とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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ヴァルキュアLeftovers レイズ・オブ・テンペスト

 

 ────あなたがいなければ、わたしは今、ここにはいない。あなたがいたから、わたしは今、絶望を晴らせるのだ。

 

 全ての戦いが終わり、賢人達ポートラルは始まりの地、渚輪区へと訪れていた。2年もあれば復興など容易で、そこには元あった廃墟など見る影もなかった。

 

「確かあの捕まったグラナトファの子……柩だっけ。彼女に姉がいたこと思い出したんでしたっけ」

「そ。……渚輪区生存組合序列6位。な〜んで思い出さなかったんだろ。カバネルだよカバネル」

「カバネル……もしかして騎獅道屍? あ!! そういえばなんか見ましたよ! この世界に来てすぐの時雑誌で!! 確か三静寂和樹を破りGMとかなんとか……」

「そ! アヤネルのパパ負けちゃったんだよ〜」

 

 生存組合『テンペスト』

 身分、序列、金、そして命すらもギャンブルで決める組織である。彼女たちが2年経っても変わらなかったこと、いやそもそもそんな組織だったことを、賢人達は知らない。しかし渚輪区から人が少なくなってきているという噂を聞いて、動かずにはいられなかった。

 現在の最大勢力の生存組合はテンペストだったから。

 

「────全裸になり、私の奴隷となれ」

 

 その言葉をアドに吐いたのは、テンペスト盟主『騎獅道屍(きしどうかばね)』何故か、それはその拠点に入った瞬間の"遊び"に負けたから。じゃんけん。それは三竦みの運だけのはずのゲーム。

 

「えと……久しぶりだから忘れちゃったんだけど……カバネルってそんな見た目だったっけ?」

 

 黒い長髪、赤く染まり、こちらを見下す瞳。違う、拠点に入った時は白銀の髪、お淑やかに見つめていたはずだった。その場所は拠点の広間。天井には巨大なシーリングファンが回っており、テーブルには沢山のボードゲームが置かれている。

 

「2度は言わん。豚に衣類はいらないだろう?」

 

 そう言って彼女は、からん、と。犬が着けるような首輪を投げ捨てた。その瞬間、衝撃によるものか否か照明がチカッと点滅する。

 

「自ら脱いで、着けろ」

 

 顎で指示する。

 

「あはは……冗談にしてはやりす────あぼェッ!?」

「こんのやろッ────」

「賢人様ッ!!」

 

 賢人の目の前で、アドの顔が破裂した。否、頬骨から奥歯まで抉るような裏拳が炸裂した。その瞬間、反射で賢人は動く。裏拳を放ったのはテンペストの『ダイヤ』の"取り立て人"、財膳(ざいぜん)迷路子(めいろこ)。彼女の首元に聖剣を向ける。しかし一呼吸おいて、彼、そしてポートラル組員にテンペストの拳銃が向けられる。

 

「……はは。冗談冗談。人は殺さないよ」

 

 賢人は乾いた笑みを浮かべ、両手を挙げる。されど迷路子への瞳から怒りは消えない。

 

「取り立て人。支払いの時間だ。脱がせてやれ」

「全部?」

「あぁ、その豚は自分で脱ぐことすらままならないらしい」

「ふぅ、悪手を打ったようだね、ポートラルの元『盟主』さん」

 

 着々と行われていく地獄絵図。動けば仲間が死ぬ。自分なら撃たれても再生できるが、それでも死を覆すのは容易ではない。

 

「……たかが遊びじゃないですか。限度ってものがある」

 

 確かに賢人自身、買い出しや奢りを賭けたジャンケンをしたことはある。だが、今行われていることは違う。遊びじゃない。

 

「限度? ……面白いことを言うなこの小僧は。ここは貴様の寝室かいや違う我が城だ。自慰は慎め塵芥」

 

 バキィッ。壁が、轟音と共に破壊される。逃げ出そうとした者がいたからだ。それはやちる。身体の小さい彼女なら隠れて逃げ、外に援護を呼べると思った姫片の指示だった。2人はルール違反として、組員に連れられていく。

 

「おっと。ゲームは未だ未クリアだ。離席は認められん。このテンペストでは、賭博の結果が全て。それがトランプでもコイントスでも、ゲームだろうと殴り合いだろうと────じゃんけんだろうと」

「……は?」

「例え賭けの対象が命だったとしても。結果は、命より重い」

「でもアドさんに事前にその結果は教えなかったと。案外臆病なんですね」

「挑発はおやめください!」

「綴は見てて。必ず勝つから」

「くふっ、己が立ち位置も見知らず、それでいて言葉は一丁前。小さな世界に引きこもり、説明書がある遊戯にばかり興じてきたのだろう。さぞ可哀想に」

 

 屍は、賢人の怒りをいとも容易く払い除ける。

 

「この女はジャンケンに負けたら言うことを聞く。そう賭け、負けた。トランプを並べギャンブルに、それを並べて人生に。世の理とはそれで収まるだろう?」

「クドいな、随分と。あぁ、そういえば聞いたことあるよ、バカほどツラツラ回りくどく喋りたがるってな」

 

 ピキピキと、彼女の青筋が筋立つ。しかしすぐに自分に優位の座を引き戻そうと口を開いた。

 

「この豚は今日から私のペットだ。仲間だぞ、喜べ」

 

 手を叩くと、隣にいた『戯言(たわごと)くるる』が身体を震わせる。震わせ、徐々に服を脱ぎ出し、全裸になる。首に巻かれた"鎖の付いた首輪"だけを残して。

 

「くるる、服従のポーズはどうした?」

「きゃっ、きゃん!」

 

 彼女の命令に合わせて、くるるは腹を見せ寝っ転がり、舌を出す。まるで犬がご主人様に忠誠を示すように。

 

「多頭飼育が過ぎてな。ストックがあるんだ。大量に」

 

 屍がスイッチを押すと、部屋の奥にあるシャッターが開かれる。そこには鎖に繋がれた人間達がいた。布一枚すら許されず、檻の中で膝を抱える者達。

 その前を見回るのは、痩せ細った身体に薄汚れた服を纏った者達だった。

 檻の中の人間には衣服は与えられない。だが食事だけは与えられる。 代わりに外を歩く監視役には衣服が許されるが、満足な食事は与えられない。

 互いに監視させ、互いに縛らせる。 反抗心を削ぐための、テンペストの支配構造だった。

 

「篠崎君……!」

「あれは蚊焼さん……」

 

 その中の人物を見て、礼音と百喰が声をあげる。モラトリアムの篠崎千比呂、そしてメルターの蚊焼いちごと水面鳴(みなもな)音姫(おとぎ)。3人とも見知った顔だった。

 

「あぁあれか。渚輪を救った英雄の片割れだというから厚遇してやったんだがな」

「……そういうことか」

「賢人様……?」

 

 あの世界で、何度も見た。もう見なくて済む、そう思い戻ってきた第二の故郷でも、それが横行していた。軽く絶望を覚えた賢人。

 

「さっき殴り合いだとか言っていたよな? 騎獅道屍」

「ほぅ、やる気か」

「あぁ、お前みたいなクズから人を守るのが仮面ライダーだからな」

「んじゃあウチにやらせてよ。カバネっち」

 

 ひょこっと物陰から飛び出してきたのはジャラジャラとアクセサリーを付け、スクールバッグを肩にかけた少女であり、ハート『落愛おぼれ』。その姿を見て、屍は心の底から出る笑いを抑えるのに必死だった。

 

「けど、アンタが負けたらウチのせーどれいね」

「そんなの認め────」

「やってやるよ。……綴安心してくれ。俺は負けない」

 

 おぼれは近頃、"ストック"が不足していた。ニュータウンの男性が絶滅し、処女のまま過ごしていた半年間。しかし渚輪区が救われ、本州から流入してきた男という資本。行楽施設と謳われたテンペスト拠点は、瞬く間に奴隷達を増やしていった。だから今、この世界で最強の男が欲しかった。

 

「……変身!」

『スペリオルユニコーン!!』

 

 賢人は、初手から本気だった。最高戦力である黒剣士。その刃がおぼれに向かう瞬間、"運良く"寿命の尽きた照明が消える。だがそんなもので混乱はしない。ヴァルキュアの複眼は100km先の闇をも見通すスーパーマスクなのだ。

 

「あらら!? うわっと!?」

 

 落愛おぼれに武術の心得はない。しかし低反動のハンドガン程度なら撃つことはできた。暗い部屋の中、聖剣の光を頼りに発砲する。

 

「ッ!?」

 

 カンッ! 小気味いい音を立てて聖剣に当たる。そして"運良く"跳弾した弾丸がシーリングファンに当たる。支点を失ったそれはバキっと音を立てて落下する。その下は闇の中、目が慣れない綴だった。

 

「危ないッ!!」

 

 全てを投げ出してヴァルキュアは綴に覆い被さる。聖剣で破壊されるファン。綴の無事を確認した彼は、戦闘に復帰する。

 一瞬、ヴァルキュアの装甲が聖剣によって黒光りする。おぼれはベルトに挿された本を狙い撃つ。光る本、ページが舞う。自らの変身解除エフェクトによって視界が塞がれた賢人、その隙に目を慣らしたおぼれが這い寄る。

 

「はい、ゲームセット〜」

「わた……わたくしのせい……で。いや、いやああああああ!!」

 

 ようやく緊急用の非常照明が点く。明かりを取り戻し、綴の目の前に写った光景は、賢人の眉間に銃口が突き付けられるものだった。

 

 

 

 

 

 

 私、騎獅道柩の人生は、最低なものでした。予備の先行投資であるお姉ちゃんを食べることが出来ず、騎獅道家を継ぐ前に感染爆発なんていういや〜なことが起きちゃってね、シクシクシクシクだったのです。

 

 ちなみに〜、騎獅道家っていうのは日本の中枢を支配する王だったんですよ〜? 明治維新っていうちょ〜っと古すぎる時代からある名家だったんです。どうでもいい話は置いといて、話戻しますね〜。で、それで幼女だった私は泣いてたのです。そしたらすっごーく怪しい男の人が話しかけてきて言ったんですよ。

 

『私と契約しませんか?』

 

 なーんて。なんで幼女を選んだんでしょうあの人は。あ、竜瀧友輔です。それであの人にスタンプ押されたらみるみるうちに大きくなって、頭脳は子供、体は大人の歪な生き物が誕生しちゃったわけです。それで私はまず手始めに感染爆発を起こした神峰って人を殺しました。そしたらですよ? 竜瀧私を裏切ったんですよ。だからグラナトファの仲間を集めて〜。それで私ね? 頑張ったんですよ。アイツに復讐するために。でも道半ばで真の家族とか何とか言うやつに倒されちゃいました。でもね? ここから上がり調子になったんですよ私の人生! あの仮面ライダーヴァルキュアが、竜瀧をやっつけてくれたの!! ねぇ! これ本当にうれしかったんだよ!! ねぇネメ! 雪蚕! らぶぱ! 死心!! 

 

「……もう皆、私の事なんて」

「ンーフフ、それは違うぞ柩。少なくともコールサイレンは嫌ってはいない」

「ただ信頼できなかっただけ。でもアンタ、私らより竜瀧を憎んでたなんてね」

「んまぁ〜、もうちょいアタシらの前でも素、出して欲しかったけどね〜」

「……私からは何も」

「皆さん……」

 

 人類絶滅という拠り所を失い、刑務所で過ごしていたコールサイレン。そこに太陽機関新局長、ルティアがやって来る。

 

「囚人番号666番 騎獅道柩。貴方に刑務作業を命じるわ」

「なんですかぁ?」

「渚輪区、渚輪ニュータウンへ行ってもらう」

「生身の人間の私にですかぁ?」

「もう渚輪区は完全に居住区になっているのだけれど……モグリかしら」

 

 彼女は有無を言わせず、柩を渚輪区上空へとヘリで送り届けるのであった。

 

「いやああああああ!!!」

 

 叫ぶ綴をよそに、おぼれは押し付けた銃口をグリグリと強める。

 

「そんじゃあ、えー……賢人? だっけ、は綴を食器にかいぞーすべし!!」

「……は?」

「奴隷が口答えする気か?」

 

 快活にそう言ってのけたおぼれ。賢人はその言葉に殺意を向けるが、屍の気迫がそれを遮る。

 

「前はさ〜、おくちをお茶碗にするとか〜、女体盛りとかで満足できてたんだけどさ〜」

 

 そう言っておぼれは懐からスプーンを取り出した。先端、いわば掬う部分は弾力があるのか、少し垂れ下がっている。

 

「これはね〜九重(ここのえ)藻屑(もくず)ちゃんのベロでできたスプーン!! いいでしょ〜、一点物なんだよ〜」

「……????」

 

 賢人は最初、理解できなかった。徐々にその意味が分かるにつれ、腹の奥から込み上げるものがあった。名前を挙げられた少女はおぼれの奴隷。しかし悦楽が行き過ぎ、ついうっかり廃棄になってしまったのだ。

 

「ええええええ"!!!」

 

 胃液が、胃の内容物とともに吐き出される。それを見るとおぼれと屍は大爆笑。汚い音とともにその液体を踏みつける。

 

「ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷらんらんらん!! キャハハハハハ!! ほら、飲みなよ? ほら!!!」

「────飲めよ」

 

 賢人の闘志は、未だ消えていない。

 

「ほら! ────あ、そうだ、クラブの幹部ちゃ〜ん」

 

 部屋の奥から、合成音声のような声が聞こえる。現れたのは人形を持ち、左目に眼帯を付けた小さな少女。その名はクラブの幹部 錫杖(しゃくじょう)架瑠裸(かるら)。人形から漂う異臭が、賢人の鼻をつんざく。

 

「こら!! 顔を顰めないの!!」

 

 そんな軽い言葉とは裏腹に、おぼれは勢いよく屍に抑えられた賢人の顔を蹴りつける。架瑠裸は弱々しい足取りで賢人に近づく。

 

「この子が家具職人なんだからね!! 賢人くんもうやうやしく接すること!!」

 

 賢人からしてみればいわば恋人の死刑執行人。そんなの、顔を見ることすら怖かった。人形から漂う異臭にも嫌な想像がはしる。綴が抑えられ、更に連れられていった姫片とやちるが監視部屋に辿り着くのが見えた。アドは屍の奴隷になり、残るは来栖崎と百喰だけ。

 2度世界を救い、その仕打ちがこれか。賢人の脳内に諦めが浮かぶ。でも自分の身勝手に綴達を巻き込みたくはなかった。

 

 ────そんな時、宙から破壊音が響く。

 

「メッ、ですよ仮面ライダーヴァルキュアさんっ! そーんな諦める〜なんて悪い子には、キツ〜いお仕置きが待ってますよ!!」

「……は?」

 

 見上げると天井に人型の穴が空いていた。その下、丁度賢人の眼前には白と黒、半分に髪色が別れた女性が立っていた。

 

「お前……!」

「何故ここに柩が……!!」

 

 ビクゥ! と、屍は肩を震わせる。それにより緩まった拘束を剥ぎ、賢人は聖剣を手に取る。

 

「何故来たのかとか理由はいいわ。アンタグラナトファじゃなくなったんでしょ? さっさと助けなさいよ」

「くふっ、相変わらず来栖崎さんはお口わるわるなようで」

「なんで私の名前を……って」

「師匠はあの部屋の解放お願いします」

 

 賢人は柩の横に並び立つ。その手に1冊のブックを握って。

 

「柩は助けに来てくれたって認識でいいんですよね?」

「助けに……元敵ですよ? 信頼してくれるんですか?」

「まぁ普通はできないですけど……。でもこういう時来てくれたら絶対助っ人ですから。仮面ライダーではそうでしたし」

「くふっ、相変わらず面白いお人で。それじゃあご褒美あげちゃいます♪」

 

 そう言って柩は手に持った本に息を吹きかける。するとそれは黒く光りだし……ライドブックが完成する。

 

『蒼炎のグラナトファ!』

『かつてから付き従いし同胞よ、剣士の元へいざ集え』

『波癒抜刀! 細胞爆発! 心血注いでいざ集結! グラナトファ!!!』

 

 岩のようなグラナトファ、獣のようなグラナトファ、多種多様なそれらが賢人の身体を囲う。それらが装甲となり、形作られる。歪で未完成、しかしその形状は徐々に"らしく"なっていく。賢人自身の想像に、細胞が変化しているのだ。

 仮面ライダーヴァルキュア 蒼炎のグラナトファが、今誕生した。

 

「ありがとうな柩さん。さぁ行こう!!」

「はぁい……!!」

 

 呉越同舟、かつての敵は今日の友。ヴァルキュアと柩はテンペスト四天王に向かっていく。

 

「くふっ、もうただの人間なんですけどねぇ」

「……柩。リベンジマッチだ。次は負けない」

 

 何故か。屍はただそこに柩がいるというだけで心身が焦燥感に苛まれていた。彼女は震えながら、チェス盤が置かれたテーブルに歩み寄る。

 

「ちょうど良かったです姉さん。丁度肩慣らし、したかったところなんですよ」

「くふっ、くふふふふ」

 

 平常心平常心。屍はそれを保つために白の人格を呼び出す。それはチェスなどの二人零和有限確定完全情報ゲームに適した姿だった。

 

「久しぶりですね。柩」

「あら、白い方を使うんですねぇ大人気ない。でもぉ〜私、命掛けたチェス、ずっとしてましたから♪」

 

 駒がひとりでに動く。それはあくまでルールに則った動きで。白屍の手駒が、盤面から消えていく。

 

「なッ、何故……」

「所詮、貴方は井の中の蛙────あぁ、盤面の外を知らない駒、でしたっけ? 愚姉(ぐねえ)さん」

 

 道義を重んじ礼儀正しいはずの白屍。彼女の額に青筋が浮かぶ。反射で髪が黒く染まる。白の得意なはずのゲームで負けた。その事実が重くのしかかる。

 

「あらあら、怒っちゃいました? あぁ〜、もしかして更年期ですかぁ?」

「……言ってくれるじゃないか。愚妹(ぐまい)が」

 

 敗者の意趣返しなど、虚しく響くだけ。されども黒くなった柩はカードの束を卑しく掴み取る。それらを並べ、ポーカーを開始する。

 

「……へぇ」

 

 柩は相手の手札を予想する。黒屍は運、そして騙し合いに長けていた。

 

「イカサマなんてこすい真似、するですね姉さんは」

「何か証拠でもあるのか?」

 

 幼い頃から、屍は妹ただ1人にだけは勝てなかった。だから使い古したトランプを使ったのだ。テンペストに保管されていたそれは、1枚1枚に年期とシワが入っていた。それらを見極め、彼女はカードを配ったのだ。

 

「まぁ、そんなもの関係ないですが」

 

 依然として柩は飄々とした態度を取り続けていた。彼女の手札はブタ。何の役もないが、しかし不敵な笑みを浮かべる。対する黒屍の手札は6のフォーカード。何の心配などないはず。

 

「……」

 

 しかし彼女の額には汗が滲んでいた。フォーカードより強い役はストレートフラッシュか、ロイヤルストレートフラッシュのみ。それを作るためには手札の大半を入れ替える必要がある。山札から取る順番を変えることはルールで認められていない。一手で終わらせようとした黒屍は、その自らの策にはまる。

 

「大丈夫ですかぁ? あ、ハンカチいります?」

 

 柩は手札を入れ替えるついでに、手ぬぐいを黒屍に差し出す。入れ替えた結果はKのワンペア。それを見て柩は無邪気な笑みを浮かべる。誕生日プレゼントを貰った子供のように。

 

「……!?」

 

 黒屍は混乱する。予想外の反応。いやそんな訳ない。なのに、冷や汗が止まらない。もう、スペードのKを残し全てを入れ替えるほか無かった。手繰り寄せたのは、自らが見下していたアドや大量の奴隷と同じ────ブタ。

 

「ショーダウン♪」

 

 

 一方、ヴァルキュアの前に立つのは三人の幹部。

 ハート 落愛おぼれ クラブ 錫杖架瑠裸(しゃくじょうかるら) ダイヤ 財膳迷路子(ざいぜんめいろこ)

 

「3対1とはまた随分」

「いいハンデでしょ?」

「プークスクス。1回私に負けてんのになんか言ってる〜」

「次はどうなるだろうな!!」

 

 最初に飛び込んできたのは迷路子。最強の拳だろうと所詮人。ヴァルキュアの装甲は傷一つつかない。彼女をグッと掴むと架瑠裸へと投げ飛ばす。

 錫杖架瑠裸は貧弱だ。だから毒を飲ませたり、寝込みを襲ったりで人の生殺与奪の権利を握っていた。彼女は迷路子の体を受け止めきれず、2人揃って気絶してしまった。

 

「あーあ、みんな弱すぎ〜」

 

 彼女は銃を構えた。

 

 パンッ。弾丸が飛ぶ。だがそれは柱に当たる。その中にある水道管に貫通したのだろう、水が勢いよく吹き出す。

 

「うわっ!?」

 

 運がいい。落愛おぼれのその特異体質は、たとえ新品のトランプであっても初手でロイヤルストレートフラッシュ(最強)を揃えられるほどであった。しかし運も過ぎれば誰にとっての幸運か分からなくなる。だから勝つために拠点が半壊する、そんな本末転倒な事象でさえも運の良さとおぼれは認識していた。

 

「あーもう早く倒れてくんない?」

「それで勝って嬉しいですか? 守るべきものを失ってまで勝つ必要、あるんですか?」

「なぜなぜ攻撃怖ぁ〜い」

 

 ヴァルキュアは周囲の被害を鑑み、エグゼイドのブックでゲームエリアに引き込む。何度剣を振るってもおぼれ本人には運良く当たらない。しかしゲームエリアのフィールド自体に運は介在しない。ヴァルキュアはグラナトファの力を全開にし、ウイルスを体に纏わせる。

 

「菌ってのは確率じゃない。分かるか?」

 

 おぼれはそのまま床へ崩れ落ちた。戦いは、終わった。

 

 

 

 

「ひ"つぎひ"つぎぃ!! わ"ら"じはぁ……こんな……ことが……!!」

「惨めですね。愚姉」

「さっさと捕まえて〜もうだるいからさ」

「ダル〜だって。ねぇジョーロ、ここで殺しちゃう?」

「おいキルレート。発言に気をつけろ。治安維持機構とは思えない発言だぞ」

 

 白と黒が入り混じった髪になり、屍は犬のように地に這いつくばり頭を擦り付ける。その姿を見て幹部たちは愛想を尽かして離れようとするが、そこにやって来た太陽機関の警察機構に捕まる。

 奴隷として監禁されていた被害者はメンタルクリニックに送られ、社会復帰まで手厚くサポートされるのであった。中でもいち早い回復を遂げたのはいちごと音姫だった。2人は仁義を建前に、後日ポートラルに"挨拶"をしに行ったという。

 

「いいですって!? ちょ、兄弟の盃はやり過ぎですって!!」

「それを言うなら姉妹の盃じゃないか?」

「礼音さん!? 細かいところが気になるのは僕の悪い癖、じゃないんですよ!!」

「ふっふっふー、樽神名アド、完全復活!!」

「ぶふぉっ」

 

 パンツを頭に被り参上するアド。それを見て呆れる百喰。そしていちごは初めて吹き出すのだった。

 

 ────騎獅道家、かつて存在したPAL研究所、そしてこの世界を取り巻く天災の物語は、未だ序章に過ぎない。




Leftovers 意味 やり残し
女死会 王神 王墓 畜災が、今交わる。
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