シドカムの方々とのファーストコンタクトを無事に終えて数日。
互いの素性を知らぬままでは不測の事態を招きかねないという結論に至り、後日、補給艦ハードボックスに彼らを招いて情報交換を行うことになった。
「彼らのこと、どう思う?」
「正直に申し上げまして、現状で彼らと出会えたのは、我々にとって非常に都合が良いかと」
俺とナビィは、貨物室の一角を改築した「グリーンアビス産・巨大アロワナ養殖場」を視察しながら、今後の対応について話し合っていた。
「偶然にしては出来すぎている。上位存在の介入、あったと思うか?」
「わかりません。仮に何らかの意思が働いていたとしても、我々には感知も理解も不可能ですから」
「だよなぁ」
溜息が出る。
誰かの掌の上で踊らされているというのは、あまり気分の良いものではない。
だが、介入の有無にかかわらず、やるべきことは決まっている。
今さら、あのボロボロの移民船を見捨てるという選択肢は俺の中に存在しなかった。
「シドカムの移民船、やはり修理は不可能だったか」
「はい。左舷エンジンの損傷が致命的で、航行システムにも異常が出ています」
スキャンの結果は散々なものだった。
ガトランティスのビームは船体を貫通し、重要区画をズタズタに破壊していた。
星系内の低速航行ならまだしも、恒星間航行はもはや自殺行為だ。
破壊された区画を修理しても、他が限界を迎えている。
良くここまで来れたと思えるくらいには、ガタがきていた。
「彼らは、あの惑星『グリーンアビス』への入植を強く希望しておられましたが」
「原生生物を相手にできる武力があるとは思えん。無理だな。こっちで新しく船を作って旅を再開して貰おう」
食料、水、空気。
そしてグリーンアビスで採取した苗や養殖技術を渡せば、あと10年は旅を続けられるはずだ。
武装も施せば、ガトランティスのような連中からも逃げ切れるだろう。
「ゼクトル船団へ誘わないのですか?」
「彼らには彼らの文化があり、思想がある。我が船団に入るということは、俺のやり方に染まるということだ」
移民船には約5万人が乗っていた。
時間はかなり掛かるが、文明を再興できない数じゃない。
クローンポッドや人工培養槽(受精した胚や赤ん坊を非常早いペースで成長させる装置)と言った技術を渡せば、再興は更に早まる。
今まで、困難を乗り越えてきた根本には生き残りたい意思以外にも、もう一度、シドカムを復活させたいと言う想いもある筈だ。
正直に言えば、残ってほしいとは思う。
彼等の技術力は大した物だ。
10光年しか飛べないが、自力でこの世界の星間国家で一般的な時空間歪曲型ワープを開発している。
何より、ルオコス大佐は非常に優秀な方だ。
少し話しただけだが、異星人である俺に対しても、彼の誠実さがよく伝わってくる。
周りの者も随分慕っていた。
もし、仕事で上司にしたいのなら、俺も彼の様な人物が良いと思える程には気に入っいる。
だからこそ、彼らの可能性を俺の都合で潰したくはなかった。
「まぁ、縁ができただけでも良しとしようじゃないか」
「縁、ですか?」
「ああ。縁が縁を呼び、やがて輪となる。その輪が和へと変わり、大いなる和が生まれる。……人と人を繋ぐ縁の力は、馬鹿にできんぞ」
*
「ようこそ、ハードボックスへ」
「お招きいただき、感謝いたします。サワミヤ船団長」
4人のシドカム人が、左肩に拳を指が下になる様に当てるシドカム式の敬礼をする。
ハードボックスは、カーハリアとドッキングチューブを接続し4人のシドカム人を招き入れていた。
艦長のルオコス大佐、護衛の兵士2名。
そして、ショートヘアの凛々しい副艦長、リカーナ・ルルナ中佐だ。
「リカーナ・ルルナ中佐です。お見知りおきを!」
「サワミヤです。よろしく」
俺は軽く会釈を返した。
シドカムの文化では、自己紹介の時は握手ではなく、会釈をし敬意を表す事が一般的らしい。
こちらが彼らの文化を尊重している姿勢に驚いたのか、4人がわずかに目を見開く。
「サワミヤ船団長のサポートロボ、ナビィと申します!」
そこへ、雰囲気をぶち壊す様ないつものテンションで、ナビィが挨拶に割り込んだ。
横に居たフワフワと浮かんでいる平らで三角形に近い形状の頭部に、三本の機械の触手がついた奇妙なロボットが流暢に喋り出し、4人がギョッとした表情になる。
長いこと一緒に居たから忘れていたが、コイツの見た目は宇宙戦争のトライポッドの様な外見。
人によっては嫌悪感を抱くザ侵略マシーンだ。
「どうぞこちらへ。応接室にご案内します」
そんな光景に苦笑いしながら、彼等を急遽作った応接室に案内する。
軽く艦内の説明をしながらトランスポーターを使い(この際、一悶着あった)応接室に向かう道中、ずっとキョロキョロと物珍しそうに辺りを見渡していたリカーナ中佐が、エプロンを着こなす掃除担当のマーヴィンを見て質問をしてくる。
そのエプロンどっから持ってきたんだよ。
支給した覚えねぇぞ。
「サワミヤ船団長、一つ質問よろしいでしょうか」
「何でしょうか、リカーナ中佐」
「この広大な艦内に、あなた以外の人を見かけないのですが」
「ええ。この船団に人間は俺一人です」
「えっ!?」
彼女が、驚愕の声を上げる。
...そう言えば、俺たちの説明どうすっかなぁ。
流石に、上位存在に攫われて転生させられました何て言えん。
「我々の事についても、後ほどお話しいたしますよ」
そう微笑みながら今は、誤魔化す事にした。
まあ、別の銀河で宇宙の神秘を探す冒険家だったが、謎のワームホールに吸い込まれて全く別の銀河に飛ばされた事にしておこう。
*
応接室での情報交換は多岐にわたった。
さっき考えた俺たちの身の上話、ガトランティスの脅威(滅びの方舟の話しはしてない)、そしてシドカム滅亡の歴史。
やがて話題は、最大の問題である『グリーンアビス』へと移る。
「では、サワミヤ船団長。あの星、グリーンアビスは現状、誰も所有してないのですね!」
「はい、酸素濃度や環境も人間が住まう事ができるほどです。しかし...」
言いたくねー。
スッゴイ喜んでる兵士とリカーナ中佐が目に入る。
ルオコス大佐だけは、俺の沈んだ雰囲気を察してじっとこちらを見つめていた。
彼らの事を思うなら、言わなきゃならんか...
ため息を吐きながら意を決して口を開く。
「ハッキリ申し上げますと、グリーンアビスへの入植はおすすめできません」
「何故ですか!!」
兵士の一人が食ってかかるが、ルオコス大佐がそれを制した。
俺に、震える声で理由を問う。
「理由を、お聞かせ願いますか」
「質問を質問で返す様で申し訳ないのですが、カーハリアには15メートルのイモムシや8メートルの猪の群れ、30メートルの蜘蛛に勝てる武力はお持ちですか?」
唐突にとんでもない事言ったため、ルオコス大佐がフリーズしてしまった。
「...いえ。サワミヤ船団長...あの星はそれ程までに、危険なのですか?」
震える声で絞り出す様に呟くルオコス大佐に、立体映像で、探索隊のスペクターやマーヴィンが一方的に蹂躙され、全滅した映像を彼らに見せた。
凄惨な現実に、先ほどまでの喜びは一瞬で消え去り、部屋はまるでお通夜のような静寂に包まれた。
そりゃそうなるよね、俺だってそうなる。
「ここに来るまで、沢山の、沢山の仲間たちが犠牲となった!...なのに!その先に待っているのが!こんな現実だと言うのか!!!」
机を叩きながら立ち上がり、今にも泣き出しそうな顔でルオコス大佐が叫ぶ。
「ようやく、ようやく見つけた希望が...」
「俺たちは、これからどうすれば...」
兵士達が絶望を直視し、膝から崩れる。
「もう、無理ですよぉ...私達...」
リカーナ中佐が、緑の瞳から涙をこぼしながら消えそうな声で呟く。
「サワミヤ船団長。...どうか...どうか、我らに慈悲を...」
もはや、堪えきれなくなった涙を流しながらルオコス大佐が懇願する。
30年の放浪の果てに突きつけられた死の宣告に、彼らの心は限界だった。
「我々であれば、新しい船を作る事ができます。あなた方の船よりも大きく、遠くへ行ける船を」
4人がハッとした表情で俺を見る。
「どうか我らに、船を作って頂きたい!」
「いいですよ」
「もし作って頂けるのなら!貴方に一生の忠誠を...え?」
「いいですよ。造りますよ、船」
あまりにさらりと言い放った俺に、彼らは呆然としている。
「お、お代は、何をお支払いすれば...」
「何も要りません。喘ぎ苦しむ人から、何か寄越せと言えるほど、強欲な人間ではないつもりなので」
タブレットを操作し、以前から設計していた移民船の設計図を4人へ見せる。
【トラベラー級移民船】
カーハリアとトラベラー
全長4,820m / 全幅2,040m / 全高1,830m
居住区600,846名分
運用人員数
技術者17,054名
整備士14,943名
クローニング収容能力3,368名分
主機関 アヴォリオンジェネレータ
防御 シールド発生装置、維持フィールド発生装置、20m厚のトリニウム装甲
彼らの現在の移民船『カーハリア』よりも、二回り以上巨大な「動く都市」だ。
これだけの容積があれば、補給さえ絶やさなければ約60万人が半永久的に生活できる。
さらに、クローンポッドを約3,000基配備した。
最短15分で新しい人員を補充可能だ。
とは言え、同じ顔の人間が大量に居ると絶対に後々から問題が発生するので、赤ん坊のクローンを一から育てるやり方が良いだろ。
ガトランティスと同じことをしているので何とも言えない感情になる。
武装はまだ配置していないが、代わりに広大な航空機格納庫を多数備えている。
ここに俺が設計した無人運用可能な強力な航空機を120機搭載して渡す予定だ。
30〜40隻程度の敵艦隊なら、この航空隊だけで容易に壊滅させられるだろう。
工作室も完備しているため、資源さえあれば自前で航空機を量産することも可能だ。
まさに、至れり尽くせりの完成度と言える!
「こ、こんな巨艦が、ほ、本当に……造れるというのですか?」
「造れます。……ただ、ざっと一ヶ月はかかってしまいますが」
「「「「一ヶ月で!?」」」」
4人が声を揃えて絶叫した。
俺としては、造船所を介さず現場で直接建造するため、これでも相当時間がかかってしまう感覚だったのだが。
尚、ゲーム内の造船所なら、2キロ級の艦をリアルタイム15時間で仕上げてくる。
先に造船所を建てておけばよかった。
シドカムの皆には申し訳ないことをしたな。
俺が内心で「一ヶ月も待たせて悪いな」と反省していると、ルオコス大佐が信じられないものを見るような目で俺を見つめてきた。
「この船を、これほどの方舟を、本当に何の対価もなしに譲ってくださるのですか!?」
「ええ、譲りますとも」
俺は、ボロボロになりながらも彼らをここまで運んできた『カーハリア』が浮かんでいる方向へと視線を向けた。
偉大な船だ。
「皆さんは、今日まで想像を絶する困難な航行を続けてこられた。それはカーハリアの傷跡を見ればわかります」
俺は穏やかに微笑んで、言葉を継いだ。
「そろそろ、良いことの一つや二つ、起こってもいいはずでしょう」
もう何隻か新型艦が出たら、艦の詳細一覧みたいなの作ります。