静寂な宇宙の中に、2基の巨大なステーションが浮かんでいる。
1基は、水色が目立つキノコ型のネステリア居住ステーション。
もう1基は、ダークグレーにオレンジの配色が施された四角い形状のステーションだ。
中央には太い主柱が伸び、その周囲を取り囲むように複数の管制塔が並んでいる。
側面には多数のドックが配置され、その周囲を忙しなくピッケル級武装採掘艦が飛び回っていた。
イシオキ資源倉庫ステーション。
ゼクトル船団が4ヶ月をかけて建造した、新たな大型ステーションである。
【イシオキ資源倉庫ステーション】
全長14,250m / 全幅13,400m / 全高6,350m
居住区収容人数 9,580,596名
運用人員数
技術者 220,834名
整備士 246,365名
操縦士 600名
保安員 2,000名
クローニング収容能力 213,815名
主機関
アヴォリオンジェネレータ
防御
シールド発生装置
維持フィールド発生装置
50m厚のオゴナイト装甲
艦載機
戦闘用航空機 480機
輸送機 120機
航空機製造ライン 5
資源倉庫ステーションは、金属スクラップや鉱石を利用可能な素材へ精錬するための施設である。
ステーション下部には、全長1km級のマテリアル変換器を8基設置。
これにより、膨大な量の資源を高速で変換することが可能となっている。
側面には、ピッケル級武装採掘艦が収容可能な中型ドックが12基。
さらに大型ドックが8基存在し、多数の採掘艦を同時に受け入れることができた。
このステーションには、固定武装は搭載されていない。
だが4箇所の巨大格納庫が設置されており、それぞれに120機のビックホークが配備されている。
防御性能は極めて高い。
装甲にはオゴナイトと呼ばれる、現存する中で最も重く硬い素材を使用。
厚さ50mの装甲に加え、巨大なシールド発生装置を5基搭載している。
その総シールド量は198.09B。
1980億9000万という要塞級の防御力を誇っていた。
ステーション内部には、高さ50mの都市が広がっている。
そこには、900万人が居住可能な生活区画が整備されていた。
更に、広大な牧場をはじめとする食料生産区画、工場区画など、宇宙生活に必要な施設も建設されている。
居住性向上のため、公園や娯楽施設も数多く整備された。
ゼクトル船団の新たな拠点都市、それがイシオキである。
そして今、そのイシオキ内部の会議室では、
ゼクトル船団の今後の方針を決定する重要な会議が始まろうとしていた。
***
「では、時間となったので会議を始める」
静まり返った会議室に、俺の声が響く。
トラベラー時代よりも格段に広くなった室内には、各部門のリーダーたちが円形に並んでいた。
以前はシドカム人だけだった席も、今ではネステリア人の姿が混じっている。
思想教育を終えた優秀な人材を、新たに抜擢した結果だ。
種族は違えど、今や全員が同じ船団の中核を担う存在となっていた。
「まずは現状把握からいこう。アルッセア管理部長、イシオキへの移住状況は?」
「はい。居住ステーションの住民は91%が完了。トラベラーの住民は全て移住済みですわ」
アルッセアも、その管理能力を買われて新たな役職に就いている。
管理部門は船団の人員や資源など、あらゆるものを管理・運営する最大規模の部門だ。
船団の中枢機関と言っても過言ではない。
以前はルオコスが兼任していたが、副船団長としての業務に集中してもらうため、彼女に引き継いでもらった。
「船団長、トラベラーは今後どのように運用されるのですか?」
ルオコスが手を上げて質問する。
短い間とはいえ、我々の拠点だった艦だ。
その行く末が気になるのだろう。
「トラベラーは大改造を施し、ステーション輸送を専門とする輸送艦として生まれ変わる予定だ」
そう言いながら、俺は立体映像を投影する。
【シティキャリヤ級重輸送艦】
全長13,670m / 全幅8,280m / 全高5,985m
居住区収容人数 2,038,859名
運用人員数
技術者 1,058,080名
整備士 668,921名
主機関
アヴォリオンジェネレータ
防御
シールド発生装置
維持フィールド発生装置
45m厚のトリニウム装甲
巨大な直方体を積み重ねたような外観のこの艦は、ステーションを牽引することだけを目的に設計された。
艦底部のドックにステーションを接続し、そのまま移動と超空間ジャンプを行う。
巨大構造物を牽引するため、6基の超大型トリニウムエンジンを搭載。
自艦よりも遥かに巨大な構造物すら運搬可能な推進力を持つ。
更に、艦内の大半をジャイロアレイと大型スラスターが占めている。
そのため、ステーションをドッキングした状態でも自在な方向転換が可能となっていた。
運用には膨大な人員を必要とするが、その大部分はマーヴィンやドローンが担うことになる。
「……トラベラーの面影が全く無いのですが」
「そのまま使えるのは、居住区だけだな」
「えぇ…」
ルオコスが何とも言えない表情を浮かべる。
ちなみに、食料生産区画や工場区画もすべてイシオキへ移設済みだ。
居住区以外はほぼ別物である。
「さて、話を戻そう。イシオキの完成とピッケル級の増産により、資源調達量は飛躍的に増加した」
現在、ピッケル級は合計24隻。
さらに全艦の採掘レーザーを粗鉱採掘レーザーへ換装している。
従来の採掘レーザーは、原鉱を削りながら同時に素材へ変換できる便利な装備だ。
しかし変換効率が悪く、一つのアステロイドから得られる資源量は少なかった。
対して粗鉱採掘レーザーは、素材へ変換せず鉱石のまま採掘する。
回収した鉱石を資源倉庫で精錬することで、これまで無駄になっていた分まで回収可能となる。
結果として、入手できる資源量は、これまでの倍以上になるだろう。
「大量の資源を確保でき次第、造船ステーションの建造を始める。造船所があれば、これまで以上の速度で艦やステーションの建造が可能になる。我々がさらに勢力を拡大していく上で、必ず必要になる施設だ」
天の川銀河の情勢がまだ荒れていない今。
造船所だけは、何としても先に作っておかなければならない。
事が起きてからでは、遅すぎる。
この銀河で一勢力として生きていく以上、いずれガミラスかボラー、最悪の場合はガトランティスと戦うことになるだろう。
「しかし、船団長。管理部門としましては、人員を増員していただかないと、これ以上の拡大には対応しきれませんわ」
「ああ、事務員の追加なら問題無いかと」
アルッセアの言葉に応じたのは、生産部門のリーダー。
恰幅の良い体に坊主頭、眼鏡を掛けたシドカム人の男、カドス・ジルマ生産部長だ。
「現在、ロボット製造工場で、技術開発部門が開発した事務作業特化型マーヴィンの生産を予定しています。一般的な業務であれば問題なくこなせますので、十分戦力になるかと」
事務作業特化型と大層な名前を付けているが、実態は単純だ。
マーヴィンの指を人間並みに細かく精密化し、装甲を外して軽量化。
さらにCPUを大型の高性能モデルへ換装しただけ。
それ以外は、ただのマーヴィンである。
カドスの説明を聞いた他部門のリーダーたちが、一斉にざわめき始めた。
「事務作業特化型か。我が部門にも配備してもらえないだろうか?」
「部門が大きくなれば、事務作業も増えるからな」
「是非、こちらにも頼む!」
騒がしくなった会議室を、軽く手を叩いて制する。
「心配しなくても、数が揃い次第、各部門へ配備する予定だ。……最初は管理部門を優先するがな」
その後も会議は進み、船団内で使用する言語、貨幣制度、イシオキ内部の移動手段など、様々な事項が議論されていった。
「そうそう、ネステリア居住ステーションの件だが。住民との協議の結果、解体して資源化することが決まった」
ルオコスが驚いた表情を浮かべながら、アルッセアに問いかける。
「よろしかったのですか、アルッセア管理部長?」
「ええ、構いませんわ。元々、あのステーションを離れる話は進めておりましたから。ですが、穢れたステーションを資源として利用することに忌避感を抱く者も多くおりますの。それに関して、何か対策はおありですか、船団長?」
思想教育は終えているとはいえ、記憶まで消えるわけではない。
ネステリア人たちは未だに穢れへの恐怖を抱いているらしい。
「うむ、大丈夫だ」
俺はわざとらしく目を見開き、声を張り上げた。
「この度、技術開発部門の度重なる研究の結果、一度スクラップへと分解し、その後に精錬を行うことで、穢れは完全に浄化されることが確認された!」
その言葉に、今度はネステリア人たちが一斉にざわめく。
「まぁ!そうだったのですね!」
「なんということだ、大発見だ!」
「すぐに皆に伝えましょう!」
ふっふっふ、上手く誤魔化せそうだな。
「ルオコス、今の話は本当かい?」
「嘘に決まってるだろ。騙されるなカドス」
そこ、余計な事を言うんじゃない!