とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第36章 恋と憧憬と、なりたい自分。

 

 ────あの日のこと、覚えてるか? それはわたしにとっては昨日だ。夜が明けたらわたしは、あなたのモノになる。

 

「20体を切ったか。まぁいい。……これで奴らが減るのなら、な」

 

 怪人が倒される度に厚くなっていく1冊のライドブックを見て、女性は呟いた。

 

「グラナトファ……ですか? ホント熱心ですねぇ」

「人を襲う側はキチンと彼らが倒してくれている。……ありがたいことにな。では次は……」

 

 そうブックを示す女性の指を、竜瀧が掴んだ。

 

「待ってください。次はこの僕が決めます」

『グリードと欲望と家計簿』

 

 本を開くと1枚のメダルに変わる。竜瀧がそれをポットに投げつけると、一体の塊が生まれた。

 

「お前の夢はなんだ」

 

 怪物 ユニコーンヤミーは竜瀧ではなくまず女性の方に手を向けた。すると彼女の頭の上に情景が浮かぶ。

 それは、人類が皆笑顔で暮らす世界。そこにグラナトファとゾンビは存在しない。

 

「へぇ……────さんはこんなの望んでるんだ……」

 

 みるみるうちにその情景は大きくなり、地下施設全体を埋め尽くしても足りないほど巨大化する。

 

「……なっ、なんて大きさだ!」

「……おもしろ」

 

 彼女の夢を見て恐れおののくヤミーを、竜瀧はほくそ笑みながら外に蹴り飛ばした。

 

「……ま、グラナトファ作ったの僕なんだけどね〜」

「何か言ったか?」

「いいえ?」

 

 この世で最も重要な情報を聞き逃したことに、彼女自身は気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ栗子。私って、何がしたいんだろう」

 

 2人きりの、姫片の私物が散乱した部屋でやちるが呟いた。彼女は過去に思いふけっていた。型から逃げて逃げて、逃げ続けて姫片に出会ったあの時の事を。

 正直、今のままでも満足だった。恋人、仲間、生活全てが揃った現状。

 でも、自分自身だけが宙ぶらりん。自分らしくという名目で衣服も着ず、自分の全てを恋人に任せっきり。豹藤やちるは、そういう人間だった

 

「そりゃあお前……。私の嫁だろ」

「……また冗談」

 

 しかし姫片は動き出した。その日は2人の街のパトロールだったのだが、その時間を過ぎて1人で長官室に入ると妃崎とルティアが驚いたような顔をする。

 

「なぁ長官、急だが今日、有給取っていいか?」

「きょ、今日か……? まずは理由を聞かせてくれ」

「こいつの自分探しに付き合う。以上」

 

「……何を勝手な。それでその間に市民に被害が出たらっ」

「落ち着けルティア。……何か、事情があるのだろう?」

「それでもっ!」

「代わりは立ててある。ダイナモの奴らに任せた」

 

「バイトとは違うのですよっ……!? せんぱ────長官だって分かってるはず!」

「あぁ、急な提案。普通許されるはずがない。だが彼女たちを雇ったのは私だ。大会の直前に姿を消した天才美少女スケーター豹藤やちると、その恋人」

「……知ってたんだな」

 

「許可する」

「……悪いな」

 

 姫片本人としても、この2人に迷惑はかけたくなかった。太陽機関は、渚輪区を脱出した自分達を拾ってくれた恩人。

 しかしやちるへの想いの方が大きかった。

 

「よぉ賢人。悪りぃが今日はやちると遊んでくる。用事あっても電話出れねぇから覚えとけ?」

「え? あぁ、うん」

 

 早速部隊長に乱雑に報告、やちるの手を引く。

 

「よしやちる! 外出ようぜ外! お前最近仕事以外で外出てなかっただろ!」

「なによ急に……」

 

 連れられた場所はカラオケ、ボウリング、バッティングセンター。まるでやちるがスケートによって失った青春を再生しているかのようなラインナップだった。

 

「どうだ? 歌手とかプレイヤー、野球選手とか!」

「楽しかったよ。けど……これじゃない。ていうか私、こういうの慣れてない」

「そっか〜。そんじゃあ……あっちはどうだ!」

 

 姫片が指差したのはスケートリンク。漂う冷気と、特有の匂いがやちるの鼻をつんざく。

 才能があったが故に強制されたスケートの稽古。両親の血気迫った顔が浮かぶ。家にいたかったのに、渡米させられてコーチに師事されて……。

 

「なんで栗子が……」

 

 それを、よりにもよって最愛の恋人に思い出させられたのだ。自分が自分じゃなくなって、『美少女神童フィギュアスケーター』を演じた日々、そこから連れ出してくれた栗子の顔が薄らいでいく。

 

「やちるっ……違っ、戦う時は平気っぽいからもう大丈夫かなって!」

 

 ただ、まだ事態がそれほど深刻だと思っていないのか姫片はジェスチャーで反重力ブーツを表現す(あらわす)

 

「戦いと、娯楽は違うよ」

「えっ……」

 

 普段とは違う、静の怒。姫片は立ち去るやちるを、ただ見ていることしか出来なかった。

 やちるは初めて恋から逃げた。かつてはそんなもの、存在しなかったのに。永遠の愛だなんて言われたからときめいたのに。

 

 ────最初で最後の恋だったのに。

 

「……バカ」

 

 悪意は無いと、彼女自身も理解していた。でも許せなかった。この世でたった1人の愛する人に、こんな仕打ちを受けたことが。

 

「……謝らせないと」

 

 でも、あんなのが最後の会話なんて嫌だと、喧嘩別れは嫌だ。今までだって喧嘩は何度もしてきた。その度に仲直りもはっきりと、言葉と行動でしてきた。

 といっても、その多くはやちるが謝っていたのだが。

 久しぶりに栗子をギャフンと言わせたいと、やちるは意気込む。

 

「お前の夢はなんだ」

「ひっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!? 喧嘩したぁあああ!? あのラブラブカップルが!?」

 

 一方、追いかけることもできず1人孤独に帰ってきた姫片は経緯を説明した。

 

「あのねぇりっちゃん。1人がギスギスすると全体の空気も悪くなるからね?」

「いやアドさんは言っちゃいけないでしょそのセリフ。……でもまぁ、言ってることは正しいからさ、姫片さん仲直りしてください?」

 

「はぁ、ヒサギンならここでりっちゃんの事蹴っ飛ばしてくれるんだろうけどなぁ……」

「いねぇのか?」

「買い出し。ジャンケンで負けてさ」

 

 ピーンポーン。呼び鈴が部屋にこだまする。買い出しが帰ってきたかとアドが意気揚々とドアを開ける。

 

「うっしっし、ようやく帰ってきたかヒサギン!」

「ただいま!!」

「……え?」

「ごめんなさい姫片さん。私自分が見つかったよ!」

 

 妙に明るい声が、扉を叩く。開けた先にいたのはやちるだった。間違いなく。

 ────でも違う。

 

「……誰だ?」

 

 男がいる時だけは、かろうじて布1枚を羽織るやちる。しかし玄関に立つ彼女は、フォーマルな"普通"の服を着ていた。その事実を認識できず姫片は一瞬、誰かがわからなかった。

 

「誰? って! 私ですよ! 豹藤やちる! 神童美少女フィギュアスケーターの!」

「あ……?」

 

「もしかして喧嘩した腹いせ? ほらぁ、早く謝らないからですよ」

「違っ……こんなこと……」

「はいはい謝ってりっちゃん。それで解決なんだから」

「こんなの……やちるじゃねぇ……!」

 

 姫片は部屋を出る。謝る恥ずかしさではない、怖かったのだ。その目があまりにも。自分を見ていないその目が。

 

「ちょっ……姫片さん!?」

 

 異変にようやく気づいた賢人は彼女を追いかける。一方のやちるはふたりで過ごしていた部屋に普通に歩いていく。

 

「一体どういうことなんですか……? 豹藤さんじゃないって。俺にはただあてつけにいい子ちゃんのふりしてるようにしか見えませんでしたけど」

 

 逃げた先は姫片の為に用意された部屋。

 もっとも、やちるの部屋でふたりで暮らしているためこれまでほぼ使っていなかったのだが。

 

「違うんだ……アイツは……アイツの目に……アタシが写ってなかったッ」

「目に……? それも喧嘩してるからじゃ────」

 

「知らねぇだろテメェは! 16の冬からずっと、あいつの目から私は離れなかった。……なのに」

「ちょっとりっちゃん! 怒らせすぎ! 何言ったの!?」

 

 突然、ドアが勢いよく開け放たれる。叫んだのはアド。

 

「え!? 何があったんですか!?」

「分かんないけど、ヤチルンが部屋にあるりっちゃんの私物捨て始めたんだよ!!」

「……は!?」

 

 ありえない行動。こんなことされる程では確実になかったと、姫片は頭を抱える。

 

「豹藤さんの部屋は!!」

「……あ、こっち!!」

 

 その出来事に心当たりがあったのか賢人は叫び、急いで姫片を引っ張って部屋を出た。

 

「やっぱり……」

「ねぇ、神川さん。おかしいの……本当は、栗子の事が……好きだったはずなのに……なんでだろう」

 

 その目に涙を浮かべながら、しかし笑顔で窓から様々なものを投げ捨てていた。

 

「これは……」

「オーズの敵……だよね」

「あぁ、ヤミーだ。それも厄介な、な」

 

 アドの言葉に、賢人が頷く。人を媒介とせず生まれたヤミー、その力は他の種類のヤミーとは桁が違う。

 

 ────ガキィンッ! 外から火花が散る音と、剣戟音が響く。急いで駆けつけると来栖崎とユニコーンヤミーが戦闘を繰り広げていた。少し彼女が押されて。

 

「お前の夢は何だ」

 

 ヤミーが右手をかざすと来栖崎は動かなくなり、頭上に夢が浮かぶ。それは真司と共に剣術道場を開く夢。

 

「夢は夜に見ろ」

 

 その夢の象徴である木刀を具現化させ、ヤミーは握りしめる。

 

「やめろッ!!」

 

 全力タックル、賢人は生身でヤミーを突き飛ばす。相手が離れると来栖崎の意識が戻る。

 

「師匠! 大丈夫ですか!!」

「アイツ何!?」

 

 再度立ち向かおうとする来栖崎の前に、姫片が立つ。

 

「いいからクルクル崎は下がってろ。こいつはアタシらがケリつける」

 

 彼女は専用治癒射器(シリンジ)、『灰燼機構(かいじんきこう)バーンデスサイズ』に血を吸わせ、起動させる。

 巨大な刃に炎が滾り、持ち手の先端からも火が吹く。

 

「ユニコーン勝負って訳か。変身!」

『波癒抜刀! ワンダーライダー! ユニコーン! とある物語!』

 

 新たなブックを携え、賢人は変身する。幻獣系ヤミーは皮膚が固く、そして強靭な膂力を兼ね備えている。しかしそれは相手を視認しているからこそだ。

 

「他人の夢に口出しすんじゃねぇ……!」

 

 歌うように燃え、舞うように切り裂く。致命傷とはいかないが、それでも着実にダメージを刻んでいた。

 しかし、相手の腕が姫片に迫る。

 

「夢を教えろ……!」

「させねぇよ!」

『花笠じいさん!』

 

 大量の灰がヴァルキュアの左腕の臼から飛び出す。それが目に入ったヤミーは目を抑えてのたうち回る。

 

「夢も希望も、テメェは見る必要はねぇよ」

 

 舞い散る灰に、鎌が触れる。咄嗟にヴァルキュアのブックが抑え込む。それによって外に出るはずだった爆発のエネルギーが全てヤミーの体に見舞われる。

 

「────火と踊りな(ダンス・マカブル)

 

 爆発の後、黒焦げになった相手の体から灰にまみれたライドブックが排出される。その瞬間、どこかでページが積み重なる。

 

「……ふぅ、うわ汚」

 

 本付いた灰を払いながら、変身を解除した賢人は呟く。

 

「……そんじゃ、やちるのとこでも行きますかね」

「あ……姫片さんあれ……」

 

 賢人が指さす方向、寮の外には嗚咽を堪えながらしゃがみこんで何かを探す少女がいた。彼女は白い布を一枚だけ羽織っていた。

 

 ────間違いない。確信した姫片は背中から包み込む。

 

「やちる。……別にいい、拾わなくて」

 

 それは、自分で捨てた姫片の私物だった。

 

「お前との思い出は物じゃねぇだろ。……この身体が覚えてる。しっかりと、刻まれてんだよ!」

「──やまって」

 

 抱かれながら、やちるは呟いた。

 

「え?」

「告白より先、謝って」

「……ごめん。悪かった」

「……ちゅーも」

 

 やちるは口を突き出す。

 

「バカお前っ……外だぞ?」

「いいから」

「……はぁ、わーったよ!」

「あ、キスした」

「見入ってんじゃねぇよ! ……な? 夜な? ちゃんとな?」

 

 デリカシーのない賢人の言葉で、姫片は珍しく焦り散らかす。

 

「それで豹藤さんの夢っていうのは何だったの?」

「決まってるでしょ。私は私のまま、栗子と結婚したいの」

 

 答えは、最初から出ていたのだ。

 

『そりゃお前……私の嫁だろ』

 

 茶化されてるように、普段の冗談のように感じたからムッとしただけで、やちるは一切嫌いになんてなっていなかった。

 それどころか、今狼狽える姫片を見てより一層愛を深めていた。

 

「あーいいなぁ〜! 俺もなぁ〜!」

「わたくしのこと、お忘れですか……?」

「いや違うよ!? そういう訳じゃなくって……」

 

 姫片に続き、賢人も狼狽えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ある場所でその光景を見ていた女性は激高する。

 

「何故奴らを襲わせたッ!!」

 

「いやぁ、人聞きが悪いなぁ。ヤミーは欲望に惹かれる。あのチビ痴女の欲望の質が良かったんじゃないですか? ──さん。それに、結果的にこの本も深まったんだからいいじゃないですか」

 

「……これからはあまり勝手に本を選ぶな」

「はいはい。分かってますよ〜」




『グリードと欲望と家計簿』
『目を覚ませ 満たされないストーリーメギド』
元ネタ無し

Tips.前述のさだかやコラボですが、事前登録時から告知されていたぞ! 伽椰子のDNA配布もあったぞ! 恐ろしいな!
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