顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた暴力系女子と疎遠になって六年──。俺は陰キャになり果て、彼女は清楚可憐なS級美少女に変貌を遂げていた。……うん。見つからないように、影を潜めて生きていこう。   作:おひるねzz

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舞台は移り、小学生時代のお話に入ります。


第4話 俺は三年二組のボス『瞬足の翔太』だ!

 「「「せんせーさよーなら!」」」

 

「道草せずに真っ直ぐ帰るんだぞー!」

 

 「「「はーい!」」」

 

 帰りの会が終わると下校の時間。

 しかし俺は自分の席で腕を組み、ふんぞり返っていた。

 

 「ヘイヘイ翔太さん、どうします? 女子たちがチラチラこっち見てますよ?」

 「昼休みの女子たちの悔しそうな顔ったらなかったよな! もう一発お見舞いしてやろうぜ!」

 「僕、今日はそろばん塾の日なんだけど! やるなら早くしてくれるかな?」

 

 そんな俺の周りをクラスの男子たちが囲っている。

 

「まぁ慌てんな。ここは勝者の余裕ってやつを見せつけてやらねえとな。敗北者に構ってやるほど、俺らは暇じゃねえだろ?」

 

 「よく言った翔太! 俺たちはもう、昨日までの俺たちじゃない!」

 「いっけね~忘れてた! 今日はあいつら敗北者だったよな!」

 「そろばん塾があるから、僕は暇じゃないよ?」

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ──勝者と敗者。

 三年二組の男子と女子は終わりなき戦争の真っ只中にあった。

 

 一学期に勃発した争いは、二学期になっても勢いは衰えることを知らず、日に日にヒートアップの一途を辿っていた。

 

 きっかけは些細なこと──。

 ひとつ余った給食のプリンを賭けたジャンケン大会。

 

 俺は運良く決勝の舞台へと上がり、あと一勝でプリンを手中に収めるところまで来ていた。

 

 しかしそれは相手とて同じこと。

 そいつは女子で名前は常夏(とこなつ) 花火(はなび)

 プロレスが大好きなオテンバ娘だ。男勝りで破天荒。そして傍若無人。

 プロレスごっこをさせたらクラスで1番の強さを誇り、男子をも圧倒した。さしずめ女子のリーダー的存在だ。

 

 かくいう俺も、駆けっこをさせたらクラスで1番の速さを誇った。『瞬足の翔太』の二つ名を我がものとし、男子のリーダー的存在としてクラスに君臨していた。

 

 そんな二人が決勝の舞台で顔を合わせるともなれば、

 単なるプリンを賭けたジャンケンでは収まらない。

 

 「やれ! やっちまえ翔太!」

 「その女に敗北の味を植え付けてやれ! 絶望に満ちた顔をおかずに、みんなで昼飯を食おうぜ!」

 「僕のそろばんが示している。プリンの神様が微笑むのは翔太くんってね!」

 

 「花火ちゃんがんばってー! それから男子は黙れー!」

 「ほんと男子って野蛮。こっち向いて喋らないでくれる? 汚らわしいわ!」

 「ちょっと男子! ちゃんと歯磨きしてるの? 息くさくて吐きそうなんだけど?」

 

 もはやプリンは二の次。男子の威厳を賭けた戦いへとすり替わっていた。

 

 第二次成長期前の男子とは男子であって男子にあらず。

 平均身長は女子よりも低く、さらにはプロレスごっこで女子に負けるともなれば、もはや男としての威厳は失われていた。

 

 その元凶とも言える女、常夏 花火。

 健康的で肉付きの良い太ももにスラリと伸びた脚。本来であれば美脚として男子から持て囃されそうなものだが、こいつの脚はドロップキックを放つ。

 

 加えて、絞め技の切れ味も抜群だ。

 十八番のヘッドロックは意識を狩る事だけに長け、男たちを幾度となく天へと召した。

 

 ゆえに、たかだかジャンケン。されどジャンケン──。

 常夏花火からもぎ取る1勝にはそれだけの価値があった。

 

 そんな思いを乗せた声援(罵倒)が飛び交う中、選手入場さながらに教壇の前で向かいあった俺と常夏は、互いに鼻で笑いあった。

 

「あれれ~翔太じゃん! どの面下げてここに居るの〜? プロレスごっこからは逃げてるくせにね〜? その図々しさと食い意地の悪さには感服しちゃうかも?」

 

 まっ。口を開けばこんな感じだ。

 俺はこいつから超嫌われているからな。それだけのことをしちまっているから、仕方ないんだけど。

 

「ぬかせよ。遊んで欲しけりゃ『お願いします翔太様』って頭を下げて、菓子折りのひとつでも持ってこいって何度も言ってんだろうがバカ野郎! 俺より脚が遅いくせして、対等に物を言ってくんじゃねーぞ? ノロマが!」

 

「むぅぅ!! あんたって本当にムカつく! 今に見てなさいよ。駆けっこで勝ってプロレスごっこしてもらうんだから! そのときがあんたの最後なんだから!」

「やれやれ。お前って本当に甘ちゃんだよな。プロレスごっこでなら俺に勝てると思ってるんだから救いようがねえよ。まっ、せいぜい頑張れよ。ノロマ!」

 

「ほんっっっとーにムカつく!!」

 

 まっ。こんな感じだから嫌われて当然だろう。

 男子が威厳を失う中、“瞬速の翔太”として今もなお君臨し続けられる理由は、頑なにプロレスごっこを避けているからだ。

 

 こいつと真正面からぶつかり合えば確実に負ける。それがわからない愚かな俺様ではないからな。

 

 俺が負ければ、瞬足の翔太の名は地に落ちる。

 どんなに女子からバカにされようとも、常夏から嫌われようとも、このクラスには瞬足の翔太が必要だ。

 

 威厳を失っても尚、あいつらの瞳から光が失われないのは瞬足の翔太の存在が大きい。俺は男子たちのボスとして、希望の光で在り続けなければならない。

 

 だから──。

 たとえ卑怯な手を使ってでも、勝たせてもらう。

 

 悪く思うなよ、常夏。

 

「あれだろお前? どうせグー出すんだろ? 拳握るの大好きだもんな? グーパンのグー。プロレス大好き暴力女のお前にはお似合いのジャンケンスタイルだよな。ははっ」

 

「なっ! プロレスは暴力じゃない! スポーツなんだから!」

 

「でもグーパンは大好きだろ?」

「そうやってすぐバカにして……! わたしがグーを出すと思ったら大間違いなんだからな!」

「はいはい。そうかよ。勝手に言ってろ。グーパン女」

 

「ほんっとーにムカつく! バカ翔太! 絶対グーなんて出してやるもんか!」

「あ、そう。できない約束はするもんじゃないとは思うが、せいぜい嘘つき女にだけはなるなよ。暴力グーパン女」

「ほんっとーになんなの! ムカつくムカつくムカつく! 絶対の絶対にグーだけは出してやるもんか!」

 

 はい、言質取りました。やはりちょろいな。

 これでこいつはグーは出せない。パーかチョキのみ。

 

 つまり俺は、チョキを出し続ければ必ず勝てるってわけだ。

 

 常夏。残念だったな。勝負は既に始まっているんだよ。そしてもう、決着はついた。

 

 グーの出せないお前など、瞬速の翔太の敵ではない!

 

 

 そして迎える、決戦のとき──。

 

 クラス全員が一丸となって掛け声を叫ぶ。

 

  「「「最初はグー! ジャーンケーン!」」」

 

 皆が一同に「ポンッ」と言う0.5秒前──。

 

 あろうことか常夏は、この大一番で鼻をむずむずさせていた。

 

 お、おい。おまっ。大丈夫かよ?

 

 そして、「ポンッ」の掛け声と同時に──。

 

「ハックション──!」

 

 超特大のくしゃみとともに、常夏の口から出してはいけないものが俺の目前を襲った──。

 

 とっさのことにパーの手でガードをする俺、

 対して常夏は最初はグーのまま──。

 

 俺と常夏は互いの手を見やり、声を合わせた。

 

  「「あ」」

 

 グーとパー。俺の勝ちだった。

 

 自分がパーを出していることにも驚きだが、それ以上にこいつがグーを出していることに驚かされた。

 

 常夏の瞳はあっという間にうるうると潤いに満たされていった。

 

「こ、これは、ちがっ──」

 

 常夏はそこまで言い掛けてやめてしまった。

 しゅんとして、握った拳を見つめていた。

 

 良くも悪くもこいつは真っ直ぐな女だ。結果に文句を付けるような真似はしない。

 

 でも、そうじゃないんだよな。

 

「わかってるから安心しろ。これはグーパンのグーじゃなくて、ハックションのグーだろ? 同じグーでも違うグーだ。まっ、グーを出してくれてサンキューな! おかげで勝てたよ」

 

「……バカ翔太」

 

 ったく。柄にもなくしおらしくなりやがって。

 

 勝ち負けよりもグーパンのグーを出してしまった自分が許せないんだよな。

 その真っ直ぐさには、敵ながらに美しいとは思うぜ。俺にはない誠実さってやつだからな。

 

 勝ち負けよりも、己の信念を貫く。馬鹿だけど、格好いいよ。お前。

 

 だから、ここから先はあれだ。瞬足の翔太は一時中断だ。

 

「(俺の席にプリンあるだろ? 半分やるよ。バレないように食えよ)」

「(え? いいの? なんで?)」

「(こんな勝ち方しても嬉しくねえんだよ。瞬速の翔太を舐めんなよ)」

「(あはは。バカじゃん! 瞬速ってなに? 本当に翔太ってバカじゃん!)」

「(うるせーよ。まぁ、そういうことだから。見つかんないように食えよ)」

 

「(借りだなんて思わないからね。じゅるり)」

「(ああ、いいよ。それで)」

「(ふんっ。……ありがとう。じゅるり)」

「(お、おう)」

 

 まっ。これにて一件落着。……とは、ならなかった。

 俺と常夏を他所に、教室内は異様な空気に包まれていた。

 

 「ちょっと待ちなさいよ! あんたそれでも男なの?」

 「この男サイテー! 女心をまるでわかってないわ!」

 「少し脚が速いからってなんなのよ。調子に乗るんじゃないわよ! このチビ! やり直しよ! こんなの認められないわ!」

 

 女子たちからの物言いが入っていた。

 

 「いい加減にしろよ女子! 都合の良い時だけ男扱いしやがって!」

 「翔太! 早く食っちまえ! 聞く耳持つな!」

 「僕のそろばんが示している。女子どもはクソッタレだってね!」

 

 それに対し、男子たちも負けじと反論をする。

 

 戦いの仕切り直しを求める女子派閥と、

 もういい早く食っちまえの男子派閥。

 

 とはいえ、常夏は再戦なんて望まない。

 仮に再戦になったとしても、グーを封じられているこいつとのジャンケンで負けることはない。だから何回でも受けて立つのだが、ちょっともう無理っぽい。

 

 気づいたら俺と女子を阻むように、男子たちが人間バリケードを作っていた。

 今までは、いがみ合うだけだった。でもこれは男子の全総力を挙げての、全面抗争の構え──。

 

 「翔太、早く食べちまえ!」

 「ここは任せて先に食え!」

 「僕のそろばんはエクスカリバーよりも計算に優れているんだぞ! すごいんだぞ!」

 

 「ちょっと男子! どこ触ってるのよ! そこを通しなさいよ!」

 「こんなことしてただで済むと思ってるの? あんたらの毛という毛を全部刈り取るわよ!」

 「どきなさいよ! キャッ。スカートがめくれたわ! おまわりさぁーん! おさわりまんはここでーす!」

 

 まずいことになったな。

 ここでプリンを食べたら、もう後には引けなくなるぞ。

 この場を乗り切ったとしても、おそらく何かしらの形で仕返しをされる。

 

 三年二組の女子たちは男子を明らかに下に見ているからな。

 言うなればこれは、男子からの下克上。

 

 とはいえ今日まで散々虐げれてきたからな。お前らがムキになる気持ちもわかる。だが、俺たちでは常夏には勝てないんだよ。

 

 ジャンケンで勝ったからといって、そのことを忘れてしまってはだめだ。

 

 しかし、みんなの気持ちを考えるとプリンを食べないわけにはいかない。

 俺が男子たちの光輝く一等星であり続けるためには、この場でプリンを食べることが必要不可欠。

 

 おい常夏、場を収められるのはお前だけだぞ……。

 早く戻ってこいよ。やり直しなんて望んでいないとお前が言えば、とりあえず場は収まるんだからよ。

 

 いったいどこまでプリンを食べに行ってしまったのか。

 どこかで隠れてこっそり食っているのだとは思うけど……。頼むから早く戻ってきてくれよ……。

 

 「しょ、翔太早く! もう限界だ!」

 「頼む翔太、食べてくれ!」

 「や、やめてよ! 僕のそろばんが壊れちゃう! お願いやめて! これは命よりも大切なものなんだ!」

 

 だめだ。タイムオーバーだな。バリケードが壊れる。

 

 俺は瞬足の翔太だ。こいつらにとって光り輝く一等星。カシオペア──。

 

「おうよ! お前らの気持ち、確かに受け取った!」

 

 俺は教壇の上に立ち、勢いよくプリンの蓋を取った。

 皆んなに見えるようにスプーンをグサりと刺し、口の中へと頬張る──。

 

「うんめぇぇええ!! 勝利の味がしやがるぞ!! なんだこれ! まじで超うめぇぇぇえええ!」

 

 「よぉ~お! さすが翔太!」

 「いい食いっぷりだぜ! なぁなぁ見てるかぁ? 女子ども! 今どんな気持ち? ねえねえどんな気持ち? 男子に負けちゃってどんな気持ち?」

 「さぁさぁみんな! そろばん交響曲、第五番を奏でよう! 僕と一緒に勝利のシンフォニーを翔太くんとともに!」

 

 俺は瞬足の翔太。皆の希望の光で在らなければならない男。

 

 失われた男子の威厳を背負いし、カシオペア──。

 

 

  ☆ ☆ ☆

 

 「はぁ。男って本当に馬鹿な生き物よね」

 「そうよそうよ。このままで済むと思っているお気楽な脳みそはどこ譲りかしら」

 

 「思ったんだけどぉ、そろばん持ってる奴うざくなーい? とりあえず見せしめにさ、生意気なあの男をわからせるってのはどぉ〜お?」

 

   「「「さんせーい!」」」

 

 「わからせれっつごー!」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 翌朝、ブリーフとそろばんが無残にも教室のベランダに干されていた。

 

 そこから先は血で血を洗う女子との攻防戦。

 

 かくして、男子と女子の終わりなき戦争は幕を開けた──。

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ちなみに常夏に半分って約束で譲ったプリンは全部食べられてしまった。

 

「いや〜! プリンって美味しいよね! あとひと口、あとひと口って思ってたらなくなっちゃったの! だからね、わたしのプリンを半分残して翔太にあげようと思ったの! でもね、そこで大事件が発生して! ねえねえ、どうなったと思う?」

 

「あとひと口、あとひと口ってなって、それすらも全部食っちまったんだろ?」

 

「あはは! だいせいかーい!」

「ったく。食いしん坊が!」

「食いしん坊言うな! ってことで、来月の給食プリンの日に必ず半分返すから、それでチャラってことでいい?」

 

 それは、戦争が本格化する前にした約束。

 

 でも──。

 プリンを半分こする未来は訪れなかった。

 

 本格化する戦争を前に、俺と常夏はいがみ合ってしまうから。

 戦争ってやつは、あまっちょろいことを言ってられるほど、ヤワなものじゃなかったんだ。

 

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 俺にとって、忘れられない一年間が始まった。

 

 このときもし、戦争を止めることができていたのなら──……。

 

 こんなにも常夏を好きになることはなかったと思う。

 

 たとえ喧嘩をしていても、殴り合っていたとしても、

 二人で過ごす時間が増えれば増えるほどに、俺は常夏に惹かれていった。

 

 瞬足の翔太は、取り返しがつかないくらいに──常夏花火のことが大好きになっちまうんだ。

 

 

 

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