とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────いくら着飾ったとて、わたしはわたしだ。人をかたちづくるのは、記憶なのだから。
「ふぁ〜……」
その日は定例会で、各生存部隊の隊長と参謀が揃って報告を交わしていた。
「それでは始めるわよ。神川賢人、あくびしない。"もう"減給されたくないでしょう?」
そう言ってルティアは口角を上げる。
「あっ、ごめんなさい!」
「分かればよし」
ルティアは端末を操作し、隊長たちの端末にPDFを送った。
「これが最近のグラナトファの被害者の数です。……少々奇妙な状況のものもありましたが」
「どんなのだったんですか?」
「えぇ。明らかにグラナトファによる被害なのに周囲に感染被害が起きていないものであったり……これも被害は出ていないのですが……」
「いい。話せ」
「では僭越ながら。交通事故を起こした死体が突如としてグラナトファに変異したとの報告が上がってきました。そして動き出したその蜘蛛型は雲に糸を引っかけてどこかへ飛び去ったと」
妃崎の言葉に咳払いをし、ルティアは再開する。
「蜘蛛と雲、かけました?」
「余計なことは言わないっ。そして技術局からの報告によると現時点において死からグラナトファに覚醒した例はその一件のみだと」
「はあ……奴らの書面で済む検証では測れんというのにな。……グラナトファの生態には謎が多いからな」
少し愚痴の混ざった妃崎の言葉に、ルティアは咳払いをして空気を戻す。
「先程ので分かったでしょうけどここ最近、グラナトファによる民間人への被害が減ってきています」
「はい」
「ですが対称的に、俗に怪人と呼ばれる者たちによる被害が増えています」
そんなルティアの言葉に、皆の顔が曇る。しかしそれを晴らすように妃崎は机を叩き、下手な笑顔を作る。
「安心しろ。我らがヴァルキュアや、ダイナモが倒した例もある。そして郊外では謎の3人組が倒したという所出不明の情報もある。これは我々の力でも十分に対抗しうるということに他ならない。……皆、心してかかってくれ。くれぐれも……いや絶対に、死ぬなよ」
彼女のそういった言葉に、太陽機関の面々は何度も救われてきた。たかが言葉、されど言葉なのである。
しかし彼女の纏う空気が一気に冷たくなる。
「────最後に、私のことを"猫耳殺し"と呼んでいる輩がいるそうだ。怒りはしない。正直に名乗り出ろ」
(俺は大丈夫。スミロドンドーパントだもん。てか俺のがセンスいいだろ。なんだよ猫耳殺しって)
「あ、そういえばポートラルんとこのオレンジ髪の子とダイナモんとこの整備士がそんな言葉言ってたような……」
突然のセカイへの飛び火。ポートラル、ダイナモが危機に陥る。
「神川賢人。部隊長として部下の失言は君の責任になる。そして狗飼セカイ。君も同様だ。整備士とはいえチームメンバー。減給だ」
「え!?」
「嘘だ。それでは次の議題は────」
そんな時。
『スクラブル! 新東響 世田谷にて鏡に引き込まれ消滅する事案が発生! 現在動けるものは至急向かえ!』
全員の顔つきが変わる。この中で即座に戦闘可能な者は仮面ライダーの神川賢人のみ。他は装備を装着する必要があったため、自然と目線は賢人に向く。
「ミラーモンスターか……。皆さん! 俺が連絡するまで鏡……反射するもの全てに紙とか被せてください! 無ければ……」
話しているうちに妃崎の瞳から禍々しい腕が伸びる。
その腕はルティアに狙いを定める。
「ルティアに触れるな!」
自らの目を潰し、妃崎はそれを未然に防ぐ。
「なっ……! 長官!?」
「私に構うな! 貴様の力で治せるだろう!」
いくら治せるとわかっていてもだ。理論と本能は違う。事実妃崎の目の痛みは尋常ではなかった。それはひとえに、後輩を守りたいという願いだった。
賢人は少しの恐怖と痛みを想像し、しかし迷っている暇はないと指示を出す。
「クソ……もう塞いでいる暇はない……! 誰とも目を合わせないでどこか押し入れみたいな場所にうずくまっててください!」
賢人は叫び、窓を突き破る。それと同時に白い炎が彼の体を包む。
「また俺の給料から引いといてください!!」
「……バカね。経費よ」
ルティアの呟きは、ヴァルキュアには届かなかった。
……その瞬間、ブックの開く音がした。
現場は鏡面磨きのガラスが一面に張られたとある会社ビルの外。
「……さぁ、来るなら来い!!」
『闘争の ユニコーンリザード!』
2冊のワンダーコンボになった彼は全方位警戒を怠らず、剣を向け続ける。反射物のため『命の聖水』を使うことはできない。
「ぐぅっ……!」
鏡から鏡へ、光の速さで襲撃を駆けるミラーモンスター。賢人は一瞬だけ見えた色と形から正体を特定する。
「ガルドミラージュ……」
伝説上の生物である鳳凰をモチーフとして"描かれた"モンスター。それが実態化した姿である。
「くっそはえぇ……」
リング状の武器"圏"を投擲。一度は避けるも返ってくるそれに直撃し、鏡まで押し飛ばされる。
「……いいや好都合だ」
ピンチはチャンス。いつかテレビで聞いて目を輝かせた言葉を呟き、賢人はホルダーに聖剣を納める。
『波癒居合!』
今なら確実に当てられる。顕現したミラージュも明らかに動揺している。
────いける。ヴァルキュアの脳内に勝利という二文字が浮かんだ時、耳鳴りが響いた。
────キーンッ。キーンッ。
「なッ……!」
「ガルドストーム……!」
現れた二体目。巨大な頭と赤い体表。手には手斧。同じ鳳凰の怪物。ミラージュと対になるその存在は突如としてヴァルキュアの目の前に現れた。
「クソッたれ……!」
『ハンターナイトリザード!』
ブックの力を行使、急速に退避する。しかしその巨大な頭部にある羽飾りと、ゴルドミラージュの圏が同時に向かう。まるで追尾するかのようにヴァルキュアに向かっていくそれは、目の前で焼き消された。
「この声……嘘だろ……?!」
龍の鳴き声が鏡の中から響く。それに反応した2体のミラーモンスターは鏡の中に潜り込む。
「さぁ、ゴージャスに決めよう」
『ゴージャスアタックライド! リュ・リュ・リュ・リュウキ!』
鏡の中には、ヴァルキュアの見知った戦士が戦っていた。仮面ライダー龍騎。鏡の中から人々を、そしてライダーすらも守る戦士だ。
「なんか違う……」
左肩から右腰にかけてのタスキのような金の装飾物。明らかにデザインラインの違うそれは彼を困惑させた。
「ディケイド……じゃ、ないよな?」
赤龍 ドラグレッダーが謎の戦士に追随する。そしてそれはよく知った体勢を取り飛び上がる。
「はあッ!」
そのまま右足に炎を纏わせ、2体に向かって急降下、直撃の瞬間からみるみるうちに爆発した。
爆発を背に、謎の戦士は鏡から出現し、変身を解除、ヴァルキュアにブックを手渡す。
「イケメンだ……」
続いて変身を解除した賢人が呟く。
彼は鳳凰・カグヤ・クォーツ。とても煌びやかなシャンパンゴールドの髪にゴージャス絢爛な水色のお召し物、更にその上から赤と金のマントを羽織った、この世で最もゴージャスな人間である。
「神川賢人。貴様の力を写しに来た」
「えっ、俺の名前……なんで? 本物の仮面ライダーですよね?」
「本物? 仮面ライダーに本物や偽物がいるのか?」
「あっそうじゃなくて……」
実際にテレビで活躍する仮面ライダーなのか、という質問をするわけにもいかず、賢人は言葉に悩む。
「まぁいい、とにかくだ。貴様の力を写すだけ。奪いはしない。いいだろ?」
「いや、写すって言ってもよく分からないんだけど……ていうかそのベルト何? ディケイドに似てるんだけど違うっていうか……」
「貴様ディケイドを知っているのか!?」
カグヤの態度が変わり、少し我を忘れかけたところを自らで気付き咳払いで誤魔化す。
「え。……あ、うん。もしかして君も?」
「君、じゃない。カグヤだ。鳳凰・カグヤ・クォーツ」
「あ、カグヤって言うんだ……じゃなくて名前長!?」
「長い……のか? 宝太郎と1文字しか違わないのだが……」
「ほうたろう? 友達?」
「そうだ友達だ。……1人目のな。それでこのベルトについて、だったな。これはレジェンドライバー。カグヤ様の世界を守るための装置だ」
「へぇ……あ、もしかしてカードで変身するの?」
「あぁ、ケミーカードと言ってな。これにライダーの力を写し取ることでカグヤ様の力にすることが出来る」
そう言って彼は煌びやかな金に輝くゴージャスカグヤファイルを取り出した。その中には昭和の1号から令和までの全ライダーのケミーカードが満遍なく収納されており、それを見た賢人は目を輝かせる。
「え!!!!! やばいやばい凄い!! めっちゃかっこいい!! え! 写し取るって言ってたけどもしかして今みたいに全員会ったの!?」
テンションの上がった賢人に、カグヤは少し苦笑しながら答える。
「いや、直接会ったのは貴様で2人……あぁ、3人目だ」
「3人目……あ、さっき言ってた宝太郎って人も仮面ライダー?」
「あぁ、カグヤ様と同じくケミーカードで変身する仮面ライダーガッチャードだ」
彼はお茶目にも宝太郎の変身ポーズをとる。そのライダー名にまたも賢人は目を輝かせる。
「ガッチャード……いつのライダーだろう……! っていうかこのカードもカグヤが考えたの!?」
「少し違うな。ケミーカードシステムを利用させてもらっただけだ。そしてケミーのデザインはこのカグヤ様が考えている」
「えぇ!? 嘘!? デザインのセンスもあるんだ……」
感心する賢人。そして遠くから女性の声が響いた。メモと録音機を手に走る彼女は真実だった。
「貴方ですか輝いている人というのは!! タレコミ貰ってですね……取材よろしいでしょうか!!」
「だから許可が……」
「今日は貴方ではありません!! 早速名前伺ってもよろしいでしょうか!!」
遮る賢人の手を押しのけ、彼女は音声レコーダーをカグヤに向ける。
「これも有名税というやつだ。どれ、ゴージャスな記事にしてやろう」
「よろしくお願いします!」
「まずカグヤ様を語るならこの姿からを知らないとな」
『レジェンドライバー! ケミーライド!』
懐からバックルを取り出し、カグヤはカードを掲げる。その瞬間、空気が変わり言葉では形容できないゴージャスさに包まれる。
そしてカードを装填した瞬間から辺りに金箔が飛び散り、そしてレバーを開いた瞬間にそれは霧散する。
「変身!」
『レ・レ・レ・レジェンド!!』
金のカードが幾枚も彼の顔に向かう。それらがマスクを形成し、身体が金のスーツに包まれる。
広く遍く世界を照らす、豪華絢爛 絢爛華麗。仮面ライダーレジェンドがこの世界に誕生した。
「ディケイド!? でも体は全然違うな……えでも顔ディケイドじゃん!!!」
何度も全身を見回し、賢人は興奮する。
「ゴージャス☆」
「とても綺麗ですそのお姿!! 是非! 是非是非私達夕日新聞の広告塔になっていただけないでしょうか!!」
「あぁ、まずは宝石風呂と、そして全国の巨大モニターへの掲示だ」
「ま、まぁそれはおいおい……」
流石の真実も、予算という絶対的な制約には逆らえない。彼女は後ずさりする。
「そして最後にはこのカグヤ様が世界を豪華に……」
ぐぅ〜……。誰かの腹の虫が鳴った。真実と賢人は顔を見合せ、お互い顔をブンブンと横に振る。
「このカグヤ様が……空腹、だと……?」
ゴージャス街道を歩み始めた日から一度も腹を鳴らしたことのなかったカグヤ。彼は彼自身の世界が危機に晒されたあの時を思い出し、動揺を隠せない。
「ま、まぁ世界の移動って時間かかりそうだし……それでとか?」
「ゴージャスな空腹ってわけですね! 少しおちゃめな一面もあるカグヤ様……っと」
「……少し寄り道をしてな」
「それじゃあうちの食堂来る?」
普段の平静さを何とか装うとするも、賢人は流石に気づく。彼は社員証を通して3人で太陽機関の13階まで上がる。
「ここ、VAガーデン食堂」
「妃崎さんサマサマだよホント」
賢人の呟き通り、ここは彼女が私財を投げ打って出来た食堂だった。
「ほぉ、無料なのか」
「これは知らなかった……早速メモメモ」
「そんじゃあ……幕の内弁当お願いします。カグヤと真実さんはどうします?」
「私はのり弁当で」
「カグヤ様は黒毛和牛の────」
「ないよ!?」
言いかける前に賢人がツッコむ。だが、背後から誰かが迫る。それは警備員だった。その男は賢人の肩に手をかける。
「……あ、すみません!! ちょっと部外者連れてきてしまって……部隊長の権限で何とか……」
「不審者が何故侵入できている?」
「……あ、俺の社員証で! すみません!」
「何故部外者が社員証を持っているんだ……」
噛み合わない会話。明らかに賢人自身も不審者というカテゴリに含まれているような言い草。警備員は新人で、仮面ライダーヴァルキュアとしての姿しか知らないのかと早合点し、彼は長官室に向かった。長官の怪我の治療と、疑いを晴らすことも兼ねて。
「長官。治しに来ました。……目、すみません。守れなくて」
「……誰だ?」
人類を救うという大義を持つ彼女は敵意は向けずとも、しかし訝しげな視線を向ける。
では、と賢人はポートラル寮に向かうも望みは潰える。
「貴方誰ですの?」
綴のゴミを見るような目、刺すようなあまりに冷めた言葉を食らった賢人。
(記憶……? いやそんな怪人はいないはず……ゼロノスは俺違うし……何でだよ)
「……賢人? 大丈夫か?」
「太陽機関にて記憶喪失現象が発生……と」
真実のデリカシーのないメモ。しかし発生している現実は変えられず、彼女は新聞社に、賢人とカグヤはその日をカプセルホテルで過ごさざるを得なかった。
「……ようやく来たか。"奴らが"」
夜、自分で飾り付けた風呂に入浴中、カグヤは呟いた。
『ミラーモンスターだいひゃっか』
元ネタ 神崎結衣のおえかきちょう。
『目を覚ませ 鏡に潜みしレジェンドメギド』
ハンドレッド:???
ライダー:???