とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
ジイイイイ。空気を裂く異音が、戦場の喧騒を押し潰した。半壊したビルの壁面、崩れた高架下、割れた道路の亀裂。至る所に黒い裂け目が走る。まるで世界そのものにファスナーを引くかのように、裂け目が開く。人でも、グラナトファでもない。植物とも獣ともつかぬ肢体。歪な甲殻。濁った複眼。
────インベス。それらは、ゆっこ達を一瞥すらしなかった。次の瞬間、最前列の個体がゾンビの群れへ飛びかかる。爪が振り下ろされ、腐肉が弾け飛ぶ。別の個体はグラナトファの脚に噛み付き、無理やり引き倒す。
「……なにが、起きとんねん」
怪人が、怪物を襲っている。白羽根がわずかに首を巡らせる。その視線の先で、インベスとグラナトファが絡み合い、瓦礫が崩れ、戦場の構図が崩壊していく。
「……水守! おい水守」
「……え? ゆっこさん?」
「今や! 今しかない」
状況は理解不能。だが、この混戦は好機でもある。一瞬、視線を白羽根へ戻す。それはインベスの一体を真っ二つにし、だが数に押され動きが鈍る。
「トルペードさんは!!」
「……あぁ、あっちや! 行くで!」
ゆっこは水守の手を引き、トルペードが吹き飛ばされた方向へ駆け出す。
その直前。足元に、影が写る。反射的に構えるが、そこにいたのは白く丸い小型のインベス。
下級個体。戦闘能力は高くないはず。だがその両手には1冊の本。血に濡れてもいない、異様に整った装丁。場違いなほど綺麗だった。
「……なんや、お前」
インベスは、ゆっこを見上げる。濁った複眼の奥に、敵意はない。ただ、差し出しただけ。
────罠か。白羽根の気配を背に感じながら、ゆっこは一瞬だけ迷う。
「……くれんのか?」
小さく鳴く。こくり、と首を傾げる仕草。次の瞬間、背後で爆音。白羽根の剣がインベスを薙ぎ払う。ゆっこは反射で本を掴んだ。インベスは満足したように踵を返し、再びゾンビの群れへと突進していく。
「……なんやねん、ほんまに」
理解する余裕はない。背後で、白羽根の咆哮が響いた。
一方、ポートラルの前に、空から蜘蛛と狼が降り立った。瓦礫を踏み砕き、静かに。
「よぉ、人間」
「……グラナトファか?」
「世間ではそう呼ばれているようだな。なぁ芽舞」
2体はゆっくりと人間態へ戻る。その姿を見た瞬間、礼音が一歩前へ出た。
「……擬態種か」
「違うな。私もコイツも擬態なんてしない。奴らと違ってな」
即答だった。だがその声音には、わずかな棘。
「少なくとも私達は人類と敵対する意思はない。それはもう、固まったところだ」
「敵対しない……? だったら今のこの惨状はどういう……!」
「それにそちらの狼は
岡山の惨劇。百喰が口に出したその単語で、場の空気が凍り、礼音の瞳が鋭く細まる。
「岡山の惨劇を……貴様が?」
沈黙。ユゥリザは視線を逸らさない。だが、拳がわずかに震えていた。
「……あぁ。事故だ」
喉が詰まるが、それでも言い切った瞬間、空気が軋む。
「事故だと……? 事故で1つの県を壊せるものか!!」
礼音の怒声が瓦礫を震わせる。ユゥリザは一瞬だけ目を伏せる。脳裏を過るのは赤い空、鳴り響くサイレン、裂ける肉。そして自分の死。
────最悪の誕生日。
「お前たちは何も知らない。グラナトファの違いも……いやグラナトファがどういうものかも全て……!」
声が、低く落ちる。言葉を選ぶ余裕などない。あれを、思い出したから。
「関係あるか! だったら貴様達は何故!! 人を殺す!!」
礼音の弓が引き絞られる。
ユゥリザは、その矢を真正面から見据えた。否定できない。言えば、言い訳になる。
「理由なんて……ない」
ほんの一瞬言い淀むが、嘘ではない。だが真実でもない。礼音の怒りが爆ぜる。
「ふざけるな!!」
矢が放たれようとしたその時、ユゥリザの視線が上空へ向く。白羽根が飛び去っていく。
「……ったく」
小さく舌打ち。
「ようやく終わったか、天芽のやつ。取り付く島もないみたいだ。芽舞、帰るぞ」
「はい!」
「天芽……? 私の弟をなぜ知っている!?」
その言葉に、ユゥリザの足が止まる。しかし一瞬だった。彼女は半変異となり、芽舞を加えて拠点の方角へと向かったのだった。
「クソっ……」
吐き捨てる礼音。しかしユゥリザという強者がいたおかげで様子見していた他のグラナトファが活動を再開してしまう。
彼女は
天使と言っても憚られない程の優美さ。そして
グラナトファが狙うのは巨大なその羽根。知性を持つ奴らは、飛ぶ敵の対処法を知っていた。
「そう来ると思っていたよ!! だが!」
翼は全て抜け、それらは飛び交う。まるで銃弾、いやそれ以上のスピードで突き刺さる。
「私はもう、怪物にはならん!!」
受胎剣を矢として番う。もしも弟が生きているなら、こんなに嬉しいことは無い。
礼音の
「絶命しろ!!」
その一射は鉄より重く、音より早い。核を外皮ごと貫くが勢いは留まることを知らず、彼方へと飛んでいく。
そして取りこぼした敵はアドの毒が蝕む。核を露出させていないというのに一体が倒れる。
やちるはスケートで翻弄、加速する彼女の世界では、グラナトファどころか漂うウイルスですら止まって見えた。
残るグラナトファの数は20を切った。このままいけば確実に今日中、遅くとも明日の日中には終わる。
そして、ジムペインのゆっこと水守は走る。トルペードの場所まで。
「あんなやつでもな! 大事なメンバーやねん!」
「ええ! 必ず生きていますよゆっこさん!」
半ば励ましのような水守の言葉。ようやく着いたそのビル、恐らく突っ込んだであろう穴には誰もおらず、下には瓦礫の山。
「これは……」
「諦めんなやパイモン。こんなんで死ぬタマちゃうやろ。トルペは」
「……なんや!?」
急いでトルペードの腕を引っ張るゆっこ。何とか引っ張り出したものの彼女の体は大怪我。……以上のものだった。抱えて立つことすら難しそうな、むしろ人の形を保てていること自体奇跡という他ない状態。全身の骨がぐちゃぐちゃに砕け、まるで軟体動物のようになってしまっている。
「……なんやあれは」
目視できるほどの距離。飛んできたのは青と白の剣。それは、問答無用でトルペードに突き刺さる。刺突音は重かった。
体内に杭を打ち込まれたような、鈍い衝撃。剣先がトルペードの胸を貫く。
一瞬、完全な静止。ゆっこの腕に伝わる感触が変わる。柔らかく崩れきっていた肉体の奥でコツン、と。何かが噛み合う音。青白い光が刺さった箇所から脈打つ。鼓動が響く。
トルペードの体内で、何かが組み直されていく。砕けた骨片が震え、吸い寄せられる。曲がり、潰れ、折れた骨が、軋みながら正しい位置へと滑る。
ギチ、ギチ、ギチ、と生々しい再構築の音。
「う、そやろ……」
ゆっこの声が震える。内出血で黒く染まっていた皮膚が、内側から白く押し戻される。
裂けた筋肉が蠢き、糸を引くように繋がっていく。リセットしたのではない。無事な状態に上書きしたのだ。細胞レベルで。剣が溶けて光の粒子となり、体内へ吸収されていく。最後に残った柄が、胸の中へと沈み込んだ瞬間。
────ドンッ!! 強く、確かな心音。ゆっこの腕を押し返すほどの反動。トルペードの背が反り、空気を激しく吸い込む。
「はぁッ!!! 復活復活ぅ〜っと……そんじゃあ寝起きのウォーミングアップと、行きますかァ!! ギャヒ!!」
「は」
辺りに飛び散った
「何してんの?!」
「着いてこいよテメェら!!」
「私が部隊長やで!?」
トルペードは刃先だけを握りしめ、グラナトファの核を露出させる。
「あぁ、こんな早くだなんて嫌だなァ!! もっと楽しまねぇとなぁ!!!」
ぶしゅう。吹き出す血しぶきをその身に浴びながら、トルペードは拷問にも似た快楽攻撃を繰り返す。
「アホ!! こんなもん
自らの血液が循環するバットで、核を砕くゆっこ。水守は別のグラナトファを相手取り、メイスで内部から破裂させる。
「こいつでここにいんのは……最後やっ!!」
核内部で破裂した水守の
「最高のッ、絆やで!!」
パンッ。最後のグラナトファが軽い音と共に倒れる。
作戦終了後 ヘリ内。誰も、すぐには口を開かなかった。
「奴ら、敵対する意思がないやて……?」
「……そうらしい」
「で、でもそっちの綴って子が攫われたんグラナトファのせいちゃうんか?」
「うん。間接的にだけど。……けどあいつは言ってたんです。グラナトファの違いってやつを」
ゆっこの呟きに、賢人は拳を握る。
「……神川君。すまないが私はあの狼を許すことはできない」
その声に、怒りはもうない。ただ、痛みだけが残っている。賢人は頷く。
「俺だって簡単には信じられませんよ。でも、もし違いがあるなら」
「……甘いな。神川君。これは現実だ、
「分かってます。────でも俺、仮面ライダーですから」
それは、ユゥリザの表情が必死だったから。今まで仮面ライダーを見てきて、思うところがあったから。
しばらくの静寂。やがてアドが肩をすくめる。
「まぁ今日はケンティーの奢りだからさ、その貸しで信じてあげようよ。アヤネル」
アドの言葉に、礼音はふふ、と微笑む。
「……つくづく君は優しいな」
ヘリは夜空を進む。未だ日本は回復していない。小さな一歩、しかし大きな前進だ。
『インベス ヘルヘイムの奥へ』
『目を覚ませ 侵食されしズーメギド』
元ネタ ルインズ 廃墟の奥へ
天地開闢の受胎剣。音楽部を使う人は必ず1本は持っていると思います。筆者が最初に作った超越武器はこれでした。今や強化液は腐るほどあります。逆に伝承書が足りないです。クエストも勝てないですし。多分育てたら勝てるんでしょうが、そのやる気がないです。もうちょっとUI改善してください。
小ネタ ゲームでは『ゆっこ(水守)の親友』ということで、両名を同時編成するとそれぞれの攻撃が3500%アップします。