せっかくデカい空母作ったのに120機だけとか寂しすぎる。
白と灰色に染まった死の惑星。
その軌道から約50万km離れた宙域に、水色のキノコを思わせる全長10km級の巨大ステーションが浮かんでいた。
その内部、コントロール室。
レーダーを監視していたはぐれガトランティス兵が、突如声を張り上げる。
「大頭! ステーションから20万kmの位置に空間跳躍反応を検知しました!」
「何ぃ!? 直ちにモニターへ出せ!」
大頭と呼ばれた、黒髪モヒカンの大柄なガトランティス人が怒鳴る。
ここ最近、同胞の艦隊が次々と消息を絶ち、苛立ちは頂点に達していた。
原因は分かっている。
捜索艦隊の旗艦だったナスカ級から届いた、最後の通信から、ゼクトル船団という組織が暴れている情報を得ていた。
「900m級の艦、4隻を確認しました!」
モニターに映し出されたのは、ダークグレーとオレンジに塗られた緩やかな楔形の艦。
それを見た瞬間、大頭の口元が歪む。
「トスカからの報告では、あれはゼクトルの採掘艦。武装はハリボテだという。我らの同胞を殺した罰を与える好機だ! 全艦、出撃せよ!」
歓声と雄叫びがコントロール室を満たす。
停泊中だった艦艇が一斉に機関出力を最大へ引き上げ、ピッケル級へと向けて飛び出していく。
各艦のブリッジでは、艦長が剣を掲げ叫び、それに感化されたクルーが獣の様に吠える。
もし、大頭が怒りを抑え、冷静に状況を見ていれば。
もし、部下たちが感情に流されず、出来すぎた状況に疑問を抱いていれば。
罠だと、気付けただろう。
だが、それは無理な話だった。
感情を肯定し、大帝から離反した彼らにとって、激情こそが誇りであり、衝動こそが正義である。
合理的判断など、もはや誰にもできない。
彼らは暴走しているのだ。
「クルドガ艦隊が前に出ます!」
「ふん...クルドガめ。一番槍を決めるつもりか?」
150隻余りの艦隊から、30隻が先行して飛び出す。
彼らは勝利を確信していた。
採掘艦を狩り、報復を果たし、全てを奪う。
その光景を、誰もが疑わなかった。
だが、惨劇は、彼らの想像とは別の形で訪れる。
突如、宙域のあちこちに金色の輪が出現した。
その輪の奥より、空間を歪めながら、巨艦の艦隊が現れた。
***
「おーおー。上手いこと釣れてんねぇ」
ピッケル級へ一直線に突っ込んでくる、はぐれガトランティスの艦隊を見下ろしながら、思わずそう呟く。
まるで餌に群がる魚だ。
「スキャン完了。敵艦にネステリア人の反応はありません!」
ワープアウト直後に、150隻の艦隊へ実施したスキャン結果を、ナビィが即座に報告する。
その言葉に、俺は口元を吊り上げた。
「そいつは結構!遠慮なくやれるな、全ミサイル発射管、用意。目標、先頭の30隻!」
命令と同時に、ブリッジに配置されたマーヴィン達が一斉に動き出す。
こうして人間の居ないブリッジで指揮を執るのも、久しぶりな気がする。
「全ミサイル照準ヨシ」
「斉射!」
グレイゼファーの16連装反物質ミサイル発射管から、全長15mのミサイルが次々と射出される。
200発を超える反物質の矢が、上下から挟み込むように敵艦隊へ殺到。
迎撃は間に合わない。
閃光と爆炎が発生し衝撃波が辺り一面に広がる。
先頭の30隻は、何も出来ぬまま火球へと飲み込まれた。
「空母2、巡洋艦10、駆逐艦18ノ撃沈ヲ確認」
「ミサイル第二射撃て。続けて魚雷発射用意。敵艦隊前面に穴を開ける」
グレイゼファーに搭載されている16連装反物質ミサイル発射管の再装填は、15秒で完了する。
他の艦と協力すれば、絶え間ないミサイルの弾幕を張ることも可能だ。
艦内の製造ラインで、新たなミサイルが次々と生み出される為、弾切れの心配も無い。
「第1、第2突撃艦隊は魚雷命中後に突入。第1航空機動艦隊は左舷へ展開、艦載機を発艦させ待機」
『『了解!』』
セカトンとリカーナの返答が重なる。
直後、混乱の収まらない敵後方へ10本の魚雷が放たれた。
前面に位置するククルカン級とラスコー級が迎撃に対空砲を向けるが、ミサイルの処理に追われ対応が遅れる。
魚雷が着弾。
ミサイルとは比較にならない爆発が発生し、複数の艦が一瞬でスクラップへと変わる。
敵艦隊の陣形中央に、巨大な穴が空いた。
それを見逃さず、突撃艦隊が最大戦速で突入。
第1艦隊は正面突破。
第2艦隊は敵艦隊の右側面に展開し、砲撃を開始する。
同時に、第1航空機動艦隊はすでに左舷でビックホークを展開済み。
大鷹達が舞い上がり、狩の合図を待つ。
両者とも、やる気十分だな。
...いや、当然か。
はぐれガトランティスに奪われ、殺され、蹂躙されてきたのはネステリア人だけじゃない。
この戦いは彼等にとって、奪われた仲間達の弔い合戦となるだろう。
『こちら、トラベラー。ステーションに取り付きました。周辺の安全を確保した後、移乗攻撃に移ります』
ルオコスの通信がブリッジに響く。
巨大な移民船トラベラーの格納庫ハッチが開き、120機のビックホークが一斉に発艦。
機首の400mm陽電子砲が火を吹き、ステーション外壁に設置された砲塔を正確に撃ち抜いていく。
爆破の損害は最小限。
狙うのは砲塔のみ。
支援艦隊は外周へ展開し、万一の伏兵や残存艦隊の帰還に備える。
さて、ここからが本番だ。
コントロール室と発電室を確保するまで、一瞬たりとも気は抜けない。
もっとも、この後のグレイゼファーの出番はほとんど無く、出来る事と言えば大人しく周辺の警備をするくらいである。
流石に味方が突撃している所に、ミサイルを乱射するのは危ない。
***
「まさか、こうも早く部下達の仇を取れる日が来るとはな」
セカトンは獰猛な笑みを浮かべ、眼前に広がるはぐれガトランティス艦隊を睨み据える。
グレイゼファーの魚雷によって前面が吹き飛ばれ、敵陣中央には大きな穴が開いていた。
そこへ、第1突撃艦隊と言う槍が突き刺さる。
「各艦、小型反物質ミサイル用意。上方の敵に集中させろ。魚雷は温存だ」
「了解!」
駆逐艦センエイ、センショウ。
それに率いられたクロスボウ級10隻が、敵艦隊内部へ食い込んだ瞬間、上方へミサイル発射機を向ける。
「撃てぇ!」
号令と同時に、小型反物質ミサイルが雨のように放たれた。
無防備に腹を晒していたククルカン級、ラスコー級へ、次々と反物質の爆発が襲う。
追い打ちをかけるように、右側面へ展開していた第2突撃艦隊の砲撃が雪崩れ込んだ。
駆逐艦センフ、センコウの200cm連装陽電子砲が直撃した、ラスコー級の腹に巨大な穴が開き、そのまま爆散する。
ここで、ようやく混乱から立ち直った敵艦隊が反撃を開始。
輪胴砲塔から放たれる緑色のビームが、第1突撃艦隊へシャワーの様に降り注ぐ。
「シールド99%まで減少!」
「ハッハッハ!そんなちっぽけなビームが効くか!!」
セカトンは高らかに笑う。
誤射すら気にしない敵の乱射は、ゼクトル艦の分厚いシールドをほとんど削れない。
ならば量子魚雷を、と艦首を向ける艦もいたが。
「こちらに向いている艦を優先的に排除しろ」
それを、シドカムの獅子が見逃すはずがない。
橙色の陽電子ビームが一斉に放たれ、魚雷発射を試みた艦を抉り飛ばす。
何隻かが辛うじて魚雷を撃つも、対空レーザーガトリング砲の弾幕に砕かれ、逆に小型ミサイルの餌食となった。
「前方に敵空母9隻を確認!」
レーダー手の報告に、セカトンの笑みがさらに深まる。
「見つけたぞ、魚雷発射!」
9隻のナスカ級は艦載機発艦の最中だ。
回避運動など取れない。
センエイ級2隻から20本。
クロスボウ級10隻から60本。
合計80本の反物質魚雷が、一斉に放たれる。
直後、敵艦隊中央に恒星のような爆炎が咲き、ナスカ級が発艦途中だったデスバテーターごと消し飛ぶ。
「十分な戦果だ。これで、航空隊が動きやすくなる。両舷全速、離脱するぞ!」
第1突撃艦隊は敵陣を貫通し、そのまま反対側へ抜ける。
それを、1隻のラスコー級が追撃しようとする。
だが次の瞬間、無数のビームに貫かれ、鉄屑へと変わった。
ホシカゼ級巡洋艦ホシカゼ並びに、ホシナミ。
そこから発艦した、192機のビックホークが狩りを始めたのだ。
鋼鉄の大鷹達が、獲物に飛び掛かる。
「全機、目標は自由選択」
ホシカゼからリカーナが命令を下した瞬間、ビックホークは加速し敵艦隊へ突入。
小型ジャイロアレイと全周スラスターによって、機体は常識外れの機動を見せながら、獲物へ向かって行く。
緑色のビームが大鷹に放たれる。
だが、そのほとんどは虚空を撃ち抜くだけだ。
ビックホークは既にそこにはいない。
機首に抱えられた400mm対艦陽電子砲の砲口が輝き始める。
「チャージ完了。ファイヤ!」
橙色の閃光が宇宙を走り、ラスコー級の中央を貫く。
わずかな静寂の後、艦体が内側から膨れ上がり、巨大な爆発を起こした。
「撃沈確認!」
厳しい訓練を終え、ビックホークの搭乗員になった男は、初の戦果に喜ぶ。
更にスコアを増やす為、ククルカン級に飛びかかる。
両翼のウエポンベイから、マイクロミサイルを一斉に発射し、ククルカン級の艦橋を破壊。
慣性制御とスラスターを利用し、機体を横滑りさせながら切り裂く様にククルカン級の上方からビームが放たれた。
はぐれガトランティス艦隊の中を、ビックホーク達は高速で駆け抜け、陽電子砲を発射。
橙色の閃光が、1隻、また1隻と艦を爆散させる。
「次の目標、ククルカン級。狩りを続けるぞ!」
戦場は、鋼鉄の大鷹の群れが支配していた。