とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第7章 この橋、渡るべからず。

 

 ────停滞は死、わたしたちは生きる為に戦う。

 

 同年 6月25日

 

「と、いうことで皆さん!! 今日は話があります!!」

 

 賢人はポートラル戦闘班を会議室に集め、胸を張って宣言した。……が。

 

「まずは作戦の概要を────」

 

 その声を、アドが誇らしげにぶった切る。

 

「記念すべき第一回『南の海まで修学旅行大作戦──母なる海をたずねて三千里──』の始動だぜぃ!!」

「いやいや、『南の海は俺の庭────ノーコンティニューで橋を渡るぜッ!』じゃないの!?」

「なんかちょっと不安です……」

 

 やちるが眉をひそめ、椅子ごと後退った。

 

「────と、いうか南ってまさか……!!」

「そのまさかだよモグッチ。ペトラ橋を、攻略するのだ!!」

 

 その瞬間、室内の静けさは崩れ、飲み物が一斉に床へ落ちた。ガタン、ポトン、チャポ……。来栖崎だけが、ひとり優雅にマフラーを整えている。

 

「あ、大丈夫ですよみなさん。この作戦、立案こそアドですが、監査から計画までほぼ俺ですんで」

 

 先ほど作戦名で張り合っていた男はどこへ行ったのか。

 

「なら良かった!」

 

 皆の胸に安堵が広がる。鹿狩の功績は絶大だった。

 賢人は姿勢を正し、改めて口を開く。

 

「で、作戦の概要についてですが、俺たち、このままじゃダメだと思うんです。いつかはこの生活も出来なくなる。だからそれまでに、脱出の一歩として、渚輪区本島に渡りたいというのが一つ。そしてもうひとつは……」

 

 胸に手を置く。

 

「本島にいる人を救って、仲間を増やす!」

 

 年末商戦のように、と賢人は意気込む。そんな様子を見て百喰がペンを回しながら呟いた。

 

「はぁ……、意気込みは結構ですが、まずあのゾンビによって占拠されているペトラ橋の突破についてはどうお考えなのですか?」

 

 賢人はくるりと向きを変え、端でジュースをすすっていた少女のそばに寄る。

 

「突破できますよ! 俺の師匠、来栖崎さんがいるんだから!!」

「……。ぶふぉっ!?」

 

 来栖崎が噴き出した。そして姫片がようやく口を開く。

 

「んまぁ師匠とかそういうのは置いといてよぉ、それ、正気で言ってんのか? 理想主義に踊らされるほど、もう夢は見れねぇぞ」

「それに……失敗したら確実に全滅です」

 

 続いて百喰の懸念。

 

「もちろんです姫片さん百喰さん、これは現実的に可能である。そう判断しての作戦です。リスクヘッジもとってます。それに……俺や師匠だけじゃない。甘噛さんや、戦闘班のみんなもいます!」

「け、賢人様!?」

 

 甘噛の声が震える。

 

「頼りにしてますからね。甘噛さん」

「は、はい賢人様!!」

 

 甘噛の妄信具合に少し恐れながらも賢人は息を吸い、皆へ視線を向けた。

 

「俺は、こんな島を脱出したい! もっと贅沢したいし、何より死の危険があるのは嫌なんです。だから皆さん、力を貸してください……!」

 

 その言葉に、拒む者はいなかった。

 

「皆さん……ありがとうございます……」

 

 深々と頭を下げる賢人。栗子がその横を通った時、来栖崎へ向かおうとする彼の襟を掴んで止めた。

 

「でよ。作戦会議は終わったが……教えてくれんか賢人さんよ。なんでクルクル崎を師匠なんて呼んだんだ?」

「今ですか……? いやぁ……俺って男じゃないですか。なのに守られてるだけじゃダメだなって。だから強くなりたくて……」

 

「しっかし、んでよりにもよって来栖崎に教えを乞うたんだ? 他にもいるだろ?」

「……緊張して話しかけづらかったんですよ」

「……っく、かはっ、やっぱおもしれぇなお前。まあ強くなる理由があるってのはいいことだ。だがこれだけは覚えとけ。女を泣かすなよ?」

「は、はい……」

 

 なんのことか分からず困惑する賢人。しかしこうして、渚輪区全土の未来を左右する作戦は幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、検査結果が出たんですか?」

 

 来栖崎の騒動で後回しになっていた賢人の"血"と聖剣についての検証。その結果を知るため賢人は医務室に来ていた。

 

「うん。結果的に言えばこの検証には時間かかったからちょうど良かったわ」

 

 やいとは資料をプラスチックの棚から取り出し、それを見ながら結果を話した。

 

「結果から言えば、賢人くん、貴方と聖剣が揃わなければ治癒効果は現れない」

「俺と……波癒が?」

「そう、頑張って注射に耐えて貰ったけどあっちはただの血だった。来栖崎さんの血も変わらなかったわ。唯一変化があったのは聖剣で切られたあなたの身体から出た血だけ」

 

 でもね、とやいとは付け加える。

 

「全ての検体で共通することなんだけど、この聖剣が近くにある時だけはゾンビ化に起因する血の変化は起きなかったわ。本来、身体から出た血は若年女性であろうと変化するはずなの」

「……つまり、聖剣のおかげで俺は感染していないと」

 

 だから路上で目覚めた時に烈火が近くにあったのだ。無かったら、その時点で感染していたのだから。

 

「察しがいいわね。付け加えると、この聖剣の近くでは空気感染はしないわ。だから、男性でも感染しないケースがある。────まぁ、現時点で生きてる男がいればだけど」

 

 ともあれ、希望は生まれた。聖剣を持つ者なら生きている。この聖剣が現実のものである以上、他の聖剣がないとは言いきれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、来栖崎は賢人を部屋の前へ呼び出していた。当の本人は視線が泳ぎっぱなし。

 

「で、なんで大勢の前で私のこと師匠なんて言ったわけ?」

「いや〜、そりゃあね? 特訓に付き合ってもらってるし、俺より強いし……」

「まあいいわ。それより、本当にペトラ橋攻略するつもりなの? そうなら、明日稽古つけてあげる」

「もちろん本気です。────って、また稽古つけてくれるんですか!?」

 

「声デカイ。それじゃあ私は寝るから、血の時間になったら起こしてね」

「あ、はい!」

「だから声大きいって、静かに」

 

 ────そして翌日。

 

「フッ、ハッ!」

 

 地面を蹴る音、刀が風を裂く音。来栖崎の“本気の稽古”は容赦がなかった。しかし賢人は倒れない。これまでの日々の積み重ねが、確かな自信へ変わっていた。

 

「お、だいぶ動きも良くなってるわね」

「まあっ、ねっ。来栖崎さんのっ、お陰だよっ」

「ほらっ、口動かしてる暇があるなら手を動かしなさい!」

 

 その厳しさは変わらない。しかしその厳しさも、賢人には心強かった。

 

 数時間後。

 

「今日はここまで。明後日ペトラ橋なんだから、ちゃんと休んでね」

 

 汗を拭い、息もたえだえな賢人を見て流石に労りの心が芽生えた来栖崎。彼女は先にぐっすりと眠りについたのだった。

 

 同年 6月28日

 

「ケンティー! ヒサギーン! 起っきろー!!」

「ん? なんだ? アドさん……? って、師匠師匠! もう朝だって!」

「ん〜? ────って、ちょっと! なんで起こしてくれなかったの!? 早く行くわよ賢人!」

「え、はい!」

 

 慌てて装備を整え、全員集合。アドの小学生のような号令と共にデパートの外に出る。

 

「ポートラルー! しゅっぱーつ、しんこーう!!!」

 

 が、その直後。

 

「ぶーぶー、ぶーぶー」

 

 アドが豚化していた。医務室のやいとに止められ、『往復24時間以内』という制限を食らったのだ。仕方ない事ではあるが、と賢人が思っていると甘噛が首をかしげる。

 

「どうしたのですかこの子豚さんは? なにやら拗ねているようですが」

「今日だけは許してやってください……」

 

 賢人はわざとらしく頭を下げて謝る。その姿を見てクスッと微笑む甘噛。

 

「あらやだわ。デパートの皆様を心配させないためなのでしょう?」

「まぁそうなんだけど……。その……甘噛さん、腕にしがみつかれてるとちょっと……」

「わ、私ゾンビが怖いんですの……」

 

 勇気を出した賢人の言葉に、涙目の上目遣いで賢人を見つめる甘噛。

 

「甘噛君に神川君! 壁の影にゾンビだ!」

 

 礼音の声が鋭く響く。賢人は波癒を構え、地を蹴った。

 

「見ててください師匠!」

 

 ──一体目。瞬時に接近し、真っ二つ。

 ──二体目。股下を滑り抜け、背後から貫く。他のメンバーも続々参戦し、数体のゾンビは一瞬で片付いた。

 

「まったく……あたしの血がそんなに飲みたいかねぇ、この腐れ共は」

 

「太ももが……重点的に疲れたです……」

 

 足を軽くさすっていたやちるの呟きに姫片が眉をひそめる。

 

「やちる、電磁ブーツの電源切ってたのか」

「節電、だから。いいじゃん栗子が守ってくれるんだし」

「ハッ、可愛いねぇ私のお姫様は」

 

 栗子はニヤリとしながらやちるの頭をぽん、と叩く。そこで、やちるが急に声を潜めて囁く。

 

「神川さんが、私の足、見てる」

「おいおいおい、コラ神川ァ、何うちのやちるに色目使ってくれてんだぁ?」

 

 栗子がチンピラの顔で賢人に詰め寄る。その気配を察して、甘噛がゆっくり賢人の前へ滑り込む。嫉妬っぽく、作った声で。

 

「賢人様? 豹藤さんに色目使っていたんですの?」

 

 甘噛は内心で自分に言い聞かせつつ、外面だけは完璧にしっとりしたヒロインの顔を作る。

 

「えぇ!? い、いやかっこいいなって思っただけですよ!? それ浮いてるんですよね!?」

 

 賢人は全力で首を振り、やちるの足ではなく履いているブーツを指さす。

 

「電磁ブーツですゆえ。でもさっきは切ってたのです」

「でも凄い身のこなしですね……」

「ほ〜ん、つまりあれだ。ブーツを履いてない素足が見たいって訳だ」

「賢人様? それはどういうことか、説明していただけますか?」

 

 演技のはずが、妙に熱が入る甘噛。

 

「いや違っ、助けてください師匠〜!!」

「あんたら……何道の真ん中で騒いでんのよ」

 

 軽いため息をついて来栖崎が来る。賢人は内心ガッツポーズをとったがしかし……。

 

「あのさぁ……さっきから聞いてたけど、誤解されるようなタイミングで人の足ガン見してる時点でアウトでしょ」

 

 突然の裏切り。そして姫片の方を向き直す。

 

「それに片栗粉も何よチンピラみたいに」

「片栗粉ォ? その名前で呼ぶなっつったよなァ?」

 

 姫片の額にピキピキと青筋が浮かぶ。

 

「まぁまぁ、落ち着いてください姫片栗子(ひめかたくりこ)さん」

 と、甘噛も乗ってくる。

 

「オメェも間違えてんじゃねぇか!」

「すとっぷ、です。落ち着いて栗子」

 

 やちるがそう言うと姫片はスン、と落ち着く。

 

「はっ、仕方ねぇなぁ、今日はやちるの(つら)に免じて不問にしてやるよ」

 

 そして来栖崎は賢人の方を向き直し言う。

 

「賢人、これが"ノリ"ってやつでしょ?」

「火付けすぎです師匠〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃれ合いの余韻がようやく落ち着いた頃、ポートラルの一同は、ついに視界の先に“それ”を捉えた。

 

 ────ペトラ橋。それを認識した瞬間、風が不自然なほどに、止まった。まるで空気だけがここだけ別の世界になったように、肌にまとわりつく湿気の温度が一段階下がる。

 

「……いよいよ、か」

 

 賢人は喉がひりつくのを感じ、無意識に波癒の柄へ手を伸ばした。さっきまで談笑していた仲間たちも、まるで合図を受けたように静かになる。

 

「見ろよ賢人……周り、誰もいねぇぞ」

 

 栗子が低く呟く。普通なら、橋の周りにも群がっているはずのゾンビ。ここにいないということは、全て橋の上に密集しているのだ。来栖崎はマフラーを整えたまま、刀に指を添えつつ言う。

 

「……ただの静けさじゃない。嵐の前の、ってやつよ。嫌な感じする」

 

 風は動かず、雲の流れもない。ただ橋が、いや大きなゾンビが巨大な口を開けてこちらを待っているようだった。賢人は息を呑む。背筋をなぞる冷気。足元のアスファルトが、微かに軋む。

 

 そして、誰の合図でもないのに────仲間たちは自然と武器を握りしめていた。




元ネタ なし
橋=ペトラ橋
慣用句より

Tips.ストーリーは全て先述のボカロPが執筆していたぞ。

まだ変身しないの?
流石にこの橋で変身するでしょ。昨日ブック発売したし
まさか3冊一気に発売するとは思わんかった
このゾンビの大群、作画コストやばそう
コピペじゃないのえぐいな

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