走る。
ただ、ひたすらに走る。
瓦礫と化した市街地を、ナノマシンで強化された脚力で蹴り抜ける。
腰に装着したジャンプキットを噴射。二段跳躍で崩れた外壁を飛び越えた。
着地と同時に、パルスブレードを投げる。
クナイ型のブレードが崩れかけた壁に突き刺さり、着弾地点から球状のソナーパルスが拡散。
ヘルメットの横長バイザーに、壁の向こう側が可視化される。
スペクターが6機。
即座にプラズマグレネードを放り込み、左側の建物へ跳躍。
ジャンプキットを垂直噴射し、そのまま壁を駆ける。
爆発で、体勢を崩したスペクター群が視界に入りそのまま、フラットラインを連射。
シールド破壊に7発。
本体破壊に5発。
計12発。
エネルギー弾仕様で120発撃てるとはいえ、このペースではすぐに弾切れだ。
マガジンを交換しながら、別の建物へスライディングで滑り込む。
その瞬間、視界の端に影が見える。
物陰に潜んでいた1機のスペクターに気が付いていなかった。
殴り飛ばそうと腕を振るが、もう遅い。
無機質な手刀が、俺の胸を正確に貫いた。
視界が白く弾ける。
「なぁぁぁぁぁまた負けたぁぁぁ!!!」
叫びながら、球体状のシミュレーション・ポッドから這い出す。
「相変わらず、接近戦が下手ですねー」
ナビィから、無慈悲な評価が下される。
「頑張ってる人間に対して何てこと言うんだ。酷い奴だなお前は」
トラベラーに新設置した訓練用シミュレーション・ポッドの最終チェック中である。
「30回も同じ死に方を見せられれば、こうもなりますよ」
「やめろ。数を数えるでない」
ヘルメットを脱ぎ捨て、訓練所の床に大の字になる。
その瞬間、腹が鳴った。
朝から訓練に夢中で、何も食べていなかった事を思い出し、身体を跳ね起こして、食堂へ向かう。
俺がこの世界に来て、半年。
未だ拠点に適した星系は見つからず、ゼクトル船団はペルセウス腕を航行している。
***
「やっぱ、人手が足りんよ人手が」
「「「...は?」」」
にぎやかになった食堂。
代用肉ハンバーグをフォークで突きながら漏らした俺の一言に、向かいに座る3人が同時に顔を上げた。
「言うてもな、成人クローン製造を禁止したのは船団長だろう」
「だって絶対揉めるだろ。あと同じ顔が何百人もいたら見分けつかん」
セカトンが唸る。
きっと自分の突撃艦隊が全員同じ顔で敬礼している光景でも想像したのだろう。
ホラーだ。
「では、人工培養槽の子供たちを早めに成長させますか?」
ルオコスが静かに提案する。
「却下だな。加速成長は15歳まで可能だが、愛情ゼロで育った思春期は爆弾だ。培養槽は5歳までが一番安定する」
が、即断。
リカーナ中佐が腕を組んだ。
「つまり、現状は手詰まりということですね」
「そーだね」
ゼクトル船団は、拡大の天井にぶつかり始めていた。
仲間は約5万人。
だが実際に艦を回せる人材はさらに限られる。
クロスボウ級はすでに40隻が建造されたが、その三分の一はマーヴィンだけで運用中だ。
ちなみに「幹部や艦長が別の艦の食堂で、のんきに飯を食っていていいのか」と言われたが、トランスポーターで即時ブリッジに飛べるから問題ない。
「じゃあトランスポーターが使えなくなったら?」
その時はジェネレーターが吹き飛んでる。
つまり何をどうしようと詰みである。
「他文明から募集するというのはどうだ?」
セカトンが言うと、ルオコスが即座に切り捨てた。
「文明が見つかっていません。募集以前の問題です」
「やはり手詰まりですよ」
結論出すの早いな君。
リカーナが続ける。
「仮に文明に接触できたとしても、いきなり人員募集など信用されません。実験用か展示用と疑われるのが関の山です」
「だろうな」
ルオコスも頷く。
正論だ。
信用ゼロの状態で「働きませんか?」は、だいぶ怪しい。
フォークをくるくる回しながら、俺はふと思いついた案を口にした。
「いい感じに滅びかけている文明を援助して信頼を勝ち取る」
沈黙。
3人が同時に眉をひそめる。
「いい感じとは……?」
「つまり我々のような文明ですか」
「そう都合よくいるか?」
否定的である。
俺は肩をすくめた。
「宇宙は広いぞ? 一つくらいもう無理です助けてくださいって星があってもおかしくない」
「発想がだいぶ危険です、船団長」
ルオコスが静かに言う
「だが理屈は通っている」
セカトンが眉を顰めつつも肯定する。
「困難を共に乗り越えた相手との信頼は、最も強固だ」
「だろ?」
手詰まりだった空気が、ほんの少しだけ動いた。
「問題は、どうやっていい感じに滅びかけている文明を探すかですな」
ルオコスが顎を撫でながら考えこむ。
そこでふと、前世の記憶を思い出す。
「滅びかけかどうかは置いといて、他文明に接触できる可能性がある方法なら一つある」
3人の視線が一斉にこちらへ向いた。
「ガトランティスってさ、艦に科学奴隷て言う、他文明から攫ってきた人を乗せてることがあるんだよ」
***
トラベラーが居る宙域とは別の星系。
そこに、1隻のピッケル級が救難信号を発しながら漂流していた。
後部のエンジンが、時折かすかに明滅する。
だが、推力は発生していない。
完全な航行不能状態だ。
ただ救難信号だけが、虚空へ向けて延々と繰り返されている。
その宙域に空間の歪みが生まれ、白と薄緑に曲線が特徴的な30隻あまりの艦隊がワープアウトする。
ガトランティス艦隊。
彼らはここ最近、消息を絶った偵察艦隊の捜索任務に就いていた。
そんな最中、この未知の救難信号を受信し、確認のために現れたのだ。
艦隊指揮官は、モニターに映る900mの巨艦を見て、舌舐めずりをしながら自身に訪れた幸運を喜ぶ。
新たなズォーダー大帝のやり方〔感情はいらない〕と言う考えに反発し、本隊を離反した彼らは、慢性的な物資不足に悩まされている。
そんな中で発見した、900m級の漂流艦。
しかも、無抵抗。
最高の獲物だ。
故に、気付かなかった。
自分たちの真上に、多数の機影が待ち構えていたことに。
指揮官が腰の剣を抜き、号令を発しようとした瞬間。
96本の光線が、同時に艦隊へ突き刺さった。
爆発は起きない。
だが、推進器が、正確に撃ち抜かれていく。
まるで外科手術のような精密さで、機動力だけが奪われていく。
その光景を、小惑星に偽装した7隻の艦が監視していた。
「さて、そろそろ当たりを引きたいところだな」
だらけていた体制を整え、モニターに映る艦載機に推進器のみを撃ち抜かれたガトランティスの艦隊を見る。
隣に座り、指揮を執るリカーナも肩を回しながら言った。
「次で3回目です。一度帰投するべきでは?」
我々は現在、ピッケル級3番艦《ダイナマイト》を餌に、ガトランティス狩りを実行中である。
当然、ダイナマイトに人は乗っていない。
マーヴィンのみで運用している完全な無人艦だ。
例え失っても人的損失はゼロの理想的な餌と言える。
「ナビィ、スキャンを」
「了解いたしました!......スキャン完了。中央のナスカ級に、未知の人型生命体を20名確認!」
俺は思わず拳を握った。
「でかしたぁー!」
三回目にして、ようやく当たりだ。
即座にリカーナへ指示を出す。
「リカーナ中佐。ナスカ級以外の艦を排除しろ。間違っても空母は沈めるなよ!」
「了解! 全艦、偽装解除! 梯形陣を形成!」
偽装用バルーンが弾け、6隻のクロスボウ級フリゲート艦が姿を現す。
その先頭に立つのは、新造艦ホシカゼ級巡洋艦、1番艦ホシカゼ。
【ホシカゼ級巡洋艦】
全長950m / 全幅470m / 全高273m
居住区1113名分
運用人員数
技術者149名
整備士107名
操縦士118名(全機マーヴィン)
移乗戦闘員440名(全機スペクター)
主機関
アヴォリオンジェネレータ
防御
シールド発生装置
維持フィールド発生装置
5m厚のトリニウム装甲
武装
200cm連装陽電子砲 × 9門
16連装反物質ミサイル発射管 × 2基
200mm連装対空レーザーガトリング砲 × 24基
魚雷発射管×6
艦載機
戦闘用航空機96機
輸送機22機
コイツは、中距離から砲雷撃戦と艦載機の運用を主目的に設計された艦だ。
巡洋艦を名乗っているが、その実態はこの世界で言う戦闘空母に近い。
Avorionや、この世界でも同じ事なのだが、航空機は恒星間航行が可能な艦船と比べると遅い。
故に、艦載機を活躍させようと思うと、敵艦に近づかなければならない。
で、せっかく近づくのならいっそ砲雷撃戦しながら発艦させようと言うのが、この艦のコンセプトだ。
今回は、待ち伏せだった為、先に艦載機を出撃させていた。
そして、艦載機がこの27mの機体、ビックホークである。
【ZM-04 ビックホーク】
全長27m / 全幅16m / 全高8m
運用人員数
操縦士1名
主機関 アヴォリオンエンジン×4基
(ジェネレーターと違い超空間ジャンプは不可能)
防御
シールド発生装置
維持フィールド発生装置
武装
30mmレーザー機関砲×6丁
400mm対艦用電子砲×1門
内蔵式多目的マイクロミサイル×60発
この、機首下部に400mm砲を抱えた異形の航空機ビッグホークは、対空・対艦・対地のすべてをこなすマルチロール機だ。
小型ジャイロアレイとスラスターを各部に配置しているため、見た目に反して機動性は高い。
この世界の一般的な航空機と比較しても、決して見劣りしない性能を持っている。
防御面も万全。
他の艦艇と同様、シールド発生装置と維持フィールド発生装置を搭載。
30mm機関砲の直撃すら、2〜30発は耐えられる。
武装も重武装だ。
ゲームでは、一種類の武装しか装備できなかったが、ここは現実。
30mmのレーザー機関砲を機首に6丁装備。
対空、対艦、対地と多目的に使えるマイクロミサイルを機体の両翼の先端に位置したミサイルコンテナに合計60発。
そして、目玉の400mm対艦陽電子砲。
威力は語るまでもない。
さっき、ラスコー級が正面から撃ち抜かれ爆散したからな。
とは言え、1発撃つのに5秒間のチャージが必要だ。
何?
航空機に400mmはデカ過ぎる?
320mmのアグニ担がされて飛ばされるスカイグラスパー先輩を見習え。
梯形陣。
ホシカゼを先頭に、クロスボウ級フリゲート艦が左へ斜めに展開し、敵艦隊へ向けてゆっくりと前進する。
リカーナは、近距離での乱戦よりも中遠距離での戦闘を得意としている。
彼女の最大の武器は、優れた観察力と状況判断能力だ。
これまで何度もシミュレーションで艦隊戦を行ってきたが、その度に俺の動きを先読みし、先手を打ってきた。
伊達にカーハリアの副艦長を務めていたわけではない、ということだ。
「ナスカ級に損傷を与えないよう、砲撃のみで対処します。よろしいですか、船団長?」
彼女の問いに、俺は静かに頷いた。
ミサイルや魚雷は強力だが、敵の迎撃や回避によって予測外の軌道を取る可能性がある。
最悪の場合、ナスカ級を撃沈しかねない。
理にかなった判断だ。
ホシカゼとクロスボウ級の主砲が一斉に旋回し、ククルカン級とラスコー級を捉え、橙色の陽電子光線が放たれた。
的確に、辛うじで動けていた艦を優先して撃沈させていく。
ここは、彼女に任せて問題ないな。
「リカーナ中佐」
「はい!」
「俺は移乗部隊の指揮を取る。引き続き、ホシカゼの指揮を任せる」
「え゛!?」
素っ頓狂な声を上げ、リカーナがこちらを見る。
その表情には、驚きと戸惑いが浮かんでいた。
「これまでの指揮を見てきたが、問題はない。君になら、この艦を任せられる」
「そ、そんな……」
言葉を失い、目を見開くリカーナに俺は、サムズアップし、その肩を軽く叩いた。
「頼んだぞ、艦長」
そう言い残し、俺はブリッジを後にする。
向かう先は、格納庫。
移乗戦闘の時間だ。