ここら辺ちゃんとしとかないと、矛盾やおかしな所が生まれてしまう。
「カドス生産部長、やっと我々の兵器がアシエム防衛軍に採用される事になったぞ」
「ようやくですか?随分と時間が掛かりましたなぁ」
アイアンフレイムによる地上への支援が終わった後、俺は宇宙に上がりイシオキ内の応接室でカドスと今後のアシエム支援内容に付いて話し合っていた。
「さっさと技術やら兵器やらを渡して、戦線を安定させたかったのだが…アシエム首脳部の厄介な御仁に手を焼かされた」
「あのパラノイアを患っている、最高議長ですかい」
アシエムに来た当初、様々な支援を申し出たのだが食料支援と軍事支援以外は全て拒否。
流石に、「我々は宇宙人です!貴方たちを助けに来ました!」などと言う連中を簡単に信用する訳がないと考えていた為、そこまで驚きはしなかった。
が、軍や民間人と接していくうちに判明したのだが、最初から全ての支援を受け入れたいと大半の者が考えていたと言う事実。
支援を受け入れられない最大の原因が、アシエム協同盟約国の最高議長が患っているパラノイアである。
歳と長年ウォルゴルの対処に追われ、ストレスとプレッシャーで精神を病んだらしい。
大人しく退陣してくれればよかったのだが、自分こそがアシエムを救える救済者であると思い込み、あの手この手で最高議長の席にしがみ付いて離れようとしない。
更に、無能な者はウォルゴルに操られているだの、暗殺を計画しているなどの根拠のない妄想に取り憑かれ軍の防衛計画を妨害。
おまけに、自身の後継者や優秀な議員を始末したりとやりたい放題だ。
パルローナ将軍が司令官を務めている要塞が、陥落しかけたのも最高議長が兵士の増員を渋ったのが原因である。
軍や他の議員もなんとかしようとしていたが、最高議長は周囲を自身の信奉者や賛同者で固め、守らせていた。
結局、ウォルゴルの襲撃に対処しなければならない状況で、内輪揉めなど論外と判断し最高議長を放置。
その結果、最高議長は我々に対してもパラノイアを発症して、ウォルゴルと同じく宇宙から来たのだからゼクトル船団も侵略者だと言い、支援を拒否したのだ。
とは言え、食糧難でバタバタと人が死に、ウォルゴルに要塞を破られかけていたので、食料支援と軍事支援は嫌々受け入れたらしいが。
「この状況では、ついに最高議長も我々の支援が無ければ厳しいと判断したんですかな?」
「んや、最高議長は支援を受け入れてないよ」
「へ?」
俺の言葉にカドスが目を丸くする。
「今日の昼頃に、防衛軍がクーデターやるんだって」
「はぁ!?いや、だってて…クーデターをそんな軽く言わんで下さいよ!」
そんな事言われましても。
俺だって、今日の朝に元帥から「昼頃にクーデターやりますわ」て軽いノリで言われたばっかりだし。
「まあ、クーデターやれるように色々と手を回したのは俺なんやが」
「何やってんですかアンタ…」
具体的に言うと、惑星アシエムの各地に潜むウォルゴルをビックホークで爆撃。
要塞へ向かう数を減らす。
その上で、襲撃が発生した場所へ援軍として駆けつけ、被害を最小限に抑えた。
追加で武器の供与も行いたかったのだが、最高議長がこれを拒否。
仕方がないのでいくつかの武器を廃棄、それをアシエム防衛軍が勝手に回収し修復。
偶然近くにいたゼクトル船団の兵士が廃棄した武器の使い方を喋り、それを聞いた防衛軍が使い方を覚え、使用している。
こうして、各戦線を安定化させ防衛軍に余裕を生み出し、内部へ目を向けられるようにしたのだ。
「いささか早急な気もするが、クーデターは確実に成功する」
「随分と自信満々に言いますな」
「民衆は防衛軍の味方だし、最高議長の私兵と彼らでは練度と装備の質が段違いだからな」
そう確信を持ち言い切った所で、端末にルオコスから緊急の連絡が入った。
『船団長!先程、アシエム防衛軍の元帥から連絡が入りました!アシエムに巣食う害虫は駆除したとの事です!』
「そうか、ついにか!」
『それと、アシエム協同盟約国とゼクトル船団の今後に付いて話し合いたいと元帥から会談の要望が来ています』
「わかった、すぐに向かう」
惑星アシエム奪還最大の邪魔者は排除された。
自由に動けるようになった防衛軍と我々の技術が合わされば、惑星上からウォルゴルを駆逐する事など造作もない。
ようやく派手に動ける事に笑みを浮かべながら、トランスポーターで会談が行われるオニキス造船所へ向かった。
***
「お待たせいたしました、元帥殿。――おっと、今は最高議長でしたな」
「此度の支援、誠に感謝いたします、船団長殿。ゼクトル船団の助力が無ければ、ここまで早く事を成すことは叶わなかったでしょう」
俺の前に座る、長い髭を蓄えた威厳ある老人が、静かに頭を下げる。
会う前にこちらの文化を学んできたのか、礼儀の運びが自然だ。
流石というべきだろう。
「さて、本日は貴国と我が船団の今後について、お話があると伺っておりますが」
「左様です。我々の壁となっていた男が居なくなった今、是非ともゼクトル船団のお力を、ある計画のためにお借りしたい」
来たな。
「――アシエム人の、惑星移住計画に」
……あれぇ?
「い、移住計画ですか。アシエムは……諦められるのですか?」
「残念ながら、現状のアシエムの環境は、あまりにも過酷です」
最高議長となった男は、髭を撫でながら静かに目を伏せる。
「ウォルゴルを排除したとしても、この星で暮らし続けるのは不可能でしょう。無論、我々も惑星改造については検討いたしました。しかし、汚染された水と大気の浄化は極めて困難であると判断いたしまして」
確かに。
ウォルゴルが惑星全土に撒き散らした毒を浄化するのは、並大抵の作業じゃない。
調査でも、汚染は地下水にまで及んでいると報告されていた。
「アシエムを再び生命の星とするには、およそ50年の膨大な時間と労力を要すると見込まれております。それならば、別の惑星へ移住する方が現実的だと結論付けました」
妥当だな。
50年も時間を掛けるなら、惑星改造にもっと適した星を探す方が良いのは間違いない。
それに、目の前には新たな惑星を探し、多くの人々を乗せる船を作れる存在がいるのだ。
利用しない手はないだろう。
「なるほど。それで、我々ゼクトル船団に何をお求めで?」
「移民船の建造と、居住可能惑星の情報提供をお願いしたい。もちろん、対価は用意しております」
ほう、何を出すつもりだ。
「まず、我が国の遺伝子操作技術。そして、コルマン星系に存在する全ての資源を提供いたします」
ほほぉ、アシエム人の遺伝子操作技術とコルマン星系の資源か。
彼らの遺伝子操作技術が有れば、ゼクトル船団の船団員は更に強い身体を手に入れられる。
コルマン星系には、多量の金属資源を含む小惑星や星が存在を確認されている。
この資源を自由に出来るなら、移民船の1隻や2隻、安い物だ。
「わかりました。ちょうど今、約6億人規模を収容できる超大型移民船を設計中です」
そう言いながら、立体映像でトラベラー級とは比べ物にならない全長40kmの巨船を映す。
「なんと……!」
設計段階ゆえ全容は伏せているが、それでも十分だったらしい。
最高議長は目を見開き、思わず身を乗り出す。
「素晴らしい……この艦は、いつ頃完成しますかな?」
「順調にいけば、1年程で」
「……たった1年ですか。ゼクトル船団には驚かされてばかりですな」
一拍置き、彼は続ける。
「加えて、護衛用としてクロスボウ級フリゲート艦100隻の建造もお願いしたい」
クロスボウ級か。
今のオニキス造船所なら、3日で16隻は出せる。
負担は軽いし、訓練を考えるならこちらを優先するか。
「そういえば、ゼクトル船団は人材確保のためにアシエムへ来たと聞いておりますが」
「ええ、まあ。その通りですが」
ん?
なんだ、急に?
「クロスボウ級の支払いですが――人、でいかがでしょうか」
***
「えー、それでは緊急会議を始めます」
最高議長との会談を終えた後、俺はすぐに全部長を会議室へ呼び出した。
議題は、向こうが提示してきた“支払い”についてだ。
「既に何人かは聞いていると思うが、もう一度説明しておく」
一呼吸置いてから、各部長が持つ電子端末へ情報を送信する。
「今回、移民船とクロスボウ級100隻の支払いとして、アシエム協同盟約国側から以下の物が提示された」
送られた内容を見た部長たちは、一様に驚いた顔になった。
その中で、アルッセアがわなわなと震える手を上げる。
「船団長、この人員5000万人というのは……」
「全員、ゼクトル船団への加入希望者だそうだ。アシエム協同盟約国は彼らの加入を許可する事が、支払いだと言っている」
5000万。
そう、5000万である。
今のゼクトル船団からすれば、はっきり言って完全なキャパオーバーだ。
我々が想定していた上限は、多くて500万人前後。
……10倍が来ちゃった。
「本当に、全員加入希望者なのですか?」
ルオコスが信じられないといった顔で端末を覗き込む。
「本当だよ。ちなみに、最初に提示された時は1億人だった」
1億はやめてくれと最高議長に懇願し、加入上限を設けて半分にしてもらった。
「居住区が足りやせんな……」
カドスがずり落ちた眼鏡を直しながら、引き攣った顔で言う。
「……新しくステーションの建造に取り掛かるしかないな」
俺のその一言を聞いた瞬間、アルッセアの顔が見る見るうちに、しわしわの絶望顔になった。
管理部門は、船団のあらゆる人と物を管理し、運営する部門だ。
そこへいきなり5000万人の追加。
しかも、新しいステーション建造まで付いてくる。
そりゃあ、あんな顔にもなるだろう。
「で、だな。受け入れにあたって、問題がいくつか出てきている。まず一つ目だが……シドカム人とネステリア人が、船団内で少数民族になってしまう」
両民族ともに、人口は約60万人。
今までは規模も近く、思想の上書きと共に危機を乗り越えてきたことで、仲間意識が生まれていた。
そのおかげで、大きな文化的対立も起きていない。
だが、そこへ5000万人の他民族が一気に流れ込めば話は別だ。
思想を上書きしたとしても、限界はある。
最悪の場合、ようやく馴染み始めた二つの文化が、数に押し潰される可能性すらあった。
とはいえ、ここで加入希望者を拒めば、今度は船団内の市民に「彼らを見捨てた」という動揺が広がるかもしれない。
それに、ゼクトル船団を成長させるつもりなら、受け入れないという選択肢は無い。
受け入れは急がず、だが着実に進めなければならない。
「両民族の消滅を防ぐ為に、人口を増やそうと思う」
「という事は、クローンの増産ですか……」
「加えて、人工培養槽での成長を8歳まで引き上げる」
俺の言葉に、ルオコスが明らかに顔をしかめた。
以前、大量のクローン生産に関する懸念は話している。
危機感を持っているなら、そういう表情にもなるだろう。
遺伝子を組み換え、完全に同一の個体が生まれないようにはしている。
だが、際限なく作り続ける事はできない。
何より、健全な社会を目指すのなら、どこかでやめるべき手段だ。
だが――今ではない。
皆には申し訳ないが、今は耐えてもらう。
何せ、問題はそれだけではないのだから。
「第二の問題だが……説明するより、見てもらった方が早い。加入希望者の男女比率を見てくれ」
会議室に居る全員が端末を覗き込む。
次第に、そのほとんどの顔が引き攣り始めた。
「あの、船団長……加入希望者、女性ばかりな気がするんですが」
顔を引き攣らせすぎて、とんでもない表情になっているカドスが口を開く。
「うむ。8割だ」
「8割……ですかい」
「5000万人中、約4000万人が女性だ!」
言い切った瞬間、会議室にいる全員がぽかんと口を開けた。
……分かるよ、みんな。
俺も最初に見た時はそんな感じだった。
「いやいやいや!これは明らかにおかしいですわ!?」
ついに限界が来たのか、アルッセアが頭を掻きむしりながら立ち上がる。
こうなった理由は単純だ。
アシエム協同盟約国の男女比率が、男性3:女性7になっているからである。
ウォルゴルが惑星へ来襲した当初、彼らは大規模な徴兵を行っていた。
その対象となったのが、主に健康な男性だ。
集めては戦地へ送り、足りなくなればまた集めて送り込む。
そんなことを20年近く繰り返した結果、男性の人口はみるみる減少。
気が付けば、男女比率は取り返しのつかない状態になっていた。
正直、アシエム人の人口が5億程度にまで落ちた理由の一つは、この比率の崩壊による出生率低下も大きいと思っている。
ちなみに、流石にこのままでは男が居なくなると気付いたのか、最近では女性の徴兵も始まったらしい。
「これ、マジで受け入れるんですか、船団長」
「マジだよ、ルオコス副船団長。マジのマジで受け入れる」
あまりの衝撃に、ルオコスの素が漏れ始めていた。
受け入れれば、間違いなく様々な性別に起因した問題が発生するのは目に見えているからな。
「いくら勢力拡大のためとはいえ、少し急ぎ過ぎではありませんか?」
「………」
咳払いをして、いつもの調子を取り戻したルオコスを、俺は静かに見つめた。
俺のただならぬ雰囲気を感じたのか、皆が静まり返る。
「ルオコス。我々が“拠点最優先候補”としていた星系の事は覚えているな?」
「はい」
「18時間前、第3合同艦隊がその星系から300光年の宙域で、神聖コルゴラズ選民国の300隻からなる艦隊と遭遇し、これを撃滅した」
会議室にいた全員が目を見開く。
「すまんな。余計な混乱を避けるため、黙っていた」
戦闘後、比較的原形を保ったスクラップから情報を抽出した。
そして、分かったことが一つある。
「連中は――ゼクトル船団を探している」
空気が変わった。
また襲われるのか。
また奪われるのか。
皆の顔に、そんな色が浮かぶ。
「なあ諸君。我が愛すべきゼクトル船団を支え、共に星の海を旅する同胞たちよ。我々は、いつまで怯え、逃げ続けなければならないのだろうか」
心の奥で、何かが煮え立つ。
「我々はただ、この広く広大な宇宙の一角で、平和に暮らしたいだけだ。なのに何故、理不尽に暴力を振るわれ、奪われなければならないのだろうか」
怒りだ。
我々を害そうとしてくる者への。
理不尽に命を奪う存在への。
そして、守る力を持ちながら、なお逃げる事しか考えようとしない愛すべき同胞たちへの。
だが、その怒りをぶつけはしない。
飲み込む。
その代わり、道を示す。
「終わりにしよう」
怯えるのも。
逃げるのも。
「叩き潰そう。我々の自由と平和を脅かす外敵を」
我々には、道を切り開く力がある。
迫り来る脅威を排除する力がある。
「更なる力を手に入れよう。この残酷な宇宙では、強者以外は生き残れないのだから」
アシエム協同盟約国は全てのアシエム人が、協力し助け合う事を約束した国てな感じの意味になります。
ちな、技術レベルは遺伝子工学以外、ようやく宇宙に上がれるかなと言った所。
何?
そんな連中が、船もらっても運用出来ないだって?
なぁに、頭に直接情報ぶち込めば良いさ。
何?
脳が情報量に耐えられないだって?
なぁに、ナノマシやインプラントを埋め込めば良いさ。
オラァ!
電脳化!!