とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第32章 社会の影に潜む、幸せの味。

 

 ────不幸など、とうの昔に始まっている。全てをすくい上げるなど僕たちには不可能だ。

 

 2110年

 

 歳の近い二人の少年少女は、屋敷の庭で遊んでいた。

 一人は名家の令嬢。もう一人は、ごく普通の家庭に生まれた少年。

 少女は決まって、人目を避けるように少年を呼び寄せ、勝負事を持ちかける。

 

「きょうはぼくの勝ちね! じゃあねねねちゃん! おっきくなったら結婚しよ!!」

「あらら、かわいらしい願いですのね」

 

 少女はくすりと笑い、首をかしげた。

 

「もぉ〜っと大きな願いでもよろしいのですわよ?」

「う〜ん……でもいっちばんおっきいのがその願いなんだよ!!」

「まぁ……!」

 

 その笑顔は、あまりにも無邪気だった。

 しかし、そんな日々は突如終わりを告げた。

 

 2118年 3月15日

 

 ────大感染『邂逅の日』。変異したゾンビウイルスと突如現れた移動する感染源『グラナトファ』により、本州の複数都府県は壊滅。太陽機関が設立されるまで、人々は文字通り地獄を生きることになった。

 名家の令嬢だった少女も、例外ではなかった。

 

「離せよ! 寧々音(ねねね)が連れ去られたんだろッ!?」

「違うんだっ、茶娘城(ちゃこじょう)さんはな、"働き"に出たんだっ」

 

 教師の目は、わずかに赤く滲んでいた。

 貯蓄、土地、家。すべてを売り払っても足りなかった茶娘城(ちゃこじょう)家に残された選択肢は、ただ一つ。

 ────身売り。男なら肉体労働。女なら性産業。

 時代がどれだけ進もうと、それは変わらなかった。

 

「可哀想にな……。買われたの"あそこ"なんだろう?」

「あぁ……店から個人だとさ」

 

 過激な嗜好を持つ客が集う店。そこで彼女は選ばれ、大金と引き換えに一人の金持ちに引き取られた。

 

「っ……! ざけんな!」

 

 少年、ユウタは走った。沢山の店を巡ったが、そのどれもがプライバシー保護の観点からという理由で教えてくれなかった。

 しかし、そう言った夜の街は噂というのはすぐに広がるもので、とある金持ちが買い取ったという情報だけは得ることができた。

 

「金持ち……」

 

 しかし、大勢いる中の富豪から、一個人を買い取った1人を見つけるのは困難を極めた。

 

 

 

 ────1年後。

 2119年

 

 巨大な屋敷。6000平米はあるその屋敷で1人の男がワインを嗜んでいた。

 名はマグアル・ラタニコス。復興事業、治安維持、感染対策────あらゆる名目で富を独占した男だ。

 部屋の隅には、数人の少女が整列して立っている。その誰もが身体に大小問わず傷を負っており、救われた側であるという書類上の肩書きだけは共通していた。

 

「君たちは幸運だ」

 

 マグアルは、穏やかな声で言った。

 

「邂逅の日以降、食べるものも、住む場所も、仕事も失った人間がどれだけいるか。私はその“再分配”をしているだけだ」

 

 彼が指を鳴らすと、側近がタブレットを操作する。壁に映し出されるのは数字の羅列。寄付金額、雇用実績、保護人数。

 

「見たまえ。私は善人だ」

 

 だが、次に映されたのは別の映像だった。

 個室。監視カメラ。命令に従わなかった者が、食事を減らされ、薬を与えられ、名前ではなく番号で呼ばれていく様子。

 

「選択肢は平等に与えている」

 

 マグアルは肩をすくめる。

 

「働くか、役に立つか、それとも……不要物として処理されるか」

 

 その言葉に、誰かが小さく震えた。マグアルはその反応を見逃さない。

 

「ああ、安心したまえ。君たちはペットだ。壊れるまでは大切に扱う」

 

 その中に、茶娘城寧々音(ちゃこじょうねねね)はいた。清楚な服。整えられた髪。

 だが、視線は床に縫い止められ、呼吸は浅く、服の下には常人なら耐えきれない傷が無数にあった。

 

「彼女は特別だ」

 

 マグアルはそう言って、寧々音の顎を持ち上げる。

 

「希望の象徴として使う。名家の令嬢が、私に救われたという物語は……よく売れる」

 

 寧々音は何も言わなかった。言えば、何かが失われることを知っていたからだ。

 

「感謝の言葉を覚えよう。君たちは、私のおかげで生きている」

 

 それは、彼女たちを縛る言葉。そして彼の1日を彩る欲望の言葉だった。

 

「それでは、仕事を始めよう。今日は……ふっ、君にしよう」

 

 マグアルは1人の少女に目を向ける。笑顔を貼り付けているが、彼女は動かない。

 

「ん? 脱がないのか? ……あぁ、着たままがいいのか。相変わらず無口な娘だ」

 

 そう言って汚らしい身体を晒し、ニヤニヤと口角を上げその少女に歩み寄る。そしてその少女は何故か不敵な笑みを浮かべ、服を着たまま事に及び始めた。

 

「お前たちもっ、これがしたいだろうっ」

 

 誰も退出させず、見せつけるように。

 洋蝋燭を垂らされ、更にアイスピックで目を抉られても少女は表情一つ変えずに、嬌声(きょうせい)を上げる。

 ────そして訪れる、"幸せ"の絶頂。

 

「遂に見せたな」

「……あ? うわあああ!?」

 

 少女の口から、低い男の声が漏れる。

 そしてまたも初めて自ら上の服をたくし上げると、腹に"口"があるのが見えた。そこから舌が勢いよく飛び出しその場にいる全員を絡めとった。

 

「はぁ……良質なヒトプレスはコイツだけか」

 

 赤い舌のような帯に巻かれ、アクリルスタンドのようになった人間 ヒトプレス。闇社会の嗜好品、闇菓子を作るための材料だった。

 マグアルの良質なヒトプレスを見て、少女の姿に化けたグラニュート セイ・ゾーは呟いた。

 

「それじゃあコイツだけ今闇菓子にして……っと。他はいらねぇな」

 

 それ以外の少女たちのヒトプレスは端が刺々しい粗悪品であり、今まさに折られようとしていた。

 

「よぉ、リッツパーティなら混ぜてくれよ」

 

 その時、最上階の部屋の影から1人の青年が現れた。

 

「誰だっ!?」

「ただの悪魔さ。辛いもの好きの、な」

『バット!』

 

 青年、いや悪魔の名前はカゲロウ。五十嵐大二から生まれた悪魔だ。

 

「何!? この世界にはグラニュートハンターはいないと聞いていたのにッ!」

『Confirmed!』

 

 スタンプをベルトに押印すると、周りから黒く小さいコウモリが影から現れる。そして少女は腹の口からミミックキーを取り外し、本来の姿に変わる。

 

「クソっ! だったらヤケだ! お前を殺してお前も食ってやる!」

 

「変身」

『バーサスアップ! Madness! Hopeless! Darkness! バット! 仮面ライダーエビル!』

 

 黒のコウモリがスイミーのように集まり、大きなコウモリの形を作り出す。それがカゲロウの身体を包み、装甲となる。

 

 仮面ライダーエビル バットゲノム。

 黒を基調とした装甲に、無秩序に散った黄色のライン。狂気と悪意を象徴するような歪んだシルエット。

 グラニュート セイ・ゾーが舌を振る。赤い帯が鞭のようにしなり、エビルへと叩きつけられた。だが、当たらない。

 

「遅ぇよ」

 

 エビルは一歩、影に溶ける。次の瞬間、セイ・ゾーの背後に現れた。

 

「がぁっ!?」

 

 エビルブレードが横一閃。装甲と肉をまとめて裂き、黒い体液が空中に飛び散る。

 

「あぁクソクソクソ!!」

 

 セイ・ゾーは傷を負い、その強さに恐れおののく。

 戦闘面における特殊能力を持たない彼は真っ先に撤退を選択した。しかしエビルがそれを黙って見ているはずもない。

 

「────!!」

 

 コウモリの超音波が響く。

 前に進んだはずの足が、逆方向へ踏み出される。視界が反転し、空間認識が崩壊する。

 

『必殺承認! ダークネスフィニッシュ!』

 

 エビルブレードが黒い波動を纏う。

 超音波と闇が刃に収束し、空気を歪ませる。

 

「クソッ……クソがあああああ!!!」

 

 振り下ろされた刃が、セイ・ゾーの身体を縦に断ち割る。

 ────爆発。黒煙と衝撃が部屋を揺らし、ブックとヒトプレスが床へと投げ出された。

 エビルは爆心地を一瞥し、舌打ちする。

 

「相手が悪かったな。俺は悪魔相手に戦ってたんだよ」

 

 ヒトプレスの赤い帯を切り、人間に戻した後、カゲロウは内にいる大二と話す。

 

「これでいいか? 大二」

『……ごめんカゲロウ。任せちゃって』

「悪魔に謝るんじゃねぇよ。それに悪魔の俺の方が潜入しやすかったってだけだ」

『素直じゃないな』

 

「それじゃあもう1回沈んでろ」

『え……? どういうことだよカゲロウ!! おい!』

 

 そう言ってカゲロウは無理やり大二を心の奥深くに押し込む。

 そして人間に戻ったマグアルにゆっくりと歩み寄り問いかけた。

 

「どうすんだ? 地位も金も何もかも捨てて罪を償うか、それともこのままこれを続けるか」

「ふざけるな。この私から"奪う"だと!? 私は施しを与えてやったんだッ!」

「悪魔が素直に選ばせるわけねぇだろ」

 

 カゲロウはマグアルの言葉を鼻で笑い、腹を殴り気絶させた。そんな彼を背負い、少女たちに呼びかけた。

 

「おい女ども、いい働き口がある。付いてこい。……一般職だ。安心しろ」

「……いいん、ですの? こんな……身体で」

 

 寧々音(ねねね)は自らの身体を示す。カゲロウは悪魔ながらに驚いた。背中には複数の抉られた傷。

 ────そして右乳房の欠損。

 

「……まずは病院みたいだな」

 

 その後彼はマグアルを男娼館に投げ込み、少女たちを太陽機関提携の病院に送り届けた。

 

「そんじゃあ戻るぞ大二」

『はぁ……はぁ……なんだよ急に押し込みやがって……』

「んまぁ、今一度俺とお前の力関係を教え込んどこうと思ってな」

 

 カゲロウは素直じゃない。素直じゃないから、本心は口には出さない。しかし大二は一心同体であるという事実以上に、長年の付き合いから察していた。

 素直に身体の主導権を明け渡したカゲロウ。

 

「大二〜!」

「あ! 兄ちゃん!」

寧々音(ねねね)ちゃんは見つけれたか!」

「うん! ……まぁカゲロウがやってくれたんだけどね」

 

 大二は頬をかく。そして依頼者であるユウタに入院先の病院を教えた彼らはまたもや貸家に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【サイカイ】

 病院の廊下は、やけに白かった。消毒液の匂いが鼻につくたび、あの頃の庭の匂いを思い出す。

 

「……寧々音」

 

 名前を呼ぶのに、少し勇気が要った。

 病室のドア越しに聞こえる機械音が、彼女が生きている証拠だと分かっていても。

 中に入ると彼女は窓の外を見ていた。昔と同じ横顔。しかし、それが同じじゃないことは、誰の目に見ても明らかだった。

 

「ユウタ……」

 

 声は弱かった。でも、確かに覚えていた。

 

「ごめん」

 

 それしか言えなかった。助けられなかったことも、探しきれなかったことも、全部まとめて。

 寧々音は首を振った。

 

「……生きててくれて、ありがとう」

 

 その言葉がユウタの胸に刺さる。本当は自分が言うべきだったのに、と。

 窓の外は青空だった。昔のように綺麗で、むかつくくらい普通で。

 

「なぁ、もう勝負とかしなくていいからさ。ゆっくり、生きようぜ」

「……ごめん、わたくし就職先が決まったんですの」

 

 寧々音は、ほんの少しだけ笑った。

 

「……え?」

「安心してくださいですわ。キチンと真っ当な職……というかここですもの」

 

 寧々音は床を指差す。それはすなわち、太陽機関への就職にほかならなかった。

 

「大丈夫……なの?」

「はい! キチンと福利厚生もありますし! 何より同僚はほぼ女性だけらしいので!」

「なら……頑張れよ! 寧々音!」

 

 

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 9/7

 今日は日記を書き始めて半年。……なんだけど特に何もない。正直いつも通り過ぎて書くことがない笑

 まぁそのほうがいいんだけど笑

 あ、そう言えばover quartzerを皆で見た。泣けて笑えて、ホント最高の映画。




『腹の口のグラニュート』
『目を覚ませ 嗜好に酔いしズーメギド』
元ネタは『風の谷のナウシカ』。

セイ・ゾー
ヒトプレスから自力で闇菓子を精製できる能力を持つ。
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