とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第46章 交渉、獣たちの思い。

 

 ────綺麗事など、わたしは言わない。ただわたしは他人より強いだけ。それだけがわたしの、存在理由。

 

 広島浄化作戦の翌日、天芽達は失楽園にて鍋を囲んでいた。

 

「……なんでだよ。同じ人間だったのに」

 

 天芽は、グラナトファをいたぶるトルペードの姿を思い出す。彼女は擬態型の演技にも心を揺さぶられず、容赦なく攻撃をくわえていた。自分たちの種族についての知識を持っていない天芽はそれをホンモノだと思ってしまっていた。

 

「天芽、奴らはあのコールサイレンしかグラナトファを知らないんだ」

「コールサイレン……?」

 

 彼は箸を止める。ユゥリザは噛んでいた肉を飲み込んでから話し始めた。

 

「あぁ、私たちとは別の派閥だ」

「その人たちが悪さばっかりするから悪印象ばっか着いてるって訳か」

「まぁ簡単に言えばそうだが……」

「だったらその人たちと話し合えばいいんだよ!!」

 

 ドン、と机を叩き、芽舞は肩を震わせる。彼女にとっては今の生活を続けられさえすればそれでいいから、だから少しだけ胸にモヤモヤを抱えていた。

 

「まったくお前は能天気というかなんというか……」

 

 別の派閥。そう言ってしまえば簡単だ。だがコールサイレンは、ユゥリザにとって因縁以上の相手だった。

 もっとも、その連中の本当の目的────人類絶滅という最終目標を、彼女もまだ知らない。

 彼女は天芽という光を、信じてみたくなった。

 

「人が人を、理由なく殺すはずがない。そんなの、あっていい訳ないから」

 

 彼は死に際の父と、そして何より自分を思い出す。理由のない悪意に晒されて殺された父と自分、しかしそれを振り払う。そんな悲劇は、自分だけのはずだから。

 

「……そうか」

「もし天芽さんに危害を加えるというなら、その人達は私が殺します」

「過激すぎだ。……それに貴様が手をかける必要はない」

 

 それは何も優しさ、だけではない。自分が負い目を感じない為、という打算でもあった。

 道中のゾンビを戦闘不能にし、辿り着いたのは広島県 福山市にあるコールサイレンの本拠点。

 

「え、監視とかないんですか? ここ」

 

 神殿のような開けた入口。見張りの1人もいない、扉すらないそれはコールサイレンの慢心、人間への見くびり具合を象徴するものであった。

 

「……みたいだな。すまない天芽、芽舞。先に行っていてくれないか」

 

 ユゥリザは珍しく弱々しく、そして口を抑えながら入口から目を背けた。

 

「くふっ」

 

 突然の笑い声。天から降ってきたのは騎獅道柩だった。

 

「だっ、誰っ!?」

「初めまして、三静寂天芽さん♪ 目的はわかっていますよ? 私たちコールサイレンと会談、ですよね。着いてきてください♪」

「え……」

 

 柩の場違いなテンションに、天芽は固まってしまう。そんな彼の袖を、芽舞が掴む。

 

「……大丈夫。大丈夫」

 

 芽舞の方を向き、自分に言い聞かせるように天芽は呟く。そして柩の方を振り向き、その手を取る。

 現状誰だか、どちら側かすら分からないが、それでも天芽は芽舞の手を引き、柩に着いていくのだった。

 

「あの……」

「なんですか? なんでも聞いてくださいね!」

「コールサイレンの目的ってなんなんですか? ユゥリザさんから何にも聞けてなくって」

「それはもちろん、この世界をより良くする、ですよ? ヒーローみたいですよねっ♪」

「より良く……」

 

 少し天芽の、頬が緩む。これなら期待できそうだ。そう感じたからか、悪事とやらにも仕方ない理由があったのだと、自分の中で結論づける。もちろん後ろでトコトコ着いてくる芽舞にもコッソリグッドサインを送る。

 

「いやぁすみません。これ聞けてなかったら身のない会談になってましたよ! ゲーム買ったのにソフト買ってないみたいな!! ははっ!」

「くふっ……あ、もうそろですよ天芽さん♪ こーんこん! ネメ様! 入りまーすよ!!」

 

 大袈裟にノックし、返事を待たずに彼女は扉を開け放つ。

 パン。パン。パン。響いたのは乾いた火薬音。天芽の鼓膜が揺れ、無いはずの心臓が跳ね上がる。

 

「はっぴーばーすでぃー紅葉ちゃぁぁん!!」

「おめでと〜!!」

 

 銃声ではなく、それは誕生日会のクラッカーだった。それは子供たちが鳴らしたもので、彼女たちはケーキと1人の少女を囲んでいた。

 

「ンーフフ。さぁ蝋燭の火を消そう紅葉ちゃん!!」

 

 紫の髪に黒スーツ、その上から丈の長い白いローブを羽織い、中心の子供を抱き抱えるのはコールサイレンの盟主 愛喰(あいばみ)ネメ。

 

「ウェルカム6歳紅葉ちゃん! ウェェェエルカム!!」

「ハッピーバースデー!!」

「ありがとう! みんな! ネメ様!!」

 

 にへら〜、と更に口角を上げる天芽。

 

「くふッ、天芽さんはロリコンなんですね」

「ちが、違いますよ!? 微笑ましかっただけで!!」

 

 部外者の天芽、芽舞、柩は一旦端の椅子に座り、微笑ましい様子を見つめていた。

 

「あー! 百合科の方がおっきいー!!」

「そんなことないもん!」

「うそ!! 大きいもん!!」

「こらっ! ネメ様の前で喧嘩なんてよしなさい!」

「でもチコちゃんより私のケーキが!」

「でももだってもありません!」

「まぁまぁ、ケーキなんて滅多に食べられないんだから。気持ちはわかるよ」

「……ネメ様」

 

 ネメはしゃがみ、目線を合わせて2人の幼女に語りかける。

 

「百合科ちゃん、チコちゃん。幸せな日は、みんなに笑顔でいて欲しいんだ」

「えがおで……?」

「私のも分けてあげるから、もっと笑顔を見せてくれるかい?」

「うんっ!!」

 

 あまりにも平和な光景、これなら協力関係など、赤子の手をひねるようなものだ、天芽はテンションが上がり、妙に張り切る。

 

「────お姉ちゃん?」

 

 少し中性的な外見に見間違えたのだろう、幼女は天芽にケーキを差し出す。量は1人分の半分ほど。

 

「それ、君のじゃないの? 甘いのあんまり好きじゃないのかな?」

「好き! だからみんなで一緒に食べよ」

 

 無償の優しさ、それに感激した天芽は苺をフォークで刺し……。

 

「はい、あーん」

「え、お姉ちゃん?」

 

 幼女に差し上げた。

 

「ごめんね。僕おなかいっぱいなんだ。さっきまで鍋食べてたからさ。だから代わりに食べてくれないかな?」

 

 笑顔で頷き、幼女は皆の方へと戻っていった。その後パーティはささやかに、そして華やかに進み、部屋にはコールサイレンの幹部、ルナ達のみが残された。

 

「さぁ、死の危険と狭い世界。無限の飢えと閉塞する未来。なのにどうしてまっすぐ、誠実に育ってくれている」

 

 バッ! っとローブを広げ、ネメは椅子に勢いよく座る。

 

「ゆくゆくは我らの未来を担う希望。だから小学生に入るであろう6歳の誕生日くらいは、1人前としてコールサイレンで祝わせてくれと」

「凄いです! 素敵です!!」

 

 スタンディングオベーション。天芽は目に涙を浮かべながら立ち上がった。一方の芽舞は少し顔を沈める。

 

「フーフフ、初めまして、愛喰ネメだ」

「三静寂天芽です! 今日はお会いできてよかった!」

「ふむ、礼儀正しい青年だ。いい、実にいい。私はそういうのが好きだ」

 

 ネメは頬杖をつきながら、面白そうに天芽を見つめる。

 

「それで? 会談、だったかな」

「はい。僕は争いを止めたいんです。人間とグラナトファが、殺し合う理由なんてない。だからコールサイレンとも、きっと分かり合えるって思って来ました」

「くふっ……」

 

 数秒の沈黙と、それを裂くような嗤い声。柩が肩を震わせた。

 

「分かり合える〜? ……マジで言ってんのコイツ」

「…………」

 

 らぶぱはスマホを弄りながら不機嫌そうに呟く。天芽は困惑した顔で周囲を見る。

 

「な、何かおかしいこと言いました?」

 

 ネメはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。

 

「いや、いい。実にいい」

 

 指を組み、前のめりになる。

 

「では聞こう。三静寂天芽くん」

「はい」

「君はさっきの子供たちを見たね?」

「もちろん」

「あの子達は何だと思う?」

「……え?」

 

 天芽は少し考えた。

 

「……グラナトファの子ですよね」

 

 その瞬間、ネメの目がわずかに細くなる。

 

「違う」

 

 低い声だった。

 

「あの子達は────人間に捨てられた子供だ」

「…………」

「グラナトファだと分かった瞬間、なった瞬間か。いやタイミングなどどうでもいい。人間に殺されかけたんだ。そして────」

 

 ネメは淡々と語る。

 

「そんな子供たちを拾い集めたのが、私だ」

 

 天芽の表情が曇る。

 

「……それは」

「優しい話だと思うかい?」

「はい。少なくとも、見捨てるよりずっといい」

 

 ネメは少しだけ目を丸くした。

 

「ほぉ」

「だからこそ、僕は思うんです」

 

 天芽は拳を握る。

 

「こんなこと、もう終わらせたい」

「…………」

「人間とグラナトファが殺し合う理由なんてない。コールサイレンが人間を憎む理由も。だから共存できるんじゃないかなって」

「共存……くふっ」

 

 彼女たちからすれば真逆の思想、思わず嘲笑が零れてしまう。

 

「あぁ、まだ知らなかったか君は。三静寂天芽君、私たちコールサイレンの最終目的は……人類絶滅だ」

 

 その言葉を聞いた瞬間。部屋の空気が変わった。

 

「え……」

 

 世界をより良く、じゃ。天芽は柩の方を向く。しかし彼女はバカにするような笑みを浮かべるのみだった。

 

「絶滅だなんてそんなの……え、何言ってるんですか?」

「あー……」

 

 らぶぱが頭を掻く。

 

「言っちゃったねぇ」

「くふっ……」

 

 柩は笑っている。しかしその目は、まったく笑っていない。ネメはゆっくりと立ち上がった。

 

「三静寂天芽」

「はい」

「君はさっき言ったね」

 

 一歩、歩く。

 

「理由なき殺しはない、と」

「……はい」

 

 ネメは天芽の目の前まで来た。そして、静かに言う。

 

「では聞こう」

 

 その声には、怒りも嘲笑もない。ただ────冷たい事実だけがあった。

 

「人間は、理由もなく私たちを殺してきた」

「…………」

「焼いた。売った。解剖した。見世物にした。その理由を、君は知っているのか?」

 

 天芽は答えられなかった。

 

「知らないだろう? 理由などないからだ」

 

 その言葉に、天芽の肩が揺れた。

 

「……違う」

「ほう?」

「違うと思います」

 

 ネメは興味深そうに首を傾けた。

 

「理由がないなら……それは間違いです」

「…………」

「だから直せばいい。話し合えばいい。僕はそれができるって信じてる」

 

 静寂が流れ、らぶぱが椅子に背中を預けた。

 

「あー……ダメだこれ」

「ネメ様、この人マジで分かってない」

「くふっ、純粋ですねぇ」

 

 柩が楽しそうに笑う。ネメはしばらく黙り、そして静かにため息をつく。

 

「……残念だ」

「え?」

「君はとても面白い人間だと思ったのに」

 

 その言葉と同時に、ネメの目が完全に冷えた。

 

「君は理解していない」

「何をですか」

 

 ネメは指を一本立てる。

 

「この世界はね」

 

 ゆっくりと言う。

 

「もう、やり直しが効かないところまで壊れている」

「…………」

「だから私は決めたんだ」

 

 微笑む。その笑顔は、さっき子供たちに向けていたものと全く同じだった。ネメは平然と言う。

 

「半年後。シムプトムの日。人類は終わる」

 

 天芽は首を振る。

 

「そんな……そんなの」

「正義だ。私たちは正義という、この世で最も多くの人間を殺した概念を掲げている。正義には虐殺の実績がある。人類滅亡を願う我らにとって、正義ほど頼もしい概念はない」

 

 天芽は一歩前に出た。

 

「……やめてください」

「ほう」

「そんなの、間違ってる」

 

 ネメの眉がわずかに動く。

 

「…………」

「……僕は全員を守りたいと思ってる。ユゥリザさんも、そしてあの子たちも。……人類も」

 

 広島作戦で、彼は遠くから聞いていたのだ。ユゥリザの心の中の慟哭を、そして彼女の"過去"に触れ、知ってしまった。だから、彼の中ではもうユゥリザは守る対象になっていた。しかしその名前を出した途端、ネメは初めて、明確に不機嫌な顔をした。

 

「三静寂天芽」

 

 声が低くなる。

 

「君は今」

 

 一歩近づく。

 

「私の人生を否定した」

 

 部屋の空気が完全に凍りついた。

 

「私はこの子達を守るために人類を滅ぼす」

 

 天芽が叫ぶ。

 

「人の未来は、奪っていいものじゃない!」

 

 カチャリ、本拠地の本が少し動きを見せる。そしてネメは、静かに言った。

 

「交渉決裂だ」

「くふっ。では始めましょうか」

「あーしらと人類の戦争をさ」

 

 その瞬間。柩が笑い、らぶぱが立ち上がる。そしてネメは最後に言う。

 

「殺すな」

 

 幹部達が止まる。

 

「この男は、面白い。だから壊せ」

 

 ネメは天芽を見下ろし、微笑む。

 

「二度とそんな理想を語れないようにな」

 

 ネメの刃が天芽の喉元へ迫る。その瞬間────。

 

『裏口から母さんと逃げるんだ。天芽』

 

 過去が、思い起こされる。

 

『なんでなの父さん!』

 

 幼い頃、燃え盛る実家。外には罵詈雑言が響いている。残酷な科学者になった姉への? いや違った。

 

『いくわよ天芽! 早く!』

『なんでこんなッ! だって父さんは助けようとしてたのに!』

『天芽……お前は三静寂の男だ。大事な事だからよく聞きなさい』

『ぱぱ……』

 

 抑え込んでいた幼児性の発露。あの頃の天芽は心も身体も幼かった。

 

『人が助け合うことには困難が伴う。だが伴うだけだ。甘い言葉に騙されてはいけない。暴力の誘惑に負けてはならない。最も険しい道のりに価値があるなら、その道を歩まねば未来はない』

『人は1人では生きられない。だから! 助け合うことを諦めてはいけない。天芽ッ、見知らぬ他人の為に……生きられる人になれ』

 

 あの時の天芽にとっては難しい言葉だらけだった。しかしその芯にあるものは確かに理解できた。言葉ではなく、心で。

 

 ────しかし翌日、父は死体で見つかった。原型が保てない程の殴打の後、火を放たれた焼死体。

 

 ゾンビ災害でゲットーと化した山陰地方。その貧困地域を救うため、父は私財と人生を投げ打った。現地で戦い、現地で生き、現地を救おうとしていた。それなのに、父を殺したのは────救われるはずだった、現地の暴徒だった。

 

「……ふざけるな」

 

 部屋に白き羽が舞う。それらが天芽の体を覆う。『帝王の寝言(シンギング)』。白の衝撃波が、生まれる。

 

「やっぱりあなた達は天芽さんの敵、ですね?」

 

 飛び散る粘度を持った糸。それがコールサイレン達の手足を縛る。『嬢王の寝床(クイーン・アネクネメ)』。しかし1人の幹部格、悪霊島ぬくくの体だけは縛れない。

 

「なっ……」

 

 糸が、彼女達の手足を引き裂く瞬間、壁が破られる。黒の身体、パーカーのようにそれを覆っているのは炎の意匠を象った力の源。ガスバーナー眼魔。コールサイレン拠点のキッチンにあるそれと融合した眼魔アサルトは、辺りを炎を包んでいく。

 

「なっ……」

 

 しかしその姿は、見えない。

 

「急に燃え出したんだけど!?」

 

 炎が向かった先は幼女たちが帰って行った育児室。

 

「まずい!!」

 

 真っ先に動いたのは天芽。羽を飛ばしバリケードを作る。

 

「芽舞ちゃん何か粘液みたいの!」

「え!? で、でもここにいるのはてき────」

「いいから!!!」

 

 蜘蛛の糸を細分化、液状にしたそれが、バリケードに纏わされる。

 

 一方のコールサイレンは、見えない眼魔に苦戦していた。攻撃が当てられる瞬間に捉えようとしてもそもそも当てることができない。

 

「不可能には不可能だ」

 

 ブックが飛来する。それをネメが掴み開く。

 

『アンノウン神話』

 

 すると一体の亀のようなロード。トータスロードが現れる。それは1度コールサイレンの顔を見て顔を顰めるが、しかし遠くに見える天芽の姿を見るとやれやれ、と眼魔を見据える。

 

「ぬくく!! あんたなら見えない敵でも姿は捉えられるでしょ!!」

 

 らぶぱが叫ぶ。するとぬくくの身体は青に、そして液状化する。『青狸(あおだぬき)』。

 

 みるみるうちにぬくくは部屋中を覆っていき、そこに歪みが写る。

 

「見つけた……!」

 

 ネメがトータスロードに指示を出すと、その頭上に天使の輪が浮かぶ。そして"歪み"はみるみるうちに地下深くに沈んでいく。数十秒ほど経ち、地上に1冊の本が排出される。

 

「……さぁ次は」

 

 ネメは天芽と芽舞に目を向ける。トータスロードを差し向けようとしたその瞬間、それは本となり天芽へと飛翔する。

 

「チッ……だから不確定な怪人など使いたくなかったんだ!」

「おっとようやく来たか雪蚕(ゆきこ)

「遅くて悪かったわね」

 

 顔を顰め、雪蚕はネメの意を汲み取り天芽に音符を繰り出す。

 

「第二楽章 闘魂の調べッ!」

 

 ────刹那。遠吠えが響く。

 

「え……」

「この声……芽舞ちゃんッ!!」

 

 天芽は巨大な羽根で芽舞の体を包み込む。すぐさまゾンビの群れが雪崩れ込んできた。壁の亀裂から、天井の穴から、壊れた窓から。腐臭と共に、数十体の死体が室内へと落ちてくる。

 

「な、なんでゾンビがここに!?」

 

 雪蚕が叫ぶ。コールサイレンの拠点は本来、その組員しか立ち入らない区域だ。普通はゾンビが集まる理由はない。

 

「……クソ狼が」

 

 その瞬間。

 ドンッ!! 育児室の扉が内側から叩かれる。

 

「っ……!」

 

 天芽の顔が歪む。

 

「中にまだ子供が!」

「落ち着け」

 

 ユゥリザの声が飛ぶ。彼女はいつの間にか入口付近に立っていた。三首の狼に姿を変えて。

 

「天芽、ここは戦場だ。全員を救う余裕はない」

「でも!」

「……見捨てるのは寝覚めが悪い」

 

 ユゥリザが小さく舌打ちする。

 

「芽舞。糸を天井へ」

「え?」

「いいからやれ」

 

 芽舞は反射的に手を振る。すると粘度の高い糸が天井へ広がる。

 

「天芽! 羽を叩きつけろ!!」

「分かった!!」

 

 ニヤリと笑い、白い羽が回転する。

 ドォン!! 衝撃波が天井を破壊した。瓦礫が崩れ落ち、上階の床が抜ける。ユゥリザが言う。

 

「長くはもたん。逃げるぞ」

 

 ネメが目を細めた。

 

「……なるほど。撤退狙いか」

「くふっ、やっぱり面白い人ですねぇ天芽さん」

 

 柩が笑う。追おうとする彼女たちをネメが手で制する。

 

「追うな」

 

 幹部たちが止まる。

 

「ネメ様?」

「いい」

 

 ネメは炎に照らされた天芽を見つめる。

 

「……幼子の恩だ」

 

 その声は、どこか悔しそうだった。一方。

 

「こっちだ!!」

 

 ユゥリザが廊下を駆ける。天芽と芽舞も後を追う。背後ではゾンビと炎が建物を飲み込み始めていた。廊下を曲がり、階段を蹴り落ちる。出口はすぐそこだった。

 

「天芽! 跳べ!!」

「え!?」

「いいから!!」

 

 天芽は羽を広げる。三人はそのまま崩れた壁から外へ飛び出した。夜風が頬を打つ。その背後で。

 

 ドォォォォォン!! コールサイレンの拠点の一部が爆ぜた。炎と煙が夜空へ上がる。天芽は地面に着地し、振り返る。胸が激しく上下していた。

 

「……もしかして」

 

 息を整えながら呟く。

 

「あの子たちも僕たちと同じ……?」

 

 ユゥリザはしばらく黙っていたが、やがて答える。

 

「あぁ。子供の方は、な」

「私は逃げたが」

 

 天芽は顔を上げる。

 

「子供は? あの四天王は……」

 

 ユゥリザの目が冷える。

 

「奴らは望んでグラナトファになった」

「……え」

「あまつさえ、その生みの親すら殺そうとしている」

 

 沈黙が落ちる。芽舞は少しだけ顔を伏せ、天芽は頭を掻く。

 

「……それ、先言っといてくれたら良かったんだけど」

「言ってもお前は来ただろう」

「そう……だけど」

 

 ユゥリザは小さく息を吐く。遠くで炎がまだ燃えている。その光を見ながら、天芽は小さく呟いた。

 

「……でもさ」

「あの子たちは……」

 

 言葉が続かない。助けたい。そう思ってしまった。

 

「それと天芽……。少し聞こえたんだがお前、私のことを守るだなんて言っていたな」

「え、うん。そうだけど……」

「言っておくが、私は守られるような、そんな出来た奴じゃない。私は……岡山を……ふるさとを!!」

 

 少し涙ぐみ、ユゥリザは叫ぶ。

 

「知ってます。でも僕はそれ以上のことも知りました。……それにも理由があった。……だから!」

「……クソ。好きにしろ」

 

 帰り道、とある電光掲示板で、彼らは見る。仮面ライダーヴァルキュアを。

 

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12/13

 そういえば久しぶりにグラナトファの生態勉強した。近くにいるだけで普通の人なら死んじゃうんだね。死体だったとしても。ヤバすぎじゃない?

 

 あ、でもってことは悪趣味な展示とかされないわけか! 怪人相手でもそういうの良くないからな。ストボロスを実験した神峰許すまじ。




『眼魔たちのディアスポラ』
『目を覚ませ 完璧を目指すストーリーメギド』
元ネタはディアスポラ。

Tips.結局、SR,SSRは事前登録数が満たなく、配布されなかったぞ。だが現在、そのキャラは湯水のように湧いて入手出来るぞ。
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