ボラー連邦との接触に悩みましたが、そう言えばアヴォリオンにはワームホールと言う非常に便利な物がある事を思い出し、ぶち込んでみる事にしました。
ゼクトル船団が惑星改造を進める、赤茶けた大地がどこまでも広がる惑星。
その星から少し離れた所に、多種多様なステーションが建ち並び、周囲を多数の艦艇が慌ただしく行き交っていた。
建造中だったステーションを全て完成させた船団は、新型戦艦と空母の建造に加え、新たな艦隊である『第4合同艦隊』、そして3隻のアイアンフレイム級強襲揚陸艦を中核とする『強襲艦隊』の編成を進めている。
そんな活気に満ちた宙域の中央には、一見すると巨大なステーションと見紛うほどの、全長40kmを超える超大型艦が静かに停泊していた。
『ニュートラベラー級移民船 ニュートラベラー』
新旧トラベラー級の比較。
6億人もの人々が生活できるゼクトル船団の新たな故郷であり、惑星環境を人類が居住可能なものへと変える巨大な惑星改造設備でもある。
更に、船内に築かれた都市の中心には、船団政治の中枢となる円形状の官邸がそびえ立っている。
その官邸の執務室で、一日の仕事を終えた俺は、湯気の立つ茶を飲みながら一息ついていた。
「そういや、あのボラー連邦の艦隊って、どうなってる?」
茶を飲み干したところで、最近あまりにも忙しくて忘れていた件を思い出し、ナビィへ尋ねる。
「えーと、10隻のクロトガ型標準戦艦と4隻のアマンガ型ミサイル戦艦で構成された艦隊は、当初発見された宙域から一切移動しておりません!」
俺の隣で、三本の腕を器用に動かしながら複数の業務を同時にこなしているナビィが答えた。
発見してから、およそ10か月。
その間に移動するか、遭難しているのであれば救援が到着するものと考えていたのだが、その気配はまるでない。
14隻の艦が、未だ同じ座標に留まり続けている。
「うんむ……このまま放っておいても面倒なことになりそうだし、一度接触してみるか」
万が一、ボラー連邦との戦闘になったとしても、こちらには十分対抗できる戦力が整っている。
建造中だったステーションもすべて完成し、必要であればいつでも拠点ごと退避できる。
「承知いたしました。漂流中だった場合は、救助を行うということでよろしいでしょうか?」
「ああ。もっとも、生存者がいればの話だがな」
……10か月もの間、1隻も動いていないことを考えると、望みは薄いだろうが。
***
広大な宇宙空間に、14隻の艦が静かに浮かんでいた。
クロトガ型標準戦艦とアマンガ型ミサイル戦艦、2種類の艦は船体に目立った損傷こそ見られないものの、エンジンノズルは沈黙し完全に漂流していた。
辺境巡視艦隊第225所属、クロトガ型標準戦艦『グラドム』。
その艦橋へ、後退し両脇へ流れた茶褐色の髪と、細く端正に整えられた口髭が印象的な男が静かに足を踏み入れた。
艦隊司令官、ダルゴ・ベルザム少将である。
必要最低限の照明だけが灯る艦橋では、かつて絶え間なく響いていた機械音も、今では弱々しい唸り声へと変わっていた。
ベルザム少将は、その痛々しい光景に思わずため息を吐きそうになるのを堪えながら、静かに口を開く。
「……今の状況は?」
短い問い掛けに、グラドム艦長が疲れ切った表情で答えた。
「変化ありません。コグダール機関は依然として出力が安定せず、推進に必要なエネルギーを確保できません」
「他艦は?」
「全艦、同様です」
もはや毎日の変わらない挨拶となったやり取りに、ベルザム少将は静かに息を吐き、目を閉じた。
始まりは、ボラー連邦辺境宙域に突如として出現した正体不明のワームホールだった。
調査任務を受けた辺境巡視艦隊第225は、現地へ急行。
しかし、調査開始直後、ワームホールは突如として激しく変動。
空間そのものが悲鳴を上げるように歪み始め、艦隊は巨大な重力の奔流に呑み込まれ、そのまま時空の狭間へと引きずり込まれた。
彼らが次に目を覚ました場所は、ボラー連邦領から約3万光年も離れた未知の宙域だった。
更に追い打ちを掛けるように、不安定なワームホールを通過した影響か、全艦のコグダール機関が深刻な損傷を受ける。
十分な出力を確保できず、艦は航行不能。
超空間通信装置も機能せず、救援要請すら送れなかった。
幸いだったのは、生命維持装置を動かすだけの最低限の電力だけは確保できたことだった。
それだけを頼りに、艦隊は10ヶ月間漂流を続けた。
希望の見えない日々は、クルーたちの心を静かに蝕んでいく。
精神を病み、自ら命を絶った者も少なくなかった。
「……食料は」
ベルザム少将が静かに尋ねる。
補給担当のクルーは、申し訳なさそうに首を横へ振った。
「現在の配給を維持しても、約2ヶ月です」
「更に減らせば?」
「飢餓による死者が先に出ます」
誰も言葉を続けられなかった。
ベルザム少将は、漆黒の宇宙だけが広がる窓の外へ視線を向ける。
(10ヶ月、よく持たせた方か。これ以上は、奇跡でも起きない限り……)
そう思った、その時だった。
「し、司令!」
レーダー員が勢いよく立ち上がる。
「前方に重力震源を確認!」
艦橋の空気が一変した。
「何だと?」
ベルザム少将は即座にメインスクリーンへ目を向ける。
暗黒の宇宙に、黄金色の光が灯った。
合計6つの光輪が整然と並ぶように虚空へ現れ、その中心から艦が姿を現す。
ダークグレーを基調とした直線的な船体。
随所には橙色の装甲が配され、上下に配置された大口径の連装砲が鋭い威圧感を放っていた。
6隻の艦は乱れることなく隊列を組み、辺境巡視艦隊第225の前方で静かに停止する。
明らかに戦闘を目的として建造された未知の艦隊。
ボラー連邦のデータベースには存在しない艦影を前に、艦橋にいた誰もが言葉を失った。
「前方の所属不明艦より入電!」
「読めるか?」
「いえ。いくつかの言語で呼び掛けてきていますが、どの言語も未知のもので翻訳できません」
「ふむ……どうしたものか」
「不明艦より、更に言語データを受信!」
「翻訳機が積んであったはずだ。解析班は至急、翻訳作業に取り掛かれ!」
艦長が即座に命令を下す。
ワームホールの先で未知の文明と接触する不測の事態に備え、グラドムには大型翻訳機と言語解析班が乗艦していた。
(奇跡か……あるいは破局か)
久方ぶりに慌ただしくなった艦橋で、ベルザム少将だけは静かに祈り続ける。
「解析班より報告! 作業完了とのことです!」
大型翻訳機と優秀な解析班の働きにより、翻訳作業は3時間で終了した。
艦橋の全員が、通信士の口元を固唾を飲んで見守る。
「読みます。
《こちら、ゼクトル船団警備艦隊第4哨戒艦隊所属、フリゲート艦ノダチ。我々は貴艦らに対して、敵対の意図はない。貴艦らは現在、漂流しているように見えるが、我が船団の助けは必要か?》
以上です」
通信士が読み終えた瞬間。
艦橋を支配していた緊張が一気に解けた。
ある者は椅子へ深く腰を下ろし、ある者はその場へへたり込み、安堵の息を漏らす。
「ノダチへ返信。ボラー連邦永久管理機構、辺境巡視艦隊第225所属、旗艦グラドム。我が艦隊は不慮の事故により機関を損傷し、航行不能。ゼクトル船団の救助をお願いしたい」
ベルザム少将の命令を受けた通信士は、この奇跡を逃すまいと震える手で何度も内容を確認しながら電文を打ち込んだ。
「やれやれ……政治将校を乗せていなくて幸運でしたね。忠誠心だけは人一倍という者が居たら、最悪の事態になっていたでしょう」
「全くだ……。あー、そろそろ起こしてくれ。腰が抜けた」
***
ボラー連邦の艦隊がカーネリアン修理ドックへ入港してから数時間後。
修理内容や今後の支援について話し合うため、辺境巡視艦隊第225の代表者たちを応接室へ招いていた。
俺は、入港した艦の状態をタブレットで確認しながら、応接室へ向かっている。
「この状態で、よく10ヶ月も持ちこたえたもんだ。司令官が、よほど優秀だったのか?」
クルーがまだ生存していると聞いた時は、本当に驚いた。
生命維持装置だけは動いていたものの、食料は日に日に減り続け、居住環境も悪化する一方。
それ以外にも様々な要因が重なり、クルーたちの士気は下がり続けていたはずだ。
いつ暴動が起きても、おかしくない状況だった。
「とはいえ、我々が救助しなければ、あのまま全滅していたでしょう。宇宙船を建造・修理できる設備もドローンも資源もなく、ただ漂流するしかありませんでしたから」
隣を歩くナビィが淡々と答える。
「そう聞くと、俺たちは随分と運が良かったんだな」
少なくとも、俺が漂流した時には、チートじみた頭脳と宇宙船を造るための環境くらいは用意されていた。
……だからといって、いきなりこんな世界へ転生させたことは許さんからな。
聞いとんのか!
特大機械玉!
「サワミヤ船団長! サワミヤ船団長! 歯茎が、歯茎が出てます!」
「おっと、いかんいかん。つい怨敵の姿を思い浮かべて、威嚇しちまった」
さっさと気持ちを切り替えなければ。
これから、ボラー連邦との本当の意味でのファーストコンタクトだ。
第一印象は大事にしなければならない。
応接室の前に立つ警備兵へ軽く敬礼を返し、扉を開く。
部屋の中では、辺境巡視艦隊第225を代表して訪れたダルゴ・ベルザム少将とグラドム艦長、そして先に応対してくれていたルオコスが、俺を待っていた。
「お待たせしました」
部屋へ入ると同時に、俺は軽く頭を下げた。
「急な呼び出しにもかかわらず、お越しいただきありがとうございます」
ベルザム少将も席を立ち、ボラー式の敬礼を行う。
「こちらこそ、このような場を設けていただき感謝いたします。加えて、我々辺境巡視艦隊第225を救助していただいた事、艦隊司令官として深く御礼申し上げます」
隣に立つグラドム艦長も同じように敬礼した。
「ありがとうございます」
俺も軽く頭を下げ、全員が席へ着く。
テーブルの中央には温かい茶と菓子が並べられ、緊張した空気も幾分和らいでいた。
「では、早速本題へ入りましょう」
タブレットを操作すると、ホログラムが展開される。
「まず、ゼクトル船団として皆さんへ行う援助について説明します」
ベルザム少将たちは真剣な表情で頷いた。
「第一に、食料・水・衣類・医薬品など、生活に必要な物資を提供します。当然、艦内で不足している日用品もこちらで用意しましょう」
ホログラムへ物資一覧が表示される。
「第二に、修理が完了するまでの間、カーネリアン修理ドックへの滞在を許可します。必要な施設についても自由に利用して構いません」
「……ありがとうございます」
ベルザム少将の表情が僅かに和らぐ。
「そして第三に、損傷したコグダール機関の修理への協力です」
その言葉に、ボラー側の二人が顔を上げた。
「もっとも、我々はコグダール機関について全く知りません。ですので、修理は皆さんを主体として進めてもらいます」
ベルザム少将は静かに頷く。
「その点は承知しております。機関は我が国の重要機密です。技術提供はできませんが、修理に必要な資源や電力の供給など、最低限の協力をお願いしたいと考えております」
「それで構いません」
俺は即座に答えた。
「技術を無理に見せろとは言いません。国家には国家の事情がありますからね」
「……感謝します」
俺はホログラムを切り替える。
「ただし」
応接室の空気が少し引き締まる。
「これだけの援助を、全て無償で行うつもりはありません」
当然の話と思っていたのか、ボラー側から異論は無く静かに続きを待っている。
「我々が求める対価は2つです」
ホログラムへ新たな項目が表示される。
『ボラー連邦国境周辺の情報』
『ボラー連邦の文化・言語に関する情報』
「情報、ですか」
ベルザム少将が小さく呟く。
「ええ、情報です」
俺は頷いた。
「今回の件で我々ゼクトル船団は、ボラー連邦と初めて接触する事となりました」
部屋が静まり返る。
「今後、辺境巡視艦隊第225の皆さんを送り届けるにせよ、あるいは別の形で交流するにせよ、ボラー連邦と本格的に関わる可能性は十分あります」
俺はベルザム少将を真っ直ぐ見た。
「文化や価値観の違いを知らないまま接触すれば、小さな誤解が外交問題へ発展する事も珍しくありません」
ルオコスも頷く。
シドカムとの交流でも、文化の違いには何度も気を遣ってきたからな。
「だからこそ、我々はボラー連邦の文化や慣習、言語を学びたい。そして、誤って侵犯を起こさぬよう、国境周辺の情報も知っておきたいのです。無論、必要であれば我々の文化もお教えいたしましょう」
微笑みながら言葉を続ける。
「お互いを知ることは、余計な争いを避ける一番の近道ですから」
ベルザム少将はしばらく黙っていたが、やがて深く頷いた。
「……理解しました。その程度の情報で我々の命が救われるのであれば、安い対価です」
そして静かに右手を差し出す。
…握手か。
さては、ルオコスから多少こちらの文化を聞き出していたな?
侮れん男だ。
「この条件、辺境巡視艦隊第225を代表し、お受けいたします」
俺も立ち上がり、その手をしっかりと握り返した。
「交渉成立ですね。改めまして、ゼクトル船団へようこそ」
互いの思惑はどうあれ、ゼクトル船団とボラー連邦を結ぶ、最初の友好的な握手となった。
ちな、ダルゴ・ベルザム少将の外見はガンダムUCのオットー・ミタス艦長をボラー人にしたような感じです。
帽子は被らず、ハゲ一歩手前の頭部を常に晒してます。
今回出した辺境巡視艦隊第225やダルゴ・ベルザムなどの名前が、宇宙戦艦ヤマト本編に登場した場合、後々変更するかもしれません。
ご了承ください。