とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────あなたが羨ましい。何もかもを手に入れたあなたが。わたしは何もかもを、喪ったというのに。
妃崎がブックを開くと全アナザーライダーが現れた。
「嘘だろ……?」
まるで展示会のように、立って並んでいる。しかし時の王はいない。それは変身者の意思が強かったから。そしてクウガから動き出したそれは、ヴァルキュアに襲いかかる。
「ってことはこれが一体一体……!?」
その上アナザーライダー達は最強フォームと化していた。ヴァルキュアの持つレジェンドライダーブックは様々な陣営を駆けずり回り集めたものであるが、しかしそれらは初期フォームだ。勝てる算段があるとは思えない。
「……でも逃げらんねぇよな」
『アニューレジェンドクウガ!』
アナザークウガアルティメットの超自然発火能力。プラズマによる不可避の攻撃。ヴァルキュアははなから回避という選択肢は捨てていた。手をかざすだけで相手を体内から発火させられるなど、考えるだけ無駄だ。
「だからこうする」
『命の聖水!』
彼は体内の血液組織を全て聖水に置き換える。何者にも犯せない不可侵領域、それが聖水。初期フォームにあるまじき性能だな、ヴァルキュアは心中そう笑う。
「究極の闇なんて俺が照らしてやるよ!! この白でな!!」
クウガの本で、白い力が右足に纏われる。宙を一回転、次の瞬間アナザークウガの体表に紋章が焼き付き、爆発した。
『金色龍のアギト』
アナザーアギトシャイニングは未だ進化途中である。少しでも時間をかければすぐさま進化し、強く、手に負えなくなってしまう。ヴァルキュアは相手の攻撃を躱し、的確に装甲の隙間を聖剣で切りつける。
「俺は俺のままでいい!」
双刀が折られ、狼狽える相手の角に狙いを定める。
────波癒一閃。誰かの声が響く。ヴァルキュアの背後、爆発するアナザーライダー アギト。
『龍騎インミラーワールド』
ヴァルキュアの装甲、反射するそこから巨大な龍が飛び出す。バイクと化した龍に跨るのはアナザー龍騎サバイブ。
ウィザードの本を使い宝石のように反射するその身体にもう一度相手は吸い込まれる。出てきた瞬間、その一瞬に全てを懸けるヴァルキュア。スパッと両断。押し戻された身体の中で爆発が起こる。
『ファイズ進化人類史』
極めて毒性の強いフォトンブラッドを撒き散らすのはアナザーファイズブラスター。命の聖水に浄化され、無抵抗のまま彼は砂となり散っていった。
『甲虫遊戯ブレイド』
「悪いな。俺はトランプよりUNO派だッ!!」
ヴァルキュアに立ち塞がるロイヤルストレートフラッシュの畳達。アナザーブレイドキングAを残し、それらは破壊される。
「ウノって言ってねぇやつは負けだッ!!」
────∀。反転したそれを蹴散らし、ヴァルキュアは相手を撃破した。
『音撃伝響鬼』『高速カブト語録』『電王童話全集』
アナザー
────過去、現在、未来。全ての時間軸で起こる悲劇。それは人類による戦争。共通地点にヴァルキュアは相手をその時間に固定させる。電王の本でそこに向かった彼は、アナザー電王ライナーを発見し、それを撃破したヴァルキュアはカブトに対し剣を振るう。50mは離れている、クロックアップの必要すらない、慢心の権化。
「ヴァルキュアの必殺技、パートスペシャル!」
剣先が分離、刺さったという事実だけが残る。
『俺様はキバである』
『ディケイド世界旅行記』
「嘘!? え!? 本物!?」
「俺の偽物はもう懲り懲りなんでな」
放浪者 仮面ライダーディケイドである。世界線を旅する彼は、今回無理やり召喚されたに過ぎない。アナザーディケイドを難なく倒した彼は、通りすがりにヴァルキュアの頭をポンポンと叩き、旅に戻っていった。
『ダブル探偵日誌』『オーズアニマルコンボ録』
アナザーWエクストリームは地球の記憶を持つ、いわば全知全能の存在である。
「ならこの仮面ライダーは知ってるか?」
彼は、自分も知らないゼッツの本を使う。相手の深層心理に入り込むヴァルキュア。地球の形をしたその中心にいたのは、炎に纏われた仮面ライダーコアだった。それはアナザーオーズプトティラに容赦なく砕かれる。
「セイヤー!!」
オーズを倒した彼は、深層心理のもの全てを破壊していく。最後に残ったのは扉。それを破壊した彼は、現実に戻る。
『2011 フォーゼオデッセイ』
アナザーフォーゼコズミックは理論上すべてのスイッチを駆使し戦う。しかし40もあるスイッチの能力を個々に把握し使いこなすのは困難だった。
「バカが。こうやって使うんだよ!」
オーズ、フォーゼ、ビルド。計121の能力、ライダーオタクである彼には覚えることなど容易だった。鷹の目で見通した相手の能力、シールドで攻撃を防ぎ、消しゴムの力でスイッチを消し、トドメを刺す。
『希望の竜使いウィザード』『戦国鎧武絵巻』
「魔法には科学だ」
アナザーウィザードインフィニティは魔力を循環させる。1度使い、空気中に漂う魔力を再利用する。しかしヴァルキュアは引き続き使用するビルドの本の中から1本のボトルの力を引き出す。
「吸い取ればいい話だ!!」
掃除機が魔力を吸い出す。そこに現れる鎧武者 アナザー鎧武極。あらゆる果実の力を取り込み、禁断の果実が顕現する。
「焼き払ってやるよ!!」
現れる蔦をウィザードの本の炎が焼き尽くす。
『ドライブ警察24時』『ゴースト偉人録』
タイヤを合成させるアナザードライブトライドロン、そして感情を忘れ去ったアナザーゴーストムゲン。
「能力頼みじゃ勝てないぜ!!」
スピードが増し、更に実体を消したヴァルキュアは2体を撃破する。
『エグゼイド医療日誌』
アナザーエグゼイドムテキを破る方法はただ1つ。その能力を書き換えることだけ。電王のブックで過去に戻ったヴァルキュアはリセットし、やり直して倒すのだった。
『パンドラビットのビルド』
アナザービルドジーニアスを打破した彼は、新たな時代に挑む。
────令和。
『ゼロワンAI開発録』
予測演算を超え、ヴァルキュアはアナザーゼロツーを打破する。
『グッドリバイス』
磁力を跳ね返すには自分がより強い磁力を得るほかない。アナザーアルティメットリバイとバイスをカブトのクロックアップで打ち破ったヴァルキュアは、神に挑む。
『ギーツは沈黙せず』
────アナザーギーツIX。歪んだ九尾が、彼を襲う。しかしこの世界の人々はギーツを知らない。信仰を失った神は容易く敗れ去った。
『ガッチャード卒業アルバム』
アナザーレインボーガッチャードに自由な発想はない。停滞したそのアナザーライダーは、
『ガヴと闇菓子工場の秘密』
超高速と一撃必殺を使い分けるアナザーオーバー/マスターガヴ。単純こそが最も強い。地力の見せどころ。しかし手間をかける暇はない。カブトのクロックアップ、ドライブの重加速で圧倒する。いくら卑怯と言われようとだ。
『777/私が愛したゼッツ』
夢に潜り込ませはしない。ゴーストの本で瞑想、トランス状態になり無意識下で戦うヴァルキュア。いくら夢でも本物の無敵のエージェントには及ばない。これが本物のゼッツなら
「……これで全部……。なッ!?」
ジオウを除く全てのアナザーライダーを倒したヴァルキュア。彼は変身を解き、残されたアルターブックを浄化する。しかしそこには1人、瓦礫の中残っていた。
「……サン?」
この世界で初めて出来た同性の友達。しかしその姿は、彼の知っているものとは少し違った。黒のコート、クマフラーのお面。
そして────来栖崎ひさぎの赤いマフラー。
「────いや違う……お前は誰だ?」
「生存部隊ポートラル参謀 来栖崎サンだ」
冗談を言っている様子は見られない。明らかに憔悴しきったその顔が、それを示していた。
「何を言ってる。サンはお前……てか参謀は今は百喰さんだろ!」
「百喰……。生きていれば29歳か」
「生きていればって……てか21だぞ。どうしたんだよお前!!」
そう、男 来栖崎サンは賢人のいない世界、正史から連れてこられた存在。妃崎も予想していなかった異分子である。彼は1つのライドウォッチを持っていた。
『ヴァルキュア!』
くぐもった声が、それから響く。体内に吸い込まれたそれはサン自身の体を白と黒に染め上げる。姿は仮面ライダーヴァルキュアに似通っている。が、希望の象徴である聖剣を持っていない。代わりに手に携えるは無慈悲な暴力の象徴、拳銃。
『波癒抜刀!!』
「話は聞いてくれないってわけかよ……!! 変身!!」
『エナジーユニコーン!!』
「僕は君が羨ましいよ!! 誰も死なせずに……!!」
「だから一体なんの話なんだよ!!」
白と白の激突。聖剣の聖なる力、その余波が瓦礫たちを包む。治りかけたそれらを壊すのはアナザーヴァルキュア。
「全てが狂ったのは、沙織ちゃんが死んでからだ!!」
「……何を言ってる。あの子は今も生きてる!!」
この世界では、だ。事実、あの日賢人が変身できなければ彼女は死んでいた。そして来栖崎サンの世界では"そう"なっていた。脊髄を引きずり出され、それを見た妹は心に深い傷を負ってしまった。*1
「そしてこの世界の歪みが顕在化したあの日。……僕は僕を好きな子を死に追いやった」
「……誰のことを言っている!!」
一進一退の攻防。変身者の身体能力、そして経験値だけを見れば神川賢人の圧勝だった。しかしサンの覚悟はそれらをも覆す程だった。
この世界にメギドが、アルターブックの被害が現れた日、来栖崎サンの世界では甘噛綴が感染してしまった。サンが治したものの彼女は殺人衝動に耐えきれず自殺してしまったのだ。*2
「甘噛綴だよッ!! 君は恵まれすぎてる!!」
「ッ……そうだよ。俺は恵まれてる。みんながいなかったらこれも使えてなかったよ」
『スピニングユニコーン!!』
物語が重なる。ハンターナイトリザード、命の聖水。しかしそのブックが、来栖崎サンの神経をさらに逆撫でる。
「なんで僕は礼音さんを助けられなかったんだよ……! どうしてお前がッ!!!」
神峰透露と初めて邂逅したあの日、三静寂礼音は産声形態となり人間体に戻れず死ぬはずだった。礼音の追放を命令した百喰達、戦えないサン、決別の末の逃亡。
そして来栖崎ひさぎに
「その後も皆が死んで……なのに!!」
渚輪決戦で死んだ皆。
────そして。
「……アド」
「アドさんがどうしたんだよ!!」
アドの裏切り。
────そしてサンは、1人になった。*4
「僕は、ひさぎを生き返らせるためなら何でもする。……そして1人の少女を生贄に、クローンを作った。キルレート・アーだ」
「……誰だ。それは?」
「9年後の話だ。君には分からないだろッ!!」
アナザーヴァルキュアの身体に、黒が混ざり始める。
「……いや違うな。全てが狂ったのはあの日だッ!!」
激昂と共に、彼の身体は完全に黒に染まる。
「僕はひさぎに全てを捧げた。この血も命も、全て!! だが君はどうだ? 師匠等とふざけたことを!!」
来栖崎サンはあの日を思い起こす。来栖崎が感染し、そして狂依存となったあの日を。彼女が治れば自分は死ぬと約束した、あの日を。*5
「君がひさぎの恋人を救ったのも知ってる。……何故、僕のひさぎは……よりにもよって真司さんを殺さないといけなかったんだッ!!」
「……ようやく分かったよ。お前の言ってることが」
「……あ?」
「お前はIFの世界から来たんだろ!! だったらなんで俺に八つ当たりするんだよ!!」
「お前が羨ましいんだよ!! 誰も死なせなかったお前が!!」
「だったらこっちの皆でも何でも連れていけばいいだろ!!」
来栖崎サンの慟哭。売り言葉に買い言葉、ヴァルキュアは心にも無い言葉を放ってしまう。
「僕の知ってる皆と、この世界の奴らは違う!!」
「……分かってるじゃねぇか。そうだよ。八つ当たりしたところで何も戻ってこない。俺が体験した2年は俺の物語なんだよ……!!」
ジオウのブックから、1冊の本が分離する。それは神川賢人の物語。
『とあるライダーオタクがヴァルキュアになった件』
『波癒抜刀! 神獣を宿す! レジェンドライダー!! ヴァルキュア! 伝説一冊! 正義の心は、さらなる力を剣に宿す!』
「……なんだよ。姿を戻して何がしたい!!」
アナザーヴァルキュアの言葉に、仮面の下の賢人はニヤリと笑う。確かに、今のヴァルキュアはエナジーユニコーン1冊だけで変身した姿と全く同じだった。
「知らないのか? 姿の変わらない限定フォームの強さを」
「僕の前で、笑うなッ!!!」
『ヴァルキュア! 1冊斬り! キュア!』
「……お前のことも、救ってやるよ」
アナザーヴァルキュアの黒く染まった装甲が浄化される。直後、砕けたウォッチが体から排出される。
「……ふざけんなよ。なんで僕が負けるんだよッ!」
「聞け来栖崎サン! 時間は戻らない。そっち仮面ライダーはいないんだろ?」
賢人の言葉に、来栖崎サンは小さく頷く。
「俺が元いた世界もいなかった。テレビの中だけの存在だったからな。だからもう学校にも行けないし、親にも会えない。……でももし戻れるってなっても俺は嫌だ。ここで出会った皆と離れ離れになりたくない。お前にも仲間、いるんだろ?」
「……」
またも小さく頷く来栖崎サン。彼の世界での生存部隊ポートラルは彼を合わせて2人だけの部隊。治癒姫 甘噛瑠奏がいるだけだったが、それでもだ。
「それでいい、とは言えない。けど……もしまた機会があるなら、また会おうな」
「……何が言いたいんだよ」
初めての笑顔を浮かべた彼は、生まれたワームホールに飲み込まれ、元の世界に戻っていくのだった。
「……ゴホッ」
突然、賢人の視界が揺れた。剣を支えにしていた膝が崩れる。
「はぁ……はぁ……」
今になって、全身の痛みが押し寄せてくる。クウガからゼッツまでの連戦。そしてアナザーヴァルキュアによる精神的疲労。限界など、とっくに越えていた。瓦礫の空を見上げる。もうアナザーライダーはいない。
そのまま、賢人の体はゆっくりと前へ倒れた。
『ザ・アナザーライダーズ』
『目を覚ませ 歴史を誤りしズーメギド』
元ネタはザ・ボーイズ。
小ネタ沢山。
『グッド・リバイス』
『この家族が辿り着いたのは悪魔との未知なる可能性』
元ネタはグッドオーメンズ。
『ギーツは沈黙せず』
『かつての母を探して2000年 勝ち獲る
元ネタは神は沈黙せず。
『ガヴと闇菓子工場の秘密』
『とある闇に潜みし快楽 人知れず戦う孤高の戦士』
元ネタはチャーリーとチョコレート工場とチョコレート工場の秘密
『777/私が愛したゼッツ』
『この夢を守るのは無敵のエージェント』
元ネタは007/私を愛したスパイ
『とあるライダーオタクがヴァルキュアになった件』
『かつては存在もしなかった力が今、少年を奮い立たせる!』
実はこの回、元々存在しませんでした。ですがプロットを書き終えた際、アナザーライダーのアルターブックを登場させるのを忘れたことに気づいて慌てて足しました。
そして完成したプロット、令和ライダー最終回あるあるの初期フォームと同じ姿の特殊フォームを出すのと、レジェンドライダーブックを使う構想までは立てたんですが、IFのサンが出てくるのは執筆途中の思いつきです。