明らかに、艦の誘爆じゃない爆発が起きてるんですが…
アヴォリオンだ! 24話
惑星アシエム、ナサラヤ大陸。
地球のユーラシア大陸に匹敵する広大な大陸の一角。
そこに、高さ200mの壁型要塞が、巨大な円柱状タワーを中心に、直径100kmにわたって円形に築かれていた。
――パルトネア。
この星で、唯一アシエム人が安全に暮らせる場所。
地上の大半は工場や軍事基地、防衛施設で覆い尽くされ、地下には5億人分の居住区が幾重にも重なり広がっている。
その中央タワーの屋上へ、1機のフロントランナーが降り立った。
周囲には多数のビックホークが護衛として展開している。
「お帰りなさいませ、最高議長」
「パルローナ中将か。出迎えご苦労」
機体のハッチが開き、長い髭を蓄えた老人――現アシエム協同盟約国の最高議長が姿を現す。
それを、パルローナ中将と数名の兵士が迎えた。
「では、最高議長。我々はこれで」
「ええ。送り迎え、感謝いたします」
フロントランナーのパイロットであるネステリア人が、左肩に拳を当てる敬礼を行う。
機体が浮き上がり機首を上へ向けた直後、急上昇し数秒で空の彼方へと消え去った。
「……凄まじい。もう見えなくなった」
その光景を見上げながら、パルローナ中将が感嘆の声を漏らす。
(あの男さえいなければ……我々も、もっと早く空へ出られていたものを)
最高議長は、ゼクトル船団のいる方角を羨望の眼差しで見据えた。
「サワミヤ船団長との会談は、いかがでしたか?」
「上手くいったよ。全長40km、6億人が乗れる移民船を、1年で建造すると豪語しておった」
「それほどの規模を……1年で?」
「はったりだ。少なくとも5年は掛かるはずだ。
我らに“規格外の技術力”を誇示し、交渉を優位に進めるための虚言だろう」
最高議長はゼクトル船団の人口が120万人、ステーションも2基しかないことから、「技術力は高いが工業力は低い」と判断していた。
実際には、何億機もの作業用ドローンやロボットが存在し、工場も自動化されている。
ゼクトル船団の工業力は決して低くはないのだが、前最高議長の影響により情報収集が滞っていた現状では、推測でしか判断できなかった。
「まあよい。本命は移民船ではなく、クロスボウ級だ。かの艦をリバースエンジニアリングできれば、我らも宇宙船を建造可能になる」
「仮に移民船の話が流れても、自力で他星系へ移住可能となりますな」
――なお。
ゼクトル船団では、宇宙船の建造知識の販売もしている。
残念ながら、ウォルゴルへの対処やクーデターの準備等で多忙であった現最高議長は知る由もなかった。
「クロスボウ級は、もう少し渋られると思っていたのだがな」
「それほど、人員を欲していたのでしょう」
「むしろ、「1億は多いから、半分にしてくれ」と頼まれたよ。彼らとて、受け入れられる数には限りがあるらしい」
「5000万……ですか」
パルローナ中将は、最高議長に気取られぬようわずかに目を細めた。
その時、1人の兵士が駆け寄る。
「最高議長!会議の準備が整いました!」
「ん、ご苦労」
「それと、第4防衛軍のデルーゾ大将および参謀団が、移動中に潜伏していたウォルゴルに襲撃され、全滅しました」
「……そうか。残念だが、仕方あるまい。よくあることだ」
その声音に、悲しみは一切なかった。
(馬鹿共め。アシエム奪還など愚かな事をほざきおって。こんな汚れ死にかけている惑星にしがみ付いて何になる)
最高議長は心の中で、ウォルゴルを殲滅し惑星アシエムの奪還を声高らかに提案していた将校たちを切り捨てた。
「パルローナ中将。後処理を頼む。我はこれより、アシエムの未来を決める会議へ向かう」
「はっ!」
最高議長は彼女の敬礼に満足そうに頷き、現アシエムの重鎮たちが集まる会議室へと足を進めた。
その背を見送りながら、パルローナ中将は静かに通信端末を取り出す。
「ペルマーノ少将。状況が変わった。プランを修正する。ああ……例の手順で伝達しろ。では」
短く通話を終え、端末をしまう。
彼女は兵を率いて輸送機へ乗り込み、後処理へと向かった。
――その姿を。
足元に潜んでいた羽虫型の極小ドローンが、静かに監視していた。
***
「船団長様、情報部門よりご報告申し上げさせていただきます」
オニキス内の執務室にて。
鋭い目付きに整えられた口髭と顎髭が目立つ、年相応の落ち着きと威厳を備えたネステリア人の男が、俺の前に立っていた。
我がゼクトル船団の、あらゆる情報収集と防諜活動を担う情報部門の長。
リュナル・カルッシア情報部長である。
「現アシエム協同盟約国の首脳部に関する件につきまして、進展がございました。最高議長は、惑星移住に反対の意を示しておられる将官ならびに議員各位を排除なさっておられます」
「ほぉ、会談の時に何か腹に抱えている人物だとは感じていたが、中々に腹黒い人物だったか」
人当たりの良い笑みを浮かべながら、一切内心を出さなかった最高議長を思い出しつつ、カルッシアが差し出した紙の報告書を受け取る。
データ化すれば資源の無駄を減らせるとルオコスに言われたが、こういう物は紙と相場が決まっているのだ。
それに、すぐに廃棄でき、復元もされにくい。
「現最高議長は随分と殺し回っているな。完全に独裁者だな、これは」
「現時点で判明しているものだけでも26名に上っており、地下施設等を精査いたしました場合、さらに多数が確認される可能性が極めて高いものと存じます」
「少なくとも100は超えているだろう。滅びかけてはいるが、アシエム協同盟約国は5億人の人口を有する国家だ」
顎を撫でながら、報告書に目を通す。
ウォルゴルの襲撃を装った殺害、不慮の事故。
さらにはクーデターを計画しているとして将校を拘束している、と。
……ははは。
前最高議長の影響で形骸化していたが一応、共和制に近い政治形態と聞いていたんだが。
今後はその評価を改めなければならない。
「更に申し上げますと、パルローナ中将率いる第215防衛軍に、不審な動向が認められております」
パルローナ中将か。
現最高議長が元帥の頃から子飼いにしている軍人で、優秀な指揮官だ。
信頼も厚く、彼女の元へ援軍に駆けつけた際には、元帥自ら感謝の通信が入ったほどである。
今回の件も含め、後処理係として動いているらしい。
「わかった。当面は船団内の警備レベルを引き上げ、不測の事態に対処できるようにしておこう」
「防諜活動に関しましては、何卒、我ら情報部門に一切をお任せ賜りますよう、謹んでお願い申し上げます」
「ああ、頼んだ。さて、俺はしばらく席を外して生物研究室に行く。ダルディーナ博士がウォルゴルの調査結果が出たと言っていたのでな」
***
「ダルディーナ博士。来たぞー」
「サワミヤ船団長!お久しぶりです!」
中央に10m級ウォルゴルの死体が横たわる、真っ白な研究室の中へ入ると、ナビィが出迎えてくれた。
「久しぶりって、6時間ぶりくらいだぞ……」
「そうでしたか?どうも2、3週間ほど会っていなかった気がしまして」
何を言っとるんだ、このトライポッドは。
「で、博士は?」
「ここにいるよ」
周囲を見回したその時。
ウォルゴルの口がもごもごと動き――中から、防護服に身を包んだアシエム人が這い出てきた。
「ダルディーナ博士……いくら防護服があるとはいえ、口から侵入するのはどうなんだ」
「口の構造が気になってね。それに、ゼクトル製防護服なら問題ないよ」
そう言いながら防護服を脱ぎ、気怠げな表情の女性が姿を現す。
ダルディーナ・ク・ナリナ博士。
アシエム協同盟約国の優秀な生物学者であり、アシエム人を今の姿に変えた張本人だ。
ウォルゴルの研究を進めるべく、研究機材が豊富なこちらに滞在している。
随分と若く見えるが年齢は50歳を超えているらしい。
本人からテロメアを操作して、老化を遅らせていると聞いた。
「それで、何か進展があったのか?」
「あるとも!ぜひ聞いてくれたまえよ!」
興奮気味に詰め寄る博士を、ナビィがなだめる。
「まあまあ博士、落ち着いてください」
あらゆる実験に忌避感を抱かない、優秀な助手が欲しいと言われたが、到底人間の中にそんな奴は居ない。
なので、俺のサポートロボットことナビィを貸し出していた。
「ウォルゴルの成体についてだがね。どうやらこの生物、成長すると体内に“別空間”に侵入できる器官が生まれるらしい」
「別空間?」
「僕は専門外だけど、ナビィ君によると君たちのジャンプ装置に似ているそうだ」
えぇ…マジィ?
アイツら超空間ジャンプすんの?
博士からウォルゴルを掻っ捌いて内臓を撮影した写真や、各種数値がまとめられたタブレット型端末を受け取りマジマジと見る。
んまあ、似てると言われれば…似てるかぁ?
「計算上、30m級にまで成長した個体は、およそ10光年まで超空間ジャンプを行えるようです!」
「えぇ…マジィ?」
この星系を調べても、成体のウォルゴルが1匹も見つからなかったんで不思議に思っていたが、そんな超生物だったのか。
「てっきり、目的地まで休眠状態になり宇宙を漂流するものだと思ってたんだがな」
「ウォルゴルの成体は、およそ1ヵ月に1回のペースでジャンプが可能かと思われます」
「ついでに言っておくと、十分な餌があれば3ヶ月で10mにまで成長するよ。今のアシエムには、彼らが食べれる物がほとんどないから、あまり早いペースで成長してないだけで」
……初期に食い尽くしたからな。
となると、このままウォルゴルを放置するのはマズイか?
アシエム人が居なくなっても、共食いで成長するだろうし、巣立った成体が別の惑星で繁殖しネズミ計算式に増殖する。
更に、行動範囲もかなり広いときた。
1ヵ月で10光年しか移動できないが、その内に我々やアシエム協同盟約国が入植しようと考えている星系にも来る。
と言うか、発展すれば間違いなく来る。
繁殖の為に生物に満ちた星に卵落としに来るのだから、人口や家畜の数が増えれば狙われる。
万が一、卵が付着した小惑星が1つでも、惑星に落とされれば掃除が面倒だ。
………やはり、ここで殺しとくか。
アシエム人には申し訳ないが移民船への引っ越しが完了次第、惑星の表面を焼却するべきだ。
「随分と怖い顔をしているね、船団長君」
気づけば、博士が顔を覗き込んでいた。
「いや、今後の舵取りを考えてな」
「ふーん。今後ねぇ……ああ、そういえば人員受け入れの話、聞いたよ」
耳が早いな。
まだ、少数の人間にしか話していないのに。
「ああ、5000万人ほど受け入れる予定だ」
「それ、僕もゼクトルに加入するから」
「……希望者の名簿に名前は無かったが?」
「元帥が許してくれなくてね。だから死を偽装して、貨物に紛れ密航します」
アンタ、見た目とは裏腹に大分アグレッシブな事するじゃん。
「こっちの方が設備も揃ってるし、研究し甲斐があるからねー。それに、もう20年も元帥の為に働いてやったんだ。そろそろ、自分の人生を楽しんでも良いはずだよ!」
博士は両手を広げ満足げに部屋を見渡した後、何か思い出したように手を叩く。
「あ、たぶん僕以外にも来るよ」
「はぁ?なんで?」
「皆、元帥の独裁体制から逃げたいからかな」
「独裁体制ねぇ。ウチも、さして変わらんぞ?ほぼほぼ俺の個人独裁だし」
「それでもさ。ここは反対意見を言っても、殺される心配は要らないからね。元帥は反対派、全員処刑してるよ」
おっとぉ?
何かサラッとやばい事言わなかったか、この人。
それマジなら、100人程度じゃ済まんぞ?
「え?マジ?全員殺ってんの?」
「僕の耳に入ってくるぐらいにはね。元帥、もとい最高議長は、自身の独裁体制を強固にすべく軍人から議員、果ては僕ら学者まで処刑している。しかも、反対しそうというだけで投獄された人も居るよ」
おおう、流石にやり過ぎやろ。
ドン引きですわ。
多分、多くのアシエム人をスムーズに移民させる為には、意思の統一が重要となる。
障害になりそうな存在は、片っ端から取り除きたいのだろう。
「だから、投獄されたり処刑されるくらいならば、無理にここに来ようとするだろうね。最高議長も反対派が居なくなるならて感じで、気付いても黙認するんじゃないかな」
「……はぁ」
俺は深くため息をついた。
……とんでもない奴に手を貸してしまったかもしれん。
とりあえず――受け入れ準備だけは進めておくか。
何とか新キャラに個性を持たせようと頑張った結果、パチモンのシャリア・ブルみたいな人と、50代ボクっ娘見た目ダウナー系変人学者とか言う癖の闇鍋みたいな人が出来上がってしまった。