とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────彼方に浮かぶ、赤い月。それは悪夢の、見えざる魔の手。貴方の力に、わたしはなりたい。
その日、五十嵐一輝は夢を見ていた。場所は実家の銭湯、しあわせ湯。火に包まれるそれと、そこに佇む悪魔のような怪物。
「ボウズ……」
「ベイル……か?」
その名はベイル。今はもういないはずの悪魔の夢に、彼は連日苦しめられていた。
「だとしたら……? ふッ!」
全力で腹を殴られ、血反吐を吐く一輝。その瞬間に目が覚める。
「兄ちゃん!?」
荒い呼吸。心臓が、胸を内側から殴っているみたいに痛い。
「兄ちゃん、大丈夫!?」
「しっかりしてよ一輝兄!」
大二とさくらの声が重なる。一輝はゆっくりと上体を起こした。
「……平気、だって……ちょっと怖い夢見ただけ……」
そう言いながら、自分の腹に触れる。じわり、と熱い。パジャマをめくる。するとそこには紫色の痣。殴打痕。夢の中でベイルに殴られた場所と、寸分違わず同じ位置だった。
部屋の空気が凍る。
「……なんで」
「夢……だよね……?」
「……いや、違う」
大二の声が低くなる。
「悪魔は、人の精神世界に干渉できる。でも直接影響を与えるなんて……」
「悪魔じゃ、無いって事?」
さくらの問いに、誰も答えられなかった。その時。部屋の隅の鏡が、ゆらりと波打った。
「……やれやれ。面倒なことになってんなァ」
黒い影が滲み出る。
「カゲロウ」
「兄貴の精神に直接入り込んでるタイプの悪魔だ。外から殴っても意味ねぇ。中でぶっ飛ばすしかねぇな」
続いて、さくらの傍からぴょこんと顔を出す巨大なヘビの悪魔。
「ラブ〜♪」
「ラブちゃんも行けるの?」
「ラブ!」
小さく拳を上げる。
「……ごめんな、二人とも」
一輝が苦笑する。
「俺の問題なのに」
「家族の問題だろ」
「当たり前でしょ」
即答だった。少しだけ、胸の奥が温かくなる。
「任せろ兄貴。夢ン中の怪物なんざ、悪魔の俺の専門分野だ。変身はできねぇがやってやるよ」
「ラブラブ!」
次の瞬間、カゲロウとラブコフの姿が黒と桃色の粒子になり、一輝の体へと吸い込まれた。一輝の意識が沈む。深く、深く。暗い水の底へ潜るように。
気が付くと、そこは夜の銭湯。誰もいない。湯気もない。色が抜け落ちた、灰色の世界。色があるのは、ゆらゆらと燃え続ける炎だけ。
「ここがあの兄貴の精神世界ねェ……」
カゲロウが舌打ちする。その時。
ガコン。遠くで扉が開く音。ぬちゃり、と粘ついた足音。現れたのはベイルに酷似した黒い怪物。
だが顔が歪んでいる。笑っているのか泣いているのか分からない、ぐちゃぐちゃの仮面。
「キサマラガクルノヲ……マッテイタ」
「……誰だ? テメェ」
それは低く笑った。同じ悪魔として同種を判別することに長けるカゲロウ。即座に悪魔ではないと見抜く。相手の名前はデビルナイトメア、人の深層心理に潜む"悪夢"である。
「……」
次の瞬間、景色がガラッと変わる。
────グラシアス デッドマンズ。そんな言葉と共に、オルテカは信者にギフスタンプを押印する。押された女性は紫の炎に包まれ、石となり、内側から悪魔に食い破られる。
『ニンゲン、オイシカッタ』
一輝のトラウマは、ひとつじゃない。
『大二は、粉々に消滅しましたよ。お兄さま』
「あれは俺……? なっ!?」
カゲロウの腹に拳がめり込む。
「ぐはッ!?」
吹き飛び、壁を突き破る。重い。純粋な暴力。技巧も何もない、ただ恐怖の塊。
『お疲れ様、君の仕事はここまでだ』
次の場面は、一輝にとって最も思い出したくない記憶。
『お"前"ら"ぁ"ああああああ!!! 何故朱美さんを手にかけたぁっ!!』
『違っ……!』
「ラブ!!」
「勝手に動くな!」
『バット!』
ラブコフがコウモリの羽のようなメガホンとなり、超音波が繰り出される。しかし、効果はない。
「当たらない!?」
「コイツ……実体と幻影が混ざってやがる……!」
「コワイ……イタイ……モウ……タタカイタク……ナイ」
その声は、一輝の声だった。
「……っ」
二人は気付く。これは敵じゃない。一輝の“弱音”そのものだ。失った夢、守れなかった後悔、戦えない無力感。全部が凝縮された怪物。だから強い。
「チッ……めんどくせぇ相手だな……」
「悪夢は終わりだ」
カゲロウが立ち上がる。その時。背後から、くぐもった声が聞こえた。男の声。しかし聞き覚えがない。
「
白のジャケットにハーネス。彼は悪夢から人々を守るエージェント。
「
光が弾ける。音を超えた速さが、悪夢を貫く。
『イナズマライダー!!』
軌跡すらも、美しい。連鎖する光を追おうと、怪人が目をグルグルと見回す。
『ゼッツ! ゼッツ! ゼッツ!!!』
しかし無駄な足掻き。出遅れた怪人に未来はない。攻撃の火花ですら、空気が弾ける音でかき消される。
『プラズマ!!』
ゼッツの速さは、何者も追いつけない。光に追いつくという神業。それを、相手は持ち合わせていない。攻撃の空振りでさえ、その空気圧で相手は吹き飛ばされる。直撃はそれすらも超える威力。
恐れおののく怪人。しかし最後の能力"固定"を発動させ、ゼッツの心臓に狙いを定める。しかし鼓動すら超え、足に光が纏われる。瞬間移動か、否。
『プラズマオーバーバニッシュ!!』
跳躍し、相手は光に貫かれる。
「はぁッ!」
「どっ、どこだ!? うッ!?」
「正夢に変えてやるよ」
「どこを狙って────がァッ!?」
「……消えろ」
「くそッ逃げるしか……!!」
『ゼ・ゼ・ゼッツ!!!』
音が、遅れる。全ては一瞬の間に起こった。しかし悪夢は原型を留めている。それは、一輝の残留思念か、それとも……。
「そういうことか」
四連装ガトリングを取り出したゼッツ。3つの夢の力を引き出し、そしてその力をデビルナイトメアに打ち込む。力は稲妻、大気、治癒。それらが組み合わさり、悪夢はスタンプの形を成す。
『サンダーゲイル!!』
「夢と悪魔のコラボだ。粋だろ?」
悪夢は今、悪魔のスタンプへと変わった。そしてそれは、一輝と
ともあれ、一輝は目を覚まし、そして……。
「おかえり、バイス」
「おうよ!」
一方、太陽機関。────宣戦布告は、前触れもなく全モニターを占拠した。
「諸君。浄化局局長、妃崎だ」
ざわめきが止まる。たった一言で、空気が凍った。
「戦争で最も重要なのは何か。武力か、知略か? ……違う。────終わらせ方だ」
淡々と、しかし刃物のような声。
「交渉はない。共存もない。奴らは"生物"ですらない。ただの殺意だ」
「諸君。ゾンビに命乞いが届くのか? 死体に温情があるものか? 答えは否! 我々は奴らを駆逐せしめなければならない! グラナトファなど、即刻根絶やしにせねばならないのだ!」
「よって私、妃崎傘子は浄化局局長として宣言する! これより浄化局は、楽園浄化作戦を開始する!」
しかし、今の賢人の中にあるのは綴の安否、それのみだった。
そしてその浄化作戦『OPERATION-PP』によって、瑠奏の初任務は変更となった。
広島市全域の攻略、ポートラル、そして新たな部隊『ダイナモ』による10と少しの人数での作戦。
その概要説明に直々に呼び出された二部隊の隊長と参謀、そして信頼できる
局長室の前まで着いた賢人と百喰。そこで待っていたのは局長。ではなく総部隊長のルティアだった。
「────やっと来ましたね」
「えー、神川特務部隊長。百喰参謀。ただいま出頭いたしました」
「ご苦労さま」
そして、待っていたのはルティアだけではなかった。ダイナモの代表3人。
世界唯一のS級
「また曲者揃いで……」
「神川さん」
目で制され賢人は黙り、そして局長室へと入る。
「ルティア・
「休め」
ドスの効いた声。これはいつもとは違う、と否が応でも分かるほどだった。
ジムペインは局長への謁見が初めてらしく、額にうっすら汗が浮いている。
「時間が惜しい。本題に入るが、まずは一言。神川賢人……いや、仮面ライダー。頼むぞ」
その言葉は命令ではなく、祈りだった。人類最大の賭けが、静かに動き出す。
『ナイトメアゆめにっき』
『目を覚ませ 夢に潜みしレジェンドメギド』
元ネタはゆめにっき
それではここで勢力図をおさらいだ。
・太陽機関 生存部隊を率い、グラナトファに汚染された世界を救おうとしているぞ。スタンプ産のグラナトファのことは調査したが、コールサイレンのことは知らないぞ。
・ポートラル
かつて渚輪区を救ったぞ。今は日本を取り戻そうとしているぞ。しかし怪人たちによって少し都市浄化のペースは落ちてきているぞ。
・グラナトファ コールサイレン
人類絶滅を掲げる悪い奴らだぞ。日々殺される同胞に心を痛めているぞ。
・天芽、ユゥリザ、芽舞
オリジナルのグラナトファ達。人類とグラナトファの共存を願っているぞ。ユゥリザには何か暗い過去が……。グラナトファの生態についてはあまり詳しくないぞ。
・竜瀧と???
かつてオルテカに殺されたぞ。オルテカとギフを越えようとしているぞ。スタンプ産のグラナトファを生み出した元凶だぞ。
もう1人は謎だぞ。怪人アルターブックを使って何かを企んでいるぞ。
・五十嵐家
自分たちの世界から奪われたスタンプを取り戻そうとしているぞ。グラナトファのことはあまり知らないぞ。