とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────人間社会。何をすればいいか悩んでいたところ、芽舞の提案によってアルバイトをすることにした。
「へぇ……初めてするんですね! もしかしてどこかのお坊ちゃんだったり!」
「あはは……まあそんなもんかな! ていうか名前聞い出なかったね! 僕は
「私は沙飾芽舞。夢は天芽さんのお嫁さんなのです!!」
「およめっ!? そこまでは聞いてないから! あとお嫁さんは他に────」
アラームが鳴り響く。
「やっべ! 面接の時間だ! ごめん この話はまた後で!」
「天芽さん!! ……他に? いるの?」
思い込みの激しい少女が脳内妄想を繰り広げている中、天芽は応募したバイト先である『花屋クンカクンカ』に来ていた。
条件:やる気 以上と書かれた怪しさ満点のバイトだったが、可及的速やかに生活費を稼がないといけない天芽にとっては天職でしかなかった。
店主である迷い道
「三静寂天芽……ねぇ。確か名家の跡継ぎが行方不明になったっていうニュースが……」
新聞を取り出す燻香を、天芽は煙に巻く。その手で。
「わああああ!!! 違います違います! ただの同姓同名の一般人です! 住所……そう住所違いますし!」
「何故私と同じ住所なのだろうか
「うわああああ!! ……ミスった」
「全くとんでもない青年だな君は。即採用」
「ですよね!? うわ〜しくったなぁ……。あれ? 今なんて!」
「即採用」
「なんでこんな"奴"を採用するんですか!!」
採用に異議申し立てをする応募者、喜劇のような状況に天芽自身、言っていておかしくなってしまう。
「まぁ嘘だ」
「えぇ!? 不採用!?」
「住所が同じ、というところがだ。カマをかけさせてもらった」
彼はほっと胸を撫で下ろし、再度正気に戻る。
「じゃあなんで!?」
「見て分からないか? 私は赤ちゃんだ」
「……は?」
一転攻勢。確かに燻香はおしゃぶりを口にくわえ、ガラガラを持ってはいたが、こんなことを言うとは驚きだった。
「ま、君のような怪しさ満点少年は、どこも雇ってくれないだろう?」
鋭い言葉の刃が突き刺さる。
「ほらぁ、図星ね。だったら私を死ぬ気でオギャらせてくれるだろうと思ってね」
「オギャり……? なんですかそれ!」
「全く最近の若者はオギャりも知らんのかね……ほれ」
貴方も若いですよね? と突っ込みかけるのを抑え、天芽は差し出されたガラガラを受け取った。
「これを振ればいいんですね!」
「物分りのいい若者は好きだぞー」
ガラガラ、ガラガラと、軽い音が無人の店内に鳴り響く。
「オギャー!! オギャ! マンママンマ!!」
内心ドン引きながらも天芽はあやし続ける。
「よしよしー、どうしたんでちゅか〜」
「STOP。これがオギャりだ」
燻香は手を上げ、やめさせる。喃語以外の人間の言葉がセーフワードのようだ。
「オギャり……凄いですね。色んな意味で」
「とまぁ、面接の日だからな。本日の勤務はこれで終了だ。1時間分の給料は支給するが、これからはきちんと時間分勤務するように」
「はい。……あれ? なんで叱られるみたいになってるんだ?」
現金を手渡しされ、天芽は拠点であり家でもある東広島市に歩きで移動するのだった。
SIDE.五十嵐一輝
「……俺がしっかりしなきゃいけないのに」
その日、一輝は1人内省していた。長男なのに、弟たちに怪人を任せてしまって自分はただ見ているだけという状況に対して。
以前なら弱音を吐く相手がいた。なのに今はいない。だからそれは自分自身への責めとなって襲いかかる。
変身も出来ない。あの時に過剰に使いすぎたから。あいつがいればこんなことにもならなかったのに。
ギフを倒し宇宙からの侵略者も倒し、相棒のことを思い出すことはできた。
────しかし。
「……守れなきゃ、意味がない」
彼は、もし自分がリバイスになっていなかったら、という"もしも"の世界線を思い浮かべる。
聞いたところによるとこの世界は一部地域を除いてグラナトファと呼ばれる感染源と、ゾンビによって侵略された世界らしい。なら尚更、むしろ悪魔騒動だけで済んでいる自分だけの世界は平和だと、この世界はそれに加えてゾンビもいるのだ。
「……どうすれば」
いくら太陽機関と呼ばれる正義の組織が支配された地域を取り戻してもいたちごっこだ。怪人騒動があるなら尚更。弟たちの報告によると"電王"のイマジン、更に腹に口のある未確認の怪物まで現れたらしい。
────1号からゼロワンは、フィクションのはずなのに。
一輝の世界に存在するのはセイバーとリバイス、ギーツだけのはず。なのにこの世界にはもしかしたら全ての怪人がいるかもしれない。俺も戦えないと世界はどうしようも無くなってしまう。彼はそう思いながら、されど表情に出さずに弟たちの元に戻ったのだった。
SIDE.五十嵐大二
「……このまま兄ちゃんが」
ダメだ。それ以上は言ってはいけない。兄がこのまま戦えなければ自分が五十嵐家の最高戦力、頼られるのは自分だけ。少しだけどす黒い感情が、彼の中に渦巻く。
『おいおいバカか。テメェひとりでなんでも出来るわきゃねぇだろ? あの金持ちん時も俺に任せっきりだったくせによ。
『……うるさい。お前も俺の中の力だろ』
『あのバカ兄貴もテメェも、一人で
『……は?』
『まぁあれは悪魔がいねぇからしょうがねぇが、テメェはなんだ。また"あの時"のリプレイでもするつもりか?』
『……お前がいるからそうはならない、だろ?』
『随分と信用してくれてるんだな、悪魔を』
『あぁ、俺の中の黒い部分はお前が何とかしてくれる。悪魔は嘘つかないんだろ?』
『ハッ、言ってくれるぜ』