とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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本当にすみません。長くなったので分けてます


第44章 前編 踊れ、慟哭と共に。

 

 ────人類の進化。わたしの結末は、誰にも覆せない。

 

 会議が始まった。

 デスクに日本地図が投影される。赤く染まる西日本。

 

「OPERATION-PP(ピーツー)楽園浄化だ。広島、岡山、神戸こうべ、京都。この四都市を奪還する」

 

 ルティアが淡々と告げる。

 

「広島市。推定グラナトファ150。ゾンビ約60万」

 

 静まり返る室内。

 ────60万体。数字に直せば600000体。息を飲む音が、鮮明に聞こえる。

 それに以前、たった6体のグラナトファに一週間もかかった。

 

「これでも、広島は他の大都市に比べればゾンビの数は小規模です。ですのでこの広島の浄化が可能かどうか、その成否には本戦略の未来がかかっています。ここまででなにか質問は?」

 

 ルティアが見渡すと、手を挙げる者がいた。それはジムペインの部隊長、夏色ゆっこ。

 

「ほな、自分らの担当区域は広島市のどこになりますん?」

「全てです」

「……。……? 仰ってる意味が、よう分からんのですはが。……まさか2部隊だけとか仰いませんよね?」

「夏色部隊長」

 

 妃崎は、ゆっこに目を向け、そして言葉はその場の全員に向けて発した。

 

「集団には、大別して2種類ある。目的を組織に還元するものと、組織に目的を要求するものだ」

「……どういうことですのん?」

 

「夏色部隊長。君は学校に通ったことは?」

「はい。今も尚……」

「なら行事を思い出せ。そらを邪魔するバカがいるだろう?」

「……おりますね」

 

 自分がまさにそうだったが、とゆっこは過去を少しだけ思い出す。

 

「やつらは我々人類に衰退、破滅を招く。無論本機関はそれを防ぎたい。……しかし、由々しき事に現政府も財政界も後者なのだ。その上恥ずべきことだが、機関の一部部署にも後者が紛れ込んでいる」

 

 経済を以て敵をねじ伏せ、火中の栗を現場にのみ拾わせる。反対派は本気でそう考えていると、彼女は語る。

 

「局長、あまりそういうことは公の場では」

「黙れっ。私は死線を前にした同志諸君と話している。公ではない」

 

「……出すぎた言葉でした」

 

「夏色部隊長。2部隊だけ、と言ったな。逆だよ。2部隊だけでも、確保できたのだ。それに無論、私の私兵も投入する。君たちはグラナトファの殲滅に注力してもらいたい」

「……ありがとうございます」

 

「では次に質問のある方は挙手を」

「はい。では予定している作戦期間はどれほどでしょうか?」

「10日間だ。どのみち長くは戦えない」

 

「そうですか。では特記個体はいるでしょうか?」

「観測はされていない、とだけ言っておこう」

「そう……ですか」

 

 百喰は表情を曇らせる。

 

「他にお伺いはありますか?」

 

 思うに、これはただの作戦通達ではない。参加者の、現場で戦う者と直に語らいたかったのだと、賢人は察した。

 

「無いようですね。では細かい概要については後ほど私から話しますので、この場はこれで」

「────うい、喋っていいかい?」

「……」

 

 おもむろに口を開いたのは、自虐的な笑みを浮かべた赤髪の少女、トルペードだった。

 

「構わん」

「トルペード。許可する」

 

「ちょ、変なこと言わんといてやトルペ」

「く、かははははは、おじさんをなんだと思ってる? 聞くことなんざ一つだけだろうが」

 

 

 

「────何人、死ぬ予定だァ?」

 

 トルペードの奇妙な態度に、妃崎は毅然として答えたのだった。

 その日の夜。寮の中央室でポートラルは夕飯を食べていた。

 

「……もしかして人選、消去法でした?」

 

 来栖崎(バカ)姫片(バカ)アド(サイコ)豹藤(社会不適合)の中、選ばれたのが百喰だった。

 

「違いますよ!? いやポートラルって特殊じゃないですか? だから百喰さんは参謀としてです。っていうか百喰さんって礼音さんと同じ枠ですよ。俺ん中では」

 

「今私のこと馬鹿って思った? 師匠の、このわ・た・しを」

「栗子のことも思ったでしょ」

「え? そ、そんなことないですけど?」

 

 目が泳いでいる。賢人は尋問に耐えられず、文字通りお茶を濁した。その空気を切り替えるように礼音が口を開いた。

 

「神川君。その広島浄化作戦だが、10と少しで全域を、というのは本当なのか?」

「えぇ、まぁはい。ま、俺がいますから」

「頼もしいが……いや、私のにも治癒機構がある。助力出来れば……」

「私もいますよ」

 

 瑠奏は、体に配慮した最低限の食事を摂りながら言った。

 

「グラナトファだとかゾンビだとか関係ありません。姉を連れ戻すための障害は、全て排除するだけです」

「瑠奏ちゃんは……ちょっと気抜こっか」

 

「抜いてなんてられません。賢人さん。貴方恋人だったんでしょ? 何故そんなに冷静でいられるんですか?」

「……冷静じゃないよ。でも焦っていいことは無い。あとごめん。まだ恋人じゃないんだ」

 

「あああ! 美味しいなぁ〜!!」

「アドさん?」

 

 突然、アドが大声をあげた。口いっぱいに天ぷらを頬張り、箸を向けた。

 

「ケンティーが作ったこの天丼! 本当なんでこんな美味しいんだろうなぁ! お? モグッチは汁だくのふにゃふにゃ派なんだね!? りっちゃんはあと乗せサクサク派と!」

 

「こらこら樽神名君。人に箸を向けるのは行儀が悪いぞ。……ふふ、やはり天ぷらは天つゆに限るな」

「そーいえば栗子がフニャフニャにするのはフニャチン野郎だって」

「そうだぞやちる。百喰も礼姉もふにゃついた魂だ」

 

 ニヤニヤと、姫片は2人の顔を見やる。その様子を見て、賢人は心の中で感謝するのだった。

 

 

 

【ジムペイン】

 

 誰も死にたなんてあらへん。誰もそんな未来望んでへん。でも時間は皆に平等に過ぎてく。明日は絶対来てしまう。

 

「……もう、寝るだけやな」

 

 訓練もブリーフィングも済ませた。部隊長として皆のことも激励した。風呂入ってパジャマ着て、あとは寝るだけ。ほんだらあっちゅう間に地獄に真っ逆さまや。広島っちゅうゾンビの宝石箱に。

 

「……な〜」

 

 ベッドの横には写真立て。いつか撮った、8人の妹弟たち。何年前やったか、指折って数えてみるけど足りへん。だって11年前やもん。

 なんかちょっとセンチなってもうてたら手首の端末が光ってた。表示されとる名前は牌門(はいかど)水守(みもり)。うちの幼なじみで、部隊の治癒姫(ヴァルキュア)やった。

 

「なんやパイモン」

『まぁっ、やにわにパイモン。そんなこと言う悪い子さんなら通話切ってしまいますよ』

 

「なんや自分からかけてきたっちゅうに」

『かけられるの嫌なんですか〜? だとしたら少し傷心です』

 

 なんか悲しんでるみたいな言い草やけど、親友の嘘泣きくらい見抜けるっちゅうねん。

 

「なんや? うちの声、聞きたなったか?」

『いーえー? そんな些事で通話なんてしません』

 

「そらそやな。ほんだらなんやねん」

『私の声を……ゆっこさんが聞きたいのかなって』

「そら……一大事やな」

 

 意趣返しっちゅうやつや。でもあいつの声色は雑談のそれとは変わった。

 

『ゆっこさん。最後の激励は何かしら。見てられませんでしたよ』

「アホ、良かったやろ。皆熱なってたやんけ」

 

『いーえー、私に言わせれば30点です。100点満点中ね〜』

「30て。採点ミスけ?」

『いいえ? 私がゆっこさんの点数を間違えるはずありません』

「なんの自信やねん。そりゃトルペの奴は爆笑し腐ってたけどさぁ。でも60はあるやろ。及第点や及第点」

 

 

 

『────私は0点のゆっこさんが見たかった』

 

 ……え。は? 意味わからんこと言うてきた。なんやねんそれ。不合格なって欲しいんかいな。水守は時々なんか含ませるから始末に負えんねんな。

 

『「生まれは違えどうちらは姉妹。うちは誰も見捨てへん。全員で必ずうんたらかんたら」』

「暗唱すな。本心やねんから」

 

『本心でも、あんなかっこいいゆっこさん見飽きました。お姉ちゃんムーブももうキモイですよ』

「キモイて。キモイてなんやねんもうちょいあれ着せてやあれ」

 

『歯に衣、ですか?』

「それそれぇ! ってちゃうわ! 勉強しに来たんちゃう」

『はぁ……いつになったらゆっこさんは私に0点を見せてくれるのでしょうかー』

 

「……ほんまに見たいんか?」

『はい。なるべくタップリと』

「想像の10倍はヤバいで」

『うふふ、お可愛らしい。100倍から威張ってください?』

 

「……。……しゃあないな」

『……』

「……っと、こら残念、ポイント不足でーすよお客様」

『なんと頑固なお人!』

 

「お互い様や。ほらほら、ポイント貯めて出直しておーいで」

『こんなに毎日ゆっこさんでお買い物してるのにぃ。もっと贔屓にするべきですか?』

「喧嘩はあいにく対象外や。ほらほら、出てった出てった」

『まぁっ!』

 

 ほんだら、電子メールが部隊全員に届いたみたいや。電話の先からもデフォの通知音が聞こえてきた。

 

『目の固い人は、はよ寝んさい。明日はお気張りやす 鮫鱧(さめはも)

 

『ゆっこさん。一人で寝られないようでしたら通話、繋げておきますよ?』

「アホか、そこまで子供ちゃう」

 

『ちゃんとお肌ケアしてから寝てくださいね。ゆっこさんはケアすればもっと可愛くなるんですから』

 

 なんかむず痒うなってきたわ。

 

「はよパイモンもおやすみしいや!」

 

 やからつい、照れ隠しに普段あんま使わんあだ名まで呼んでしもた。

 

『ですから私はパイモンではなく牌門水守という名前がありまして愛称でしたらせめてミモリンと』

「あぁもう水守水守水守水守水守みもりんりん!」

 

 せやからやけんなって夜やゆうのに叫んでもうた。

 

『全くもう。おやすみなさい。ゆっこさん』

「ん。おやすみやで」

 

 通話を切って、うちは大の字に寝転ぶ。

 ったく、なんやねんいっつもうちの心見透かして。かなわんなほんま。

 

「……ありがとうな。水守」

 

 ポイントはとっくに天井ビタ止めやで。けどな、100点取るより、0点のテスト見せる方が難しいやろ。

 だって部隊長やで? うち。姉ちゃんのうちが0点取ったら、皆死んでまうやん。やからうちは0点なんて取るつもりあらへん。

 

 明日の地獄でも、それより先もずっと、な。

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝 午前5時 九州本土発 軍事ヘリ 広島浄化作戦 1日目

 

「広島浄化作戦。あまり細かいことは言いません。ジムペインの方々もブリーフィングを重ねてきたでしょう。ですので終わったら高級料亭です。……神川さんの奢りで」

 

 百喰は、2部隊の揃った機内で宣言した。最後だけ声を潜めて。

 ヘリのハッチが開く。下部には地獄が広がっていた。赤に染まる地上。高度150m地点からでも漂う腐臭が鼻をつんざく。それでも恐れはしない。みんながいるから。

 

「変身!」

『スピニングユニコーン!』

 

 白の剣士が急速降下。落下の衝撃だけで周囲30m程が吹き飛ばされる。

 

「総員に告ぐ! これより開始地点に降下、フェーズ1から4までを速やかに実行!」

 

 百喰は治癒射器(シリンジ)を起動、全員に地図から何から全て脳内に共有する。

 

「皆、私に捕まれ!!」

 

 礼音の翼を掴み、フワッと降下する。しかし、何もつけずに飛び降りる治癒姫(ヴァルキュア)が1人。

 

「────いらねェなぁ!!」

 

 トルペードである。彼女は何も装備せずに着の身着のまま飛び降りた。そして着地地点にはヴァルキュア。

 

「ちょっと馬鹿が来ました! どうすればいいですか百喰さん!」

 

『S級は気にしないでください!! まず治癒姫(ヴァルキュア)の皆さんは周囲のゾンビを! 神川さんはグラナトファの討伐を!』

 

 衝撃に驚くヴァルキュアは百喰に通信をかける、

 

「応!」

 

 しかし、トルペードは応じない。周囲のゾンビごとグラナトファを鎌で巻き込み、この世から殲滅する。その名は『災有終症(ベスト・オブ・カラミティ)』。

 

「なぁ! 踊ろうぜェ!!」

 

 何度も何度も、拍手の音が響く。その度に、刈り取られるように弾けるゾンビの頭。遅れて、彼女の部隊ジムペインが礼音に掴まって降りてくる。

 

「おいおいおぉい。遅漏すぎんぜェお前らァ!!」

 

『ジムペインは東地区を! 我々ポートラルは西地区を!』

「ゾンビ……こんなに多いんか」

 

「こんなの……」

「ふぅん……ま、行こっかヒサギン」

「この量ならこの地区は……5分ね」

 

 初の総力戦、ジムペインの面々と瑠奏は恐れおののく。百聞は一見にしかず。上空からの光景でさえ、百聞に過ぎなかったのだろう。

 対してポートラルの面々は少し感心しつつも余裕を崩さない。むしろペトラ橋の頃を懐かしんでさえいた。来栖崎は顎で数え、数え切れないがしかし口角を上げる。

 

「絶景『鬼楸(きしゅう)』!」

 

 楸刀が弧線を描くと、ゾンビの群れは一瞬で倒れ伏せる。無数の斬撃痕が残されたグラナトファは、鈍い唸り声を上げて砕け散った。

 

「怖い……けど……!!」

 

 瑠奏は自らの治癒射器(シリンジ)を起動、血液を補充する。『寄生図書館(パラライブラリ)』は周囲に本を浮かべさせ、そこから金色に輝く伝承書を手に取る。

『灰燼の伝承書』。その瞬間、彼女の持つ戦棍『ティンシーカジャ』は赤と金に光る。

 

『エネグノスシステム Open』

 

 その瞬間、光に勝るとも劣らない速さでグラナトファの肉体が崩れていく。何も起こっていないように見えた。それほどの速さだったのだ。瞬く間に露出する核。それを砕き、一体が沈んだ。

 それを皮切りに、ポートラルの面々は続々とグラナトファを倒していく。発生源さえ減らしていけば、後は通常兵器の兵士でも倒せるため、最優先はグラナトファの討伐である。

 

 そんなこんなで辺りが暗くなりその日の作戦行動は終了し、1度仮説キャンプに戻るのであった。

 

「あれ……ジムペインの子達は?」

「よしてくれよォヴァルキュアさん」

「げっ、トルペードだ」

 

 運悪く、今ジムペインの治癒姫(ヴァルキュア)達は"調整中"、残っているのはS級のトルペードだけだった。

 

「何嫌がってくれちゃってんのヒーローさァん。おじさん傷ついちゃうぜェ?」

「一人称おじさん? てかトルペードだけだっけ、そっちの部隊でグラナトファ倒したの」

 

「ここにいたのか、神川君」

 

 初対面だが、狂人相手ならタメ口でもいいだろうと、賢人が話しているとそこに礼音がやって来た。彼女はトルペードの顔を見ると少し顔をしかめる。

 

「……何故トルペード君と一緒に?」

「いや、ジムペインの子達励まそうと思いまして。そしたらいなかったんですよね」

「……そうか」

 

「しっかしそっちのチームはあれか、全員一体以上は倒してんだな。ま、ヴァルキュア以外はおじさんに負けてるっぽいが」

「別に競ってはいない。それと瑠奏君を忘れていないか?」

「ん? あぁ、そっちの新入りか。数は……8体!?」

 

「君と同じS級にカテゴライズされるのも、遅くはないだろうな」

「は……はは! じゃあ殺せる数が減っちまうってことか!! あぁそうだ。ヴァルキュア、お前に言いたいことがあったんだった」

 

 トルペードは、賢人の眼前まで顔を近付ける。彼はまるで蛇に睨まれた蛙のように、冷や汗が止まらない。

 

「────お前、この作戦のこと見てねぇだろ」

「は?」

「いいや、お前だけじゃねぇ。そっちの部隊全員だ。何を見ている?」

「何って……」

 

 賢人の言葉を手で制し、礼音が口を開く。

 

「私達はその先を見据えている。広島だけじゃない、人類全体を、な」

「はっ、つまんねェな」

 

 言われた礼音は賢人を連れて、部屋を出ていった。

 

「あまり話すな。ヤツとはあまり関わらない方がいい」

「すみません礼音さん。……って、なんでですか?」

「ヤツは死刑囚だ。元連続殺人犯の、な」

「え……」

 

「それと今日はジムペインのメンバーとはあまり話すな」

「なんで、ですか?」

「彼女達、あまりのゾンビの数に少しパニックを起こしてしまったようでな。治療を受けている最中だそうだ。記憶の、な」

「記憶……?」

 

「まぁ、年端もいかない少女が戦うとなったらこうなるのも仕方ないだろうな」

「そう……なんですね」

 

 翌日の6時、作戦は再開した。

 

「おおおおおおおあったりいいいいい!!!」

「イヤアアアアア!!!」

 

 絶叫は、遠く離れたポートラルにも聞こえた。源はトルペード。その足元には血だらけの幼女。……の姿を真似した擬態種である。

 

「ゴロザナイデッ! オネガイダカラッ! シニタクナイ!!」

「ぁぁぁぁ……待ってくれよ。なに? ラブコール? そんなの心に響いちゃうぜ……?」

 

 腕が飛び散る。トルペードではない。擬態種のである、

 

「アギャアアア!?」

「やばい、やばいよこれ。どうする? 一気にいくぅ? ちょっとずつ、ちょっとずつ大事に殺さないと。ね、ね、そうだよねぇ? ゆぅっくり死にたいよねぇ?」

 

「ママァァァ!!!」

「ママって……。話聞けよお前の事だろォ!?」

 

 突然の激昂。まるでぬいぐるみを振り回す園児のように素手で擬態種の足を千切り、その断面に鎌をねじ込む。そのまま切れ込みを入れ、ブチブチと繊維が肉と共に切れていき、そのままの勢いで内蔵を捻り取る。

 人にもこんなことをしていたのか、と、音だけを聞きながら昨日の言葉を思い出すヴァルキュア。その上空を、影が通る。

 

「……あれは、なんだ?」

 

 一方、トルペードの行為を横目で見ながら、ゾンビと戦うジムペインの少女たち。

 

「くっ……そ!!!」

「ゆっこさん!!」

 

 ゆっこのバット型の治癒射器(シリンジ)針千本一撃(スピアークアウト)』は、グラナトファの頭をかち割っていくが、そのリーチの短さの性で相手の強靭な爪が迫る。

 それを防ごうと水守のメイスの治癒射器(シリンジ)苦悩の梨の樹(ピアー・オブ・トーチ)』は相手の核に突き刺さる。

 

「死んでください。ゆっこさんに手を出す輩は」

 

 まるでダムダム弾のように体内で開いた先端。

 

「すごぉ……」

「どうでした? 私たちの初勝利」

「……なんか、あんま嬉しくはないな」

 

 しかしそれでも昨日の怯えていた自分たちから成長できたと、少し安堵するゆっこと水守。トルペードはまた別のグラナトファに狙いを定める。

 

「次はお前だァ」

 

 ドォォォン! 突如として、白い塊が飛来した。

 

「ジォォォォオオオオ!!!」

 

 全身が羽根に包まれたその姿、報告のないグラナトファ。着地の衝撃だけで瓦礫が吹き飛ぶ。ゾンビの腐臭が消え、代わりに漂うのは煤のような、焦げた匂い。

 

「……水守!?」

 

 着地の衝撃で吹き飛ばされ、瓦礫に埋まってしまっただろう親友を引っ張り出すゆっこ。それによる細かい傷は多いものの、戦えないほどの重症はない。

 

「ジォォォォオオオ!」

 

 しかしその巨大な羽の猛りに、本能が怯えているのだ。あれはヤバい。普通のグラナトファとは、"特記個体"とも違う。ヤバすぎる、と。

 

「おいおいおい、嘘だろ、マジかよ、え、まじ?」

 

 しかし幸か不幸か、その足元には殺人鬼、否、狂人がいた。だからゆっこ達は少しの安堵感を覚えていた。現に今、トルペードは白羽根に切りかかっていく。

 

「そんなぶっとい剣掲げてよぉ……誘ってんのか? 誘ってるよなァ? やっちゃっていい? やっちゃっていいよなァああああいええええ!?」

 

 狂った叫び声とともに、鎌は白羽根に振るわれる。まるで戦いに慣れていないかのように、相手は遅れて盾を構える。慣れてはいないが、その盾に空いた穴に鎌が引っかかり、彼女の動きが止まる。

 羽を外し剣にする白羽根。薙がれる巨大な剣戟。

 

「おいおいおいまじかよ!? うひょおおおおお!!」

 

 辛うじて引っぺがし、柄で受けるものの衝撃はまるで殺せない。

 ────たった一撃。たった一撃で、1キロ先のビルに突っ込む。ビルは半壊し、瓦礫が降り注ぐ。

 

「嘘やろ……トルペ……?」

「ゆっこさん……こうなったら私たちで」

「てっ……撤退やっ!!」

 

 音沙汰がない。ビルから飛び出す気配もない。いやそもそもあの速度であの距離、原型自体止められるかどうか。ゆっこは顔面蒼白。部隊に指示を出す。

 しかし、逃げられるのか。あのトルペードを、S級をああも呆気なく倒した文字通りの化け物から、逃げ切るなんて出来るのか。それなら立ち向かって、少しでも、ほんの少しでもいいから消耗させた方がいいのではないか。そんなの、ゆっこ自身も理解していた。

 

「ゆっこさん」

 

 一瞬の逡巡の間に、親友の優しい声が響く。何も、言わない。名前を呼ぶだけ。でも、それでも芯はある。真っ直ぐ、ゆっこと出会った時からずっと心に通った真っ直ぐ一本の芯が。

 

「水守! 最大チャージ!」

「やるんですねッ、ゆっこさん!」

 

 覚悟は、決まった。心の通った親友同士2人なら、なんでも出来る。力が湧く。35倍は強くなったと、そう思える程の勇気。

 

「トルペだけがジムペインやないってこと、教えたるわ!!」

「やりましょうッ!! 私は右から! ゆっこさんは────」

 

 白羽根の刃が振り下ろされる。

 空気が裂ける音が、鼓膜ではなく頭の中で鳴った。ゆっこに飛来する"死"。水守は親友の背を掴み、力任せに横へ突き飛ばす。

 

「危ないッッッ」

「────へ?」

 

 叫びと同時に、ゆっこの体が地面を転がる。水守は一歩踏み出し、振り返らない。刃の軌道が、はっきりと見える。速いのに、遅い。

 ゆっこは間に合わないと、そう分かっているのに振り返る。目の前の光景に、長官の言葉を思い出す。

 

『何人、死ぬ予定だ?』

『誰も死なない。神川賢人がいる限り、な』

 

 そう断言した。なのに今、この場に神川賢人(仮面ライダーヴァルキュア)はいない。

 

「……助けてや、仮面ライダー」

 

 誰も動けない。無数の赤い閃光が水守の体を通過する、その瞬間。

 ギチ、と。刃とは違う、湿った軋み。白羽根の剣が、水守の目前で止まる。

 刃先は、あと髪の毛一本分。少しでも身動きをとれば死ぬ距離。

 

 そこに絡みつく黒緑の蔦。

 ギギ、と締め上げる音が響く。水守はまだ衝撃を待っている。斬られる感触を、待っている。

 

「……み、もり?」

 

 ハッキリと、親友の声が聞こえる。水守は恐る恐る目を開いた。目の前には白羽根の腕がわずかに引き戻されている光景。

 

「……なんや、この草は」




ふつうの生存部隊は参謀と管理者が兼任。部隊長は治癒姫が務めているが、ポートラルの場合は部隊長と管理者が兼任で賢人。参謀が治癒姫の百喰恵である。
なんなら管理者は血が凄ければいいので、名目だけの参謀のことも多い。ジムペインの曲南はそのタイプ。
ダイナモのセカイは前線に立つ管理者であり参謀である。
ポートラル
・管理者 部隊長 神川賢人
・参謀 百喰恵
ダイナモ
・管理者 参謀 狗飼セカイ
・部隊長 木守陽戦香
ジムペイン
・管理者 鮫鱧曲南
・参謀 部隊長 夏色ゆっこ
誰も死なないで。
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