勝手に、100km前後は有る巨大機動要塞と思ってました。
あ、そう言えば歌詞なしバージョンの銀河航路を1.4倍ぐらいで聞くと、高速で砲雷撃戦仕掛けてくる金剛型や村雨型、磯風型が想像出来るのでおすすめです。
「ベルザム司令。間も無く我が艦隊は、ゼクトル船団が領有する星系へ到達します」
「うむ。彼らは既に、こちらの接近を把握している筈だ。何時でも対応出来る様、準備を整えておけ」
ベルザムは、新たな座乗艦となったガノンダ型航宙母艦『ベルガント』のブリッジで、周囲のクルーに悟られぬ様、小さく息を吐いた。
そして、胃の辺りから込み上げて来る鈍い痛みに耐えながら、そっと腹部を摩る。
「やっとですか。いやはや、中々に長い旅路でしたねぇ」
背後から聞こえて来た声に、ベルザムの胃が更に痛みを訴える。
その声の主こそ、彼が胃痛に苦しむ事となった原因の一つであった。
「申し訳ございません、ラゾルフ殿。何分、コルゴラズ艦隊との遭遇を避ける為には、遠回りをする必要がございましたので」
「ああ、別に貴方の判断を責めている訳ではありませんよ、同志ベルザム少将。我々の目的は、あくまでゼクトル船団との接触。不要な争いは避けるべきだという事くらい、私も理解しておりますから」
ボラー人特有の肌に、30代前半と思しき若く端整な顔立ち。
そして、綺麗に整えられた淡い茶色の髪。
常に穏やかな微笑を浮かべており、一見すれば人当たりの良い人物にしか見えない。
しかし、その眼だけは笑っていなかった。
整えられた前髪の下から、細く鋭い眼が覗く。
そこには、相手の表情や仕草、僅かな変化すら見逃すまいとする、計算高く抜け目のない光が宿っていた。
姿勢や立ち振る舞いにも、一切の隙が無い。
デルバ・ラゾルフ。
新たに辺境巡視艦隊第225へ配属された、政治将校である。
ベルザムは、この何かと圧を掛けて来るラゾルフ政治将校が苦手であった。
(全く……少し前までは、無事に本国へ帰還出来た上、お咎めも無かった事に両手を上げて喜んでいたというのに。何故こうなった……)
時は、1年前に遡る。
辺境巡視艦隊第225は約2ヶ月の時を掛け、全艦無事にボラー連邦へ帰還した。
ゼクトル船団へ多少の情報を漏らした件についても、銀河南西部の詳細な情報と、彼らから貰い受けた未知のマテリアルを持ち帰った功績により、お咎め無しとなった。
これにはベルザムを始め、艦隊の者達も大いに喜んだ。
しかし、その喜びも束の間。
帰還したばかりの彼らへ、新たな任務が言い渡される。
高い技術力を保有し、未知のマテリアルすら作り出すゼクトル船団。
その存在に興味を抱いたボラー連邦の指導者、ベルム・フォン・ベムラーゼは、使節団を伴い再度接触するよう、辺境巡視艦隊第225へ命令を下したのである。
ベルザム達としても、罰を受けるよりは遥かに良いと判断して任務を快諾したのだが、その先に待ち受ける苦難を、この時はまだ誰も予想していなかった。
艦隊は早速、使節団を乗せてゼクトル船団の領域へ向け出発。
しかし、その道中で100隻規模のコルゴラズ艦隊と遭遇し、撤退を余儀無くされる。
このまま進むのは危険と判断したベルザムは、一度本国へ帰還し、艦隊戦力の増強を要請。
新たに配備された航宙母艦ベルガントを旗艦とし、艦隊規模も100隻前後にまで増強された。
そして、再びゼクトル船団へ向け出発。
道中では何度かコルゴラズ艦隊との戦闘に発展したものの、以前サワミヤ船団長から彼らの戦術に関する情報を得ていた事もあり、戦闘そのものは優勢に進める事が出来た。
加えて、性能が低いとは言え全艦がコグダール防壁を備え、連射性能に優れる隠顕式陽電子砲を多数装備している。
そんなボラー艦隊が、コルゴラズ艦隊に後れを取る筈も無く、遭遇する敵艦隊を次々と撃破し、全戦全勝で進撃を続けた。
――が、流石に数が多過ぎた。
進めば進む程、行く先に新たなコルゴラズ艦隊が出現し、その度に戦闘へと発展する。
一戦一戦では勝利出来ても、度重なる戦闘によって損傷艦は着実に増加。
遂には、何隻かの艦艇を失う事態にまで至った。
これ以上の強行突破は危険。
そう判断したベルザムは、最短航路を進む事を断念。
コルゴラズが活動する一帯を大きく迂回し、時間を掛けてゼクトル船団の領域へ向かう事を決断した。
そして現在――。
辺境巡視艦隊第225は、当初想定されていた日程を大幅に超過しながらも、漸く目的地へ到達しようとしていた。
だが、その代償は大きかった。
道中、遅々として進まぬ旅路に苛立つラゾルフ政治将校から幾度となく無言の圧力を掛けられ、ダーリヤ副官からは事ある毎に「到着はまだか?」と急かされる始末。
その全てを一身に受け続けたベルザムの胃は、既に限界を迎えようとしていた。
「前方より、重力震源!」
痛む胃を気にしていたベルザムに、安堵の瞬間が訪れた。
前方の宙域に、船体へ青い粒子を纏った12隻のクロスボウ級フリゲート艦が、超空間から姿を現す。
「前方の哨戒艦隊より入電。
《貴艦らは現在、ゼクトル船団が保有する星系を航行している。貴艦らの所属と目的を問う》
返答は如何なさいますか?」
通信士の問い掛けに、ベルザムは直ぐには答えず、後方に控えるラゾルフ政治将校へ視線を送り、自分が対応して良いものか判断を仰ぐ。
当のラゾルフは、現れたクロスボウ級を興味深そうに眺めながら軽く手を振り、ベルザムへ対応を任せる意思を示した。
「こちらは辺境巡視艦隊第225。我が艦隊は、貴船団とボラー連邦との正式な国交樹立を目的とした使節団をお連れした」
返答を送ると、間を置かず通信が入る。
『フリゲート艦ノダチ艦長、ギルカ・ルマソル中佐です。お久しぶりですな、ベルザム少将。再会は、もう少し先になるかと思っておりましたよ』
「ギルカ中佐か!」
かつて自分達を救ってくれた恩人との思わぬ再会に、ベルザムは驚きの声を上げる。
『ゼクトル船団船団長からのお言葉をお伝えします。我が船団は、貴艦らを歓迎するとの事です。間も無く第2艦隊が護衛に参りますので、暫しお待ち下さい』
「受け入れに感謝する。……しかし、随分とピリ付いているな」
『お分かりになりますか』
目の前の艦隊だけではない。
レーダーを確認すれば、周辺宙域には幾つもの哨戒艦隊が展開し、絶えず周囲へ警戒の目を光らせている。
その様子に、ベルザムは言い知れぬ不安を覚えた。
(あれ程の戦力を有する彼らが、ここまで警戒するとは……何が起きている?)
『現在、ゼクトル船団は神聖コルゴラズ選民国と戦争状態にありまして、度々1000隻を超える規模の艦隊から侵攻を受けているのです』
「1000隻!?」
あまりの数に、ベルザムは思わず聞き返す。
だが、それと同時に合点がいった。
(成程……だから我々も、道中であれ程コルゴラズ艦隊と遭遇したのか)
『おや、来た様ですね』
直後、少し離れた宙域に多数の重力震源が発生する。
青い粒子を纏いながら、次々と第2艦隊所属の巨艦が姿を現した。
『まだお聞きしたい事も有るかと思いますが、一度場所を変えましょう』
「ああ、そうして貰えると助かる」
ベルザム達はギルカの提案に同意し、第2艦隊の護衛を受けながら天陽系へ向かう事となった。
そして、その星系で更なる驚愕の光景を目の当たりにする。
「……何だ、これは? 一体、何をどうすればこうなる?」
ワープアウトした彼らを待ち受けていたのは、コルゴラズ艦の物と思われる大量の残骸だった。
確認出来るだけでも、1000隻以上。
更にレーダー上では、同規模の残骸群が2箇所確認出来た。
(ゼクトル船団の戦力ならば、これ程の事が出来ても不思議ではない。分かってはいたが……)
ベルザムは、隣を航行するバトルウォリアー級戦艦へ視線を向ける。
巨大な戦艦は、静かに航行を続けていた。
「……こうも実際に見せ付けられるとな」
ベルザムの額を、一筋の汗が伝う。
そんな彼の後ろ姿を、ラゾルフ政治将校は何も言わず、静かに眺めていた。
***
『では、同志ラゾルフ。現時点で集めたゼクトル船団の情報を報告せよ』
「はっ!」
ゼクトル船団とボラー連邦との国交が正式に樹立されてから、早数日。
双方は未だ互いの腹を探り合いながら外交を続けているものの、通商条約を始めとした様々な条約が、徐々に締結され始めていた。
そんな中、ラゾルフは本来の任務であるゼクトル船団の実態調査について、その成果を最高管理委員の副官である、一等書記官リュドミ・ダーリヤへ報告していた。
「未だ限定的な調査に留まっておりますが……率直に申し上げますと、『異常』という言葉が最も当てはまる国家です」
『国家? 船団と聞いていたが?』
「確かに、彼らは自らを『船団』と称しております。しかし既に、我々と対等に交渉を行える程の外交能力と組織体制を備えております。単なる船団ではなく、一つの国家として見た方が宜しいかと」
ダーリヤ副官は、眉を顰めたが報告を続けるよう命じた。
『成程、続けよ』
「はっ。まず、以前より判明していた技術力及び生産能力についてですが、これは我々の想定を大きく上回っている可能性があります」
ラゾルフは手元の端末を操作し、調査によって得られた情報を画面へ表示する。
「現在、ゼクトル船団が保有する総人口は、約7000万人と推定されます」
『7000万……随分と少ない』
「はい。彼らの保有する艦隊や各種ステーション、工業施設の規模を考慮すれば、余りにも少な過ぎる人口です。通常であれば、現在の国家基盤を維持する事すら困難でしょう。しかし、彼らはそれを可能としております。その最大の理由が、徹底した無人化です」
ラゾルフは画面を切り替える。
そこには、ゼクトル船団の各地で確認された様々な機械群の姿が映し出された。
「確認出来ただけでも、建設、採掘、輸送、整備、警備、農業など、あらゆる分野で作業用ドローンや高性能なロボットが運用されています」
『その数は?』
「正確な数は不明ですが、各施設の規模や稼働状況から推測するに――」
一度言葉を区切り、ラゾルフは告げる。
「少なく見積もっても、100億機は存在しているかと」
『……100億?』
ダーリヤの声に、僅かな驚きが混じった。
「はい。推定100億機以上の無人機械群が常時稼働しているものと思われます。単純計算で、国民1人に対し100機を優に超える数です」
ラゾルフは僅かに目を細める。
「故に、この船団を人口だけで評価するのは危険です。人口そのものは取るに足らない程度でしかありませんが、国家として発揮出来る生産力や建造能力は、その規模から大きく逸脱しております」
7000万人。
数字だけを見れば、星間国家としては極めて少ない人口である。
しかし、その背後では100億を超える機械が休む事無く働き続けている。
人間が眠っている間も。
食事をしている間も。
娯楽に興じている間も。
機械には休息も睡眠も必要無い。
命令された作業を、ただ黙々と続ける。
それこそが、僅か7000万人のゼクトル船団が、その人口とは到底釣り合わない巨大な国家基盤を維持出来ている理由の1つだった。
『……厄介だな』
「ええ。そして、厄介なのはそれだけではありません。彼らは、極めて高い防諜能力も有しております」
『ほう?』
「実態調査の為、我々が持ち込んだ虫型小型偵察ドローンを、複数のステーション及び大型艦へ潜入させました」
『結果は?』
「全滅です」
想定外の事態に、ダーリヤが黙り込む。
「潜入そのものには成功しました。警備を突破し、施設内部へ侵入した事も確認しております。しかし――」
ラゾルフは、記録されているドローンの反応消失時刻を表示する。
「翌日までに、全機の反応が消失しました」
『……全機だと?』
「はい。1機残らずです」
偶然ではない。
数機程度なら、故障や事故という可能性も考えられた。
だが、異なる時間、異なる場所から侵入させた偵察ドローンが、僅か1日足らずで全て消息を絶った。
それを偶然と思える程、ラゾルフは楽観的ではない。
『発見されたという事か』
「その可能性が最も高いかと。ただし、問題はそこではありません」
『何?』
「我々は未だ、彼らがどのような方法で偵察ドローンを発見したのか、全く把握出来ておりません」
ラゾルフの笑みが消える。
「そして――ゼクトル船団側から、この件に関する抗議は一切ありません」
『…………』
「発見した事を、我々へ悟らせるつもりが無いのか。それとも、この程度の諜報活動は想定の範囲内として黙認しているのか……」
どちらにせよ、愉快な話ではない。
「最悪の場合、我々が偵察活動を行っている事を把握した上で、敢えて泳がされている可能性すらあります」
暫し、通信越しに沈黙が流れた。
やがてダーリヤが、低い声で問い掛ける。
『同志ラゾルフ。貴官は、このゼクトル船団をどう評価する?』
「……現時点では、敵対すべきではない、と」
ラゾルフは即答した。
「高い技術力、人口からは想像出来ぬ程の生産能力、それを支える膨大な無人機械群。そして、我々の諜報活動すら容易に排除する防諜能力」
1つ1つ、確認するように指を折る。
「我々が把握出来ているだけでも、これだけ有ります。そして恐らく――」
ラゾルフはそこで言葉を止め、僅かに笑みを浮かべた。
「彼らはまだ、我々に全てを見せてはいないでしょう」
『……だろうな』
「ですので、もう暫く調査を続けるべきかと。少なくとも、彼らが何処まで我々を受け入れ、何処から先を隠そうとしているのか。それを見極める必要があります」
『許可する。ただし、決して関係を損なうな。ベムラーゼ閣下は、ゼクトル船団との関係を重視しておられる』
「ビェシュナ・ベムラーゼ!」
デルバ・ラゾルフ政治将校の外見は、ガンダムseedのムルタ・アズラエル理事を明るめの茶髪にして、ボラー人化した様な感じを想像しています。
ちょいちょい、話し方や性格がハイドム・ギムレーぽくなってしまう。