「100万は居たはずの住民が、60万人だけか...」
「はい。過酷な労働で命を落とした者だけでなく、ガトランティス人の気分で殺された人も多かったそうです」
「クソ共め。皆殺しにしておいて正解だったな」
解放作戦から10日後。
戦闘の後処理もひと段落し、今はネステリア人への援助を進めている。
炊き出し、怪我や病気の治療、精神的なケアなど、やらなければならない事は多い。
一通りの作業を終えた俺はトラベラーへ戻り、ステーションと住民の調査結果をルオコスから聞いていた。
しかしまあ、出るわ出るわ悪行の数々。
足りなくなった住民を補充するため、繁殖場を作る計画まであったらしい。
元々、捕虜を取るつもりは無かったが、あの連中を根絶やしにしておいて正解だったと、心の底から思う。
「それから、船団への加入希望者なのですが、居住ステーションの住民全員、605230人が加入を希望しています」
「全員か。加入する際の条件は伝えたんだよな?」
「はい。思想の上書きについては、住民全員に詳しく説明してあります」
見た目も文化も違う種族が、狭い空間で仲良く暮らす。
そんなものは所詮、理想論でしかない。
少なくとも、常識や価値観といった基礎的な部分は統一しておかなければ、必ず問題が起きるだろう。
そうならないために、洗脳装置とナノマシンによる脳神経ネットワークの書き換えをする。
ゼクトル船団で広める思想は、21世紀の日本で一般的だった価値観をベースにアレンジした独自のもの。
特に、自分とは異なる外見の種族に嫌悪感を抱かないようにする点には力を入れた。
今後、勢力を拡大する以上、多種多様な種族を勧誘する事になる。
その時、差別や偏見が生まれれば、確実に争いの火種になるからだ。
ちなみに、シドカム人の船団員たちは既に思想の上書きを終えている。
皆さん覚悟ガンギマリなんで、何の躊躇もなく洗脳装置を被り、ナノマシンを摂取していた。
むしろ誇らしげですらあった。
「そう簡単に、今までの思想を捨てられるものか?」
「詳しい理由は、一等管理長が船団長へ直接話したいそうです」
一等管理長。ネステリア居住ステーションのリーダーだったな。
「なら、明日の視察の後に話し合いの場を設けるか」
「わかりました。そのように伝えておきます」
援助に何が必要なのかを把握するため、俺とルオコス、それに各部署の責任者を連れてステーション内部を視察する予定だ。
その時に、一等管理長とも顔を合わせることになる。
初対面でいきなり交渉するよりも、先に自己紹介を済ませておいた方が話は進めやすいだろう。
それにしても、60万か。
まだ船団を作ってから一年も経っていないが、トラベラーだけではさすがに限界だ。
そろそろ、俺たちの拠点となる本格的なステーションを建造する時が来たのかもしれない。
***
「おぉ、聞いてはいたが広いなぁ」
「ステーションの中に、これほどの牧場があるとは」
我々視察団一行は、ステーション内の牧場を案内されている最中だ。
目の前には500×500m、約5ヘクタールの広大な空間が広がっている。
床一面には緑の草が絨毯のように敷き詰められ、天井には巨大なパネルが設置され、青空とこの星系の恒星が映し出されていた。
じっくり観察しなければ、ここがステーション内部だとは気付かないほど自然な環境が再現されている。
少し離れた場所では、体長2mほどの茶色い牛に似た動物が草を食んでいる。
長い茶色の毛並み。
そして頭には黄色く光る触覚。
それ以外は、ほとんど地球の牛と変わらない見た目だ。
「あれが、飼育されている家畜か」
「ムファーラと言う動物ですわ。ミルクが沢山出るよう品種改良された家畜ですの」
隣に立つ女性が、穏やかな笑みを浮かべながら説明してくれる。
紫色の短い髪。
落ち着いた青い瞳。
頭には白い角。
彼女こそがネステリア居住ステーションのリーダー。
ゼリア・アルッセア一等管理長だ。
「へぇ、ミルクか。乳製品が作れるな。品種改良はこのステーションで?」
「ええ。我々の先祖が別の星から持ち帰り、改良を重ねましたの」
思っていたより、ネステリア人は高度な技術を持っているらしい。
まあ、10km級のステーションを長年維持してきた種族だ。
むしろ当然か。
「本来ならもっと数がいたのですが、悪魔たちに食べられたり、遊びで殺されたりして、今は50頭しか...」
「我が船団にはクローンを作り、成長を早める技術と装置があります。すぐに家畜の数を増やせるでしょう」
俺の言葉を聞いた瞬間、周囲のネステリア人たちがざわめいた。
「それは大変素晴らしいですわ!またムファーラが沢山居る牧場が見られますのね!」
家畜の扱いに慣れた彼女たちが加わるなら、牧場ステーションを建造するのも悪くない。
あとでナビィにここのデータを取らせて、再現できるようにしておくか。
「そういえば、ムファーラ以外にも家畜は居るのですか?」
「ええ。別の部屋で、もう一種類飼育しておりますわ。ガッタンという動物で、大きな卵を産みますの。よろしければ、そちらの牧場もご案内いたしますわ」
案内された先の牧場も、ムファーラ牧場と同じ規模の広さを持っていた。
そして。
そこで我々を待っていた光景は、なかなか衝撃的だった。
「グエェェェェェェ」
部屋の中に、喉の奥を震わせる濁った咆哮が響く。
牧場の中央には、四本足で異様に長い首を持った怪物が立っていた。
一見すると草食恐竜のようにも見える。
だが、よく見ると明らかに違う。
まず、尻尾がかなり短い。
さらに頭部には、鋭い牙が並ぶクチバシ状の口。
俺、こいつ知ってるよ。
惑星Kenshiで、幾多の人間を生きたまま食い殺していた奴だ。
「気のせいですかね...人の腕が転がっているような気がするのですが」
ルオコスが顔を引きつらせながら、牧場の隅を指差す。
「色合い的にガトランティス人の腕ですね!損傷から察するに、食いちぎられたのでしょう!」
空気を読まないナビィが、元気よく解説を入れた。
うん、間違いなく腕だね。
よく見れば、地面には服の切れ端や、ガトランティスの拳銃と剣まで転がっている。
「く、食われてる。明らかに何人か食われてる!?」
「おそらく先日の戦闘の際、ここへ逃げ込んだ悪魔の物ですわ。安心してくださいまし。我々には襲い掛からないよう調教してありますから」
つまり、我々は襲われる可能性があるんじゃ?
「ショシンシャニオススメノキョテンハガット!!」
「...今、喋った奴居なかったか?」
「気のせいですわ」
「ショシンシャニオススメノキョテンハガット!!」
やっぱり、絶対喋ってる奴居るよ。
***
ステーションの案内を終えた後、俺とルオコスはトラベラーの応接室で、アルッセア一等管理長から、なぜ住民全員が思想を捨ててまで船団への加入を望んでいるのか、その理由を聞くことになった。
「住民が船団への加入...いえ、ステーションから出て行きたいと考えている理由には、我々の文化が深く関わっていますの」
ふむ。
加入ではなく、このステーションから離れたいか。
「このステーションでは、悪意ある者によって多くの命が失われました。そのような場所には穢れが溜まると、我々は信じていますの。穢れが溜まれば溜まるほど、新たな死を呼び寄せる。だからこそ、ここから出て行きたい。皆、そう思っているのですわ」
独特な文化だな。
だが同時に、彼女たちの先祖が新たな争いを起こさないよう、後世へ伝えた教えのようにも思える。
「穢れの問題だけではありませんわ。悪魔たちによって無理な改築が施されたこのステーションは、日に日に悲鳴を上げていますの。本来、下部にあのような大規模ドックを作れる設計ではないのです」
「確かに...かなり不安定な構造になっていますね」
ルオコスが電子端末を操作しながら、ステーションの構造データを確認して頷く。
「それに、このままここに留まれば、また奴隷にされるのではないかと恐怖に震える住民もおりますの。もう我々は、あのような地獄の日々を送るなど耐えられません。もし受け入れてくださるのであれば、全身全霊で思想を学び、船団のために尽くすとお約束いたしますわ」
そう語る彼女の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
よほど酷い扱いを受けていたのだろう。
言葉の端々からも、はぐれガトランティスへの恐怖と憎悪が滲み出ている。
「わかりました。我が船団は、ネステリア居住ステーションに住まう全ての住民を受け入れましょう」
「ありがとうございます、サワミヤ船団長。必ずやゼクトル船団のお役に立てるよう尽力いたしますわ!」
こちらとしても、ネステリアの人々が船団に加わるのは心強い。
先祖から受け継いだ教育の影響で戦闘職には就けないかもしれないが、牧場の管理や、これから建設する新しいステーションの運営を任せることはできる。
「とはいえ、すぐにこのステーションから引っ越せる訳ではありません。現在、我々の拠点となる新たなステーションを建造する計画が進んでいます。このステーションが完成し次第、そちらへ移り住んでもらうことになります」
さて、これから忙しくなるぞ。
なにせ俺が建造しようとしているステーションは、ネステリア居住ステーションとほぼ同規模なのだから。
***
「ナビィ、そっちの進行状況は?」
「現在、80%のデータ抽出が完了いたしました!」
アルッセアとの会談を終えた俺は、再びステーションへ戻りコントロール室に来ていた。
このステーションに残されているデータを、全て抜き取るためだ。
許可は取ってあるから、問題はない。
「こちらは終わりました」
そう言って報告してきたのは、ツァンヒア隊のベキスだ。
今回は手伝いとして同行してもらっている。
このコントロール室にいるのは、俺とナビィ、そしてベキスの3人だけだ。
「船団長。一つ質問をよろしいですか?」
「なんだねー」
ベキスは、コントロール室中央に浮かぶホログラムを見つめながら口を開いた。
「このステーションは、何のために作られたのでしょうか。居住ステーションにしては」
「無駄が多い、か?」
「はい。構造データを確認しましたが、明らかに使われていない区画が大量にありました」
俺は作業の手を止め、ベキスの方へ振り向く。
それだけで、これから俺が重要な話をするのだと察したのだろう。
ベキスが、わずかに身を強張らせた。
「ベキス。これから話すことは、あまり漏らすな」
「...ッ!それほど、ですか」
「そうだ。もし俺の予想が正しければ300年前に起きた星間戦争は、こいつの争奪戦だ」
「争奪戦!?なぜ、ただのステーションが...」
ステーションか。
違うんだな、これが。
俺はコンソールを操作し、中央のホログラムにこの建造物の本来の姿を映し出した。
外見上は、下部のドックが無くなった程度の違いしかない。
だが内部構造は、まったく別物だった。
牧場区画。
居住区。
宇宙生活に必要な施設。
そういった場所が、丸ごと存在していない。
「こいつは居住ステーションじゃない」
俺は静かに言った。
「巨大なレーダーだ」
「こんな...巨大な建造物が、レーダー......」
「さらに言えば、このレーダーを作ったのは300年前の星間国家じゃない。もっと昔の古代文明だ」
データが完全な形で保存されていなかったため、正確な年代は不明だ。
だが、これが少なくとも1000年前の建造物であることは間違いない。
「レーダーの到達範囲は、どれほどなのですか?」
「本来の構造なら、少なくとも1000光年以上だ」
「1000光年以上...」
「それも、タイムラグは一切無い。リアルタイムで全てを把握できる代物」
ベキスが言葉を失う。
まあ当然だろう。
「もっとも、ネステリア人が居住ステーションに改築しちまったせいで、レーダーとしての機能は完全に失われている」
俺は肩をすくめた。
「だが、構造データは手に入った」
不敵な笑みを浮かべながら、抽出を終えたデータナイフを手に取る。
「作るのですか。このレーダーを」
「そうだ、ベキス」
俺は静かに答えた。
「この宇宙では、強者のみが自由と平和を許される。俺たちは、そのための力を蓄えなければならない」
ヘルメットをかぶっているベキスの表情は見えない。
だが。
俺の言葉を聞いた彼が、これから訪れる未来に恐怖を抱いたことだけは、はっきりと伝わってきた。
惑星Kenshi在住の肉食首長竜「初心者におすすめの拠点はガット!!」