こんなに沢山の方々に見て頂けるとは感無量でございます。
「じゃ、報告を聞こうか」
ピッケルの食堂で、先の惑星「グリーンアビス」と名付けたあの星の植物を使い、今まで出番のなかった料理担当のコック帽をかぶったマーヴィンが腕を振るう。
出来上がった食事を楽しみながら、俺はナビィの報告に耳を傾けていた。
アイツどっからコック帽取ってきたんだ?
「はい! グリーンアビス調査隊のスペクター、並びにマーヴィン全滅しました!」
「そっか、全滅かぁ」
ナビィの無慈悲な報告を聞き流しながら、パンに手を伸ばす。
人の拳ほどもある巨大な麦に似た植物から作られたパンに、これまた頭ほどもあるブルーベリー風の果実で作ったジャムをたっぷりと塗る。
齧り付くと、焼きたてのふっくらした食感と程よい甘みが口いっぱいに広がった。
美味い。
「120機のスペクターと、300機のマーヴィンが全滅か?」
「全滅です! 映像ログによれば、大半が原生生物の餌食になった模様です!」
次は、2メートル超えの巨大アロワナらしき魚(これでも成長途中らしい)の切り身をカリッと揚げたフライをパンに挟む。
噛みしめるほどに溢れ出す魚の旨味。
連日の栄養バー生活で荒んでいた心が、みるみる満たされていく。
だから、満たされた心をへし折るような映像を目の前に表示するのはやめてくれ。
自信作のスペクターが15メートルの巨大芋虫に圧殺され、マーヴィンたちが8メートルの猪の群れに蹂躙され、探索拠点が30メートルの蜘蛛に粉砕されていく。
デカい植物が多いと思ったら、動物もこのサイズか。
モンハンの世界じゃねぇんだぞ。
「で、回収できた植物で、艦内で栽培できそうな種類は?」
「植物が24種、スペースさえあれば淡水魚3種の養殖も可能です!」
水、食料、空気。宇宙で生き抜くための最低限の資源は確保できた。
潮時だろう。
「撤収しよう」
「賛成です。これ以上の損害は笑えません」
これ以上心にヒビが入る前に、俺たちはグリーンアビスを後にすることにした。
***
「お話は変わりますが、艦長。そろそろ貨物室の収納スペースが限界です」
「今回の惑星探索で、結構な量の物資が手に入ったからな。そりゃ足りなくなるか」
こんなことなら、先に某ネコ型タヌキロボットの四次元ポケットでも開発しておくべきだった。
「ピッケル級を追加建造しますか?」
しばし考え、俺は首を横に振った。
「新しく輸送船、いや補給艦を作ろう」
俺は温めていた設計図をナビィに提示した。
巨大な箱型の船体に、多数の武装と二種類のリペアレーザーを備えた1.5キロ級の大型艦だ。
【ハードボックス級補給艦】
全長 1,492m/ 全幅 534m / 全高 415m
居住区 5144名分(ほぼ自動化運用)
運用人員数
技術者 257名
整備士 269名
主機関
アヴォリオンジェネレータ
防御 シールド発生装置
維持フィールド発生装置
5m厚のトリニウム装甲
武装
200cm連装陽電子砲 × 16門
6連装反物質ミサイル発射管 × 2基
200mm連装対空レーザーガトリング砲 × 44基
特殊兵装
4連装ハルリペアレーザー × 4基
4連装シールドリペアレーザー × 8基
この艦は、戦闘時に後方から味方を支援・補給するために設計された。
とはいえ、アウトレンジから反物質ミサイルを叩き込むこともできる万能補給艦だ。
「ハルリペアレーザー」は、船体に組み込まれた自己修復用ナノマシンを活性化させ、損傷箇所を分子レベルで結合・修理する。
ただし、船体が完全に剥ぎ取られたような甚大な損傷までは修復できない。
「シールドリペアレーザー」は、その名の通り消耗したシールドを再充電する。
戦場にこれを持つ艦が1隻いるだけで、敵からすれば「削っても削っても即座に再生される」という悪夢のような存在になる。
欠点は、どちらのレーザーも「自艦には照射できない」ことだ。
運用するなら、2隻ペアにするか、別のリペア搭載艦を用意するのが良いだろう。
当然、これほど便利な支援艦は敵からも真っ先に狙われる。
そのため、自衛用の武装をこれでもかと積み込んだ。
しかし、巨体のわりに防御性能は低く、シールド容量はピッケル級の6割程度しかない。
それもそのはず。
この艦の船体はそのほとんどが貨物室なのだ。
縦横200メートル、長さ1000メートルに及ぶ巨大な箱の中には、5階層もの広大なスペースが広がっている。
これならもう、収納場所に困ることはないだろう。
「さらに追加で、駆逐艦の建造も進めよう」
直近の物資問題は解決した。
ここいらで一気に勢力を拡大し、銀河に足跡を刻むとしよう。
【センエイ級駆逐艦】
全長730m / 全幅390m / 全高276m
居住区430名分(ほぼ自動化運用)
運用人員数
技術者120名
整備士69名
主機関 アヴォリオンジェネレータ
防御 シールド発生装置、維持フィールド発生装置、5m厚のトリニウム装甲
武装
200cm連装陽電子砲 × 8門
18連装小型反物質ミサイル発射機 × 2基
200mm連装対空レーザーガトリング砲 × 20基
艦首魚雷発射管×10門
楔型の艦首に前方への火力を集中させた武装配置。
この艦はクロスボウ級フリゲートを率いての機動戦を想定して設計した。
メインエンジン1基とサブエンジン6基による圧倒的な加速力に加え、180度回頭をわずか4秒で終える驚異的な旋回性能を誇る。
さらに艦首からは、『Avorion』最大級の破壊力を誇る「ホーク級反物質魚雷」を叩き込む。
まさに、一撃離脱を体現した「槍」のような艦だ。
「このセンエイ級を2隻、ハードボックス級補給艦を2隻建造する。さらにピッケル級を1隻、クロスボウ級を6隻追加だ」
「そうなりますと、合計16隻。立派な『艦隊』と呼べる規模になりますね!」
「ああ。艦隊が揃い次第、さらなる拡張の拠点となるステーションの建造に入ろう」
この二ヶ月、ペルセウス腕を調査してきたが、ガミラスらしき反応はなかった。
彼らが原作通り居住可能な惑星を血眼で探しているなら、天の川銀河中を徘徊しているはず。
それを見かけないということは、まだ大小マゼラン銀河の統一に追われ、こちらに手を出していない時期なのだろう。
正確な年代を知るには地球へ向かうのが一番なのだが、ヤマトの物語に深く介入するつもりはない。
原作の地球は、奇跡と縁の綱渡りでかろうじて滅亡を免れている。
俺が余計な手出しをして、その細い縄を切るような事態になれば目も当てられない。
特に、滅びの方舟関係は。
おのれズォーダー、余計なもん起動させやがって。
...今ならまだ、ガトランティスの戦力も整っていないはずだ。
いっそ今のうちに。
そこまで考え、もし返り討ちにあって方舟が起動でもしたら終わりだと思い直す。
俺は心の中で、方舟の奥底に居る大帝へあらん限りの呪詛を送り、食事に戻った。
地球へは、ヤマトが旅立った後にでも、反物質炉をこっそり届けておくとしよう。
「サワミヤ艦長、そろそろ『船団名』を名乗りませんか?」
「船団名?」
「はい。今後勢力が拡大すれば、他文明と接触する機会も増えます。自己紹介の際に、勢力名があった方がよろしいかと!」
勢力名、か。
こういう時は、前世の記憶を参考にするのが一番だ。某ガンダム作品のザフトとか。
ザフト……ゼフト……ゼクト……
「ゼクトル」。うん、良い響きだ。
「よし決めた! 今後、我々は『ゼクトル船団』を名乗る!」
「ゼクトル、ですか。何か深い意味がある言葉ですか?」
「いや、響きがカッコイイから決めた」
「……提案しておいてなんですが、もう少し真面目に考えた方がよろしいのでは?」
「うっせ!」
俺はナビィの正論を黙殺し、最後のパン一口を飲み込んだ。
こうして、後に銀河のキャスティングボードを握ることになる「ゼクトル船団」は、あまりにも軽いノリで産声を上げたのだった。
***
「突然だが、今から人間を辞めます!」
「あまりにも突然すぎますよ……」
ゼクトル船団を旗揚げしてから数週間後。
新造された補給艦『ハードボックス』内の研究室で、俺はナビィを前に新しい発明品を自慢げに掲げていた。
「グリーンアビスでの惨状を見ていてふと思ったんだ。もしスペクター級の敵に艦内侵入を許したら、俺、あっさり殺されるんじゃないかってな」
そう言って俺が差し出したのは、コップに入った不気味な黒い液体だ。
「……何ですか、その泥水のようなものは。……いえ、待ってください。膨大な信号を検知。これ、ナノマシンの集合体ですか!?」
「その通り! 修復用ナノマシンを改良していた時に偶然生まれた、トンデモナノマッシィンだ!」
本当に偶然だった。
寝ぼけながら調整していたら、全く別物の「超人製造ナノマシン」が出来上がっていたのだから。
「効果は多岐にわたる。筋力・治癒力・学習能力・免疫力の爆発的向上、細胞の活性化、さらには毒素の完全除去まで──」
「わかりました、凄さは伝わりましたから!」
熱弁する俺に気圧され、ナビィが話を遮る。
「ですが、そんな得体の知れないものを体内に入れて大丈夫なのですか?」
「直ちに人体に影響はない!」
「ダメな政治家が逃げる時に言うセリフですよ、それ!」
「問答無用、イクゾォー!」
「ああっ、一気にいった!?」
俺は掛け声と共に、最悪の舌触りをした黒い液体を喉に流し込んだ。
「うおぉぉ……力が、力がみなぎるのを感じるぞ!」
「プラシーボ効果では?」
「そんなわけあるか! 見ていろ!」
俺は助手役のマーヴィンに、厚さ5センチのチタン板を持ってこさせた。
「デェイアァァァァッ!!」
気合と共に放った正拳突きが、金属音を立ててチタン板をひしゃげさせる。
「うわぁ、本当に曲げた……」
「ハハハハ! これぞ力、パワーだ!」
高笑いを上げながら、俺は次の標的を定めた。
胸元に『教官』というプラカードを下げたスペクターだ。
強化された脚力で地を蹴り、これまでの自分ではありえない速度で掴みかかる。
「船団長を舐めるんじゃねぇ!」
──が。
掴みかかった腕を逆に取られ、鮮やかな一本背負いで宙を舞った。
「ナゼダァァァァ!?」
情けない声を上げながら、床に叩き付けられる。
ナノマシンのおかげで痛みはないが、心には深いヒビが入った。
「当然ですよ! サワミヤ船団長のチート技術で作られた戦闘用ロボットですよ!ナノマシンで少し強化された程度の人間が、敵うわけないでしょう!」
「……でもグリーンアビスじゃ全滅したじゃないか」
「あれはスペクターの性能不足ではなく、武装の火力不足です!」
それを早く言ってほしかった。
荒ぶる鷹のポーズでこちらを威嚇してくるスペクターを睨みつける。
威嚇してんじゃねえよ、俺はお前の創造主だぞ。
そんな、平和でくだらない時間が流れていた、その時だ。
静寂を切り裂く、けたたましいサイレンが研究室に鳴り響いた。
異常事態だ。
俺は瞬時に体を跳ね起こし、トランスポーターへと全力で走り出す。
「ナビィ、駆逐艦センエイで指揮を執る!」
「了解しました。ハードボックスの制御はお任せを!」
先ほどまでの緩やかな空気は、一瞬で霧散した。
俺は戦士の顔へと切り替え、戦場へと向かう。