とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第43章 Wake(起す)Remember(耕す)、記憶の狭間。

 

 ────彼方に浮かぶ、赤い月。それは悪夢の、見えざる魔の手。貴方の力に、わたしはなりたい。

 

 その日、五十嵐一輝は夢を見ていた。場所は実家の銭湯、しあわせ湯。火に包まれるそれと、そこに佇む悪魔のような怪物。

 

「ボウズ……」

「ベイル……か?」

 

 その名はベイル。今はもういないはずの悪魔の夢に、彼は連日苦しめられていた。

 

「だとしたら……? ふッ!」

 

 全力で腹を殴られ、血反吐を吐く一輝。その瞬間に目が覚める。

 

「兄ちゃん!?」

 

 荒い呼吸。心臓が、胸を内側から殴っているみたいに痛い。

 

「兄ちゃん、大丈夫!?」

「しっかりしてよ一輝兄!」

 

 大二とさくらの声が重なる。一輝はゆっくりと上体を起こした。

 

「……平気、だって……ちょっと怖い夢見ただけ……」

 

 そう言いながら、自分の腹に触れる。じわり、と熱い。パジャマをめくる。するとそこには紫色の痣。殴打痕。夢の中でベイルに殴られた場所と、寸分違わず同じ位置だった。

 部屋の空気が凍る。

 

「……なんで」

「夢……だよね……?」

「……いや、違う」

 

 大二の声が低くなる。

 

「悪魔は、人の精神世界に干渉できる。でも直接影響を与えるなんて……」

「悪魔じゃ、無いって事?」

 

 さくらの問いに、誰も答えられなかった。その時。部屋の隅の鏡が、ゆらりと波打った。

 

「……やれやれ。面倒なことになってんなァ」

 

 黒い影が滲み出る。

 

「カゲロウ」

 

「兄貴の精神に直接入り込んでるタイプの悪魔だ。外から殴っても意味ねぇ。中でぶっ飛ばすしかねぇな」

 

 続いて、さくらの傍からぴょこんと顔を出す巨大なヘビの悪魔。

 

「ラブ〜♪」

「ラブちゃんも行けるの?」

「ラブ!」

 

 小さく拳を上げる。

 

「……ごめんな、二人とも」

 

 一輝が苦笑する。

 

「俺の問題なのに」

「家族の問題だろ」

「当たり前でしょ」

 

 即答だった。少しだけ、胸の奥が温かくなる。

 

「任せろ兄貴。夢ン中の怪物なんざ、悪魔の俺の専門分野だ。変身はできねぇがやってやるよ」

「ラブラブ!」

 

 次の瞬間、カゲロウとラブコフの姿が黒と桃色の粒子になり、一輝の体へと吸い込まれた。一輝の意識が沈む。深く、深く。暗い水の底へ潜るように。

 

 気が付くと、そこは夜の銭湯。誰もいない。湯気もない。色が抜け落ちた、灰色の世界。色があるのは、ゆらゆらと燃え続ける炎だけ。

 

「ここがあの兄貴の精神世界ねェ……」

 

 カゲロウが舌打ちする。その時。

 ガコン。遠くで扉が開く音。ぬちゃり、と粘ついた足音。現れたのはベイルに酷似した黒い怪物。

 

 だが顔が歪んでいる。笑っているのか泣いているのか分からない、ぐちゃぐちゃの仮面。

 

「キサマラガクルノヲ……マッテイタ」

「……誰だ? テメェ」

 

 それは低く笑った。同じ悪魔として同種を判別することに長けるカゲロウ。即座に悪魔ではないと見抜く。相手の名前はデビルナイトメア、人の深層心理に潜む"悪夢"である。

 

「……」

 

 次の瞬間、景色がガラッと変わる。

 

 ────グラシアス デッドマンズ。そんな言葉と共に、オルテカは信者にギフスタンプを押印する。押された女性は紫の炎に包まれ、石となり、内側から悪魔に食い破られる。

 

『ニンゲン、オイシカッタ』

 

 一輝のトラウマは、ひとつじゃない。

 

『大二は、粉々に消滅しましたよ。お兄さま』

「あれは俺……? なっ!?」

 

 カゲロウの腹に拳がめり込む。

 

「ぐはッ!?」

 

 吹き飛び、壁を突き破る。重い。純粋な暴力。技巧も何もない、ただ恐怖の塊。

 

『お疲れ様、君の仕事はここまでだ』

 

 次の場面は、一輝にとって最も思い出したくない記憶。

 

『お"前"ら"ぁ"ああああああ!!! 何故朱美さんを手にかけたぁっ!!』

『違っ……!』

「ラブ!!」

「勝手に動くな!」

『バット!』

 

 ラブコフがコウモリの羽のようなメガホンとなり、超音波が繰り出される。しかし、効果はない。

 

「当たらない!?」

「コイツ……実体と幻影が混ざってやがる……!」

「コワイ……イタイ……モウ……タタカイタク……ナイ」

 

 その声は、一輝の声だった。

 

「……っ」

 

 二人は気付く。これは敵じゃない。一輝の“弱音”そのものだ。失った夢、守れなかった後悔、戦えない無力感。全部が凝縮された怪物。だから強い。

 

「チッ……めんどくせぇ相手だな……」

「悪夢は終わりだ」

 

 カゲロウが立ち上がる。その時。背後から、くぐもった声が聞こえた。男の声。しかし聞き覚えがない。

 

記憶を取り戻せ(Recover your memories)。五十嵐一輝、それが君のミッションだ」

 

 白のジャケットにハーネス。彼は悪夢から人々を守るエージェント。

 

 

さぁ、いこうか(I'm on it)、変身!」

 

 光が弾ける。音を超えた速さが、悪夢を貫く。

 

『イナズマライダー!!』

 

 軌跡すらも、美しい。連鎖する光を追おうと、怪人が目をグルグルと見回す。

 

『ゼッツ! ゼッツ! ゼッツ!!!』

 

 しかし無駄な足掻き。出遅れた怪人に未来はない。攻撃の火花ですら、空気が弾ける音でかき消される。

 

『プラズマ!!』

 

 ゼッツの速さは、何者も追いつけない。光に追いつくという神業。それを、相手は持ち合わせていない。攻撃の空振りでさえ、その空気圧で相手は吹き飛ばされる。直撃はそれすらも超える威力。

 

 恐れおののく怪人。しかし最後の能力"固定"を発動させ、ゼッツの心臓に狙いを定める。しかし鼓動すら超え、足に光が纏われる。瞬間移動か、否。

 

『プラズマオーバーバニッシュ!!』

 

 跳躍し、相手は光に貫かれる。

 

「はぁッ!」

「どっ、どこだ!? うッ!?」

「正夢に変えてやるよ」

「どこを狙って────がァッ!?」

「……消えろ」

「くそッ逃げるしか……!!」

『ゼ・ゼ・ゼッツ!!!』

 

 音が、遅れる。全ては一瞬の間に起こった。しかし悪夢は原型を留めている。それは、一輝の残留思念か、それとも……。

 

「そういうことか」

 

 四連装ガトリングを取り出したゼッツ。3つの夢の力を引き出し、そしてその力をデビルナイトメアに打ち込む。力は稲妻、大気、治癒。それらが組み合わさり、悪夢はスタンプの形を成す。

 

『サンダーゲイル!!』

「夢と悪魔のコラボだ。粋だろ?」

 

 悪夢は今、悪魔のスタンプへと変わった。そしてそれは、一輝と悪魔(バイス)の絆のスタンプ。セブンは夢から姿を消し、自らの世界へと戻って行ったのだった。

 

 ともあれ、一輝は目を覚まし、そして……。

 

「おかえり、バイス」

「おうよ!」

 

 一方、太陽機関。────宣戦布告は、前触れもなく全モニターを占拠した。

 

「諸君。浄化局局長、妃崎だ」

 

 ざわめきが止まる。たった一言で、空気が凍った。

 

「戦争で最も重要なのは何か。武力か、知略か? ……違う。────終わらせ方だ」

 

 淡々と、しかし刃物のような声。

 

「交渉はない。共存もない。奴らは"生物"ですらない。ただの殺意だ」

 

「諸君。ゾンビに命乞いが届くのか? 死体に温情があるものか? 答えは否! 我々は奴らを駆逐せしめなければならない! グラナトファなど、即刻根絶やしにせねばならないのだ!」

 

「よって私、妃崎傘子は浄化局局長として宣言する! これより浄化局は、楽園浄化作戦を開始する!」

 

 しかし、今の賢人の中にあるのは綴の安否、それのみだった。

 

 そしてその浄化作戦『OPERATION-PP』によって、瑠奏の初任務は変更となった。

 広島市全域の攻略、ポートラル、そして新たな部隊『ダイナモ』による10と少しの人数での作戦。

 

 その概要説明に直々に呼び出された二部隊の隊長と参謀、そして信頼できる治癒姫(ヴァルキュア)1名。

 局長室の前まで着いた賢人と百喰。そこで待っていたのは局長。ではなく総部隊長のルティアだった。

 

「────やっと来ましたね」

「えー、神川特務部隊長。百喰参謀。ただいま出頭いたしました」

「ご苦労さま」

 

 そして、待っていたのはルティアだけではなかった。ダイナモの代表3人。

 世界唯一のS級治癒姫(ヴァルキュア)、トルペード。管理者であり参謀 鮫鱧(さめはも)曲南(まがみ)。部隊長 夏色ゆっこ。

 

「また曲者揃いで……」

「神川さん」

 

 目で制され賢人は黙り、そして局長室へと入る。

 

「ルティア・葛羅(かずら)峰銛(みねもり)、及びポートラル、ジムペイン代表、出頭しました」

「休め」

 

 ドスの効いた声。これはいつもとは違う、と否が応でも分かるほどだった。

 ジムペインは局長への謁見が初めてらしく、額にうっすら汗が浮いている。

 

「時間が惜しい。本題に入るが、まずは一言。神川賢人……いや、仮面ライダー。頼むぞ」

 

 その言葉は命令ではなく、祈りだった。人類最大の賭けが、静かに動き出す。

 




『ナイトメアゆめにっき』
『目を覚ませ 夢に潜みしレジェンドメギド』
元ネタはゆめにっき

それではここで勢力図をおさらいだ。
・太陽機関 生存部隊を率い、グラナトファに汚染された世界を救おうとしているぞ。スタンプ産のグラナトファのことは調査したが、コールサイレンのことは知らないぞ。

・ポートラル
かつて渚輪区を救ったぞ。今は日本を取り戻そうとしているぞ。しかし怪人たちによって少し都市浄化のペースは落ちてきているぞ。

・グラナトファ コールサイレン
人類絶滅を掲げる悪い奴らだぞ。日々殺される同胞に心を痛めているぞ。

・天芽、ユゥリザ、芽舞
オリジナルのグラナトファ達。人類とグラナトファの共存を願っているぞ。ユゥリザには何か暗い過去が……。グラナトファの生態についてはあまり詳しくないぞ。

・竜瀧と???
かつてオルテカに殺されたぞ。オルテカとギフを越えようとしているぞ。スタンプ産のグラナトファを生み出した元凶だぞ。
もう1人は謎だぞ。怪人アルターブックを使って何かを企んでいるぞ。

・五十嵐家
自分たちの世界から奪われたスタンプを取り戻そうとしているぞ。グラナトファのことはあまり知らないぞ。
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