とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第6章 我が師、鬼につき。

 

 ────わたしは耐える。耐えて耐えて、あなたに救いを求める。最愛のあなたに会うために。

 

 同年 6月10日

 

 来栖崎ひさぎは、静かに怒っていた。その気配だけで、扉の外に立つ賢人の背筋が凍りつく。

 

「……さっさとどっか行って」

 

 その声は低く、感情を抑え込んでいる。いつもの彼女ではなかった。喉が張りつく。言い返すことすら怖い。

 

「……ご、ごめん。でも……」

「どっか行ってって言ってんでしょ!!」

 

 怒りが爆ぜた。賢人は一瞬、本当に胸を刺されたような気がした。重たい沈黙。来栖崎の荒い息。扉の向こうで、何かを堪えるような気配。

 

 ────そしてようやく彼は気づく。なぜ彼女が怒っているのか。……いや本当は、気づきたくなかった。なぜならここは、トイレ前の個室だから。

 

「昨日ずっと一緒にいるって自分で言ったでしょ!? 責任取りなさいよ!!」

「はい……ほんとごめんなさい……!!」

 

 膝を地面につかせ、頭を下げ土下座の体勢をとる賢人。

 

「……もういいわよ。じゃあ……耳、塞ぎなさい」

 

 個室なのにその気配が伝わったのだろう。来栖崎の声には、先ほどまでの殺気が少しだけ薄れていた。

 

「う、うん……」

 

 扉一枚。その向こうで彼女は“絶対に聞かれたくないこと”をしている。賢人は心臓の音を落ち着かせようと必死だ。

 

(耳塞ぐ……いや……塞いだら扉開く気配わからないし……いや! 水音聞きたいわけじゃないよ!? 違う違う違う違う!!)

 

 どこの誰に言い訳しているのか自分でも分からない。

 

「……終わったわよ」

「あ……あぁ……」

 

 ふと沈黙。

 

「ッ……耳塞いでないじゃない!!」

「死にたくないです聞いてないです許してください神様仏様来栖崎様ぁぁぁああ!!!」

 

 全身を棒のように伸ばしそのまま地面にうつ伏せに横たわる。彼はトイレの前で“土下寝”をした。

 

「……はぁ……。いちいちそんな事で謝らなくていいっての」

「す、すみません……!!」

「ただ、次は無いから、覚悟しときなさい」

 

 耳元で低く囁かれ、賢人は完全に静止した。

 

「ほら行くわよ。今日も特訓でしょ?」

「まじですか……」

 

 賢人は胸の前で手を合わせ、来栖崎に引きずられるように訓練場へ移動した。

 

「ほら、さっさと構えなさいよ。昨日の続き」

「えぇ〜……。いや、でも、来栖崎さんその……トイレのあとって、運動とか大丈夫?」

「黙れ」

 

 竹刀が唸りを上げて賢人の頭上を掠める。

 

「ひぃ!? 今日いつもよりスパルタじゃない!?」

「あんたが余計なこと言うからでしょ」

「そういえば……あ〜いや、なんでもないです」

「? 何よ言ってみなさいよ」

 

 賢人は目を泳がせ、天井や地面、施設の設備など、来栖崎の方だけは頑なに見なかった。

 

「いやその〜今朝その……いやほら? 部屋ごとに洗濯物まとめてるじゃないですか? それで今日来栖崎さんの寝覚め悪かったじゃないですか?」

「まわりくどいさっさと言え」

 

 何かを思い出した賢人は言い淀む。そんなナヨナヨした態度に嫌気がさした来栖崎が木刀を眼前に向ける。

 

「あのクマのブリーフは来栖崎さんのパンツなんですか!」

「はぁ!? あ、アンタ……はぁ!? な、なななに見てるの!?」

「いや……そのほら、もしアドさんのイタズラとかだったら……」

「のす……! いや半殺しじゃすまないわ!?」

 

 来栖崎の竹刀が唸る。賢人はとっさに練習用竹刀で防ぐが。

 

 ────バギィッ!!! 粉砕。

 

「いったあああああ!?」

 

 両腕が痺れ、賢人が後退すると、来栖崎の目がわずかに潤んでいるのが見えた。彼女の凄惨な過去。奪われた幼年期。可愛いものを封じられた反動。分からないほど賢人は鈍くなかった。

 

「ごめんなさい!」

 

 彼は振り下ろされた竹刀を白刃取りのように掴み、正面から謝った。

 

「行動と言動が一致してないんだけど……」

「あの俺……バカにするつもりはなくて……ただ疑問に思っただけなんです。ごめんなさい。それと……可愛いと思いますよ」

「バッ……いやその……私もついやりすぎちゃったわ」

 

 照れ隠しに視線をそらす来栖崎。気まずさを抱えながらも、日が落ちるまで特訓は続いた。

 

 

 

 

 同年 6月24日

 

 鹿を狩り終え、血生臭さの残る道を帰っていた時だった。

 

「……んだよ、あれ」

 

 最初に声を上げたのは姫片だ。皆が視線を向け──動きを止めた。夕暮れの斜光の中、ひときわ大きな影。

 片腕だけが異様に肥大し、筋繊維が外へはみ出した化物。節くれだった手は人の頭ほどのサイズ。そして、口からは泡混じりの唸り声。

 

「とぉるるるるる」

 

 誰にも知られていないその名は、変異種。一瞬、空気が凍りつく。

 

 ────ただ一人を除いて。

 

「……っざけんなよ」

 

 賢人の奥歯がきしむほど噛み締められた。

 

「せっかくみんなで肉パしようとしてんのにッ……邪魔すんじゃねぇよッ!!!」

 

 怒号とともに、賢人が爆発するように走り出す。

 

「ちょっ、あのバカッ!!」

 

 変異種は獣じみた唸り声をあげ、巨大な右腕を地面に叩きつける。するとアスファルトが砕け、破片が四方へ散る。

 

「うおらぁぁッ!!」

 

 賢人が波癒を横薙ぎに振り抜く。衝撃が走り、生前の記憶からか、変異種が地団駄を踏み、姿勢を崩す。だがやはり化物。踏みとどまり、そのまま巨大な腕を振り抜いた。

 

「賢人!!」

「わかってます!!」

 

 賢人は刀身を立てて受ける。その瞬間。

 ────バギィッッ!!! 骨が悲鳴をあげる。衝撃は波癒でも完全には殺せなかった。

 

「イッッッッ!? ッざけんなァ!!」

 

 腕に走った激痛を歯を食いしばって押し返す。波癒の刃が淡く光り、ひび割れた骨が鈍い音を立てて治癒される。走る痛みを舌を噛むことで抑え、強引に剣を振るう。

 

「賢人ッ!! 下がって!!」

 

 来栖崎が風のように駆ける。重心が沈み、地面を蹴る度に橋が揺れると錯覚するくらいに力強い踏み込み。

 

 ──一閃。彼女の刃が変異種の太腿に切り込み、肉が裂け、黒い血が噴き出した。

 

「とぉるるるるる……ッッ!」

 

 来栖崎はさらに縦に跳躍し、そのまま変異種の背に着地すると脊髄に沿って刀を滑らせるように斬り下ろす。相手の巨体がよろめく。

 

「み、みんな!! 援護するよ!!」

 

 盟主の声に反応し、姫片・甘噛・礼音が動く。

 

 アドの放った銃弾が変異種の膝を打ち抜き、姫片の鎌が足を掬う。甘噛の蹴りとトンファーが横腹にめり込み、礼音は隙を見て矢を連続で叩き込みむ。各員の働きにより、変異種は動きを徐々に止めていく。

 

「賢人!! 右腕落として!!」

「了解ッ!!」

 

 賢人の視界が一点に収束する。波癒が脈動し、光が走る。

 

「おおおおおおッ!!!」

 

 渾身の斬撃が振り下ろされ、変異種の巨大な右腕が、根元から飛んだ。

 

 ぶちぶちぶちぶちッ!! 筋肉が裂け、骨が折れ、切断された腕が地面で魚のように跳ね回り、血飛沫が辺り一帯を染める。動きを封じられた変異種に、来栖崎がすれ違いざまに刃を振るう。

 

「はぁッ!!」

 

 最後の斬撃。その一線で────。

 

「とぉるる……るる……とぉ……る……」

 

 巨体が沈んだ。

 膝が崩れ、地響きを立てて倒れる。

 

「っしゃあ!! やった!! 来栖崎さん!!」

「ぐふぉっ!?」

 

 勢いそのままに抱きつこうとした瞬間、みぞおちに回し蹴り。

 

「二度とすんなし」

 

 アスファルトの上に転がる賢人。一秒後、全員の笑いが弾けた。そして変異種の死体を後にし、ポートラルは日暮れの街を歩いていた。夕日が沈みきる前の薄闇の中、アドのハンドガンが腿のケース内で軽く揺れる。

 

「いや〜……ヒサギンマジで強かったなぁ! あれヤバかったよね!?」

 

 アドがテンション高くはしゃぎ、甘噛はトンファーを回しながら冷静に汗を拭う。

 

「はいはい、騒ぐのは帰ってからにしてくださいまし。……でもまぁ、見事だったですわね」

 

「あの人型から逸脱した化け物を倒したのは事実。……だが、今回は少し危なかったな」

 

 礼音は矢筒の中身を確認しながら軽く息を吐き、姫片は鎌を肩に担ぎ、鼻を鳴らす。

 

「だな。死なねぇのは分かったが、調子乗りすぎんなよ賢人」

「……はい」

 

 少し照れつつ、賢人は肩を回して痛みの名残を確認した。やちるが電磁ホバーブーツで地面すれすれを滑るように戻ってきた。

 

「栗子、さっきすごく跳ねてた」

「当たり前だ。死にたくねぇからなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────食料調達から戻った夜。

 アマゾネスたちは酒でも入っているのか、宴会のように賑やかだった。

 波癒の能力で腐敗を防いでいる間に皆で血抜きを行い、更に各部位を適切な料理に使い作られた、鹿のフルコース。ビーフシチューやステーキ、焼肉など、本日限りの超豪華なメニューだった。

 

「鹿うめぇ〜!!」

「やっぱ狩りの後は肉だよね!」

 

 その喧噪から離れ、賢人と礼音は壁際で話していた。

 

「ジビエ肉? 俺初めて食べましたよ。本当美味しいですね!」

 

 彼はステーキを頬張りながら笑顔で礼音を見た。脂は少なく、肉本来のモチモチとしたレア感が口に広がる。

 

「神川君、ジビエ肉というのは狩猟で得た肉という意味だ。鹿に限らずな」

「博識ですねぇ三静寂さん! ほら師匠も!! ビーフシチューもやばいくらい美味しいですよ! ほらぁ! 人参も肉汁染み込んで凄いです!」

 

 小皿に分けられたシチューを来栖崎に差し出す賢人。しかし彼女は眉を顰める。

 

「いや私肉以外食べないわよ。てか人参とか人の食べ物じゃないでしょ」

「こらこら、偏食はよくないぞ来栖崎君。ただでさえ食生活での変化の影響が分からないからだなのだから。ほら」

 

 礼音はスプーンに乗せた人参を来栖崎の口に運ぶ。

 

「わかった。わかったから!」

 

 嫌な人参を食べ、静かになった来栖崎を横目に礼音は賢人に切り出す。

 

「今樽神名君が考えている新しい作戦なんだが……」

 

 それは、渚輪ニュータウンと本島を繋ぐ巨大大橋の攻略戦。

 

「え!? ペトラ橋渡るんですか!?」

「まだ確定じゃない……声を抑えろ」

 

 賢人の口に人差し指を当てる。

 

「あ、アドさんが勝手に言ってるだけですね! あーでもあの人のだったら実現しちゃうって絶対!」

「あ〜……まぁ、その通りだ」

 

 礼音は渋い顔でうなずいた。

 

「だからこそ、君と来栖崎君にはもっと強くなって欲しい」

 

 ────その背後。

 

「へっへ〜ん、何コソコソ話してるのかにゃ? おふたりさん」

 

 

 

「うわああ!?」

「ビビりすぎだ神川君」

 

 ぬるっと登場いたアド。ビビる賢人に礼音は軽くため息をつく。

 

「樽神名君。『島間大型跳ね上げ式横断橋』通称ペトラ橋の攻略についてだ」

「それそれ! あの時はさ、一体一体ちまちま倒すしかなかったじゃん? でもさぁ! ケンティーのその剣! なんだっけ」

「癒封剣波癒です……」

 

 賢人は苦笑しながら刀身を見る。火炎剣烈火が変質し、治癒能力を宿した刃、癒封剣波癒。

 

「この前みたいに一掃できるし! ヒサギンと合わせれば百人力以上どころか一個師団並でしょ! 本島上陸できるよ!」

「そんなに言うなら……やります俺」

「っしゃぁ決まり〜!!」

 

 アドは満面の笑みを浮かべた。だがその軽さこそが、この後の運命を大きく狂わせるとは。この時の賢人も、誰一人として知らなかった。

 

 ────変身の時は、近い。




仮面ライダーセイバー第5章『我が友、雷の剣士につき。』より
感想ください

Tips.ゲームシステムはブラウザ版とは異なるが、DMMゲームのアライアンスセージと似ているぞ。ちなみに、鹿狩りは大胆にカットさせてもらったぞ。

トイレかよw
来栖崎キャラ立ってきたな
賢人結構怪我してない? 聖剣なかったらやばかっただろ
礼音さん可愛い

神川賢人のキャラが好きか

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