顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた暴力系女子と疎遠になって六年──。俺は陰キャになり果て、彼女は清楚可憐なS級美少女に変貌を遂げていた。……うん。見つからないように、影を潜めて生きていこう。   作:おひるねzz

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第6話 母ちゃんの作るハンバーグは世界で一番うめぇんだ!

 

 案の定──。

 騒ぎに駆けつけた教師たちに取り押さえられると、職員室へと連れて行かれる羽目になった。

 

「まったくお前らは。次、十ヶ条を破ったら親に連絡するって言ったよな? ……はぁ。約束はしっかり守ってくれないと、庇い切れるものも庇い切れなくなるぞ」

 

 担任のよっちゃん先生は呆れ口調でデスクに頬枝をつくと、ため息を吐いた。「また教頭にドヤされる」なんて、憂鬱な雰囲気でこぼした。

 

 決闘に関しては『戦い十ヶ条』を言い渡すなど、よっちゃん先生は寛容で尚且つ前向きではあったけど、大人の間には建前ってのが必要らしい。

   

 だから『戦い十ヶ条』は俺たち三人だけの秘密の約束だった。

 

「翔太が悪いんだよ。嫌味ったらしくけしかけてくるから」

「悪いのは堪え性のない常夏だろ。牛乳飲め! カルシウムが足りてない証拠だ。すぐカッとなりやがって」

 

 声を抑えながらも肘で突き合い、責任の擦りつけ合いをしていると──。

 

「あっ、痛!」

「いたたぁ〜」

 

 よっちゃん先生からゲンコツが飛んできてしまった。

 

「ちゃんと話を聞け! まったくけしからん。仲が良すぎるのも困ったものだな」

 

「だ、だれがこんな奴と!」

「そうよ! わたしが翔太と仲良しなわけないじゃない!」

 

 よっちゃん先生は呆れ顔でくすりと笑うと、手で払うようにしっしとやってきた。

 

「もういいから行け。その代わり今日は二人で仲良く帰ること。いいな?」

 

 「な、なんでこんな奴と!」

 「むりむり! 絶対むり!」

 

「か・え・り・な・さ・い! おどれら、わかったらすぐに返事をせい!」

 

 仏の顔も三度まで──。

 もはやよっちゃん先生は俺たちの前では容赦なく仏の仮面を外すようになっていた。

 

 「「はーい……」」

 

 教師の乱入でみんな逃げるように散らばったためか、ランドセルを取りに教室に戻ると、もぬけの殻だった。

 

「わぁ、誰もいなーい」

 

 常夏が少し寂しそうに言った。

 

「まっ。みんな先生が怖いからな。仕方ねえよ」

「そういえば翔太、やたらと先生にビビってるよね〜! い〜っつも!」

「勝手に言ってろ」

 

 とはいえべつに、俺はよっちゃん先生が怖いわけではない。

 俺が本当に恐れているのは母ちゃんだ。親への連絡。即ち、母ちゃんの逆鱗に触れる。……今日ばかりは本当にまずいことになったな…………。

 

 だからなのか、昇降口で靴に履き替えながら、ついついボヤいてしまうのは仕方のないことだった。

 

「うちの母ちゃん怖いんだからな。まじで勘弁してくれよ。あーあ。家に電話されちまうよ~。帰りたくないぜ〜」

「えー? いつも偉そうにしてるくせにママが怖いの〜? 先生にビビってるかと思えば今度はママって! 翔太も可愛いところあるじゃない!」

 

「う、うるせー! うちの母ちゃんは鬼なんだよ!」

「鬼ってなにそれー! しょうがないから、バカな翔太に特別に教えてあげる。そういう時はね、肩もみしたりお風呂掃除をするといいよ! ママ喜ぶから!」

「べつに。風呂掃除なら毎日やってるけど」

「へぇー! 翔太のくせに偉いじゃん!」

「それくらい普通だっつーの!」

 

 なんだこいつ。普通に話しかけて来やがって……。

 ていうかもう、校門出たし一緒に帰る必要ないよな。

 

 なんて、思っていると──。

 

「ねえねえ、ジャンケンで負けたほうがランドセル持つのやろうよ!」

「おいおい。なま言っちゃいけねえよ。今日の俺様のランドセルはお前みたいなヤワな人間が持てるほど、軽くはないんだぜ?」

 

 ついうっかりいつものノリで応戦してしまい……。

 で、ジャンケンは俺が負けて、こいつのランドセルを家まで持たされることになった。

 

 とはいえ帰ったら母ちゃんに怒られることは確定している。

 だったらたまには、寄り道をして帰るのも悪くないかもな。

 

 その相手が常夏ってのは、ちと癪だが。

 

 でも冗談抜きで家へは帰りたくない。

 母ちゃんはいま、鬼に取り憑かれちまってるからな。

 

 取り憑かれているから仕方がない。そう思うようにして、何年経ったのだろうか……。母ちゃんが鬼なのか、鬼が母ちゃんなのか。なんかもうよくわかんねえな。

 

「母ちゃんのハンバーグ食べたいな……」

 

 これから鬼に怒られる。そう思うと、すぐ隣に常夏が居るのをすっかり忘れ、ふいに昔を思い出すように口からこぼれてしまった。

 

「ハンバーグ? おいしいよね! わたしも好きー!」

「普通のハンバーグと一緒にするなよ。うちの母ちゃんが作るハンバーグはめちゃくちゃ美味しいんだからな!」

「な、なによ! うちのママのハンバーグのほうが美味しいし!」

「だから一緒にすんなって! 俺んちの母ちゃんのハンバーグは世界一なんだよ!」

「うちのママだって世界一だもん!」

「何言ってんだよ! 世界一は二人も居ないんだよ! バカだなお前は!」

「あーッ! またバカって言った!」

 

 こんな風に争ってはいたけれど、もう母ちゃんのハンバーグの味は覚えていない。

 最後に作ってくれたのは鬼に取り憑かれる前で、幼稚園の頃だったと思うから。

 

 それどころか普通のハンバーグの味さえも、……もう、わからなくなってしまった。給食でたまに出るハンバーグは薄くてはんぺんみたいだからな。

 

 ハンバーグって、どんなんだっけ……。

 

 そう思うと涙が出てきそうで、くだらないことで争ってしまったなと。後悔をしていると、常夏が思いも寄らないことを言い出した。

 

「そこまで言うならさ、今日うちのハンバーグ食べに来なよ!」

「え、お前ん家今日ハンバーグなの?」

 

 ハンバーグと聞いて、思わず食いついてしまった。

 ぎゅるぎゅると締め付けられる胃の欲望を前にして、思うよりも先に言葉が飛び出してしまったんだ。

 

「とーぜん! 私がハンバーグって言えばハンバーグなんだから!」

「なんだよそれ。すごいな……。お前、ひょっとして家では神とかそんなか?」

 

「ふふっ。わたしを誰だと思ってるの? ハンバーグのひとつやふたつ召喚するのなんて余裕だし!」

「ま、まじかよ。学校ではバカなのに、すげえな」

「あーッ! またバカって言ったーッ!」

 

「ちょっ、すぐ叩くのやめろよ!」

「翔太がバカにするからでしょ!」

「それはお前だって同じだろ!」

「わたしはいいの!!」

「なんだよそれ! だからお前はバカだって言ってんだよ!!」

「あーッ! またバカって言ったーッ!」

 

 そんなこんなで、不思議なことは起こるもので。

 犬猿の仲であるはずの、常夏の家で夕飯を食べることになった。

 

「じゃあ、いこー! れっつごー! うーちッ!」

「おうよ! 半端なハンバーグ出しやがったら末代まで鼻で笑ってやるからな! 覚悟しやがれ!」

 

 本当に不思議だった。

 もともと俺は常夏のことが嫌いってわけではないからいいけど。

 こいつは俺のことを超嫌っているはずだ。……それだけのことをしてきたし。

 

 でもなんだろうか。今日は普通に話をしている気がする。

 

 宿敵と書いてトモと呼ぶ。ってやつか?

 

 いやいや。まさかな。冗談キツイぜ。

 

 これはそう。あれだ。あれ。ただハンバーグに釣られただけ。

 こいつはきっとそれを餌に良からぬことを企んでいるに違いない。

 

 ハンバーグは食うが、しっかりと気を引き締めていかないとな!

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