とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────わたしはあなたにはなれなかった。志半ばで死んでしまったから。だからわたしはあなたに託した。
わたしはあなたにはなれない。あなたとは住む場所が違うから。だからわたしは、意地汚くても生き続ける。
それは、妃崎長官の目が治って数日後の事だった。
ダイナモは本部駐屯という名の休暇を与えられていた。その日は諸々の手続きを終え、ようやく新メンバーが加入する当日。寮の中央室に集まり、歓迎会が開かれていた。
「
腐っても名家出身、彼女はかしこまった態度で頭を下げる。
事前に彼女の過去を聞いていた
「歓迎会なんっだよ〜!!」
パンッパンッパン。クラッカーが何度も鳴り響く。少し耳を抑えそうになりながらも寧々音は笑みを浮かべる。
「感謝しますわ! ……ふふふ」
「なんだか可愛らしいな。限りなく愛でたくなってきた。いいか? 狗飼」
「ダメだ。お前の撫で方は加減というものを知らないからな」
いつにも増して神妙な顔で問いかける戦香に、セカイは冷徹な判断を下す。
「それじゃあ私のこと撫でてください! 戦香先輩!」
まるで尻尾を振る犬のように、
「大丈夫ですよ。こんなでも皆、やる時はやる子ですから」
「ホントですの?」
「ありぇ〜? つわりは〜、セカにゃんがいないとやれないんだけどにゃ〜」
ダボダボでフワフワな服を着、袖をフリフリしてつわりはセカイに絡みつく、
「やめろ。俺と恋葉奈はそういう関係じゃない」
「いやいや〜、そういうカ・ン・ケ・イって、どういうことなのかにゃ〜」
「茶娘城。最初に言っておくが部隊員の誰とも個人的な関係を持つことはない。いいな?」
今一度、全員の顔を見てセカイは忠告した。彼女たちが常に死と隣り合わせにあるというのは抜きにしても、彼には婚約者がいるからだ。
しかしつわりはセカイの腕に絡みついたまま、猫のように頬をすり寄せる。
「セカにゃ〜ん、冷たいにゃ〜……もっと優しくしてほしいにゃ〜」
「気色悪い語尾をやめろ」
「ひどっ!?」
ぺちん、と軽く額を弾かれ、つわりは大袈裟にのけぞった。
「あ〜ん! DVだにゃ! モラハラだにゃ!」
「言葉を選べ」
そのやり取りに、部屋のあちこちから笑いが起こる。
「相変わらず仲がよろしいですねおふたりは」
「違うと何度も言ってるだろ。お前と木守陽じゃないんだからな」
「それはっ……というか! 戦香先輩は特別なんです!!」
「ハッハッハ。玉響は可愛いな。それに対して狗飼! 貴様はなんだ!」
「何だよ急に怒って。そんなキャラじゃないだろ」
「怒る先輩もステキ♡」
突然戦香にキレられても全くもって冷静なセカイ。対して玉響は目をキラキラと輝かせて妄想に浸る。
そんなダイナモの様子を見て寧々音がくすくすと口元を隠す。来る前に聞いていた話では、もっと殺伐とした特殊部隊のはずだった。
もっとこう、鉄の規律と緊張感に包まれた、冷たい場所だと。
だが現実はどうだ。犬みたいに頭を差し出す子がいて、後輩を撫でたがる先輩がいて、猫みたいに甘える子がいて、それを無表情でいなす隊長がいる。部活のような空気。思わず笑みがこぼれる。
すると、とぴかが紙皿を差し出してきた。
「はい、新人ちゃん。唐揚げ最後の一個。早い者勝ちだよ」
「え、よろしいんですの?」
"あの地獄"ではこんなこと、有り得なかった。管理された生活、管理された食事。和気藹々と食事をすることなど、夢のまた夢だったのに。
寧々音は遠慮がちに受け取る。少し時間が経って
胸の奥が、少しだけほどける。
「……変な人たちですわね」
「よく言われます。寧々音ちゃんは嫌いですか?」
「いいえ。大好きですわ!!」
その時だった。
「あれ〜……」
つわりの間の抜けた声。
「どうした、恋葉奈」
「ん〜……なんか、さっきから変なんだよねぇ……」
ふら、と一歩よろめく。
「おい」
「大丈夫にゃ。ちょっと立ちくらみ……かなぁ」
セカイが肩を掴む。いつもならボディタッチだと少しニヤつくはずなのに今回は、そんないつもの軽さがない。更には額にじわりと汗。
「熱でもあるんじゃないか?」
「え〜? つわり、風邪とかひかないタイプだよ〜?」
強がるように笑う。だが袖口の奥、一瞬だけ、皮膚の表面がノイズのように、ザ、とモザイクじみて揺らいだ。
セカイは瞬きをする。見間違いかと思った。だが胸騒ぎだけが妙に残った。
「……ほんとに、大丈夫ですの?」
「んー? へーきへーき。ほら、つわり最カワだから♪」
寧々音の心配に、いつも通りの笑顔を作るつわり。だから誰も、それ以上追及しなかった。
この時はまだ、それが最初の異変だったなんて、誰も思いもしなかった。
────数分後。彼女は、突然崩れ落ちる。
「うッ────!?」
ゾンビにはならないはず。では最近多発している怪人騒ぎか、様々な考えがセカイの頭をよぎる。
「恋葉奈!?」
「どうしましたの!?」
「……これは、分からないがまずは医者だッ!!」
皆が狼狽える中、戦香は内線で医療局に通信をかける。
「恋葉奈大丈夫か!!」
セカイが駆け寄り背負う。すると何故か症状が治まったつわり。しかし局長室に到着した途端にまたもやぶり返してしまう。
「これは……」
医療局局長
しかし外傷もなく、特殊な病原体などミリも見つからない。
「────ッ!?」
しかし突然、つわりの身体がびくんと跳ねた。心電図が乱れる。
ピッ、ピピッ、ピピピピピピ────ッ!! 異様な高速音。
「熱急上昇!? さっきまで平熱だったのに!?」
れいちぇるの声が裏返る。
次の瞬間。つわりの胸元から、黒いノイズが滲んだ。まるで液晶のバグのように四角いドットが、空間に滲み出す。
「……なんですの、これ……」
寧々音が一歩下がる。空気が、歪む。医療モニターが一斉に誤作動を起こした。
ブツッ────ザザッ────ピ────……。スピーカーから耳障りな電子ノイズ。蛍光灯が明滅し、部屋がゲーム画面のエラーのようにチカチカと点滅した。
「離れて!! 全員、患者から距離取って!!」
れいちぇるの叫び。その直後。つわりの身体から、ノイズが"剥がれ落ちた"。
それは空中で集束し、捻れ、砕け、再構築される。ポリゴンが肉に、コードが骨になり、ノイズが装甲になる。低い電子音。そして人の形をした異形が、床へ着地した。
ドンッ!! 衝撃で器具が跳ねる。無機質なバイザー。血のように赤いライン。全身を走るグリッチ。
それはまるで────。
「ゲームのバグ……?」
セカイが呟く。怪人が首を傾けた。ギギギ、と機械音。
「────生きるために、武器を取れ」
言葉と同時に、医療ベッドを蹴り飛ばした。そしてバグスターは頭に刺さった本を愛おしそうに撫でながら、少女達に十徳のような武器を向けた。
「これが怪人……」
「なんだか纏まりがないな」
セカイの言葉通り、そのバグスターは希望と絶望の象徴が入り交じり、チグハグな外見となっていた。
動き出すバグスター。しかし今はまだ生まれたて、いわば"ハザードテスト"状態の為動きは重く、緩慢だった。
「
「私を苗字で呼ぶなっつってるでしょ!」
「戦香! 指揮を頼む!」
「あぁ! 任された!」
その隙にダイナモは戦闘態勢に入り、れいちぇるは外へ退避する。彼女は天才ではない。努力を重ね局長まで上り詰めた秀才である。しかしそれでも、冷静な判断をする能力には長けていた。
「いてくださいよ……! やいとさん!!」
向かった先はポートラルの寮。目的はある人物。
「え!? あいかっ……れいちぇるさん!? なんですか急に!?」
「……最後まで言わなかったのは褒めてあげるわ。それよりも蜂ノ巣やいとは今どこ!!」
「え、あ、普通に今医務室に」
れいちぇるは勢いよく扉を開け放ち、驚いた賢人の肩を掴む。彼女は賢人の言葉を最後まで聞くより先に医務室に向かう。
「あら、れいちぇるちゃんじゃない。どうしたの?」
「突然すいません! その……怪人が現れまして。それでウイルスの怪人のようで、力を貸して欲しいんです!!」
「それって……もしかしてバグスターウイルス? 怪人騒ぎが増えてるって聞いてもしかしたらって思ったんだけど」
「ばぐすたー? ちょっとそれかは分からないですけど……」
「もしウイルスからゲームのドットみたいのが出てたら確定ね。それでこれ」
やいとは棚から1つの特殊な形の物体を取り出した。
「……これは?」
「バグスターウイルスのワクチン。『
「なんでこんなもの……?」
「いやぁ私ね? 研究医だから外科はからっきしなの。だから架空の病原菌のワクチンを開発したりしてたの。そしたら考えてるうちに風邪の時と似た対処法だなって」
やいとは少し自慢げに、鼻を高くして語り続ける。
「あ! もちろんやらなきゃいけないことは終わらせてね」
自分を見る目が冷めたものになっていることに気づいた彼女は、慌ててフォローをしてれいちぇるを送り出したのだった。
「流石天才研究医ね……」
呟いているうちに局長室に辿り着くが、目の前で扉が吹き飛ばされる。
「なっ……」
煙の中から、何かが転がってきた。玉響だった。床に叩きつけられ、二度、三度と跳ねる。
「っ、かは……ッ!!」
吐血。戦闘服に赤が広がる。肋骨が一本、明らかに折れていた。
背後の局長室は半壊。壁が抉れ、医療機器が火花を散らしている。そんな中、れいちぇるはワクチンの装置を指し示す。
「セカイ君! これワクチン!」
「え……」
「ポートラルの医者が作ってくれてたの! 早くアイツに!!」
しかし、バグスターの動きは未だ衰えない、どころか今まさに成長を続けていた。
場所の関係で蕾の超巨大ハンマーは使えない。同様の理由で遠距離用のライフルが使えないとぴかは小型ナイフで戦うしかない。
しかし、バグスターの感染装甲に刃が触れた瞬間金属が泡立ち溶け落ちる。
「全員下がれ!!」
次の瞬間、銃撃。壁が蜂の巣になる。当たっていたら確実に死んでいた。
そんな中、ぐらりと玉響は立った。膝が震えている。
────それでも。
「雛神門! まだ立てるか!! 一瞬でいい! 動きを止めてくれ!!」
「もちろん……!!」
彼女は歯を食いしばる。それはセカイの為ではない。尊敬する先輩に格好のいいところを見せるため。無理やりブーツに火を吹かせ足を動かす。
「
狙いは一点、頭部に刺さった本。直撃し一時停止したバグスター。それを確認したセカイはれいちぇるに指示を出す。
「今です! ワクチンを!!」
彼女が投げたワクチンを玉響がキャッチ。しかし跳んだ彼女に対し、微かに動いたバグスターは銃を向ける。
「危ないですわッ!!」
寧々音は専用の盾と槍
それによって緩んだ頭の本を抜き、代わりにワクチンを差し込む。
「……!?」
バグスターから分離したつわりが倒れ込む。
「わた……わた……わたしはN-2169『Judgment』むく。────ころ、ころ、こ、殺し損ねたことを、後悔しろ」
一方のウイルスはゲームのバグのように同じ言葉を繰り返す。ブラウザからのように姿も形も、ゲームデザインも変わった新たなゲーム。そう、バグスターは新たな姿を得たのだ。
「いいや。お前は今ここで殺す。可愛い後輩の為にも、な」
戦香のハルバードは赤く光り、血液が充填される。それによって展開した刀身は戦香の血でコーティングされ、バグスターの増加装甲に触れても一切変化がない。
「さぁ、死んでしまえ」
低い声。怒りでもない。冷たい殺意。刃が触れる。侵食しない。逆に血が流れ込む。
戦香の血で満たされたバグスターは、体の自由を奪われる。戦香が自分の頭に武器を向けると相手も同じ動きを取り……。
「
その行為に躊躇はない。戦香が振り抜いたと同時にバグスターの首が飛ぶ。次の瞬間、塵となって崩れ落ちた。
残ったのは取り出された本とゲームクリアを示すファンファーレ。セカイは本を拾ってつわりに駆け寄った。
「恋葉奈! 大丈夫か!!」
「あはは〜……まさか心配してくれるなんてな〜……」
急いでつわりに駆け寄るセカイ。つわりは疲労困憊で少し顔を持ち上げる。
「当たり前だろ! 仲間なんだから!!」
特別な感情はないとしても、それでも確かな事実はある。それは共に戦う仲間である、ということ。
「フフ、狗飼君も案外、情には厚いのだな。見直したぞ」
「見直されるほど注目してくれていたのか? ありがとう、木守陽」
「先輩を誑かすのはやめてください狗飼さん!」
微笑む戦香に、無自覚にセカイは人たらしな言動をする。そんな彼に対し、玉響は抗議する。
「フフッ」
「ん? どうしたんですか寧々音ちゃん」
「いや、やっぱりここを選んで良かったなって」
クスッと笑みをこぼす寧々音。仲間が危機に瀕していたのに、そこから抜け出した直後にもうこの空気。それに何故かおかしみを感じたのだ。
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9/22
今日は晴天。こんな世界になっても空気は美味しかった。そういえば知らない間にダイナモがバグスターと戦ってたらしい。でも誰も死ななくてよかった。あ! そういえばやいとさんがガシャットの形したワクチン作ったんだって。粋過ぎない?
あと、ポートラルで焼肉に行ったけど、焼肉店なのに海鮮が美味しかったしトウモロコシも美味しかった。肉の部位は分からないけどなんか内臓系が美味しかった。
『バグスター・ミュージック』
『目を覚ませ 感染せしストーリーメギド』
元ネタはブラッド・ミュージック
コラボスバグスター(感染×少女)
美少女ゲーム『THE 少女恋愛』とゾンビゲーム『大感染 -infection-』のゲームウイルスが合成変異したバグスターウイルスによって生まれた、新種のバグスター。
元ネタはブラウザゲーム『感染×少女(中国では末日少女)』からのスマホゲーム『感染×少女』の移行。
産まれたての言葉もそれが元ネタ。