金剛型の活躍シーンをもっと下さい!
天陽系外縁部――。
小惑星が点在する宙域に、千を超える黒い裂け目が次々と生まれた。
神聖コルゴラズ選民国の艦艇がワープアウトする際に発生する、空間の裂け目である。
「副長。戦闘において最もエレガントな勝利とは、何だと思う?」
「いえ、自分には分かりかねます」
「やはり分からんか。ならば、これから教えてやろう」
コルゴラズ艦隊から30光秒程離れた宙域。
1隻のシティキャリヤ級重輸送艦が、護衛の艦隊を従えて静かに佇んでいた。
本来、シティキャリヤ級は宇宙ステーションを輸送する為に建造された艦である。
しかし今、その艦底には一本の巨大な砲が吊り下げられ、砲口をコルゴラズ艦隊へ向けていた。
全長12km、口径38m。
白い異色の巨砲が、低く唸り始める。
「エネルギー充填率60%まで上昇」
「ハイキャッスル総司令部より敵艦隊の最新座標を受信。超収束陽電子砲、照準誤差修正完了」
「キャリヤ1、対閃光装置の起動を確認」
巨大な砲口から、眩い橙色の光が溢れ始める。
「エネルギー充填率100%!」
「敵艦隊へ照準固定。発射準備、全て完了しました!」
艦長は口元を吊り上げ、副長へ言い放つ。
「覚えておけ、副長。エレガントな勝利とは、たった一度の砲撃で大多数の敵を屠る事だ!
超収束陽電子砲――発射!」
艦全体を揺るがす轟音と共に、桁外れの陽電子ビームが撃ち放たれた。
砲口から解き放たれた瞬間、橙色の奔流はシティキャリヤ級すら包み込める程の太さへ瞬く間に広がり、一直線にコルゴラズ艦隊へ突き進む。
30光秒という距離を物ともせず、超収束陽電子砲は寸分違わず艦隊中央へ直撃。
ビームに飲み込まれた艦艇は、一欠片すら残さず宇宙から消滅した。
直撃を免れた周囲の艦艇も、掠めたビームや余波によって装甲が融解し、船体を大きく歪ませながら次々と爆散していく。
コルゴラズ艦隊が密集陣形を取っていた事もあって、その一撃だけで800隻を超える艦艇が撃沈された。
「くははははは!! 美しい! 実にエレガントだ!!」
キャリヤ1のブリッジでは、その光景を目の当たりにしたクルー達が、自分達の手にした兵器の偉大さと、その恐ろしさに息を呑む。
「超収束陽電子砲が量産された暁には、数だけが取り柄の艦隊など恐るるに足りん!」
ネステリア人の艦長が、歓喜に満ちた笑みを浮かべる。
その姿に釣られるように、ブリッジのクルー達も次々と歓声を上げた。
もはやコルゴラズは敵ではないと。
我々を滅ぼそうとする者は、この圧倒的な力の前に屈するのだと。
誰もが、そう叫んだ。
***
「結論から言いやすと、現時点で超収束陽電子砲の量産は不可能です」
「でしょうね」
襲来したコルゴラズ艦隊を試作兵器『超収束陽電子砲』で壊滅させた後、その性能評価を行う為、開発に携わった面々を集めて会議を開いていた。
「流石に、戦艦2隻が建造出来る程のコストは許容出来やせんねぇ。それに、ゼクトル船団自体も、拡張限界に来ていやす」
しかし、性能以前の問題が浮上していた。
「船団の総人口は約7000万人。これ以上、軍事部門へ人員を割けば、他部門が回りませんわ」
カドスの言葉に、アルッセアが補足する。
「ですが、市民の大半は軍拡を望んでいます。分かりやすい形で戦力を増強しなければ、最悪の場合、暴動へ発展しかねません」
「それなんだよなぁ……」
ルオコスの話に頷きながら、周囲を見渡す。
幸い、この場に居る者達は皆冷静で、感情論だけの過激な意見を口にする者は居ない。
「つまり、超収束陽電子砲は建造コストが高過ぎる上、人材も確保出来ず量産は不可能。だが、市民はああいった分かりやすい戦力増強を求めている、と」
セカトンが溜め息を吐きながら、現状を整理する。
「コルゴラズの襲撃も、これで5回目です。皆、苛立っているのですよ」
「だがな、ルオコス副船団長。我々は一度も負けていない。それどころか、艦の損失すら出していないんだぞ?」
「それでもです。市民にとっては、殴られ続けているという現状そのものが、大きなストレスになっているのです」
さて、どうしたものか……。
「それなら、今ある艦より小型の艦艇を大量に建造し、数を増やすというのは如何でしょうか?」
アルッセアが、ふと思い付いた案を口にする。
小型艦ねぇ……。
「有りやな」
「クロスボウ級より小型の艦なら、戦艦1隻分のコストで数十隻は建造出来やすな」
「必要なクルーも少人数で済みますから、人材不足もそれ程問題になりませんね」
「コルベット艦か! 確かに、数を揃えられるなら分かりやすい戦力増強になるし、出来る事も増えるぞ!」
そうだよ!
ここは『宇宙戦艦ヤマト』の世界!
『Avorion』とは違い、小型艦でも十分に活躍出来る世界じゃないか!
「いやぁ、すっかり大艦巨砲主義に囚われていたな。小型艦には、小型艦ならではの利便性や生産性という、大型艦には無い魅力があったっていうのに」
「数の厄介さは、コルゴラズが証明してくれましたからね。市民も、小型艦の大量建造には納得してくれると思われます」
「よし! では早速、設計に取り掛かろう! 確か、試しに作った小型艦の設計図が何枚か有った筈だ」
「ああ、趣味で作ったと言っていたアレですかい」
「お前ら……趣味でそんな物まで作っていたのか……」
これで問題は解決!
やはり、会議は開いてみるものだ。
「あの……皆様、和気藹々とされていますが、超収束陽電子砲の性能評価が、まだ終わっていませんわよ?」
***
研究所ステーション『スターナレッジ』。
このステーション最下層には、関係者以外の立ち入りが許されない研究区画が存在する。
その存在を知る者は、ごく一部の関係者のみ。
万が一、部外者が研究区画の存在を知ってしまった場合は、記憶処理、あるいは排除する事が規則として定められている程、厳重な管理体制が敷かれていた。
そんな研究区画の一室。
真っ白な部屋に、数人のコルゴラズ人が太いケーブルを幾つも接続された黒いフルフェイス型ヘルメットを被せられ、奇妙な椅子型の装置へ拘束されていた。
彼らは怒りと恐怖から叫び、必死に暴れている。
しかし、拘束が外れる気配は無い。
仮に外れたとしても、周囲で待機するスペクターに取り押さえられ、元へ戻されるだけだろう。
ヘルメットが時折淡く発光し、その度に何らかの情報がケーブルを伝い、背後の巨大なコンピューターへ送られていく。
「実に合理的で素晴らしい装置だよ。非人道的という点を除けばね」
「脳から直接、記憶という情報を抽出し、コンピューターで整理・解析。その上で必要な情報だけを選別し、それ以外の記憶を全て消去する――結果、この装置へ接続された対象は一切の記憶を喪失し、廃人同然の状態に至る、と。なるほど」
部屋を見下ろす監視室で、ダルデェーナはコルゴラズ人達へ冷めた目を向け、その隣ではカルッシアがタブレットを片手に装置の説明を読んでいた。
「しかし、誠に意外に存じます。サワミヤ船団長におかれましては、このような手段は好まれないものとばかり拝察しておりましたので」
「サワミヤ君は、こう見えて腹黒だからねー」
失敬な。
「好きじゃないさ。ただ、『我々を浄化してやる』などと馬鹿な事をほざく連中に、情けを掛けられる程の優しさを持ち合わせていないだけだ」
監視室に設置されたマジックミラーの向こう側では、記憶の抽出を終えたコルゴラズ人達が、スペクターによって処理場へ運ばれて行く。
あらゆる尋問や拷問に耐え、一切情報を漏らさなかった彼らには、敬意すら覚える。
だが、一切容赦はしない。
この戦争は絶滅戦争だ。
どちらかが滅びるその日まで、終わる事は無い。
感情に任せて過激な行動へ走るつもりは無いが、必要だと判断した事は、全てやらせてもらう。
「そういえば、かねてより進められておりました例の実験につきましては、その後如何相成っておりますでしょうか、サワミヤ船団長?」
「順調とは言い難いな……」
「僕らにとって、超能力は完全に未知の力だからねー」
この装置の開発とは別に、ネステリア人が失った超能力の復元実験も進めている。
もっとも、進展は芳しくない。
そもそも、超能力という存在そのものを我々は知らず、ネステリア人も能力を捨ててから何世紀も経過している。
完全な0からの研究だ。
まずは、0を1にしなければならない。
これが、実に難しい。
「分かっているとは思うけど、一応忠告しておくよ」
ダルデェーナが真剣な表情になる。
「人は、自分より強大な力に恐れと羨望を抱く生き物だ。その辺り、考慮しながら進めないと、大変な事になるよ?」
「ああ、理解はしている。そう急ぐ理由も無いし、ゆっくり着実に進めるさ」
リスクは有る。
だが、超能力を扱える者が居れば、出来る事は格段に増える。
心や記憶を読めれば、あんな大掛かりな装置は不要になるし、同じ超能力を使う敵への対抗手段にもなる。
手に入れられるのなら、手に入れたい力だ。
「サワミヤ君、通信機鳴ってるよ」
「んえ?」
おっと、考え込んでいた。
通信相手は、ナビィか。
『サワミヤ船団長! 至急お伝えしたい事がございます!』
「どうした、そんなに慌てて」
『ハイキャッスル総司令部のレーダーが、本星系へ接近する"お客様"を確認いたしました!』
「……分かった。直ぐそっちへ向かう。お客様の近くに艦隊は居るか?」
『警備艦隊、第4哨戒艦隊と第28哨戒艦隊が展開中です』
「その2個艦隊に対応させろ。それから第2艦隊を出撃させ、お客様の護衛へ向かわせてくれ」
『承知しました!』
あれから1年半。
思っていたより早かったな。
「カルッシア情報部長。"お客様"がお見えになった。直ちに持ち場へ着いてくれ」
「…!御意にございます」
「君の予想より、随分早かったね」
ダルデェーナの言葉に頷きながら、タブレットで各部門と各艦隊へ指示を飛ばしていく。
「もう1、2年は先だと思っていたんだが……我々に、それ程の価値を見出したのか」
「あるいは、看過し得ぬ脅威であると判断なされたのでございましょうか」
「僕としては、その両方だと思うよ」
理由は何であれ、早急に対応しなければならない。
向こうの機嫌を損ねるのは、得策ではないからな。
「ダルデェーナ医療部長は、このまま経過観察を頼む」
「任されました!」
……また忙しくなるな、これは。
せめてコルゴラズを片付けてから来て欲しかったよ。
ボラー連邦のお客さんよぉ。
・超収束陽電子砲
【挿絵表示】
【挿絵表示】
ボラー連邦をはじめとする星間文明への対抗を目的として、急遽開発された拠点防衛用試作兵器。
とある兵器を参考に設計されており、ゼクトル船団が保有する兵器の中でも最大級の射程と破壊力を誇る。
ハイキャッスル総司令部ステーションの高性能レーダーによる照準支援を受けられる環境下では、約30光秒先の目標に対しても高い命中精度を発揮した。
しかし、開発期間を極端に短縮した弊害から、多くの技術的問題を抱えている。
最大の欠点は、ビームの収束率不足。
発射された陽電子ビームは、砲口を離れた直後から放射状に拡散してしまい、本来想定していた一点集中型の高密度ビームを形成できない。
その為、超長距離では威力が分散してしまう。
また、砲そのものが全長12kmにも及ぶ超大型兵器である為、専用艦を新造する余裕の無かったゼクトル船団では、シティキャリヤ級重輸送艦の艦底へ懸架して運用する事となった。
当然ながら、貴重な重輸送艦を最前線へ投入する必要がある事から、管理部門やステーション管理者からの評価は極めて低い。
威力についても、設計時に参考とした兵器には遠く及ばず、月規模の衛星を削る程度に留まっている。
加えて建造コストも極めて高額であり、1門の建造費だけで戦艦2隻分に匹敵する。
こうした数々の欠点から量産はされず、試験目的で建造された2門のみが運用されている。
エスコン7で10隻目のアリコーンを撃沈した記念に、シティキャリヤ1の艦長をエレガント野郎ぽくしてみました。
多分、大型次元潜航艦に乗せると1000億人救済計画とか立案してくる。