敵は、ククルカン級21隻、ラスコー級10隻、ナスカ級2隻の編成。
そのうち1隻のナスカ級は撃沈してはならない。
ほとんどの敵は既に推進器を撃ち抜かれ、まともに動けない状態にある。
だが、撃沈してはならない存在に気を使い、火力を制御しながらの戦闘は、決して容易ではない。
リカーナはその難しさを理解した上で、命令を下した。
「距離8000kmで陣形を単縦陣へ変更。敵艦隊の左側面を回り込むように進みなさい!」
「了解!」
操縦桿を握る操舵手が即座に応じる。
ブリッジのクルーはマーヴィンではなく、シドカム人から選抜された熟練の人員だ。
ホシカゼ級は特殊な設計思想で建造されており、状況に応じた柔軟な判断が可能な人間の操艦が望ましい。
そう設計者の船団長が判断したためである。
「航空隊を敵艦隊後方へ。このまま挟み撃ちにする」
96機のビックホークが、7隻の艦隊。
第1航空機動艦隊の反対側へと高速で飛翔する。
ガトランティス側も慌てて2隻のナスカ級から、48機のデスバテーターが迎撃の為に飛び立つ。
だが、ビックホークは交戦距離に入った瞬間、マイクロミサイルを一斉発射した。
炸薬量の少ないマイクロミサイルなら、万一ナスカ級に命中しても致命傷にはならない。
それを見越した攻撃だった。
96機が、それぞれ10発づつ。
合計960発。
マイクロミサイルの津波が、デスバテーター隊へ襲い掛かる。
当然、回避も迎撃も間に合わない。
デバスターは1機残らず波に飲み込まれ、爆破。
ガトランティスの航空隊は消滅した。
邪魔者を排除した大鷹は、眼前に漂うククルカン級とラスコー級へ爪を突き立てる。
400mm対艦陽電子砲のビームがラスコー級のブリッジを貫通。
続けざまに放たれた三条の陽電子ビームが船体を串刺しにし、内部構造を焼き切った。
果敢にククルカン級が迎撃を試みるが。
10機のビックホークから発射されたマイクロミサイルの飽和攻撃が飛来。
艦の武装と構造物を次々と吹き飛ばしていく。
しかし、航空隊も無敵ではない。
緑色の光線が数機を絡め取り、ビックホークが炎の塊となって爆散した。
「やはり、マーヴィンでは動きが直線的過ぎて落とされますな」
索敵担当の40代半ばのクルーが呟く。
「仕方がないわ。搭乗員に人員を割ける程の余裕はまだ、ゼクトル船団にはないのだから」
リカーナは、コックピットに座らされていたマーヴィンを思い出し、なんとも言えない感情になる。
だが、今は指揮に集中すべきと考えその感情を振り払う。
ホシカゼも例に漏れず、前方への火力を重視した設計となっている。
だが、別に横方向や後方への攻撃ができない訳ではない。
上部下部の中央、右舷主砲、合計5門の200cm連装陽電子砲が敵艦に向けられ、橙色の光線が放たれた。
直撃したククルカン級に大穴を開け、更に後方に居たもう1隻のククルカン級の左舷を抉り取る。
6隻のクロスボウ級も右舷に向けられる7門の120cm連装陽電子砲で敵艦を屠る。
ラスコー級の中央を薙ぐように光線が着弾し爆散。
何隻かスラスターで、回頭し量子魚雷を撃つ艦も居たが、即座に100mm連装対空レーザーガトリング砲が弾幕の壁を作り防ぐ。
回頭した艦に容赦なくクロスボウ級が、次々と砲撃を加え、穴あきチーズの様なスクラップが生成された。
艦隊は、ガトランティス艦隊の外縁を左から回り込むように進む。
外側の艦はほぼ壊滅。
残るは、ナスカ級と数隻のククルカン級のみ。
「砲撃やめ!残りは艦載機に任せる。我が艦は移乗攻撃の準備を」
「了解!」
(新兵器で降下すると言っていたけど、船団長、本当に大丈夫なのかしら...)
リカーナは一抹の不安を抱きながらも、ホシカゼをナスカ級へ接近させた。
***
格納庫。
そこには、5体の巨人が並んでいた。
全高7m。
箱型の重厚なボディ。
単眼型のメインセンサー。
バンガード級タイタン。
タイタンフォール2において、主人公の相棒、BT-7274が属するタイタンだ。
高性能な学習型のCPUを搭載し、他のタイタン武装を使いこなす。
あらゆる戦況に対応可能な万能型タイタンだ。
勿論、魔改造済みであり、性能はゲーム内の物とは比較にならない。
「全員居るな!」
ダークブルーに塗装されたタイタンのコックピットから、これから共に戦う部隊を見渡す。
「ホシカゼがナスカ級の上に陣取り、移乗部隊を降下させる。だが敵砲塔の激しい迎撃が予想される。そこで我々が先行し、タイタンで降下。砲塔を破壊し、突入ポイントを確保する」
パイロットは高度な訓練を受け、腰に装備したジャンプキットを使い超人的機動力で戦場を駆ける、タイタン運用能力を持った最強の歩兵だ。
今回の作戦までに4人の訓練が完了した。
彼らは、訓練だけでなく俺と同じナノマシンを摂取し、シールド発生装置を小型化した物を携帯している。
銃弾を数十発耐えるシールドを持つ超人が、壁を走り二段ジャンプを駆使し、接近してくるのだ。
もやは、ただの人間では相手にならない。
「移乗部隊到着後、我々も艦内へ突入する。ツァンヒア隊はブリッジ制圧。俺は単独で目標の救助に向かう」
「船団長1人で?」
ツァンヒア隊の隊長が静かに1人で行くなと言ってくるが。
「ああ、問題ない。この前、更に超人ナノマシンを追加したからな。血液の5%がナノマシンだ」
「もう人間じゃないですね」
うん。
君らと出会う前に、とっくに辞めている。
『ブリッジより移乗部隊へ。間もなく本艦は目標のナスカ級に接近する』
「聞いたな? 全員タイタンへ搭乗! 下で会おう」
俺はタイタンのコックピットを閉じ、降下用ハッチの前へと機体を移動させる。
狭い艦内での取り回しを考え、持ち込んだサブマシンガン、CARの状態を確認しながら俺は機体に語りかけた。
「MT、初の実戦だが、よろしく頼むぞ」
「了解、パイロット。任務目標達成のため、貴方を支援します」
落ち着いた印象の女声が、タイタンから発せられる。
MT-0011。
それが、こいつの名称だ。
残念ながら、BT-7274のように戦況に応じて戦術を選んで戦う柔軟性は持ち合わせていない。
だが、バンガード級に搭載された人工知能は、パイロットと共に戦い続けることで、学習し、成長する。
いずれこいつも、サムズアップの意味を理解する日が来るだろう。
『パイロット各員へ。降下ポイントまで残り10秒。9、8、7』
カウントダウンが始まる。
フルフェイス型のヘルメットをかぶり、深く息を吸い込む。
コックピット内の空気が、わずかに重くなった気がした。
「ナビィ、俺が目標と接触したら文明の情報を送ってくれ」
『お任せください。優先度の高い情報から即座に送信します』
「頼むぞ」
『3、2、1、0』
次の瞬間。
足元の降下ハッチが開き、視界が一気に開ける。
下方には、ナスカ級。
その砲塔から放たれた無数の緑色の光線が、ホシカゼへ向かって走っている。
その光景に臆する事なく叫ぶ。
「タイタンフォールスタンバイ!」
5機のタイタンが、宇宙へ射出された。
機体が一直線に、ナスカ級へと落ちていく。
甲板に着艦。
足の裏に仕込まれたマグネットが起動し、鋼鉄の装甲へ吸い付くように固定される。
同時に、両肩の6連装ミサイルポッドを起動。
ホシカゼへ砲撃していた艦後方の主砲へ照準を合わせ、斉射。
12発のミサイルが直撃し爆発する。
主砲が沈黙したのを確認し、すぐに次の標的へ移る。
背部スラスターを噴射し、一気に飛び上がった。
本来なら、一部の機体を除いてタイタンが飛ぶ事はできない。
動力源に反物質炉を使い、高出力なトリニウム製スラスターを装備した魔改造バンガード級タイタンだからこそできる芸当だ。
主砲周囲に配置された砲塔へ、エネルギー弾が撃てる改造を施したXO-16チェーンガンを向け、トリガーを引いた。
毎秒12発で発射される20mmエネルギー弾が砲塔へ叩き込まれる。
装甲を貫き内部機構へ到達した瞬間、砲塔は内側から吹き飛んだ。
再び甲板に降り、周囲を見渡す。
新たな標的を探すが、すでにツァンヒア隊が片付けていた。
「船団長、全脅威の排除を確認しました」
「早いな。中々やるじゃないか」
ツァンヒア、シドカム語で狼だったか。
その名を名乗るだけの事は有る。
「突入ポイントを確保。ホシカゼ、移乗部隊を降ろせ」
『了解。フロントランナー、全機発進せよ!』
ホシカゼから台形のボディから2基のエンジンが突き出した輸送機が飛び立つ。
【ZT-02 フロントランナー】
全長36m / 全幅25m / 全高13m
運用人員数
操縦士1名
輸送能力
人員20名
主機関
アヴォリオンエンジン×6基
(ジェネレーターと違い超空間ジャンプは不可能)
防御
シールド発生装置
維持フィールド発生装置
武装
40mm連装レーザー機関砲×2門
この機体は、敵艦やステーションへの移乗攻撃を前提として設計された兵員輸送機だ。
20名の兵員を迅速に輸送し、そのまま2門の40mm連装レーザー機関砲で火力支援が可能。
横に突き出た2基のエンジンは独立して稼働し、重力制御と併用することで、重力下でも様々な地形に着陸、低空飛行ができる。
22機のフロントランナーがナスカ級の甲板へ機械の兵士達を次々に吐き出す。
総数440機のスペクターが降り立った。
移乗部隊が揃ったのを確認した俺達は、タイタンの腕で格納区画のシャッターを力任せにこじ開け、突入経路を確保する。
「スペクター第1中隊は左舷、第2中隊は右舷から突入しろ」
命令と同時に、スペクターが動く。
二手に分かれ、格納区画へ殺到。
内部のガトランティス兵士を撃ち殺しながら突入していく。
「突撃ー!」
「バンザーイ!」
「大和魂ヲ見セテヤル!」
お前らに魂はねぇよ!
どこで覚えてきた、そんなもん!
赤丸が書かれた白い鉢巻を巻いた一部のスペクターが見えたが、気のせいと言う事にし、突入する準備をする。
「各員、我々も突入するぞ」
「船団長。先程の鉢巻を巻いたスペクターは一体?」
「忘れろ。多分、気のせいだ」