とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
後、今回だけは後書きオフにしてる方も後書き見て欲しいです。まぁオフにしてたら前書きも見れないんでしょうけど
────わたしは叫び続ける。この世に生まれた意味を。あなたに呼びかける。あなたの名前を。
【EP.1.0 ヒューマノイド・アイドル】
賢人と来栖崎がワームと戦っていたその頃、街では怪人騒ぎが起っていた。
「怪人です! ダイナモは対処に当たってください! ……くれぐれも民間人への被害は最小限に!!」
「了解!!」
ルティアの指示で新東響 久留米市に向かったダイナモ。
既に怪人は暴れていたが、しかし民間人は一切おらず、むしろ誰もいない場所で暴れているという、虚しい光景だった。
「なんだ!? この怪物は!?」
「なんなんですの!?」
機械のようにメカメカしい体表。胸にはナンバープレートが装備されていた。番号は109。怪人の名はロイミュード、機械生命体である。
「行くぞ!!」
人間大の大きさの怪人。あまり相対することのない敵に、皆は狼狽える。……わけが無い。
「はぁッ!!」
「蕾ちゃん!!」
とぴかの対物ライフルがゼロ距離から放たれる。それは電撃を纏い、ロイミュードの内部機械に影響を与える。武器が大きすぎて小型の敵に不利な蕾。
しかしそれは武器が故である。つわりの巨大モーニングスターを持ち上げ、跳び上がる。
「喰らえっ、なんだよ!!!」
それは109の半身を砕くが、その身体からミニカーの様なものが分離、退散する。
「待てっ!!! クソッ追いかけないと……!」
しかしその小さな物体を見逃さないことなど不可能だった。ダイナモは一旦太陽機関へと戻ったのだった。
「その様子……取り逃したようだな」
「……すみません長官」
「いや、コアというものだけになったようだから少なくとも今は大丈夫なはずだ。今はゆっくり休め」
「……ありがとうございます」
セカイが部屋を出るのを確認すると、妃崎は歯噛みする。最近、怪人騒ぎが太陽機関メンバーに対して多発していることに対して少し焦りというものを覚えていたのだ。
一方、バイラルコアと呼ばれるミニカーになり命からがら逃げた109。
「クソ……なんなんだこの世界は……」
いきなり本から召喚され、生まれ落ちたのは同種族のいない世界。訳もわからず暴れたところを謎の少女たちに襲われるという仕打ち。
「あれあれ? 何かな? これ?」
「こらよすが。路地裏は危険よ? ────って」
姉妹が見つけたのは、ボロボロになって倒れている女性。それは109の新たなボディだった。
「これはこれは……行き倒れか?」
華やかな衣装に身を包んだ5人組と、男女ペアが一対。
女性の方はマネージャーである園咲ルナ。そして男は仮面ライダーSISTERSのスタジオの支配人だった。男の方はスカウト出来るかも、という目的で提案する。
「うわ、軽っ!? この子めっちゃ軽いんだけど!?」
「栄養失調かしら……支配人、どうします?」
「う〜ん……連れ帰る?」
「何言ってんの!? また面倒ごと増やす気!?」
騒がしい、うるさい。非合理的、意図が読めない。
「もう大丈夫だからね」
むぐらは、抱き上げる。その温かさが、胸の奥に妙に残った。
目を覚ました時、そこは見知らぬ部屋だった。白い天井と柔らかなベッド。そして甘い匂い。
「……ここは?」
「あ、起きた! 大丈夫!?」
褐色肌の笑顔が覗き込む。無防備で警戒などなく、愚かだと、109は即座に結論づける。
この集団を利用し、進化しよう。ロイミュードの進化には、人間の強い情動が最適だから。
「名前、覚えてる?」
「なかったらボクたちが付けよっか!」
「いやよすがのネーミングセンス終わってるから。そんなのに決められるくらいなら行き倒れとかのがマシ」
「ひえぇぇ、こんな可愛い子がアイドルになったら私たちの仕事減っちゃうよ〜」
「無くなりはしないんだね」
むぐらが心配し、よすがが空気を和ませる。それをしずくが突き刺しネガティブに陥るほとりをマネージャーが収める。いつもの日常だった。
────うるさくて騒がしくて非効率。なのにどうして、どうしてこんなにも楽しそうなんだ。
廊下の向こうから、別グループの歌声が聞こえた。ポップなメロディ、少し物悲しい歌詞。
「こらぁユカリサボらない!」
「え〜ちょっと休憩しようよ〜」
「もうちょっと! もうちょっとやればキャンディ食べれるよ!」
「嘘!? ホント!? じゃあユカリ頑張っちゃうもんね〜」
倒れそうになりながら、それでも立ち上がる。踊り歌う。誰の命令でもない。報酬のためでもない。ただ、誰かの背中を押したいから。
「最近はあの子達もグングン伸びてきてるよね〜。ボクたちもうかうかしてられないや!」
いまや日本のトップアイドルとなった仮面ライダーSISTERS。同事務所では様々なアイドルやアーティストがデビューしており、そのどれもが華々しい活躍を見せていた。
早速SISTERSは衣装を整え、2ヶ月後に迫ったライブのゲネリハに望んだ。折角だから見ていきなよ、と109を誘って。しかし109には理解が出来なかった。何故、知らない誰かのために歌うことができるのか。奉仕できるのか。
だが、胸の奥が微かに熱い。これは何だ。
「……いいな」
109の呟きは、誰にも届かない。本人でさえも、なぜ口にしたのか分からなかった。利用する対象。感情という、0と1の羅列。
そのはずなのに視線が離れない。歌う彼女たちから、笑う姿から。ステージの光から、知らない感情が静かに芽吹いていた。それが後に109を裏切ることになると、この時の彼女はまだ知らない。
「それじゃあ名前を付けよう!!」
名付け、本来ならとても重要な人をかたどる1ピース。よすがは以前から考えていたかのように半紙に書かれた習字を指し示した。
「ホドキ……?」
109に名付けられたのはホドキ。糸を解くように、人の心を紐解いて欲しいという願いを込めて。
「へぇ、よすがにしてはやるじゃん」
「ハッハッハ。てっきりジェーンドウとか名付けるのかと思ってたぞ」
「ちょっとわだち姉笑えない冗談だよそれ」
「いえ? 身元不明なのは本当だから」
「ホドキちゃん!?」
わだちのそれをブラックジョークの上乗せで華麗に捌く109改めホドキ。彼女はその日から、ライブレッスンに付き合うようになった。
「しずくちゃん。今日のライブ良かったよ」
「……別に、言われなくても当然」
「ていうか、ホドキちゃんはしないの? アイドル」
「私は……」
ただ感情を利用し進化しようという目的でアイドルになっていいのか。それは、誰かを応援することに繋がるのか? ホドキの心は、今まだ揺れていた。
【i-n-g EPISODE.3.5 光に続く道】
夜。
消灯後のスタジオ。誰もいないはずの廊下を、ホドキは一人歩いていた。
足音がやけに大きい。人間なら気にもしないレベルの静寂が、今の彼女にはうるさかった。
目的は感情を知ること。ただそれだけ。効率だけを求めるなら泣かせる、怒らせる、絶望させる方が早い。
ライブの練習に付き合う必要も、一緒にご飯を食べる必要も、名前で呼ばれる必要もない。なのに彼女は、レッスンルームに残っていた。ドアは半開きで、中には鏡。映ったのは自分だけの人間の姿。誰の真似でもない。ホドキは自分の頬に触れる。柔らかくて温かい。鼓動だってある。
だが胸の奥の違和感は抜けない。
「……ホドキ」
その名前を、小さく口に出す。名付けられた識別コード。ただのラベル。109が、製造されなかったはずのその番号が、自分の本当の名前。そのはずなのに。
────なのに。
「……好きに、なってる」
意味が分からない。
この言葉を呼ばれると、なぜか反応速度が0.3秒早くなる。よすがに呼ばれると、視線が向く。しずくが少しでも口角を上げると即座に反応してしまう。わだちがキセルを咥えたら注意してしまう。どうでもいいはずなのに。
彼女は思い出す。
────昼間。
『ホドキ! そこ振り遅れてるよ!』
『ホドキちゃん水飲んだ?』
『ねえ次のフォーメーション一緒に確認しよ』
あの輪の中に、自分が“自然に”立っていたことを。メンバーじゃないのに、ダンスを覚えていることを。
利用する側なのに。鏡の中、自分がほんの少しだけ笑っていた。
「……これは、エラーだ」
そう呟いた声が少しだけ、寂しそうだった。
ホドキの朝は早い。その日の練習のために早くからレッスン場に行き、鏡を見て振り付けを何度も再確認する。それが終わったら丁度シスターズが起きる頃なので共に朝食を食べる。
「……美味しい」
本来、食事など必要ない。初めはカモフラージュのためだったそれはいつしか習慣となっていた。
「本当にアイドルやる気ないの? こんなに可愛くて、それにダンスだって……」
「いいえ、私にはまだ資格がありませんから」
支配人の誘いにも、彼女は乗らない。
アイドルに、正解はない。誰も知らないし、知る必要も無い。しかし自分がないアイドルを、誰が応援するのか。心からアイドルになっていない自分を、誰が推すというのか。
そんな風に考えるホドキ。しかしその考え自体既に、アイドルである証左だった。
「……あのさぁ」
ルナマネージャーが、横から割り込んだ。
「そんなのなってみてから考えればいいのよ。資格とかさ。実際シスターズだってそうやってデビューしたんだしね」
「……え?」
呆気にとられるホドキ。ルナは彼女を衣装ルームへと連れていく。
「ほらほら、衣装は用意してあるからさ」
「え!? ルナさんいつの間に!?」
「寝てる間にコッソリとね」
「同性でもセクハラですよそれ!?」
「ハイハイ。男子禁制よ〜」
支配人のツッコミは、ドアを閉める音でかき消された。
【EP.FINAL Things she loved】
「……最近、勝手にブックを使っているそうね。……特にワームのものを」
「いやぁ、そんなことないですよ? というか──さんこそ最近ここに来てないじゃないですか。……それに、今私はイライラしてるんですよ」
竜瀧の行為を、女性は未だ知らない。そして彼は、舌を鳴らし、もう一度ロイミュードのブックを開いた。
「何をしに行く気だ」
「後始末ですよ。自分の、ね」
竜瀧は、複数のナンバーを連れて、街へと繰り出した。
「……似合ってる、のかな」
ホドキは衣装室の鏡に自分を映す。
衣装はクールで、少しロックなへそ出しスタイル。大人っぽくも内に幼さが少しあるホドキの本質にピッタリだった。
動くたびに小さく光が跳ねる。機械の体より断然軽く、可動域も広い。
「ホドキちゃん〜! まだー?」
外から支配人の声。
「今行きます」
返事が、少しだけ柔らかくなっていることに気づき、自己補正を試みる。
ドアを開けると、照明が一斉に点灯した。
「おぉ〜〜〜っ!!」
「やっぱ似合うじゃん!」
「え、待って普通にセンター顔じゃない?」
「ほら言ったでしょ私の目に狂いはないって」
「……まぁ、いいんじゃない」
視界の端、しずくが小さく親指を立てた。
その瞬間。
「……ありがとう、ございます」
自然に言葉が出た。感情が、心が弾ける。
「じゃ、軽く通してみよっか! フォーメーション確認ね!」
課題曲はシスターズのデビュー曲。ベースの振動と床の反響が体を動かす。
正確に、機械的に。間違いなどない、はずだった。
隣で笑い、必死に食らいつくよすがとほとり。汗を拭うむぐらに息を切らしても歌い続けるしずく。そしてそんな4人を引っ張るセンターのわだち。その全部が視界に入るたび、リズムがほんの少しだけ揺れる。
「……楽しい」
理解不能。だが悪くない。
「……いいな」
その瞬間。
ドンッ!! スタジオ全体が、わずかに震えた。音楽が止まる。
「……え?」
「今の何?」
ガァァン!! 今度は明確に金属がひしゃげる音。警報灯が赤く点滅する。
ホドキの視界に警告が走る。
『コアドライビアを検知』
────ロイミュード。
「……来た」
口が勝手に動いた。
「ホドキ?」
よすがが振り向く。割れた窓枠の向こう。檻のような顔、手には巨大な鎌。
ギギ……と金属音。ナンバープレートは、010-107。97体の、改造されたロイミュードが、竜瀧と共にやってきた。
「あれロイミュード……だよね。ドライブの」
「な、なんで……」
ホドキの背中を、冷たいものが走る。これは理解できる。これは知っている。
「敵だ」
背後にはメンバーたちが固まっている。逃げることができずに。
「ホドキちゃん……?」
ダメだ。怪人態を晒してはアイドルになんてなれない。バレたら、ここにはもう居られない。
────でも。人を笑顔に。ファンの背中を押すのがアイドル。ここでやられては、皆に笑顔を届けられない。
「みんな、下がって」
声が低くなる。瞳の色が、わずかに赤く発光した。
胸の奥の数字が、熱を帯びる。かつて自分たちと敵対していたという仮面ライダーの掛け声を、ホドキは口にした。
「変身」
アイドルを知り、愛を知り、彼女は昇華する。
────スカイロイミュード。進化し、青空を冠した名前、その姿は透き通る程に美しい。
「ホドキちゃん……?」
死神の触手を避けるスカイ。着地音すらなく、ふわりふわりと華麗なステップが97体の敵を翻弄する。
ガラスのような装甲。一度でも攻撃を喰らえば砕けてしまいそうなその儚さ。
010の鎌が振り下ろされる。鉄を裂く死神の一撃。だが当たらない。スカイの姿は、すでにそこに無かった。
「……え?」
よすがが目を見開く。
一歩。ただそれだけ。それだけで残像が三つ生まれる。
「速ッ!?」
トン。スカイの足先が、010の胸に軽く触れた。
それだけで。
ドォンッ!!! ロイミュードの巨体が弾丸みたいに吹き飛び、壁を三枚ぶち抜いた。
「な……!?」
「蹴った……だけ……?」
017の両腕の刃が唸る。死角からの挟撃。だがスカイは一度、くるりと回った。
ターン。まるでダンスの振り付け。スカートの裾が翻るみたいに、青い残光が円を描く。
次の瞬間、両腕が同時に宙を舞い、遅れて017が崩れ落ちる。
「……今、何した……?」
誰も見えていない。斬撃が速すぎる。いや違う。見惚れていたのだ。綺麗すぎて。
戦闘だと認識できなかった。スカイは静かに着地する。
その動きは、さっきまでレッスンしていたフォーメーションと同じだった。
ステップ スライド ターン。
「……これが……私の、動き……」
理解する。歌と同じでリズムがあり、間もある。敵の呼吸、振りかぶり、重心。全てがテンポ。
「合わせれば……いい」
トン、トン、トン。リズムに合わせて踏み込む。
触れるたびにロイミュードが吹き飛び、砕け、転がる。
まるで一人だけ別のステージで踊っているみたいに圧倒的。
「すご……」
「ホドキちゃん……なの……?」
仲間の声が、背中に届く。
「……絶対に、壊させない」
青い光が、さらに強く瞬いた。次の敵が踏み込むより早く。
「やはり有象無象の機械人形では分が悪いですか」
低い声が、空気を裂いた。
瓦礫の向こう、煙の奥から、一歩、一歩と靴音が響く。
『マッコウクジラ!』
スタンプが押される。
バキン。骨が軋むような変質音。肉と装甲が混ざり合い、巨大な影が膨れ上がる。
竜瀧は、デッドマンへと変貌した。
「ロイミュードじゃ、ないみたいね」
「あなたは失敗作です。109」
クジラは、マスクの下で嗤う。
「感情など学習したところで、機械は機械でしょう」
次の瞬間。
ドンッ!! 床が砕け、視界から消えた。クジラは、速くて重い。スカイは反射的に跳ぶ。
だが。
「読めますよ」
ギィンッ!! 槍が、先回りしていた。肩装甲に直撃。ガラスのようにヒビが走る。
「……っ!?」
初めて避けきれなかった。
「ダンスのステップ。規則的すぎる」
槍が薙ぎ、空気が爆ぜる。その衝撃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ホドキちゃん!!」
立たないと。まだ立てる。だからまだ倒せる。
ターン フェイント。今度こそ死角の完璧な軌道。
────なのに。
「三手先まで同じ動きです」
首を、片手で持ち上げられる。
「……が……ッ!?」
腹部に、槍が向く。コアドライビアの位置。確実に、死ぬ。
スカイは後ろを見る。そこには固まっているメンバー。
よすが。しずく。むぐら。わだち。ほとり。逃げられてない。
「……だめ……」
ここで彼女たちを死なせてはならない。だから答えは一つ。自分から、槍に飛び込んだ。
────ズブリ。
「……ッ!!」
オイルが流れ、視界が赤く染まる。膝が折れ、着地すらできない。
「ホドキちゃん!!」
声が遠い。痛覚なんてないはずなのに、何故だか苦しい。
「庇って、人間気取りですか?」
竜瀧が見下ろす。答えられない。
「……ちがう……」
声が震える。
「……私は……アイドル……」
頭に浮かぶのは、楽しい日々。朝ごはん、ダンス、名前。
「……それでも……あの子たちに……笑っててほしい……だけ……」
「たかが機械が、被造物如きがアイドル? 思い上がるのもいい加減にしてくださぁい」
槍が、再び振り上がる。今度こそ、トドメ。その瞬間、不可視の剣が、槍を弾く。
「……殺す」
『アイドルは、暴言なんて言わないのでは?』
しずくの脳内に、ホドキの声が反響する。
「……関係ない。あいつは、私が」
「なッ……」
「久しぶりの戦いだ。……妹達、準備はいいか?」
「……うん」
シスターズの遺伝子の力は、戦いのためのものじゃない。でも今は、今だけはその枷を取っ払う。
次の瞬間。デッドマンの視界から、全員が消えた。
「……は?」
周囲に、わだちから生まれた無限の屍兵が現れる。蒼い炎に包まれたそれは、デッドマンと死神の軍勢を圧し潰さん勢いで進行していく。逃げようとするも、そこに迫るしずくの斬撃。装甲が紙みたいに裂ける。
「な、速……」
言い終わる前にむぐらの矢が豪雨みたいに降る。全弾、急所だけを正確に撃ち抜く。
「があああああ!?」
体勢を立て直す暇すらない。
「演算完了」
ほとりの瞳が光る。
「0.7秒後、右脚崩壊。1.2秒後、転倒。3秒後、敗北」
「なにを──」
バキッ。本当に死神達の右脚が砕ける。竜瀧は理解する。これは予測じゃない。こんなのが自分に食らわせられたら……。
「あとはボクに任せて」
よすがが、にこっと笑う。そして彼女は自分の心臓を停止させる。
竜瀧の視界から、世界からよすがが消える。
「どこだ!? どこに────」
耳元で囁き。
「ばいばい」
『
トン、と。軽く肩を叩かれただけ。なのに。内部から。
ドォンッ!!!! 超大爆発。
「……は……?」
膝から崩れる。勝負にすらなっていない。一発も、まともに反撃できていない。
人間に戻った竜瀧は、血反吐を吐く。排出されたバイスタンプを手に取り、わだちは吐き捨てる。
「キサンはもう、おしまいじゃ」
パキン。バイスタンプが砕ける。竜瀧は煙みたいに逃げるしかなかった。
────完全敗走。それは戦闘ですらなかった。一方的な制裁だった。
「……ごめんね。黙ってて」
「喋らなくていいから! 」
「ホドキちゃんは怪物なんかじゃないよ!」
「……それに私たちだってクローンだし」
ホドキはそれを安心させるための嘘だと勘違いし、乾いた笑みを浮かべる。
「もう……多分無理かも。ごめん。宣伝までしてもらったのに。……デビューできなくて」
「ホドキちゃん!! ……だったら最後、一緒に踊ろう?」
「支配人!! ハコスタの準備して!!」
「え……あ、あぁ分かった!!」
物陰に避難していた彼に叫び、ホドキに応急処置を施すシスターズ。
最後のライブを、輝かせるために。
ステージ袖。鉄の味がした。
「……っ」
喉の奥に込み上げる血の匂い。袖で拭った指先が、赤い。さっきの戦闘で、コアは半壊。視界の端がちらつく。本来ならもう動けない。
それなのに。
「大丈夫。ホドキちゃんなら出来る」
むぐらが心配そうに覗き込み、ミルクキャンディを差し出す。
「……ありがとう」
立ち上がろうとして、膝が笑った。力が、入らない。
身体が自分のものじゃないようだ。どうせ、すぐに死ぬ。ライブをしても、しなくても。
でも、だからこその期待。
「……行こう」
気付けば、呟いていた。
「え?」
「ホドキちゃん?」
「……歌う」
それだけ言って、歩き出す。足取りは、重い。一歩ごとに、世界が遠のく。
ライトが点き、歓声が爆発する。
「SISTERSーーー!!!」
音の奔流。光の嵐。それが、真正面からぶつかり、一瞬立っていられなくなる。
ぐらりと、膝が折れかけた。
「……っ!?」
床に手をつきそうになる。終わりだと思った。
でもここで倒れれば、全部止まる。ライブも、みんなの笑顔も、この時間も。
合理性などかなぐり捨て、ステージを踏みしめる。
「……まだ……まだ……終わりたく、ない……!!」
いつもなら正確に取れるリズムが、今日は遅れる。
振り付けも半拍ズレる。それでも、前を見る。
「ホドキちゃーーん!!」
その声がまっすぐ、胸に刺さった。初めて、自分の意思で歌う。利用するためじゃない。進化のためでもない。
ホドキにしか出来ないライブ。それを観客は、望んでいるはずだから。
「いくぞーっ!!」
その瞬間、ノイズが消えた。心が透き通る。歌が光になる。シスターズのハーモニーに、ホドキの声が重なる。不完全で、傷だらけで、だけど今までで一番、綺麗だった。
限界、だけど。
「この曲は、私だけの曲です」
声が震える。うまく出ない。
なのに客席は、静まり返って待ってくれている。
喉が焼け、血の味を滲ませる。でも止まらない。
「……それでは聞いてください」
涙が頬を伝う。初めての涙。こんな機械に涙なんて。
「『またね』」
歌い出した瞬間、世界が止まった。音が、光が、全部味方になる。
上手くなんてない。声は掠れ、音程も揺れる。
それでも今までで一番、一番心が乗っていた。叫ぶように歌う。もう綺麗じゃない。アイドルらしくない。
それでも。それでも最後まで、最後の一音まで歌い切る。それが私の、選択だ。
「……これが……人間……」
マイクが落ち、体も落ちる。でも倒れる瞬間、彼女は確かに思った。
生まれてきて、ここに来て、ホドキになれて。
「ホドキちゃん!!」
駆け寄る声。伸ばされる手。暗くなる視界。
最後に見えたのは、泣きながら笑うみんなの顔だった。
「……よかった」
そう思えたのが。109、いいやホドキの、最初で最後の、本当の“進化”だった。
散り際、ナンバープレートは、『ホドキ』に変わっていた。その後には、1冊の本が残る。それを拾い、シスターズは歌う。
アンコール曲。ホドキも一緒に歌っている、そんな気がした。
『ロイミュードは電気羊の夢を見るか?』
『目を覚ませ、機械仕掛けのストーリーメギド』
元ネタはアンドロイドは電気羊の夢を見るか?
死んで欲しくなかったなぁ。誰か生存if書いてください
またね/ホドキ ()内は作中設定
作詞:僕(ホドキ) 作曲:なし(ホドキ) 編曲:なし(ホドキ)
もしも明日会えずとも
今僕が残せるのは ひとつだけ
増やすために 僕は歌うんだ
皆に届けるために
例え辛くても 困難にも立ち向かう
もしも会えなくなっても
記憶に残り続ける この道を信じて
進み続ける 最高の光
残せるものが増えたって
僕は何にもなれない? それでも歌え
エゴだっていいよ
例え誰かに受け入れられなくても
もしも僕が消え去っても
透き通る世界は続く それだけ願って
残り続ける 皆の光
口が悪くても 臆病でも 自信がなくたって
ネガティブさえも長所に変える
最古の光
もしも会えなくなっても
記憶に残り続ける この道を信じて
進み続ける 最後の光
もしも離れ離れになっても
また会えるよ
最後のゆびきり