とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────あなたを見つける。たとえわたしの全て、命をかけようとも。
「天芽……」
ある日の夜、天芽が学校に来なくなってからはや半月。こよりは夜の公園でスマホを見つめていた。既読が付いているのはあの日まで。何度も着信をかけ、何度もメッセージを送ったのに、もう既読すら付かない。
「遅刻は死刑って……言ったじゃない」
音楽で人を幸せにする。そう彼女に夢を語った少年は、1人の少女から笑顔を奪ってしまっていた。
「お嬢さん? 何かお困りのようですねぇ」
こよりはスマホを握りしめ、暗い公園でひたすら待ち、何度も何度もスマホを点けては消す、を繰り返す。
その時、背後から足音が近づいた。音はゆっくり、だが確実に。振り返ると、街灯の影から現れたのは────竜瀧だった。
「……誰ですか、あなた」
竜瀧は微笑む。笑顔は柔らかいが、目の奥には計算が見える。
「ちょっとした"助け"を差し上げに参りました」
そう言って、彼はアタッシュケースを取り出す。中には、色とりどりのUSBメモリのような機械が並んでいた。表面は光を反射して美しいが、その輝きはどこか冷たい。
「これを使えば……天芽君の行方はすぐに分かるでしょう。簡単に、すぐにね」
「……簡単に?」
竜瀧は箱を軽く指で弾く。
「最初はただの小さな一歩。安くて手軽な薬みたいなものです。ほんの少量、試すだけなら誰でも手を出すでしょう? そしてその一歩が、あなたの願いを現実に変える。だから私は差し上げるのです」
こよりは思わず手を伸ばしそうになる。メモリの冷たさが指先に伝わると同時に、心の奥の焦燥がじわりと火をつける。
「でも……」
「でも? さあ、どうしますか、お嬢さん。小さな一歩を踏み出すか、現実に苛まれ続けるか……」
竜瀧の声は、甘く、しかし確実に誘惑だった。その瞬間、こよりの心は揺れる。願いはすぐに叶うかもしれないという期待と、代償への不安の間で。
「あなたにはこれが相応しいでしょう」
イニシャルはK。迷いながらもこよりはメモリを手に取ったのだった。
その日、五十嵐家の元に1人の少女が訪れた。依頼内容は行方不明になった幼なじみの捜索。真っ先に反応したのはさくらだった。
「こよりちゃんはその天芽って子のことが好きと」
「す、すすす好きとかそんなんじゃ……」
『おいおい素直になれよ女ァ?』
「人の恋に口出しするんじゃないよ!」
「え、1人で何してるんですか……?」
勝手に結論づけるさくらと、突っつくカゲロウ。大二はそれを押さえ込んで一喝。しかし自らの悪魔へのお叱り為、何も知らないこよりからは"おかしな人"としか見られない。
「あぁごめんねこよりちゃん。俺たちは心の中に悪魔ってのを飼ってるんだ。それで俺のはこいつ。つい最近復活したんだ」
「はぁい!! 呼ばれて飛び出てバイスちゃんでぇ〜っす!!」
「ラブ〜」
「きゃあ!? え、何何コイツ!? ────可愛いぃぃ!! じゃなくて!! 天芽を……見つけ出して欲しいんです!!」
突然、一輝とさくらの体から現れた悪魔に驚くこより。しかし本題に戻り、立ち上がる。
「もしもダメだって言うなら私は……どんな方法を使っても」
「分かった!! ていうか元々引き受けるつもりだったよ!?」
「困ってる人をほっとけないのは、一輝兄だけじゃないもん。私たち五十嵐家って、全員おせっかいだし」
肩にかけたスクバから何か取り出そうとするこよりを抑え、三兄妹は捜索を開始した。
「そうですか……。すみません、ありがとうございます!」
手がかりは一切ない……はずだった。
「あ、大ちゃん見て見て! 花屋さんだよ!」
「子供じゃないんだから……」
「もしかしたら手がかりあるかもじゃん! 行こ! 花にお土産? とか買ってあげたいし!」
「真面目に……して欲しいんだけど」
こよりの呟きは、誰にも聞こえない。そして入った花屋は『クンカクンカ』。奇しくも、尋ね人のバイト先であった。
「いらっしゃい。バイトの募集はもう締切だよ」
「あの……少しお訪ねしたいんですけど」
なんでそれが最初に口をつくんだよ。と言いそうになるのを抑え、大二は店主である
『ローズ!! ローズローズ!!』
「マスコットですか? 可愛いですね!」
「あぁ、この子か。つい最近入り込んでいたんだ。売り物じゃないぞ」
燻香が両手で抱えたのは龍と薔薇が混ざったような可愛い生命体。レプリケミー ヒーケスローズだった。それをまるでおしゃぶりを吸うように吸う燻香。ケミーはこそばゆいのか笑ってるような鳴き声を放つ。
「えっ……」
「で、何を聞きたいんだい?」
「あの……一応聞くんですけど、三静寂天芽って子知ってますか?」
まるで何事も無かったかのように問いかける燻香に少し圧倒されながらも、大二は聞く。その瞬間、燻香の手がぴたりと止まった。
「……あぁ。あの問題児か」
「問題児!?」
思わず声を上げるこより。その反応に、燻香はわずかに口元を緩める。
「なんだ、知り合いか。なら話は早い」
ヒーケスローズが『ローズ〜』と間の抜けた声を上げる中、燻香は淡々と語り始めた。
「あいつはな、履歴書の時点で嘘だらけだった」
「え……」
「住所は嘘、名前はニュースで見た失踪者と一致。挙げ句の果てに、動揺して全部バレる」
うわぁ……。と、さくらが苦笑する。
「だがまぁ、雇った。面白そうだったからな」
「面白そうって理由で!?」
大二のツッコミを無視し、燻香は続ける。
「初日の仕事はオギャりだ」
「オギャり……?」
こよりの眉がぴくりと動く。
「ガラガラを振って私をあやす。以上」
「……は?」
「オギャー!! とかな。真顔でやっていたぞ、あいつ」
その光景が、こよりの脳裏に浮かぶ。知らない場所で、知らない人と、知らない顔で笑う天芽。自分の知らない時間。自分の知らない関係。
「……楽しそう、でしたか?」
「あぁ。少なくとも、退屈はしてなさそうだったな」
その一言が、決定打だった。胸の奥が、じわりと焼ける。
(私は……あんなに……)
毎日、連絡を待って。何度も、何度も名前を呼んで。
(なのに……)
彼は、別の場所で。別の誰かと。笑っていた。
「……他にも、誰かといましたか」
声が少しだけ低くなる。
「あぁ。確か……やたら距離の近い娘1人────」
その瞬間、こよりの中で何かが切れた。
「……へぇ」
笑っている。でも、目は笑っていない。
「そっか……そうなんだ……」
スクバに手を入れる。指先に触れるのは、冷たい感触。
「こよりちゃん……?」
さくらが異変に気づく。
「私がいなくても……いいんだ。私じゃなくても……笑えるんだ」
ぎり、とメモリを握りしめる音。
「こよりちゃん!! それは────」
一輝が止めようとする。だが、遅い。
「だったら連れ戻すだけだよね」
『Knight』
カチリとメモリが起動され、身体に吸い込まれる。紫色の光が、こよりの身体を包み込む。歪んだ鎧のような装甲が身体を覆う。騎士のようでいて、どこか禍々しい姿。
「天芽は……私のものだぁぁぁ!!」
ナイトドーパントへと変貌したこよりは、そのまま店の扉を蹴破り、外へ飛び出した。
「待て!!」
一輝が後を追う。その時だった。
『ローズ……?』
ヒーケスローズが、異様な気配に反応する。ドーパントの放つ歪んだ欲望。それに引き寄せられるように。
『ローズッ!! ロォォォォズ!!』
暴走。花弁が燃え上がり、龍のような身体が肥大化する。薔薇と炎が絡み合い、ドーパントは更に異形の怪物へと変貌する。ドーパントマルガム。歪んだ体表、堕ちた騎士が、どこへともなくゆらゆらと街へ繰り出す。
「兄ちゃん!!」
「分かってる!! 行くぞ相棒!!」
『サンダーゲイル!』
一輝の体内から飛び出すのは悪魔バイス。その体に、雷が纏われる。嵐吹き荒れ雷が響く中心、その中で一輝の体が変化する。
『一心同体! 居心地どうだい? チョーヤバイっす! 轟雷と嵐でニュースタイル! 仮面ライダー! リバイス!!』
「こよりちゃん!」
悪天候は晴れた。仮面ライダーリバイス。相棒との一体化、雷の如き速さでマルガムを追う。次いで大二とさくらも自らの悪魔と一体化、変身する。
『エビリティライブ! インビンシブルジャンヌ!!』
「……君たちは?」
「俺たちは仮面ライダー。五十嵐家です。店員さんは下がってて」
燻香は頷き、立ち去る。
マルガムは口から火を、そして手に持った剣と盾を投げつける。
『 』
リバイスはナックル型のスタンプ、ローリングで宙に水を描く。ライブがそれを撃ち抜くと、その弾は水を纏う。
『 』
ジャンヌの頭部に装備された髪状の触腕が、火の絵を貫く。そしてそれを風の絵が強化させ、その火力がマルガムを焼く。
「こよりちゃん!! 早く元に戻って!!」
「ふざ……けないで……!! 私は天芽を!!」
「なんでそれで街を壊そうとッ!!」
「関係ない!! 天芽は……私のそばじゃないと! 生きられないの!! 私がいないと……天芽は死んじゃうの!!」
「……わからない。わからないよこよりちゃん! 天芽って子の事は知らないよ! ……でも天芽って子はそんなに弱い子なの?」
自分が無敵だと、そう信じていたが、早々にそれを折られたさくら。彼女は言いながらそれを思い出していた。
「なぁこよりちゃん。君の最初の想いは、何だったの?」
今踏みとどまっても天芽は帰ってこない。探し出すまで、戻る意味はない。
「……たとえ弱くてもさ。助けてあげた記憶だけじゃないはずだろ?」
大二の言葉通りだった。確かにこよりは何度も天芽を助けてきた。でも真に救われていたのは誰だったか。
「俺っちだって一輝に助けられたしよ。一輝がいなかったらきっと、俺っちラスボスになってただろうよ」
「……もう、無理なのよ。天芽が戻ってこないと!!」
「……怖いんだろ」
ポツリ、と。一輝が呟いた。
「え」
「いなくなるのが怖いんだろ」
「だから自分のものにしようとしてる!!」
「違う……!!」
「俺も……大二のこと、そしてバイスの事を信じてなかった頃はそうだったよ」
「……アンタも?」
「ああ。でもな、アイツらは強かった。俺が支えなくてもいいほどにな。……でもそれでも、一緒にいたいって思うのは悪いことじゃない」
「……悪いことじゃ……ない?」
「あぁ、今戻れたらな」
その時、ガイアメモリの毒素が限界を迎える。ケミー自身も耐えられるか分からないほどの毒。直差しが故だった。
「ぐッ……があああああッッッ!!」
「こよりちゃん!! ……クソッ、バイスタンプの力でどうにかなるのか?」
「ジョ狩のことだぜ? 大丈夫に決まってる!」
「だよな……ッ!! 必ず救うぞッ!!」
「おうよ!!」
『爆爆リバイストライク!』
リバイスの右足に雷が纏う。それは仮面ライダーの代表技、ライダーキックの構えだった。仮面ライダーリバイスのキックには悪魔と契約、一体化した人間の契約を破棄させ、戻す能力がある。ならば悪意に囚われたケミーと人間も或いは……。
「これで決めるッ!!」
蹴られ、空中に浮いたマルガムは、地面に叩き伏せられる。そして分離したのは1冊の本とこより、そしてレプリケミーだった。
「……こよりちゃん。一緒に探そう? 生きてるってことはわかったんだから」
倒れたこよりに、一輝は手を差し伸べる。
「……はい。一緒……に」
「最初からそのつもりだって」
「私も手伝う」
「ここまで来たら最後まで付き合うよ」
一輝が笑う。そしてさくらと大二も並ぶ。
『俺っちもいるぜ〜?』
「うるさい」
「ひど!?」
『ローズローズ!!』
「……ふふ、可愛い」
いつものやり取りに、少しだけ空気が緩む。こよりはそれを見て、ほんの少しだけ笑った。その笑顔は、まだぎこちないけれど。
それでも確かに、取り戻したものだった。
「……待っててね、天芽」
────君はひとりじゃない。
『
『目を覚ませ 闇に出回りしズーメギド』
元ネタはL.A.コンフィデンシャル
『マルガム対照実験録』
『目を覚ませ 人に寄りしズーメギド』
元ネタはなし。なんか錬金術の実験みたいな感じ。
実はドーパントアルターブックはシルヴァニア編にちょっと出てます。赤城が使ってたバイラスがそれです。