇が巨大化、イマジンの身体を締め付ける。
「な……んだ……! 被捕食側の……くせにぃ!!」
「難しい言葉使ってんじゃないわよ!! ハア……ッ!!」
ラブコフが手を差し出し、それを踏み台に彼女は高く跳躍する。
『コブラ! スタンピングスマッシュ!』
ギュウギュウに締められたイマジン。一瞬緩まったその時、ジャンヌの飛び蹴りが炸裂し、イマジンは爆散した。
その跡地に1冊のライドブック。彼女はそれを拾った。
戦闘直後、襲われていたうちの1人の少女がリュウを見つけて駆け寄る。
「……なによアンタ!! せっかく付き合ってあげてたのに! 恩を仇で返すつもり!?」
叫ぶ女性に、一輝は語りかける。
「アンタは情けで恋人になってたのか? 恋ってのは好きだから、それ以外にないだろ?」
「違うわ! 恋人っていうのは金を引き出すための手段! ただの道具よ!」
「ふざけないで!」
さくらが少女に歩み寄り、頬を叩いた。
「……は? なにす────」
「これだけは言える。アンタは間違ってるって。愛っていうのはね、理由はどうあれ互いを尊重して育まれるものなの。アンタのソレは、愛とは呼ばない!」
「そんなのアンタの価値観じゃない!! 私にとってはあれが愛なの!!」
さくらの自分の両親を思い浮かべた言葉も響かず、女性は走り去ってしまった。
「ふぅ……とんだ悪女ね。よくあんなのと付き合ってたわねリュウ君」
「正直当分彼女はいいや」
さくらの言葉にリュウは乾いた笑みをこぼす。そして一輝はシュウヘイの元に行き、顔を見合わせる。
「シュウヘイ君も、罪を償って真っ当に生きるんだぞ」
「……はい」
その声は、かすれていた。誰も答えなかった。それでも、歩き出した。
貸家へ戻る途中。さくらは少し涙ぐんでいた。
「……ねぇ大ちゃん。なんていえば良かったのかなぁ」
「……分からないよ。言っても分からない人だっている」
「でも、さっきのさくらかっこよかったぞ!」
「ありがと、一輝兄」
彼女は涙を拭い、笑顔を見せた。
「あ、そういえば……これ、なんだろ? 飛羽真さんの持ってる本に似てるけどちょっと悪者っぽいっていうか……」
そう言って一輝が拾ってきたのはイマジンのアルターブック。
「なんか分かんないけど……でも持っておいた方がいいんじゃない?」
「なんか最近怪人騒ぎ多いし、もしかしたらこれのせいかも!」
「じゃあ一応保管しとくか!」
そうして彼ら三兄妹は、貸家に戻っていった。そして遠くで、誰かが彼らを見ていた。
「……あの人達が、何でも屋」
朝、目が覚めると、床に落ちていたはずの白い砂はもうなかった。あれだけ鬱陶しく、気味が悪かったのに、消えてしまうと少しだけ────怖い。
手首を見る。何かがあったはずの感触だけが、まだ残っていた。
「……夢、だったのかな」
そう呟いて、すぐに否定する。夢にしては、現実は重すぎる。交番での事情聴取。リュウの、怒った顔。
泣きそうな顔。それでも最後に、背中を叩いてくれたこと。
「お前が全部背負う必要ねぇだろ」
あれが、いちばん効いた。スマホを開く。例の彼女のアカウントは、もう見ない。正義とか世直しとか、そんな大層な言葉も、もう使わない。
代わりに、メモ帳を開いた。謝ること。償うこと。それでも、生きること。たったそれだけを書くのに、五分もかかった。
外に出る。空はやけに青くて、むかつくくらい普通だった。
「……戻ってきたんだな、俺」
誰にともなく呟く。返事はない。
でも、それでいい。歩き出すたび、もう砂は落ちない。
代わりに、足音だけがちゃんと残る。それが今の俺には、少しだけ救いだった。
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9/6
早速俺のインタビューが記事になってたんだけど、剣向けたって何!? そこまで書くの!? やばい人じゃん!? 正直っていうか!?
あと始末書面倒くさすぎ! 長官が教えてくれたけどそれでも!
『時をかけるイマジン』
『目を覚ませ 時に迷いしストーリーメギド』
元ネタは時をかける少女
ゴーストホークイマジン
シュウヘイの『よだかの星』のイメージから生まれたイマジン。願いを聞き入れた後、また契約完了後も一日の大半を契約者に憑依しないと実体化できない。飛行能力がある。実態化した際には大きな口を開け、契約者の時間に無理やり入り込むことが出来るだろう。